第62話目次第64話

Fieldの紅い伝説

Written by B
夏休みの午後。
日差しがカンカンに照っている。
望は公二と久しぶりのデート。
夏ということで、電車で1時間ほどの海へ誘った。

そして今、望は民宿が設置した無料更衣室にいる。
そこで、紙袋の中身をみて愕然とする。

「奈津江!休み明けたら覚えてろよ〜!」

紙袋の中身は自分の趣味とはかけ離れた水着があった。



話はデート当日から5日前にさかのぼる。

望は奈津江からいきなり電話で呼び出されデパートの前にやってきた。
そこには紙袋を持った奈津江が待っていた。

「なんだい、いきなり呼んでさ」
「望、今年は水着買った?」
「いや、買ってないけど……」
「ふぅ……やっぱり」
「???」

大きくため息をつく奈津江。
不思議がる望。
そして突然奈津江は望に右手人差し指でびしっと指す。

「それじゃあ、彼は振り向いてくれないわよ!」
「な、奈津江、いきなりなんだよ!」
「どうせ去年はデートしてないからって、同じでいいやなんて考えてたんでしょ?
 それじゃだめよ!
 ここは女の武器を使わなきゃだめよ!
 望の女っぽさを猛烈にアピールしなくっちゃ!
 どうせ夏なんでしょ!
 ここは水着でアピールするに限るわよ!」
「そ、そうかなぁ……」

一気にまくし立てる奈津江に望は押され気味。
奈津江の言うことに相づちをうつのが精一杯。

「そうわけで、私と京と詩織で望の水着選んであげたから♪
 サイズはぴったりの選んであるから気にしないで。
 あっ、中身はデート当日までのお楽しみということで見ないでね。
 これで彼を海に誘って女をアピールしなさい!」

「あ、ああ……」

「頑張ってね。みんな応援してるんだから」

そういって奈津江は紙袋を望に渡した。

「あっ、そういえば、お金……」
「気にしない気にしない!」
「そ、そう……ありがとう……」

そういって、望は水着をプレゼントされた。



奈津江の言うことを無視して中身を見ればよかったものの、
真面目に言うとおりにしてしまったことを後悔してももう遅い。

「しょうがない、着るか……うわぁ〜、恥ずかしいよぉ〜」

望は覚悟を決めて水着に着替えることにした。



「遅いなぁ……」

公二は、望が来るのを海岸の入り口で待っていた。
2人の荷物は民宿に預けているので公二は手ぶらだ。

「しかし、望の水着姿かぁ……望のことだから結構かっこいい水着なんだろうな……」

望は小学校の時水泳で全国大会に出場した経験がある。
それだけに水着はとても似合ってるのでは?と期待する。

「お、おまたせ……」

望がようやく現れた。
しかし声が弱々しい。

「望、遅いぞ……うっ……」

振り向いた公二の言葉がとまった。
予想外の望の水着に公二は驚いた。


「は、恥ずかしい……見ないで……」


両手を腰の後ろに回し、足をもじもじさせて照れている望。

望はピンクの三角ビキニを身にまとっていた。



(恥ずかしい……それに似合わないよ……)

望は恥ずかしがっていた。

ビキニのトップは首の後ろと背中を紐で結ぶタイプ。
トップの布地部分は望の胸をちょうど隠す程度の大きさだ。
ボトムは前後を両方の腰の辺りで紐で結ぶタイプ。
前の布地の部分は結構小さめ。
後ろもTバックとはいかないが、こちらも布地が小さくお尻の半分も隠れていない。

泳ぐため、というよりも魅せるためという水着。
いわゆるセクシー水着だ。

(うわぁ、周りの人もじろじろみてるよぉ〜)

いつもはスポーティな水着を着る望は恥ずかしくてしょうがなかった。



しかし、すぐに公二が返事してくれる。

「の、望……」
「な、何……」


「き、綺麗だよ……望にとっても似合ってるよ……」


「そ、そんなことないって。あたしには似合わない……」
「そんなことないよ。望にぴったりの水着だよ」
「そ、そう?そうだったら嬉しいな……」

(望……望ってこんなに色っぽかったのか……うわぁ……たまんねぇ……)
(よかったぁ、公二が喜んでくれて……)

