第54話目次第56話

Fieldの紅い伝説

Written by B
合宿も4日目の夜になっていた。

「ふんふんふ〜ん♪」

望はとても上機嫌。
今日の練習は今までで最高の出来だったからだ。
午前の練習もよかったが、レギュラーに復帰した午後はもっと調子がよかった。

タックル、パス、ポジショニング等々
自分でも驚くぐらい上手くいった。
相手の攻撃を確実に止め、それを確実に攻撃につなげる。

合宿で技術的なことで覚えたことは特にない。
あえて言えば、精神的に成長したかな?と望自身は思っている。
気持ち次第でこれほど変化するとは自分でもびっくりだった。

チームメイトや監督からも褒められて上機嫌。


望は今、長風呂からあがってきたところ。
部活のジャージ姿で頭を青色のタオルで拭きながら鼻歌交じりに廊下を歩いていた。



そんな望の前で奈津江が誰かを捜しているように首を右に左に動かしながら向かってきた。
奈津江は望の姿を見つけると軽く駆け足で望の前にやってきた。

「おっ、望。いい気分のようだね」
「あっ、奈津江。みんなのおかげでまたレギュラーに戻れたよ」
「私達なんて何もしてないわよ。望自身の力だよ」
「あはは。それは嬉しいな」

奈津江も望も普段の笑顔を見せる。
2人とも合宿中は苦労の連続だったからか、その笑顔にはほっとした様子も見られる。

「なぁ、望。これから何か用事がある?」
「いや、別になにもないけど」
「じゃあ、部屋にきなよ」
「?なんで?」
「いいからいいから」
「ちょ、ちょっと待てよ!」

奈津江はさっきの笑顔のまま、望の右腕をつかんでぐいくいと引っ張る。
望は突然のできごとに驚きながらもただ望に引っ張られるだけ。



そして望は奈津江の部屋に入る。

「お〜い、望連れてきたよ〜」

扉を開けると奈津江が元気のいい声を部屋にむかってあげた。

「おお、きたか〜」
「望ちゃ〜ん!早く〜」
「こっちこっち〜」

すると部屋の中からは明るい声が幾つも聞こえてきた。
望は何がなんだかわからずに部屋の奥に入る。

「あっ……」

望は驚いた。

詩織と京がいるのはわかる。
しかし、そこには彼女達以外にいた。

「おじゃましてま〜す」
「ハ〜イ!」
「沙希……それにパット……」

合宿中でもあまり接触がなかった沙希とパットがそこにいた。



4人はちょうど車座のように床に囲んでその中央にはお菓子とジュースが所狭しと並べられている。
まさに、おしゃべりの真っ最中といった状況。
しかし、望は状況がよくわかっていない。
すぐに奈津江に尋ねる。

「奈津江、どういうことだ?」
「どういうことって?みんなでおしゃべりしているだけよ」
「でもなんで沙希とパットが……」
「沙希が持ちかけてきたのよ」
「えっ?」
「そうよ。だってせっかくの合宿なのにみんなと一緒の機会がなかったでしょ?」

いつの間にか沙希が望の目の前に立っている。

「ほら、なんかみんなぎくしゃくしてたでしょ?だからここは心機一転しようかなって」
「そうなの?」
「それに……」
「それに?」


「望ちゃん!なんでパットを避けてたの?」


「えっ?」

沙希が少しふくれっ面をして怒っていますというような表情を見せる。
あくまで見せただけで、本当に怒っているわけではない。

「パット。ずっと気にしてたのよ。知ってた?」
「知ってた?って言われても……」
「昨日の晩も私に相談してきたのよ……」



『サキさん……』
『どうしたの、パット?そんなに深刻な顔しちゃって』
『私……ノゾミさんに嫌われているのでしょうか?』
『えっ?』
『私がサッカー部に来てから、ノゾミさん。私のこと見てくれません……』
『そうなの?』
『ハイ。話しかけてもあいまいな返事ばかりだし……』
『………』
『私、ノゾミさんと友達になりたいのに……どうしたらいいんでしょう……』



「………」
「だから私が今日セッティングしてあげたの。奈津江や京ちゃんも喜んでOKしてくれたし」
「………」

言葉がでない。
望の今の状態はその一言に尽きる。
口をぽかんと開け、視線が沙希を見ているが定まっていない。
沙希はそんな望の腕をつかんで引っ張る。

「だから、望ちゃんはここ!」
「う、うわぁ!」

どすん!

望は沙希に無理矢理座らされた。
座らされた場所は沙希とパットの間。

真正面には奈津江があぐらをかいてどかっと座り込んだ。
右前には詩織が正座を崩した格好で座っている。
左前では京がベッドを背もたれにしながら、足をのばして座っている。
そして左には沙希が正座をして座っていて、右にはパットが足をのばして座っている。

その中で望は他の5人の視線を浴びて緊張しているのか正座している。



「望ちゃん。はい、ジュース」
「あ、ありがとう、沙希……」

沙希が出際よく、2リットルのペットボトルから紙コップにオレンジジュースを注いで望に渡す。
受け取った望はガチガチの手でそれに口を付ける。

「ほら、望ちゃん、そんなに緊張しないで」
「そうそう。別に面接やってるわけじゃあるまいし」
「詩織、京。そんなこといわれても、みんなにじっと見つめられると……」



「えっ?ノゾミさんは毎日女の子に見つめられてるってききましたけど?」



ブッー!


