第53話目次第55話

Fieldの紅い伝説

Written by B
ひびきのも午前の練習は紅白戦。
そろそろ総仕上げの意味もあり、紅白戦の連続になる。

光はごく普通にレギュラー組に入った。

(『パスに専念しろ』……絶対にパスで信頼を取り戻すからね……)

光は事前に公二から「紅白戦はパスしか出すな。パスだけでチームメイトの信頼を取り戻せ」と言われている。
光はそれを守るつもりだ。



そして試合開始。

さっそく、サブ組の不注意なパスミスを見逃さずに光がパスカットに成功する。

(ここでシュート……いや、我慢我慢……パスよ、パス!)

光は前を素早く見渡す。

光はペナルティエリアのすこし外。
両FWはゴールエリアで待ちかまえている。

ほむらは左側、DFは1人。
花桜梨は右側、DFは2人。

『動きがとれるFWの方にパスしろ!』

一瞬公二の声が光の頭の中を通りすぎた。

(左だ!)

光はすぐにグラウンダーのパスをほむらに渡す。
ほむらはDFを振り切り、パスを受けることに成功する。
しかし、すぐに他のDFも集まってしまい、ボールはすぐに奪われてしまう。



それからすぐにまたチャンスはやってきた。
ハイボールの競り合いのこぼれ球が光のところにやってきた。

(こんどはシュートにつなげる!)

前を見渡す。

ほむらはゴールにむかって走り出している。
花桜梨はすでにゴール前で待ちかまえている。

『少々不利でも相手の人数が少なければ勝負してみろ!』

またもや公二の声が光の頭の中を通りすぎたような気がした。

(花桜梨さんの頭だ!)

光は花桜梨の少し上を狙って軽く浮かせるようなパスをだす。

(狙い通りに飛んでる!)

ボールは狙った軌道をたどっている。
花桜梨が高くジャンプする。
周りのDFもジャンプするが花桜梨のジャンプ力にはとうてい及ばない。

花桜梨はボールをゴールの反対サイドにむかってたたきつける。

たたきつけたボールにむかって、駆け上がってきたほむらがスライディングで飛び込んでくる。


ピピーッ!


攻撃陣の連携が決まり、早くも先制点を上げる。



(やった……決まった……)

ゴールのシーンを光は感動していた。

(これでいいんだ……私だけが頑張らなくても、ほむらや花桜梨さんが決めてくれる……)

光は相手ゴールに背を向けて走り出した。

(この調子なら上手くいく……でも、まずは守備だよね!)

光は気分が上々だ。



両FWもご機嫌だ。
ほむらと花桜梨もセンターサークルへ戻るべく2人並んで歩いていた。

「ナイスヘディングだぜ!」
「ありがとう。でも光さんのパスがよかったおかげね」
「ああ、確かにあれはいいパスだったな」
「ああいうパスをもらうと私たちもやりやすいよね」
「そうだな……陽ノ下は元の陽ノ下に戻ったと言っていいか?」
「それ以上になってると思うわ。なんとなくね」
「じゃあ、昨日までのことは?」
「もう許してるわよ……人のこと言えないから……」
「えっ?今なんか言ったか?」
「ううん……何も言ってない……」
「そうか?まあいいや。じゃあ、陽ノ下のパスに頼ることとしますか!」
「そうね」

あのパスで両FWの信頼を勝ち取ったようだ。



それからも光のパスが冴えていた。

正確さ、スピード、FWに仕事をさせるための的確なコース。

どれもが昨日とはまるで違っていた。
公二の指導が現れているのだろうか。

光のパスは確実にチャンスへと導いていた。

仕事がしやすいパスで両FWも調子がよくなってゴールを連発。
前半で7−0という大差がついてしまった。
レギュラーとサブの実力差がまだまだあるので仕方がないが、これは確実に大差といえる。



そして後半。

光に異変が起きた。

(あれ?……何か見えたような気がする……)

ボールを受けてパスを出そうとしたとき、何かが見えた。

(今、ラインがみえた気がするが……)

