第55話目次第57話

Fieldの紅い伝説

Written by B
「みのりちゃん。いる〜?」

みのりのいる部屋に早乙女優美がやってきた。
部屋には誰もいない。
同室の虹野先輩もどこかに行っているようだ。

「お風呂かな?」

今日はみのりと一緒に騒ぐつもりなのだが、肝心のみのりがいない。
ちなみに優美とみのりはクラスも一緒の親友だ。

「カギも閉めないで不用心だぁな。お邪魔しま〜す」

とりあえず、優美は部屋に入って待つことにする。



「ふ〜ん、綺麗になってるんだぁ〜」

優美は綺麗になっている部屋を見渡してみる。
お菓子とか服とか散らかっている自分の部屋とは大違いだ。

「ベッドも綺麗だなぁ〜……ここでみのりちゃんと虹野先輩が色々してるのかなぁ?」

優美はこちらも綺麗になっているベッドに寝転がる。

「あ〜あ、なんか疲れがどっとでそうだな」

両手を頭の後ろに回し天井を見つめる優美。

「しかし、合宿ももうすぐ終わりかぁ……」



明日は練習試合だけだっていうから、実質合宿も終わりなんだよね。
でもよかったぁ。
どうやら優美はレギュラーのまま合宿を乗り越えられそうだね。


お兄ちゃんったら合宿前に何度も脅すんだもん。

「合宿で大化けするヤツがよくいるんだ。気を抜くとレギュラーから外されるぞ」って。

もう。お兄ちゃんは運動系じゃないから知らないだろうけど、レギュラー争いって大変なんだよ。
……まあ、お兄ちゃんの言うとおりなんだけどね。



きらめき高校女子サッカー部って、今は3年生が抜けて人数は30人。
他の部活と比較しても結構大きい部活。
伝統はあるけど優勝が一度もなくて「無冠の女王」って呼ばれてるけど、全国大会の常連。
だから、越境入学ってのが結構多いから部員が多いのかな。

だからレギュラー争いが大変。
その厳しさはきらめき1だって言われた事もある。
だから部活の花形って言われるのかもしれないけどね。


優美がそこにいて、なおかつレギュラーでいるっていうのがすごいぐらいに。



入学直後に女子サッカー部に入りたいって家族に言ったらお兄ちゃんから猛烈に止められた。

「やめとけ、あそこはすごく大変だぞ。軽い気持ちでいったらひどい目に遭う」だって。

でも、優美は入学前からサッカーやるって決めてたんだ。


卒業前かな、夕子お姉ちゃんと一緒にJリーグの試合を見に行ったときかな。
そのときはお兄ちゃんが風邪で代理で行ったんだけど……

もうすごかった。

真っ赤と真っ青に分けられたグラウンド。
グラウンドでのスピードある攻撃の応酬。

どちらもサイドからのスピードある攻撃で定評があるチームだったのがよかったかな。

特に印象が残ったのが赤いほうのFW。
足が速くてドリブルが上手くて格好良かったなぁ。

優美も中学ではバスケで俊足を生かして頑張ったから、ああいうのにすごくあこがれちゃった。
バスケだと優美は背が低くて限界を感じてたけど、サッカーはバスケより背は関係ない。
だからサッカー部に入る!って決めたんだ。
夕子お姉ちゃんも勧めてくれたし。



最後はお兄ちゃんも折れたけど、また難癖つけてきたんだよね。

「わかった。好きにしろ。ただしFWだけはやめろ」

なんで?って聞いたら。

「俺の学年のFWがすごくて、優美じゃ勝てん。とてもレギュラーは無理だ」

失礼だな!って思ったけど、入ってお兄ちゃんの言うとおりだと思った。
藤崎先輩と久遠寺先輩。
最初にプレーを見ただけで、かなわないと思った。
技術というか何というか……オーラ?……そんな感じが伝わってきて……



そこでお兄ちゃんに相談したら。

「中盤のサイドはどうだ?あそこは不動のレギュラーはいないし、優美の足が生かせる場所だ」

って、アドバイスしてくれた。
だから、ポジションは攻撃的MFを志望した。

でも。
やっぱりFWでやる夢は捨てられない。

だから、来年のインターハイまではとにかくレギュラーを狙う。
試合にもたくさんでて、経験を積みたい。
で、先輩達が引退したときに経験を生かしてFW転向……
うまくいくといいな♪

でも、今はレギュラーを守らないとね。



お兄ちゃんの言うとおり、両サイドのMFはレギュラーが固まってない状況だった。
レギュラーの決め手がないって話はお兄ちゃんの言うとおりだった。

だから、頑張って基礎技術覚えて、自慢の足をアピールし続けた。

そうしたら、チャンスはすぐにやってきた。

5月の練習試合でテストとして先発出場することになった。
もう絶対頑張るしかない!
お兄ちゃんは夕子お姉ちゃんも応援しに来てくれたからとにかく張り切っちゃった。

走って
走って
走って

とにかくボールを追いかけた。
とにかく積極的にシュートを打った。
守備も頑張ってタックルを決めた。

そうしたら、試合での活躍が認められて他の試合でも起用してくれるようになった。
そしてインターハイ後にはレギュラーに抜擢された。

もう嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。
だって、入部してすぐにレギュラーだよ!
これほど嬉しいことはないでしょ?



