第66話目次第68話

Fieldの紅い伝説

Written by B
ひびきの高校も2学期が始まった。
こちらも合宿後は自主トレに励んでいていよいよ秋の大会に向けてエンジンが掛かりだす。
と、いきたいところだが、ひびきのは始業式の日は放課後もお休み。
ただし、自主トレは自由ということでかなりの人数がグラウンドで練習していた。

公二と光が珍しく参加しなかったことを除いてはいたって普通の自主トレ風景。

ちなみに2人はデートというわけではない。
公二は右足の定期的なチェックのために病院へ。
光は友達との約束で映画を見にいっただけ。

ただ、2人がそろっていないことが後々大きな影響を与えることになる。



それが翌日に現れた。

「ちょ、ちょっとぉ〜!どうしてこうなるのぉ〜!」
「知らないわよ。事実じゃないの?」
「ことこぉ〜、だから違うよぉ〜!」

お昼休み。
中庭でお弁当を食べながら親友の水無月琴子に愚痴をこぼす光。

「よかったじゃない。主人くんとねんごろになって」
「だからぁ〜違うって〜」
「だって、目撃者もたくさんいるらしいわよ。もう、ごまかさなくてもいいわよ」
「だから嘘だってぇ〜」

光は必死に弁解するが琴子は聞こうともしない。



光をしばらくは悩ませることとなる噂とは、

『陽ノ下と主人はもうデキている』
『合宿中にシちゃったらしい』
『もう一緒にお風呂に入る仲になったらしい』

と言う噂。

「『信頼ある筋からの情報』っていう話よね」
「もう……ほむらと美幸ちゃんだな……」
「ふ〜ん、でも嘘はつかなそうな2人よね……」
「でも、絶対に嘘言ってるんだって〜」
「だから無駄なあがきはやめなさい」
「………」

結局、最後まで聞く耳を持ってもらえなかった光だった。



光の言うとおり、噂を流したのはほむらと美幸。
そう、ちょうどいなかった自主トレの時に『わざと』噂を流したのだ。

『いやぁ、びっくりだよ。まさか風呂に一緒に入るとは大胆だよなぁ。たぶんかなりの関係になってると思うぜ』
『美幸見ちゃったんだよぉ〜。2人が同じ風呂場に入るのぉ〜。もう羨ましいなぁ〜』
『同じ部屋で一晩すごしたこともあったなぁ……間違いなく、あのとき何かあったな』
『そうそう!同じベッドで寝てるのも見たよぉ〜』

確かに2人は事実しか言っていない。
しかし、真相を言わずに意味深げに言うものだから、高校生特有の妄想によりかなりの尾ひれがついて噂が流れることとなったのだ。



もちろん当の2人はそのことは百も承知。

「いやぁ、見事にうまくいったな」
「うんうん!そうだよねぇ〜」
「………」

お昼のサッカー部室。

「これで、陽ノ下もひっこみがつかなくなっただろうな」
「開き直ってアタックすればいいけどねぇ〜」
「………」

もくろみ通りとなって気分もいい美幸とほむら。
今は部室でお弁当を食べているところ。
なぜか花桜梨も一緒に食べているが彼女は黙って話を聞いているだけ。

「陽ノ下は性格のわりにはこういうのは消極的なんだよなぁ……」
「性格はいいし、可愛いし、スタイルもいいのにねぇ〜」
「……単に恋愛事が苦手だと思うけど……」

「しかし、こうなると主人のほうもきついよなぁ。二股掛けてるなんて言えるわけないからなぁ」
「そうだよねぇ、答えにくいよねぇ……」
「……それはそれで自業自得だと思う……」

「八重、それは言い過ぎだぞ。主人にも事情っつうものがあるんだから」
「美幸もそれはわからないなぁ……」
「でも、あなたたちってそんなの関係なく遣ってると思うけど……」

お気楽なほむらと美幸。なにか不安を感じてる花桜梨。
しかし楽しい?お昼だったことには間違いない。



そして放課後。

「やあ」
「あっ……」

部室の前で公二と光がばったりと鉢合わせした。

(どうしよう……公二にどんな顔をすればいいんだろう……)

