第60話目次第62話

Fieldの紅い伝説

Written by B
「あ〜あ、みんなとしゃべりすぎて、まだお風呂入ってないや……」

光は自分の部屋にもどっていた。
ちょうどベッドに座り、足をのばしてくつろいでいた。

「しかし、色々あったけど楽しかったなぁ……」

光はこの合宿のことを振り返っていた。

「辛かったけど、みんな私のためなんだよね……」

毎日が楽しかったとは言えない。
しかし、この合宿で肉体的、技術的、そして精神的にたくましくなったと自分でも思う。

「課題だったシュートも完成したし!それにみんなとも仲良くできたし!言うことなし!」

この合宿で光は周りからの信頼を得ることができた。
現にさっきまで他の仲間と一緒におしゃべりで盛り上がっていた。
合宿前は周りも何か光に気を遣っている感じだったが、今はそうではない。
光のことをチームメイトとして扱ってくれている。
光はそれがとても嬉しかった。

「さてと、早くお風呂に入って、また戻らないと……」

光はお風呂に入るからといって、さっきおしゃべりの輪から抜け出してきたところだ。

光はベッドの隣の小さなクローゼットを開け、下からバッグをとりだす。
バッグの中から、お風呂に入るのに必要な用具を取り出す。

「もうみんな入っちゃったんだろうな……急がないと……」



「お〜い、陽ノ下はいるかぁ?」

光がさて行こうと立ち上がろうとする直前にほむらがどかどかと入ってくる。
ここはほむらの部屋でもあるのだが、いきなり戻ってきたのを光は不思議がった。

「あれ?ほむらもお風呂なの?」
「いや、あたしは一番風呂だった」
「じゃあ、なんでここに?」
「いや、あんたを探しに来たんだ。いやぁ、すぐに見つかってよかったぁ」
「で、なんの用事なの?」
「まぁまぁ、そこに座れって!」

ほむらにせかされて、床に座らされる光。
光は風呂に入れなくて不満だが、こういうときのほむらは人の言うことを全く聞かないので諦めた。



ほむらはテーブルの前になにやら印刷されたA4サイズのコピー用紙をとりだして、広げている。
その様子を見ながらほむらに訪ねる。

「なにそれ?」
「なにって……せっかくシュートの名前を考えてあげてるのに」
「えっ?シュート?名前?」
「昼間のあのすご〜いシュートだよ」
「あっ、あれ……」

ほむらが言っているのは光が昼間の紅白戦で放った公二直伝の必殺シュートのこと。

あまりのインパクトに夜のおしゃべりでも話題に上がった。
しかし、光はあまり細かいことは言わなかった。
細かく話すと公二のことが避けられないからだ。



しかし、ここで浮かんだ素朴な疑問。
ほむらに尋ねてみる。

「でもなんで名前なんて……」
「すげぇシュートには名前があるのがしきたりだ」

あっさりと答えるほむら。
ここで、光はあることを想像してしまう。
ほむらにおそるおそる聞いてみる。

「……ねぇ、ほむら、一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「まさか、私がその名前を叫びながらシュートするのを想像した?」
「えっ?嫌なのか?」

恐れていた答えがそのまま返ってきた。

「いやだよぉ!そんなの恥ずかしいよぉ〜。それは漫画の世界だよぉ〜」
「えっ?あれって漫画だけなのか?」
「ほむら〜」

ほむらは大まじめな顔をして答えている。
それをみると光は余計に焦る。
本当に叫ばされたらたまらないとばかりにほむらに説得する。



「ちぇっ。叫んだほうがかっこいいと思うけどなぁ……」
「だから、やだって言ってるでしょ……」

渋々納得するほむら。
しかし未練たっぷりらしい。

「それで、名前はどうなの?」
「ああ、忘れてた。あのシュートって主人のシュートが元ネタなんだろ?」
「うん」
「主人のシュートに名前があったの知ってるか?」
「えっ?そうなの?」
「ん?知らなかったのか?じゃあこれを見ろ」

そう言ってほむらは光に1枚の印刷した紙を見せる。

「これは?」
「1階のコンピュータルームのインターネットで検索して印刷してきた」
「で、どこのページなの?」
「主人がいた中学のサッカー部のページだ」
「ええっ!」

光が驚いて紙をほむらから奪い取る。
確かに一度だけ聞いたことのある、公二のいた中学校の名前が書いてある。
どうやら最近できたホームページらしい。

「これがそこにあったOB名簿だ、ほれ、きら高のあいつの名前もあるぞ」
「あっ……本当だ……」

ほむらから別の紙を渡される。
そこにはOBの名前がずらっと書いてある。
そこには公二と望の名前も載っていた。



「まぁ、それはともかく。その中の部の歴史みたいなページにすごいことが書いてあるぞ」
「えっ?あっ、本当だ……」

今度渡された紙は部活の昔ということで1年ごとに説明が書かれていた。
そこで公二が3年のときのところにはこう書いてあった。

『この年はMF主人公二が中心のチームだった。
 彼は当部始まって以来初めてU-15日本代表候補にも選ばれている。
 全国大会に行ったことのない当部でだ。

 それだけ実力に注目が集まっていたということがおわかりだろう。

 主人のパスは高速・正確・確実の三拍子がそろっていた。
 それよりも主人には必殺のシュートがあった。
 そのシュートはペナルティエリアの外から放っても威力抜群のシュート。
 ある人は「ビームのようだった」とか「流星のように光が流れた」とか言う。

 そこで部内ではそのシュートのことを『シューティングスター』と呼んでいた。
 安易な名前だが、シュート自体は名前負けしないぐらいの威力だった。

 主人のパスとシュートを武器に大会を勝ち上がっていったが全国大会には行けなかった。
 最後の大会で決勝戦まで行けたが、試合途中で主人が骨折。
 結局、勝つことはできなかった。