でも、そんな優美にまた水を差したのがお兄ちゃん。

「もうレギュラーになっちまったのかよ……」

頭抱えて嘆くから猛烈に怒ったら、

「優美はもう狙われる立場だぞ。追われるのっていうのは追うのより大変だぞ」だって。

最初は意味がわからなかったけど、徐々に意味がわかってきた。


レギュラーを守ること。
こんなに大変だとは思わなかった。



ベンチで見ていて、初めて気がついたこと。
それは、レギュラーは優れている、ということを常に求められること。

レギュラーだから、優美は他よりも優れているところを見せなければいけない。
優美は確かにレギュラーということになっていうけど、まだ不動ではない。

練習試合や紅白戦でもテストということで、他の人が先発のことが多い。
そう、前の優美の立場だよね。

そしてサブで光るものがあれば、テストする回数が増える。
そういう起用された人って一所懸命なんだよね。
レギュラー狙ってるからね。

うちの部は越境入学する人が多い。
そういう人でサブって立場の人って必死なんだよね。
確かに、越境までしてレギュラーになれないと何のために来たのか、ってことになるよね。

しかも、サブの下はないから、思い切ってできる。



失いものがなく必死な人と、失うものが大きい優美が競わなくてはいけない。

だから、結局レギュラーになる前よりもレギュラーになってからのほうが必死にプレーしてる。

短い時間でも「さすがレギュラー」というものをアピールし続けなければならない。
優美の場合はとにかく走るしかない。

走って
走って
走って

絶対に負けられない!
それに一応レギュラーっていうプライドもあるからね。

何度も、すわレギュラー落ちっていう状況もあった。
優美がミスばかりで、そのときにサブが活躍して。
でも、そのたびに試合等で再度活躍して、レギュラー落ちを免れた。



おかげで最近疲れてばっかり。
肉体的っていうよりも精神的な疲れが大きくて……

友達に八つ当たりとかしてたこともあった。

さすがにお兄ちゃんも夕子お姉ちゃんも気づいてたみたい。
休みの時には遊びに連れてってくれるし、マッサージとか進んでしてくれるし。

そのたびに優美を励ましてくれた。

「大丈夫。優美ちゃんは精神的にどんどん強くなってるよ。だから自信持ってやれればいいよ」

お兄ちゃんの厳しい意見も役に立ったけど、夕子お姉ちゃんの励ましがこのころ一番嬉しかった。



そして合宿。

合宿中が一番危ないってお兄ちゃんが脅していたけど、そのとき初めて優美を励ましてくれた。

「優美。
 この合宿を乗り切れば、部は選手権モードでレギュラーが固定されるはずだ。
 だから頑張れ。今までのピンチも乗り切ってきたんだろ?
 もうおまえに勝てるヤツはいないはずだ」

本当に嬉しかった。
お兄ちゃんが初めて優美の実力を認めてくれたから。

夕子お姉ちゃんにそれを話したら、

「好雄は影でずっと優美ちゃんを応援してたんだよ。
 優美ちゃんのためを思ってずっと厳しいことを言ってたんだよ。
 昨日好雄もあたしに言ってくれたんだ。
 『ここまで頑張ったのは優美の実力だ、俺たちの努力の成果じゃない』ってね。
 あははは、好雄も結構シスコンだね」

だって。あはははは。



そして、合宿。
予想通りに厳しかった。
でも、優美は頑張った。
おかげで紅白戦でもずっとレギュラー組の先発で出られた。
もう不動のレギュラーの座を勝ち取ったって言っていいのかな?

長かくて、辛い日々だったけど、優美にとってはいい経験だった。
肉体的にも、なによりも精神的に成長したかな?って自分でも思う。

友達からも「最近、しっかりものになってない?」って言われるようになっちゃったもんね♪


レギュラー争いは一旦中断しただけ。
また時期が過ぎれば新しい闘いが始まる。
でも、もう優美は負けないよ。
だって、こんなに大変な闘いに勝ったんだもん。自信がついちゃった。
それにレギュラーって快感なんだよね。もう手放したくない。


右サイドもどうやら神戸先輩で決まったみたいだから、これでレギュラーは完全に決まり。
これで選手権を戦うことになるんだろうね。

優美にとって初めての大きな大会。絶対に活躍するんだから!



「ごめ〜ん。おそくなっちゃった!」

優美が感慨に浸っていたらみのりがようやく戻ってきた。
バスタオルや洗面道具を持っているからしてお風呂だったのだろう。

「あっ、みのりちゃ〜ん。遅いよ〜」
「ごめんごめん。お風呂場で髪飾りなくしちゃって、探すのに必死で……」
「髪飾りってバッテンのあれ?」
「そうよ。虹野先輩からの大事なプレゼントなんだから」
「そうなんだ。見つかってよかったね」


「あっ、そうそう。お風呂場からの帰りにすごいもの見ちゃった」
「なに?」
「キャプテンの部屋が少し開いててそこから覗いてみたら……」
「みたら?」
「清川先輩とパット先輩が抱き合ってたのよ!……これはもしかしたら」
「間違いない!……絶対にそうだよ!」
「本当?そういう関係になっちゃったの?」
「たぶんそうだよ!わ〜い、合宿が終わったらお兄ちゃんに高値で売ろうっと!」
「優美ちゃん……あんた現金だねぇ」

陽気な優美とみのり。
しかし、今の2人は合宿を乗り切った満足感でいっぱいの様子だった。
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後書き 兼 言い訳
きらめきサイド。
ひとりごとシリーズの優美ちゃん編です。

あまりほとんど登場がない彼女ですが、彼女も頑張ってるんです。
そんなところが感じ取れれば嬉しいです。

次回はひびきのサイドにもどります。