パットの予想外の発言。
望は思わず口に含んだジュースを吹き出してしまう。

「こらっ、望ちゃん。汚いじゃない!」
「ゲホゲホ……さ、沙希。そ、そんなこと言っても……」

沙希が床のジュースを拭きながら怒っている。
一方の望はむせているようだ。

そして、パットはそんなノゾミを不思議そうに見ている。

「えっ?ノゾミさんは毎日女の子からのラブレターがたくさん来てるって」
「………」
「この合宿中も、いつ後輩に襲われてもわからないって……」
「だ、誰が言ったんだ……」
「アタシだ」
「京!そんなこと言うな」
「だって、パットがノゾミのこと知りたいっていうから基礎知識を……」
「………」

さらっと言う京に対して、怒るに怒れない。



「あのぉ………私のこと襲いませんか?」
「あたしはノーマルだ!」

「「「あはははは!!」」」



真面目におそるおそる聞くパットに対して、声を荒げる望。
他の4人はそれをみて笑っている。

「じょ、冗談って……まさかパットがそんなこと言うなんて……」
「ゴメンナサイ……そう言うとノゾミさんが喜ぶって聞いたから」
「だ、誰が……」
「あっ、それ私」
「詩織!おまえまで〜」
「うふふふ!パットって結構ノリがよくて、びっくりしちゃった」

しばらくこの調子の会話が続く。
望は完全にみんなからおもちゃにされていた。



しばらくみんなで望をからかったあと、ようやく落ち着きを取り戻す。
パットは相変わらず望のほうを見ながら話している。

「ノゾミさんって、楽しい人ですね」
「………」
「やっぱりノゾミさんってすごい人ですね」
「えっ?」

望は突然の言葉に驚いてパットを見る。
パットはその望の目をじっと

「私がきらめきにきたときは不安でした。
 日本語はあまりワカラナイ。
 サッカー部でもやれるのかワカラナイ。

 そんなときに練習試合を見ました。

 ノゾミさんが……すごかったです。

 キョーさんやシオリさんも目立ってましたが、ノゾミさんが一番でした。

 パスがきれい。
 タックルもはやい。
 グラウンドで一番光っていました。

 ……感動しました。
 その日からノゾミさんが目標でした。
 ノゾミさんと一緒にプレーしたい。
 ノゾミさんに負けないプレーがしたい。

 そう思って毎日がんばって……あっ!」

「ごめん……」

いつの間にか望はパットに抱きついていた。



パットは突然望に抱きしめられて戸惑っている。
両手は望の体を支えるために望の腰を抑えている。
一方の望は両手をパットの背中に回し強く抱きしめている。
残りの4人はじっと2人を見つめている。

「の、ノゾミさん……どうしたんですか?」

「ごめん、パット……
 パットがそんなこと思っていたなんて知らなかった。

 ずっとパットのこと敵だと思ってた……

 あははは……
 あたしって馬鹿だよな。
 勝手に敵だと思って、自分のふがいなさをパットのせいにして……
 自爆してればわけないよな……

 そうだよな……
 仲間だもんな……

 なぁ、パット。
 こんなあたしでも友達になれるかなぁ?
 仲間として認めてくれるかなぁ?」


「???
 何言ってるんですか?
 ノゾミさんは私の最高のパートナーです」


「あ、ありがとう……」

望はいつの間にか泣いていた。
そしてさっきより強くパットを抱きしめていた。

「ど、どういたしまして……」

一方のパットは何がなんだかわからないけど、とりあえず抱き返していた。



このとき、他の人はどうだったかというと。

「よかった、よかったね……うん、よかった……」

沙希はハンカチで涙をぬぐいながら感動している。


ところが他の3人はというと。

「あ〜あ、望ちゃんのハートを射止めちゃった……」←詩織
「夏休み明け、後輩の女の子は泣くだろうな……でもいいの?」←奈津江
「いいだろ。二股男といるよりはマシだろ」←京

お菓子をばりばりと食べながらこんなことをつぶやいていた。


「こらぁ!人が感動しているのに!」

それを聞いた望が声を荒げたのは言うまでもない。
望には3人の冗談が通じなかったらしい。



その後は6人で普通のおしゃべりが繰り広げられた。
それは普通の女の子のおしゃべりなので中身には触れない。
ただ、これによりお互いの結束が固くなったのは確かだろう。



そして翌日の朝早く。

「あ……寝ちゃったんだ……」

望はベッドで目が覚めた。

「あれ……確かあれからパットと2人きりで話してて……」

望が首だけを動かし周りを見る。
確かに自分の部屋だ、ただ同室の京がいない。
別の部屋で寝ているのだろうか。

しかし、なにか変だ。
体が思うように動かない。

「でも体が動かないが……!!!」

望は声は出さなかったものの驚いた。

(パットって抱きつき癖でもあるのかなぁ……)

パットは望を抱き枕状態にしてすやすやと眠っている。

(パ、パ、パット!な、なんて格好で……)

望がさらに驚いたのはその格好。
上半身はなにも着ていない。
そして下半身はパンツ一枚。

(ら、ラテン系ってこんなに大胆なのか……)

あまりの大胆な格好に望は声もでない。

(すごい、胸が大きくて形もいいし、色も綺麗……)
(髪もブロンドが綺麗……さらさらとしてていいなぁ……)
(………)
(あたしはノーマルだ。あたしはノーマルだ。あたしはノーマルだ。あたしはノーマルだ。あたしはノーマルだ。あたしは……)

パットを起こせばいいものを気を遣って起こそうともしない。
人のいい望はしばらく苦悩していた。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
望とパットもようやく友達になれたようです。

まあ、友達以上にならなければいいですけどね(笑)

次回もきらめきサイドです。