第65話目次第67話

Fieldの紅い伝説

Written by B
夏休みが明けた。

合宿後、自主トレに励んでいたきらめき高校女子サッカー部も本格的に活動を再開した。

始業式等があるので朝練はなし。
しかし、放課後の練習は通常通り行われる。
さっそく、部員達は放課後部室に集まる。

久々に集まった仲間をみて、再び意欲がわき上がる。

ところが意欲ではなく、妙な好奇心のほうが沸き上がってきた人たちがいる。

「なぁ……あれ、どういうことだ?」
「知らないわよ、京。奈津江ちゃんこそ知ってる?」
「う〜ん……」

京、詩織、奈津江の自称『望の保護者』達は望の変化に驚いていた。



3人は部室の隅で寄り添ってこそこそ話をしている。
端から見れば怪しいのだが、他の部員達は見て見ぬふりをしている。

「奈津江ちゃん。望に化粧の仕方って教えた?」
「詩織、わかるでしょ?そんなの私ができるわけないじゃない」
「それよりもノゾミのスタイルがよくなってないか?」
「京!それ本当なの?」
「いや、さっき隣で着替えてるのをちらっと見たんだけど、こうウエストがきゅっとなってて、胸も……」
「京、それ気のせいじゃないの?」
「ナツ、アタシも目を疑ったけど、やっぱりなんか違うんだよ」
「そうなんだ……」
「ナツ、本当に何もないのか?」
「う〜ん……あたし達で選んだ水着を渡してからは会ってないからなぁ……」



「……それよ!」

「えっ?」


こそこそ話だったのだが、突然詩織が叫びだした。


「きっと、あの水着で彼氏がメロメロになっちゃったのよ!」
「そ、そのつもりで買ったんだけど……」
「それで、夕焼けの中で二人っきりになっていい気分になったのよ!」
「そうなるのが目的なんじゃ……」
「それで……それで……」
「それで?」



「望ちゃんと彼はシちゃったのよぉ!」



突然の詩織の勢いに押されていた京と奈津江だが、最後の発言に顔が青くなる。

「シオ!こ、声が大きい!」
「もごもごもご……」

前から詩織の口を慌てて両手で押さえる京。
両手をばたばささせる詩織を後ろから羽交い締めにする。



しかし、もう遅い。

「先輩!それって本当ですか!」
「私の望先輩を汚れ物にしたのは誰なんですか!」
「お願いです!私の清川先輩を返してください!」

周りの後輩たちが一斉に3人に詰め寄ってきた。
望にお熱がある後輩達の目は真剣そのもの。
そうではない部員達は離れた場所から様子をうかがっている。

「い、いや、あの……」
「え〜と、その〜、あの〜……」
「あははは……」

部室の隅にいた3人は逃げようがなかった。
救いはすでに望がグラウンドに行ってしまったことだけだろうか。



3人は適当にごまかして『もう練習の時間だからさっさと行く!』というキャプテン奈津江の一言で乗り切った。
しかし、そのせいか後輩達の想像はあらぬ方向に広がってしまう。

「きっと望先輩は、その男に海岸で無理矢理……」
「清川先輩って、スタイル抜群だから、水着姿を見て……」
「さらにスタイルがよくなったって話よ。もしかして、そのあとも……」
「ああ、先輩は大人の女になっちゃったんだぁ……」

その日は練習でも特段のハプニングもなく終わった。

「ふぅ〜、何とか助かった……」
「ごめんなさい……」
「もう、詩織ったら妄想激しすぎ……でも、なんとか乗り切ったわね……」

当の3人はあの場を乗り切ったことで安心しきっていた。
そして、肝心の噂を消すことを忘れてしまっていた。



そういう噂は瞬時に広まってしまうもの。

翌日の放課後の練習後の部室。

「う、うかつだった……こんなに広がるなんて……」
「アタシも甘く見てた……早乙女やユーコにもみ消しを頼めばよかった……」
「私も早乙女君に頼んでみたんだど『あれだけ大きくなるとさすがの俺でも無理だ』だって」