 主人はその怪我が原因で退部してしまい……』

「どうやら、最初に書いてから更新が出来てないみたいだな」
「そうみたいだね。なんか消息不明みたいな書かれ方だよね」
「でも、やっぱり主人がすごい、というのは明らかだな」
「そうみたいだね」

光は主人のことが書かれた紙をじっと見つめる。
なにか中学時代の主人のことが思う浮かぶようだった。



「さぁて!『シューティングスター』に負けない名前を考えて来たから選べ!」
「えっ〜!」
「大丈夫だって!かっこいいのばかりだから」
「………」

一気に話を本題に戻すほむら。
結局名前を決めなければ終わらないようだ。
光は諦めて名前を決めることにする。

「この中から選べ、いやとは言わせん」
「………」

自信満々の笑みのほむら。
光は不安いっぱいなのだが、とりあえず名前案の書かれた紙を見てみる。


「げっ……」


光の顔から冷や汗がたらたらと流れてきた。
光はおそるおそるほむらに聞いてみる。

「ほ、ほむら?」
「んぅ?なんだぁ?」
「本当にこの中から選ぶの?」
「そうだ。あたしの自信作が気に入らないのか?」



「え〜〜〜っ!こんなのやだよぉ〜!」



光の叫び声が部屋中に響く。



「えっ?どうしたんだ?」

ほむらは何がそんなに嫌なのかよくわからない様子。

「だってぇ〜。こんなの恥ずかしくてやだよぉ〜」

半分泣き顔で顔を横に振ってイヤイヤする光。

「おっかしいなぁ〜。いいのばかりだと思うけどなぁ」

ほむらは光がテーブルに放りなげた名前案の紙を見る。



「たとえば一番上の『ドラゴンシュート』は?」
「そんなの恥ずかしいよぉ〜」
「そうかなぁ?一番おすすめだったんだけどなぁ?」

ほむらは不満げにリストを下に追っていく。

「じゃあ、この『ドライブシュート』は?」
「それ、どっかの漫画にあったよぉ」
「えっ?漫画じゃだめなのか?」
「そういう話じゃなくてぇ〜」


「これなんかどうだ?『モーレツシュート』」
「ダサすぎぃ〜!」


「この『飛翔烈火鳳凰シュート』は?」
「なんか変だし、それに長すぎるって!」


「『ザ・デストロイヤー』は?」
「それシュートの名前じゃない!」


「『秘打、白鳥の湖』は?」
「それ、サッカーじゃないよぉ〜」


「では『ウルトラグレートファイヤーサンダーツイスターミラクル……』」
「だ〜か〜ら〜、長すぎるよぉ〜!」


ほむらが勧める名前に一つ一つイヤイヤしながら否定する光。

「ちぇ……いい名前だと思うんだけどなぁ〜」

ほむらは自信作?を否定されて少々不満そうだ。



それでももう一度名前案の書かれた紙を見てみる。

「……あれ?」

光はリストの一番下の名前に視線が止まった。

「ねぇ……これは?」
「ああ、書いてみたもののあんまり自信がないやつだけど……」
「ふ〜ん」


光が目についたリストの一番下。


『シャイニングメテオ』と書かれていた。


「これって?」
「いや、『meteor』って『流星』てネットに書いてあってな」
「確かそういう意味だよね」
「主人のが『シューティングスター』って名前で、これも『流星』だろ?」
「そうだよね」
「だから、と思って適当に考えただけどちとイマイチで……」

ほむらの言うことを聞いているのか聞いていないのか、
光はその名前をじっと見つめて考え込む。
そして一言。



「これ……いいな」



「えっ?」
「これにする!これが一番いいや」
「えっ?えっ?ちょ、ちょっと待て。そんな適当なのでいいのか?」
「ううん。なんでだかわからないけど気に入っちゃった♪」

信じられないという表情で光に意志を確認するほむら。
でも光はすっかり気に入ったようだ。



「う〜ん、光のセンスはわかんねぇなぁ〜」
「いいじゃない。いいじゃない♪」

少々不満だが元々自分の案でもあり文句も言えない。
複雑な表情を浮かべ腕を組んで光を見るほむら。
一方、光はリストの一番下に大きく花丸を書く。

「じゃあ、決定だね♪」
「そうだな……それじゃあ『シャイニングメテオ』で決まりだな……」
「うん♪」

何はともあれ光の必殺シュートの名前が決まった。

「なぁ、せっかく名前つけたんだから、ここぞの時には絶対に決めろよ」
「任せて!」
「あっ、お風呂だったんだっけ?遅くなって悪かったな」
「ううん、全然。じゃあ私はお風呂入ってくるね♪」
「いってらっしゃ〜い」

光はご機嫌でタオル等を持ってお風呂へ行った。



「………」

部屋に残されたほむらはおもむろにポケットから携帯電話を取り出す。
ヒーロー物のストラップがジャラジャラ付いている携帯だ。
そして、急いである場所に電話する。

『おおっ、遅くなってごめん。今、陽ノ下がお風呂に行ったぞ。
 うまく足止めしろ。あと主人をせかせ。わかったな……』

一通り指示を出すとほむらは携帯を切る。

「ふぅ……これで、あいつの問題が全部解決されればいいけど……」

ほむらはそうつぶやくと部屋から出て行った。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
光の必殺シュートの名前がようやく決まりました。

しかし、センスないなぁ(汗
でも、私の命名センスではこれが限界ですm(_ _)m

でも、一般でも名前というのはこういう適当なのが選ばれることってあるみたいですね。(言い訳

次回はひびきの夏合宿最終話。
なんとなく展開が予想つくでしょ?(苦笑