とりあえず、そのコースにパスをだす。

「「「えっ!」」」
「えっ?」

その瞬間、ボールの周りの選手から一斉に驚きの声が挙がった。
そのパスコースは目の前の2人のDFの真ん中を通すというかなり無謀なパス。
しかし、光はそこを通してしまった。

そしてボールは誰もいないスペースをころころと転がっている。

「うわぁ、あそこフリーだったかぁ!しまったぁ」

ほむらの叫び声があがったのは、転がったボールを相手のGKが拾ったときだった。



そしてまた光にパスが廻ってきたときもそうだった。
今度はペナルティエリアよりも5mばかり外の中央。

(えっ?また見えたような気がする)

また光にはラインが見えたような気がする。
今度はゴールポストのさらに左側、宙にむかってラインが見えた。

(もう感覚でやるしかない!)

光はスピードのあるボールをゴールの左側に向かって蹴る。

(えっ……誰も気がついてない!)

相手DFが驚いたようにそのボールを見送る。
どうやら予想外のパスで動けなかったらしい。
ボールはゴールの左外へむかっていく。

(でも、受け取る人が……あっ!)

そのボールにむかって飛び込む影。

その影はヘディングでゴールの右下を狙う。
ボールは狙い通りにゴールの右に吸い込まれていく。

ピピーッ!

またもや得点。


(花桜梨さん……)

さっきの影は花桜梨だった。



ゴールを決めた花桜梨は光に歩み寄る。

「光さん。すごいパスね、びっくりしちゃった」
「い、いや。私は勢いで……」
「なにかあると思って飛び込んでよかった。それにコースも絶妙だったわよ」
「えっ?」
「シュートを狙ってて、コースがもう少し右だったら、私は追いつけなかった。左ならゴールを狙えなかった」
「そ、そんなに微妙だったの……」
「そんな気がする。でもすごいな……私たちも気合い入れないと」
「あ、あははは……」

(そ、そんなにすごいパスをしちゃったの……)

パスを送った本人はびっくりして笑うしかなかった。



(な、なんなのよ、これ……)

その後の光のパスは前半以上に冴えまくっていた。

ゴールは前半よりも少ない。
光のパスがあまりにいいスペースに行くので、両FWが逆についていけなかったのだ。

(なんだろう……なにかスペースが見えてきている……)

なぜかはわからない。
感覚で、最適なスペースを見つけられるようになっていた。
それも相手には予想外のコースで。

そのボールを味方が受ければ決定的な場面というパスだらけ。

(自分でもすごい……私じゃないみたい……)

光のパスは完全に進化を遂げていた。



そして試合はこの調子で終わった。
スコアは10−0。
後半の方がゴール数は少ないが、決定的なチャンスは前半の何倍もの数あった。

それは光からのパスがもたらしたもの。

パスカットされる回数も増えたが、決まれば決定的なものだけに守る方も必死だった。

とにかく、光は完全にチームの力を格段に上げたことは言うまでもない。



午前の練習が終わって、部員達が宿舎に戻っていく。
そのなかで、ほむらが公二の姿を見つけた。

公二はグラウンドで一人たたずんでいた。

「おい、主人」
「………」
「ここで立ってたらまた倒れるぞ……ん?」
「………」
「主人……なんで泣いてるんだ?」

公二はゴールを見つめたまま泣いていた。
腕を組み、視線はまっすぐゴールを見つめたまま。


「いや、光が……俺と同じプレースタイルをやってくれた……」
「主人と?」
「ああ、俺が中学の時ずっと目指していた……」
「ファンタジスタ……ってやつか?」
「ああ、俺はそれを目指してた、その半ばで終わってしまった。今度は光が……」
「………」
「光はドリブルがある、シュートもそこそこ。きっと俺以上のファンタジスタになれる……」
「………」
「俺、それが嬉しくて……嬉しくて……」
「………」

光の生まれ変わった姿に、公二は溢れる感動を隠せないでいた。
きっと公二の頭の中では今までの苦労が駆けめぐっているのかもしれない。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
光の復活編です。
光の場合は昨晩の公二の指導の成果が効果的に現れているようです。

格段に進化した光。
あとは、アレの完成を待つばかりですかねぇ(笑)

次回はきらめきサイドになると思います。