望の噂は学校中に広まってしまった。
それも朝の時点でかなりの範囲で。

『望は夏休みの間に彼氏と初体験した』
『海でのデートで男に襲われた』
『あの清川が不純異性交遊?』

高校生らしい噂が広まっているが、尾ひれがついたものばかりで逆に信憑性が薄い。
しかし「望が彼?と夏休みに海でなにかあった」と言うことだけは共通している。



「それで京、詩織。何か情報は入手した?」
「う〜ん、ちょっとだけだけどね」
「アタシも思い当たるところだけだけど……」

3人はまたも部室の隅でこそこそ話。
今度は本当にこそこそ話。
聞き耳立てる後輩達に聞かれないように必死の様子。
時間も練習前ではなく練習後にした。

今は望に関する情報を報告しあってる状況。



そこで入手した情報と言えばこんな具合。


○京の友達で流行に目がなく、遊ぶことが大好きなY.Aの話

「望?うん、この前急に『あたしに似合う化粧品ってない?』って来たから教えたけど……」
「まさかすごく高価なのは教えてないよな?」
「まっさかぁ?あたしでも買えないのを教えるわけないっしょ?」


○そのY.Aの友達で学校一の御嬢様であるY.Kの話

「そうですねぇ〜、のぞみさんが〜、作法を習いたいと〜、いいましたねぇ〜」
「本当なの?」
「でも、作法は手順よりも心ですよ〜。と教えたら〜、納得してくれましたぁ〜」
「う〜ん、よくわからん……」


○詩織の知り合いで望の親友でもあるA.Kの話

「ノンちゃん?先週一緒にノンちゃんに似合う大人っぽい服を選んであげたけど、それが?」
「大人っぽい服なの?」
「Yes.そうよ。ノンちゃんのリクエストどおり、レディな服を選んであげたわ」


○望とは関係がないようだが、一応(詩織が恐る恐る)聞いてみたY.Hの話

「そうね。昨日『フェロモンってどうやって出すんだ?』って聞いてきたわ」
「ふぇ、ふぇろもん?」
「ええ、『そんなの出すよりもすることがあるでしょ?』って言って追い返したわ」
「そうなんだ……」
「情報料はあなたと高見君とのセットで人体実験1回ね」
「ええっ〜!」


○最近仲がよくなったと噂のマネージャーのS.Nの話

「うん!最近望ちゃんに料理を教えてるの。結構筋がよくて教えがいがあるのよねぇ、それで来週は……」
「沙希ちゃん。そんなに拳を強く握って語らなくてもいいから!」


○女子サッカー部専門マネージャーのM.Jの話

「このごろ電話で『今日のラッキーカラーは何?』とか『恋愛運は?』って聞いてくるんだよね……」
「それで恵、望の最近の恋愛運は?」
「それが……私もよくわからないんです……なんか大吉と大凶が両方でているような……」
「???」



これらの情報をまとめた結果、たどりついた結論は……



「ノゾミはまだ、彼を手に入れてない……」
「でも、望が本気になって彼を手に入れようとしてる……」
「そのきっかけが夏休みにあった……ということか……」



とまあ、ごくありふれた結論しかでてこなかった。
ただ、確実に言えたことは、望はまだ公二と恋人同士になっていない、ということ。

「よく考えればそうだよな。デキちまえば、あそこまでする必要はないもんな……」
「それに望だったら、はっきりと言うからね……」
「はぁ〜、問題は解決してないってわけね……」

結局、なにも解決していないことを知ってしまい、落胆のため息をつく3人だった。



「しかし……望……何があったんだろう?」
「さぁな……」
「たぶん、これからも聞いても無駄でしょうね……」

そう、肝心の望が3人に何も教えてくなかったのだ。

当然、練習後3人でそろって望に聞いてみた。
その答えは、



「うふふ……ヒ・ミ・ツ♪」



という言葉だった。

「でも……これからどうなるんだろう……」
「もう、あたしはこれ以上は手が出せないよ……あれだけ望がなっちゃうと」
「アタシも同じ……まあ変な方向だけに行かないようにするだけだな……」

なんとか望をなんとかしようとした3人だが、お手上げ状態になってしまったようだ。



そんななか、望だけは終始笑顔で過ごしていた。
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後書き 兼 言い訳
休みが明けました。
望のほうはとんでもない状況になってますな(汗

しかし、望はたくさんの子に聞きまくってますね。
それだけ望が変わっちゃった、ということでしょうか。

次回はもちろん光サイドです。