第56話目次第58話

Fieldの紅い伝説

Written by B
夜。

「グラウンドだって、会長が言ってたよな……」

公二はグラウンドへと足を運んでいた。

「いったい光はなにやってるんだ……」



話は夕方にさかのぼる。

夕食後、ほむらが公二に話しかけたことが発端。

「なぁ主人。陽ノ下見なかったか?」
「えっ?光?いや、見てないけど」
「そうか……じゃあ、やっぱり練習か……」
「えっ?練習?どういうこと?」
「ん?主人は知らないのか?あのな……」

ほむらの話だとこういうこと。
光は毎晩グラウンドで一人で練習しているらしい。
毎晩夜出かけてきて、汗びっしょりで戻ってきてるから毎日なのは間違いない。
グラウンドだということも、一度見ているからそれも間違いない。
ただ、どんな練習をしているのかはよくわからないらしい。

「そうか、じゃあ俺が一度見に行かないとまずいな……」
「ああ、あと、無茶だけはさせないようにしろよ」
「わかってる」

そういうことで、公二は光の夜の練習を見ることにしたのだ。



そしてグラウンドに着いた公二は驚いた。

「い、いま……光線が走ったような……」

公二は目をこすって自分の目を疑った。

「う、嘘じゃない……確かに光線がでてた……まさか……」

公二は急いでグラウンドに降りる。



「光!」
「あれ?公二。どうしたの?」
「光……どうしたんだ、その汗……」

公二が呼びかけたとき、光はボールを地面にセッティングしていた。
夏なのに光のかいた汗が湯気となって蒸発している。
グラウンドを照らすカクテル光線に照らされて輝く光の汗に公二は驚いた。

「あのね、遂に完成したんだよ♪」
「えっ?」



「公二から教えてもらったシュートの改良版♪」



「なんだって……」



「そこでみててよ、ねっ?」

満面の笑みでほほえむ光に公二は何も言えない。
そうこうするうちに、ボールのセッティングが終わる。



光がボールから一歩二歩と後ずさりする。

ボールから5mほど離れた場所で止まる。

光の顔がきりっと引き締まる。

公二もその光の姿をじっと見つめる。

グラウンドに静寂が走る。

光が走る構えを見せる。



ダッ!



光が地面を蹴り走り始める。



ダッダッダッダッ……



いきなりフルスピードでダッシュする。



ガッ!



光の左足をボールの真横に踏みつける。

それが急ブレーキとなり光の体は前に進んでいく。

その間に光の右足は高く振り上げられ、足は大きく弓なりに反っている。

その右足を思いっきりボールのすぐ手前の地面にたたきつける。



ガシッ!



光の右足がさらに大きくしなる。

そして、そのエネルギーをすべてボールにたたきつけるように光が右足を振り抜く!



シューーーーーーーーン!





そのとき。





グラウンドに流星が走った。





シュパン!




気がつけば、ボールはゴールネットを突き刺しながら、まだボールは回転し続けていた。



光はボールの行く末を見届けると公二にむかってほほえむ。

「ねっ?すごいでしょ?」
「すごい……」
「私、パワーがないでしょ?だから自慢のスピードですごくなるんじゃないかなって」
「………」
「合宿中何度も練習して……今日、やっと完成したんだ」
「………」
「あれ?どうしたの?」

公二の様子がおかしいことに気がついた光は公二のすぐ近くに走り寄る。

「公二……大丈夫?」
「だ、大丈夫だ……」

公二はぶるぶると体を震わせていた。
光は驚いたが公二が大丈夫というから一安心した。

「な、なぁ……もう練習終わりにしないか?」
「えっ?ちょうど終わりにしようかと思ってたんだけど……」
「じゃあ、終わりにしよう……」
「うん。じゃあすぐに片づけるね」
「ああ、それと片づけて風呂で汗を流したら……俺の部屋に来い……」
「えっ?」
「話がある……」
「……わかった……」

真剣な表情の公二に光もつられて真剣になってしまう。

光の練習はここで終わりになった。



「やってしまった……」

公二の部屋。
公二はベッドに座ったままで頭を抱えていた。

「光が……恐ろしいものを……作ってしまった……」


光が改良したシュートは公二が教えたシュートとは違う発展を遂げてしまっていた。

公二が考えたシュートは全身の力を右足に集め、それをボールに込めるシュート。
ボールの軌道も少し荒れ気味だが、ボールのキレと力強さは格別だった。

ところが、さっき見た光のシュートは全身の力に光のスピードでパワーアップさせ、打つシュート。
パワーは若干落ちるが、ボールの軌道は矢のようにまっすぐ。
ボールのノビは比べものにならない。

公二が弱めのシュートを教えたのにもかかわらず、今のシュートはそれよりも破壊力はある。


「でも……あのしなった足……」

公二が恐ろしく感じたのは、光の限界までしなった右足だった。

「あれは足にものすごく負担を掛けてるはずだと思うが……」

公二は自分の右足をじっと見つめる。

「なぁ、俺の足に取り憑いていたのはもう光の足に取り憑いちまったのか……」
「………」
「そうか……そういうことか……」

右足はなにもこたえない。
しかし、かすかに伝わる痛みが公二に答えていた。



コンコン


「光か?」
「うん、そうだよ」
「入っていいぞ」


ガチャ


「公二、用事ってなに?」
「光、とにかくここに座れ」
「?」

光は公二に言われるままに、ベッドに正座を崩すような格好で座る。
ちょうど公二と光が向かい合う格好になる。

公二の表情が真剣になる。
そして光の目をじっと見つめる。

見つめられた光は少し顔を赤くしながらも見つめ返す。

「光、一つ聞いていいか?」
「なに?」

「あのシュート。試合で使いたいか?」
「うん……そのために練習したんだから……」

「何のために使う?」
「……試合に勝つため……みんなに喜んでもらうため……公二に喜んでもらうため……」

「………」
「………」

沈黙が走る。



「わかった……俺は何も言わない。使うのを認めよう……」
「いいの?」

「ああ。ただ約束してくれないか?」
「なに?」

「あのシュートは……1試合に1回だ、それ以上やると足を破壊する……」
「………」

「守ってくれるよな?」
「わかった……公二を悲しませたくないから……」

2人見つめ合いながらゆっくりと時間が流れる。



「光、あと一つ頼んでいいか?」
「いいよ……でもなに?」


「右足を俺の前に出してくれないか?」
「えっ?……いいけど……」

光は足を前にまっすぐのばす座り方に直す。

そして右足を公二の前に差し出す。

公二は光の右足を優しく持つ。

「えっ?」

光が小さく声を出す。

公二が光のジャージのズボンの裾をずりあげたからだ。
公二の目の前には光の綺麗な肌の右足がさらされる。

公二はゆっくりと顔を光の右足のすねに近づける。


そして、



チュッ



「えっ?」



チュッ、チュッ、チュッ……



「こ……う……じ?」

公二は光のすねに何度もキスをした。

光は驚きながらも何も言えずに固まっている。



そして公二は光のすねをじっと見つめながらこうつぶやいていた。


「神様……仏様……いや、誰でもかまいません……

 光のこの足をお守りください……

 俺の右足を壊した悪魔が、今ここに取り憑いています。

 この悪魔からお守りください……

 お願いします……」
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後書き 兼 言い訳
光の必殺シュートが完成しました。

公二もその危険性がわかっていても、使うのを認めるしかなくなったようです。

次回はひびきのの夏合宿の集大成。
そして、光のシュートも……てな感じです。