第69話目次第71話

Fieldの紅い伝説

Written by B
ざわざわざわ……


きらめき女子サッカー部の控え室。
とはいっても、こちらは視聴覚ルームを使っている。

さきほど監督からメンバーが発表されたところなのだが、それにより騒然としている。

「か、監督。本当なんですか?」
「ああ、本当だ」
「この時期ですよ……いいんですか?」
「いいんじゃないか?」
「でも、いくらなんでも、スタメンがフルメンバーは……」

今回のスタメンはレギュラー全員だったのだ。
他校の偵察などもいるから何人かはベンチかと思っていたので、全員びっくり。
キャプテンの奈津江が恐る恐る理由を聞いてみた。

「偵察とかいいんですか?」
「どうせわかることなんだし、サービスサービス」
「パットも先発でいいんですか?だって、秘密兵器でしょ?」
「確かにマクグラスは今度の大会が初お目見えだな……」
「やっぱり隠すところは隠さないと……」
「それはちゃんと考えてある……ところで、虹野と秋穂」


「「は、はい?」」


呼ばれた2人は部屋の廊下側の壁に並んで座っている。
突然監督から話を振られて声がうわずっている。



「今の会話聞いていたな?」
「はい」
「意味はわかってるな?」
「はい、やっぱり秘密兵器はそれなりに隠しておかないと私も思いますが……」


「そういうことで、虹野と秋穂は大会までの練習試合に一切出さないから」


「「えっ?」」


「「……え〜と」」


「「……ええっ!」」


2人が言われた意味を理解するのに1分かかった。



もちろん奈津江も驚くのは当たり前。

「ちょ、ちょっとそれはどういう……」
「だから、うちの秘密兵器といえば虹野と秋穂のことだろ?」
「た、たしかにうちの秘密兵器……」
「マクグラスは研究されても対処できるが、この2人は研究されても対処できるだけの実力がまだない」
「たしかにねぇ……」
「そういう人材こと、隠しておくってことだろ?」
「そうね、納得しました……」

奈津江はどうやら納得したようだ。



「か、監督!それじゃあ私たちは経験が積めないじゃないですか!」
「そうですよ!ただでさえ、私と先輩は途中入部なんですから……」

しかし、試合に使わないと言われた2人は納得するわけがない。
この2人が一番必要だと思うのは実戦経験だと思っているからだ。

「それはわかっているが、今のお前達を試合に出すと問題が一つある」
「なんですか?」


「今のお前達は考えすぎてプレーに思い切りがない。
 どのプレーにせよ、綺麗にやろうとか考えすぎてプレーが遅くなってる。
 遅くなくても、プレーがぎこちない」


「うっ……」


「違うかね?」


「………」


2人は反論ができない。
2人で顔を見合わせてがっくり頭をさげる。


「お前達の魅力は思いきりの良さだ。
 多少荒くても、その思いきりでカバーするのがお前達のプレーだ。
 下手に考えなくても、体が反応できる段階には入ってると思うが、
 同時に変に考えすぎる段階でもある。
 一度、初心に戻る意味で、ベンチの外から見てみなさい。
 きっと役に立つと思うからね」


「「わかりました……」」


沙希とみのりは納得するしかなかった。



監督は全体を見渡して改めて指示をだす。

「そういうわけで、今日は本番のつもりで全力で行くぞ。

 うちの戦術の再確認するつもりでやるぞ。

 高い場所からのプレス。
 ボールを持たないときは次を考えた動き。
 人数を掛けずにゴール前まで持っていく。

 いろいろあるが、まあわかっているな。

 あと、相手は格下だというつもりで決してみるなよ。
 この前の試合を忘れたわけじゃないだろうな?
 この前はドロー、しかも2−0から追いつかれたんだぞ!

 気合い入れていくぞ!」


「「「はいっ!」」」


部員達が一斉に立ち上がった。
そして、全員が気合いの入った顔で教室から出て行った。



一方のひびきの側の控え室。

こちらもメンバー発表が終わったところ。

「ふ〜ん、いつものメンバーってことだな?」
「そういうこと。うちは常にベストやっていかないとね」

こちらも先発はレギュラー全員のようだ。
こっちもキャプテンであるほむらが監督の公二に話しかけてる。

「ところで、今日は勝てる秘策はあるのか?」
「ああ、勝てるかどうかはわからないけどね」
「また、あたしがかき回すのか?」
「まさか、あれは子供だまし。もうあんなので混乱するチームじゃないよ」



「じゃあ、どうするんだ?」
「その前に確認したいことがあるんだ」
「確認?」
「前半はそれに費やしたいと思う」
「えっ?」

驚くほむらをよそに、公二は全体に向かって説明する。

「今のきらめきで大きく変わったところがある。
 それはダブルボランチだ。

 前目にいた、望が中盤の底に下がっている。
 そこにアルゼンチンからの留学生が座っている。
 どうも不思議なんだ。
 攻撃力のある望が下がることがどうしてもね。

 そこで、あのダブルボランチを試してみようと思う。

 そこでこれから指示を出す。
 前半はとにかく中央突破だ。
 ボールは真ん中に集めて、わざとあのダブルボランチとぶつかれ。
 パスを頻繁に回してもいいかもしれない。
 そこは各人の得意分野でやってみろ。

 光も同じだ、好きにやってみろ。
 ただし、望へのドリブル突破だけは止めろ。
 理由はわかってるな?

 FWの2人は前半はボールがなかなか来ないと思うが我慢してくれ。

 とにかく前半は耐えることになる。
 後半の逆襲の指示はハーフタイムにだす。

 相手は格上の格上だが気持ちだけは負けるな!」


「「「はいっ!!」」」

こちらも準備完了。
全員が気合いが入った顔で教室から出て行った。



グラウンドに向かう途中。
ほむらが光の隣に並んで歩いている。

「ところで陽ノ下」
「なに?ほむら」
「今日はあの『シャイニングメロン』は打つのか」
「『シャイニングメテオ』!」
「ああ、ごめんごめん。どうも覚えにくくて」
「候補に出したのはほむらだよ……」
「まあまあ。ところで打つのか?」
「練習試合だから、こんなところで出したらもったいないよ」
「確かにな。他校の奴もいるみたいだから、研究されるしな」
「そういうこと。それにまだ当たって砕けろで砕ければいい時期だからね」
「たしかにな、『恐れずに挑戦することが大事』って主人も言ってたしな」
「がんばろうね♪」
「もちろん!きらめきの野郎に一泡ふかせてやるぞぉ!」



そして、両チームがグラウンドに現れ、ウォーミングアップが始まる。
観客の人数も増えてきて、盛り上がりが増してきている。
いよいよ試合が始まる。

Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
う〜ん、今回もたいした内容でないですね。
試合前の緊張感が出せればと思ったのですが、見えないなぁ。

特に、ひびきのの方は緊張感すらなさそう(汗

次回からいよいよ試合です。
展開はこれから考えます(こら)