第68話目次第70話

Fieldの紅い伝説

Written by B
きらめき高校の体育館裏。

「タクちゃん!待ってたよ!」
「留美。その言い方は止めろって言ってるだろ」
「いいじゃん、いいじゃん」

ひびきの高校の男子のブレザー姿の背の低い男の子。
そしてきらめき高校女子サッカー部のユニフォームを着ている女の子。
男の子の名前は坂城 匠。女の子の名前は神戸 留美。
そこには2人きり。

いや、正確に言うとそうではない。

「なぁ……留美に任せていいのか?」
「しょうがないじゃない!『私に任せて!』って何度も言うから」
「でも、留美ちゃん活き活きとしてるけど……なんで?」

京、奈津江、詩織のいつもの3人組が影から覗いていた。

「そもそも向こうは情報戦するような奴か?そんな感じには見えないけど」
「わからないけど、こっちが仕掛けちゃいけないってことはないでしょ?」
「でも、スタメンぐらい、監督に聞けばわかりそうなものだけどなぁ……」

「でも、あの2人ってどういう関係なの?」
「幼なじみらしいわよ。情報通だから向こうの情報は確実に聞けるって、言ってたわよ」
「なるほどね……留美が自信たっぷりなのはわかるな」

どうやら、留美が匠からひび高の情報を入手しようとしているらしい。



3人が覗いているのを知っているのか知らないのか、留美はさっそく匠に質問する。

「ねぇねぇ。情報は仕入れてくれた?」
「ああ、腐れ縁の留美の頼みだからなぁ」
「腐れ縁って何よ!」
「ごめんごめん。しかし、一昨日いきなり家に押しかけてくるからびっくりしたよ」



「母さんから呼ばれて玄関に行ったら久々に制服姿の留美で驚いたぞ」

『タ〜クちゃん!』
『だから、その言い方はやめろって!ところで何か用なのか?』
『うん。とっても大事なお願い』
『なんだ?』
『あのね。こんど交流戦でひび高とやるんだけど、スタメン情報とか教えてよ』
『えっ?』
『そっちの監督ってタクちゃんの同級生でしょ?』
『同級生もなにも俺のダチだよ』
『そうなんだ!じゃあ、よろしくね♪』
『うっ……ウィンクして言うなよ……』


「まったく……俺が留美のお願い断れない事知ってて無茶言い過ぎだよ。大変だったんだから」
「いいじゃんいいじゃん」
「あと、もう一つも困ったぞ」


『あと、もう一つお願いしていいかな?』
『なんだ?』
『その監督にうちの情報流してよ』
『えっ……俺にダブルスパイしろっていうことか?』
『そうそう』
『いいのか……俺の立場は大丈夫か?』
『大丈夫。成功したらきら高のとびっきりの美少女紹介してあげるから♪』
『う、う〜ん……しょうがないなぁ……』
『ありがと♪』
『だから、ウィンクはよせって……それで情報って?』
『うん、「きら高の右サイドは危険だ。近づくと確実にボールを奪われる」って』
『……そ、それって事実なのか?』
『うん、事実♪』
『……わかった、とにかく公二に流しておく……』
『やったぁ』



終始困った顔の匠。
それに大して留美はニコニコ顔。
匠のほうが背が低いので留美が匠を見下ろす格好になっている。

「それでどうだったの?」
「そっちの情報は公二に流しておいた」
「反応は?」
「『まあ参考にしておく……』だってさ」
「う〜ん……まあいいや。それでスタメンは?」
「はっきりいうと、俺が聞くほどでもなかった」
「どういうこと?」
「そっちの監督に聞いたほうが早いって事」



「さっきの情報を流すついでに聞いてみたよ」
「どうだったの?」
「俺の予想通りだった」


『ところで公二』
『なんだ?』
『こんどの試合。フルメンバーでいくのか?』
『当たり前だろ。どうして?』
『い、いや、この時期大会前だろ?だから、偵察とか来るのかなぁ……って、あははは』
『匠、うちの部がそんなのに対処出来るほど選手層は厚くないんだぞ』
『はあ……』
『それに、うちはレギュラー陣での戦術を完成させるのに精一杯、情報戦なんてやってられないよ』
『そうなんだ……』
『まぁ、向こうは少し落としてくるかもしれないが、それでもこっちは全力でやらないと勝てないからな』