奈津江達の作戦は大成功のようだ。

「と、とにかく、泳ごうか?」
「そ、そうだね……」
「望は海岸で遊ぶよりも泳ぐ方が好きなんだろ?」
「そうだな、あたしは泳ぐのは昔から大好きだからね」

2人は海に向かって歩き出した。



海水浴日和ということもあり、家族連れやカップル、または友達グループ等たくさんの人が海岸にいる。
その中を公二と望が通り過ぎる。

比較的平然と歩く公二に対して、望は公二の後ろに隠れるように歩いている。

「望?どうした?」
「いや……なんか、じろじろ見られてるような……」
(そりゃ、望のような美人がそんな水着着てれば注目を浴びるよ……)

見られているようなではなく、実際にじろじろ見られているのだが、そんなことは公二は言わない。
公二は望を安心させるように返事する。

「気にしないほうがいいよ。それよりも早く海に行こう」
「そ、そうだね……じゃ、じゃあ……」


ぎゅっ


望はいきなり公二の右手に抱きついた。
いきなりの行動で公二も驚く。

「の、望!」
「こ、こうすると安心するんだ……いいだろ?」
「い、いいよ……」
(そ、そんな顔されちゃあ断れないじゃないか……)

顔を真っ赤にして見上げる望。
公二は断ることをしなかった。

そういわけで、海にたどり着くまでのわずかの間、望は公二の右腕に抱きついていた。

(あ、あたし、すごく大胆になってるかも……)
(み、右腕にやわらかいのが……望って結構胸があるのか……)

お互い顔を真っ赤にして歩いている。
ただ、こころなしかさっきよりも歩く速度が落ちている。
無意識に今の状況を楽しんでいるのかもしれない。



海に到着した2人は海をのんびりと泳いでいた。
海に漂いながら普通のおしゃべりをして楽しんでいた。
海に隠れているせいか、望の水着についてはお互い意識せずにすんでいる。
おかげで普段の2人に戻っている。

そんななか、望が話を変える。

「ねぇ、公二。あの島まで遠泳しない?」
「あ、あそこまで?」

望は海から少し離れた場所にある小さな島を指す。
距離はすこし泳げばたどりつくぐらいの距離にある。
ただ、その島にはなにもない。
ボートやヨットの休憩所みたいな使われ方をしているにすぎない。

「いいだろ?久しぶりにのびのび泳いでみたくてさ」
「いいね。俺も頑張ってみようかな?」
「そうこなくっちゃ!じゃあ、競争だ」
「ちょっと待て、俺は望に勝てないよ。競争なしで泳ごうよ……」

そういうことで2人は離れの島まで遠泳することになった。



遠泳自体はたいしたことはない。
2人ならんでゆっくりと泳いでいただけ。
話などはせず、真面目に泳いでいた。
望は元水泳選手だし、公二もサッカーはしてないが運動は得意なだけあって、疲れることはない。

あっという間に島までたどり着く。

「ふぅ……お疲れさま」
「いやあ、こんなに泳いだの久々だなぁ……」

陸に上がった2人は海岸の砂場に大の字になって寝転がっている。

「俺もサッカー漬けだから、授業以外で泳ぐのは久々だな」
「しかし、よく泳いだなぁ……あれ?」

望はふと空を見てみる。

「あれ?いつのまにあんな雲が?」
「こりゃ夕立が来そうだな……」

天気はいいのだが、怪しい雲が漂っている。
予想はすぐに答えが出る。


ポツ、ポツ、ポツ……


あっという間に空が黒くなり。雨が降り出した。

「うわぁ!もう来たか!望、どこか避難するぞ」
「ああ、どこかあるかな……」
「ん?あそこに小屋みたいなのがあるぞ、あそこに行こう」
「そうだね」

公二は少しぼろい木造の小屋を見つけた。2人はそこに避難する。




ザァーーーーー……


「結構、振りそうだね……」
「でも所詮夕立だよ、じきに止むよ」

2人は並んで窓から雨の様子を見る。
振りは激しいが、遠くの空は明るいので本降りではなさそうだ。
少しだけ安心する2人。

ふと、お互いの顔を見る2人。

「………」
「………」

2人ともすぐに顔をそらしてしまう。

(そ、そうだ。公二と二人っきりだ……)
(望、そんなに顔を赤くするなよ。意識しちゃうだろ……)

小屋の中は公二と望の二人っきり。
嫌でも意識してしまう。



そこに突然雷が発生した。



ドカーン!