光は噂のことが頭いっぱいになり顔を真っ赤にしていしまう。

「………」
「………」

お互い少し顔をうつむいたまま黙っている。

「あの噂か?」
「……うん……」

「まいっちゃうよな」
「……そうだよね……」

「まあ気にするな。どうせ噂だし……」
「……うん、わかった……」

公二がようやく口を開く。
光は相づちを打つことしかできない。

「ほら、もうすぐ時間だぞ。すぐに着替えてこいよ」
「そうだね……行ってくる……」
(だめぇ……恥ずかしくて顔が見られないよぉ……)

光は顔を真っ赤にしながら部室に入っていった。



女子部室の前では公二が一人きり。

「おい、会長、寿」

公二が冷たく言い放つ。

「ん?呼んだか?」
「はいは〜い。美幸ちゃんで〜す!」

部室のある建物の影からほむらと美幸がにやにやとしながら出てきた。
どうやら今の一部始終をのぞき見していたらしい。

「なぁ、最近俺と光の噂が広まってるようだな」
「そうみたいだな」
「うんうん!美幸も聞いたよぉ〜」
「『信頼ある筋からの情報』ってふれこみがついてたな」
「へぇ〜」
「そうなんだぁ〜!」

公二はニコニコしている。
ほむらもニコニコしている。
美幸もニコニコしている。



公二は息をすぅ〜っと吸う。
一旦息を止める。
そして一気にはき出す。



「お前達余計なお世話だぁ!」



「うわぁ!」



「練習前にグラウンド5週だぁ!」



突然の大声にほむらと美幸は一歩一歩後ずさりしている。
それにあわせて公二も一歩一歩前に進む。


「お、鬼コーチだ……」
「うわ〜、ぬしりん公私混同してるよぉ〜」


「うるさ〜い!こればかりは勘弁ならん!」


「ひぇ〜……」
「鬼だぁ……」


「さっさと走ってこい!」


公二は顔を真っ赤にして怒っている。
ほむらと美幸は慌ててグラウンドへと走り出す。



「公二、やっぱり怒ってる……」

女子部室内。
ちょうど一人きりで着替えていた光は部室前の騒動がばっちり聞こえていた。

「やっぱり、『つき合ってる』って思われたくないのかなぁ……」
「そうだよね。まだそういう関係以前の問題だもんね……」
「はぁ……」

公二の怒りっぷりで公二の考えがなんとなくわかってしまった。
光は考え込んでしまう。

「あんまりくっつくと噂になるかなぁ……」
「たぶん公二も迷惑だろうね……『噂になるからやめろ』って言うかも……」
「………はぁ」

光は今日何度目かのため息をつく。

「私だってべったりとくっつきたいけど……無理だよね……」
「だったら、濃さより時間だよね……」
「たくさん時間つくって、一緒にいれば公二も迷惑じゃないよね……」
「決めた。そうしようっと!」

光はそう言うと部室から勢いよく出て行った。



そして練習が始まった。
全体練習は休み明け初めてなので、コンビネーションプレイの確認を中心に行っている。

そして練習後。
公二が光を呼び止めた。

「光」
「なに?」
「今日はえらく俺の側にいないか?」
「ううん。気のせいだよ」
「そうか……ならいいけど……」

公二の疑問はそのとおりである。
光は公二の側にいるようにしていた。

ミーティングでは公二の目の前にいる。
基礎練習では一通り終わるとすぐに公二の隣にいる。
最後のミニゲームで公二の指示があると、すぐ公二の近くまで走る。
器具の準備でもわざと公二の近くを通るようにする。


(今は公二の側にいられるだけで幸せだし……公二にも迷惑かけてない……)


あまりに地味なアプローチ。
それでも光はそれで満足だった。

光の地道なアプローチはこうして始まった。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
光も同じように騒動に巻き込まれちゃいました。

しかし、光がとった行動は望と全く逆。
積極的な望に対して、一歩引いた状態からのアプローチを選びました。

これが今後どう響くのでしょうかねぇ?

次回からはサッカーモード
ひび高きら高の交流戦に突入します。