「公二は馬鹿真面目なところがあるんだよ。だから変に小細工せず、レギュラーがそのまま出てくると思うよ」
「そうなんだ……」
「でも、こんなことも言ってたぞ」
「ねぇ?それって何なの?」
「うわぁ!顔を近づけなくても教えるから!」


『ところで公二。きらめきに勝てるのか?』
『普通にやったら絶対に勝てない相手だな』
『おいおい。そんな自信のないこと言うなよ』
『「普通にやったら」の話だ。最初から負ける試合なんてするかよ』
『じゃあ、普通じゃない方法があるのか?』
『ああ、ある。きらめき対策というか、俺の想像するきらめきの弱点を突く秘策っていうかなぁ』
『ほう、それってどんなのだ?』
『それは秘密だ。まあ、試合当日のお楽しみだ』


「ねぇ、その秘策って?」
「いろいろ聞こうとしたけど、結局教えてくれなかった」
「ちぇ……でもしょうがないね……」
「まあ、たいした情報じゃないけど……これでいいのか?」
「うん!ありがとう!」

ほっと一息ため息をつく匠。
一方留美は匠の両手を掴んでにっこりとほほえむ。



これらの会話はすべて影で聞いていた京、奈津江、詩織にもバッチリ聞こえていた。

「ふぅ……結局たいした情報じゃないみたいだぞ……つまんねぇなぁ」
「でも、それだけでもいい情報とでも言わなくちゃね……」
「でも、留美ちゃん……自分の宣伝をしてたような……」
「……それは聞かなかったことにする」

信憑性は高いが内容は意外なものではなかったため、どことなく不満な3人だった。

「でも、秘策ってなんだろう?」
「それにきらめきの弱点って言ってたけど……」
「関係ねぇ。アタシたちが普通のサッカーやってりゃ勝てるんだ」
「確かに京のいうとおりかもね」

弱点という言葉に少し心配もしたが、京の一言でそれもなくなった。



ただ、不満なのは匠。
怪しまれないように情報を流したり入手したりと大変だったからなのだろうか。

「ところで……約束の美少女は?」
「……タクちゃん。気がつかないの?」
「えっ?」

ここで突然留美の顔が真剣になる。

「タクちゃんの事をずっと見ていた美少女……気づかない?」
「えっ?」
「タクちゃんの目の前にいるよ……」
「???……なっ、それって……」

匠も気がついたようだ。
しかし留美の視線に逃げることさえできない。



「ごほうび……あげる……」



そういうと留美は両手を匠の両頬に当てる。
そして一言。



「タクちゃんの……恋人になってあげる……」



そういうと留美は瞳を閉じて……


(((ああっ!!!)))

影で覗いていた3人が心の中で驚愕の声を上げていた。



「しかし、留美があんな性格だとは知らなかった……はぁ……」
「しかも、キスっていっても……あわわわ」
「る、留美ちゃん大胆……」

慌ててその場から離れる3人。
そしてその場にはにっこりほほえむ留美と「はめられた……」とつぶやく匠だけとなった。



「おい!ところで、どうやってこのこと流すんだよ!」
「知らないわよ!下手したら望の神経を逆撫でしちゃうわよ」
「で、でも、たいした情報じゃなったからいいんじゃないかなぁ?」

部室前。
留美の情報をメンバーに流そうとしたが、その過程を説明すべきか3人が話し合っていた。

「もういいや。どうせ留美が自分で流すから、アタシは何も言わない!やってらんねぇ!」
「それがいいかもね……」
「ふぅ……これで望ちゃんを追い込んじゃったらどうしよう……」

結局、この件はなかったことにした3人だった。
もちろんスタメン情報はそのあとでルンルン気分の留美が流したのは言うまでもない
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後書き 兼 言い訳
う〜ん、今回はたいした内容でないですね。
まあ、留美ちゃんを書いてみたかったというだけのお話です(こら)。

でも、公二くんはきらめき戦になにか秘策があるようですが、さて?

次回が終わるといよいよ試合かな?