「きゃぁぁぁぁ!」


突然の雷。
そしてその直後に望の悲鳴。

「望!」
「きゃぁぁ……」

公二が望を見ると、望はその場でしゃがみ込み、頭を抱えている。
窓に背中を向け、震えている。

「望、どうした?」
「かみなりぃ……」
「えっ?」
「あたし……雷が……だめなのぉ!」

望は雷が大の苦手だったのだ。



心配になって公二は望の目の前にしゃがんで望の顔を見ようとする。

「望、大丈夫だって。ここは部屋の中だし」
「本当……大丈夫なの?」
「大丈夫だって。俺がいるんだし……」
「そ、そうだよね。公二がいるんだよね……」

ようやく落ち着いた望が顔を上げたそのとき。



ドーーーーーーーン!



突然の大音量の雷。



「きゃぁぁぁ!」
「うあぁ!」



思わず公二に飛びつく望。
その望を受け止めようとする公二。



(あっ……)
(あっ……)



そして『事件』が起こった。



ドスン!



そのまま重なるように倒れる2人。



「………」
「………」



まったく動けない2人。
2人の時間は止まったまま。



2人の唇は重なったままだ。




その雨はいつしか止んでいた。
しかし、2人はまだ動けない。
仰向けの公二の上に、望が覆い被さったまま。

「………」
「………」

望がようやく顔を上げる。

「望……」
「公二……」

2人の顔は真っ赤だ。

「しちゃったんだよね……」
「………」

望がぼそっとつぶやく。
公二は何も答えない。



「2度も3度も同じだよね……」
「えっ……」

望は再び公二の体に倒れ込む。

両手で公二の顔を挟む。
望は瞳を閉じる。
そして、公二の唇に押しつけるように自分の唇を重ねる。
突然の行動に公二も望を払いのけることができない。

「………」
「………」

そして再び望が顔を上げる。
さらに顔を赤くした望と公二がじっと見つめ合う。



「好き」



望がはっきりと意志を告げた。
もう止まらない。


「好きなの!
 公二が好きなの!
 ずっとずっと前から公二が好きなの!
 光よりもこの想いは絶対に負けてない!
 好きなの……
 本当に好きなの……」


「望……」


「………」


望は再び公二に倒れ込む。
今度は公二を抱きしめるようにする。

足を絡ませ、胸を公二の胸に強く押しつける。
全身を公二の体にくっつけるように抱きしめる望。


「お願い……しばらくこのままでいさせて……」
「あ、ああ……」


公二はただ頷くしかなかった。

2人は小屋に夕焼けが差し込むまでそのままの格好でいた。



「………」
「………」

2人は再び泳いで海岸まで戻ってきた。
その間、2人は無言だった。
そして、そのまま民宿に戻って、シャワーを浴び、水着から服に着替えた。

そして帰りの道中も2人とも無言のままだった。



そして、きらめき駅前。

「それじゃあ……今日は楽しかった……」
「ああ、俺も楽しかった……それじゃあ」

そう言っているが、お互いなんとなくぎこちない。
公二が再び駅に向かおうとするところを望を呼び止める。

「ねぇ、公二」
「なんだ……」

望は真剣なまなざしで公二をじっと見つめる。

「あの小屋でのこと……
 責任取って、なんて言わない……
 でも、あたし決めた。

 もう待たない。

 あたしから公二を振り向かせてみせる。
 そして、公二のハートを奪ってみせるから……

 それじゃあ、また……」


タッタッタッ……


そういうと望は公二に背を向けて走り出した。

「………」

公二は何も言えずじっと見送るだけだった。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
ついにやっちゃいました(笑)
そしてこれが望の何かを吹っ切れさせてしまったようです。

2連続でのお色気シーン。
サービスだけで書いた訳じゃないですから(苦笑)

で、次回はこんなおいしい?体験をしてしまった公二くんが悩むお話です。