第70話目次第72話

Fieldの紅い伝説

Written by B
ピピーッ!


試合が始まった。
ひびきののキックオフで始まる。

ほむらがボールを後ろの光にパスすると前に飛び出す。
受け取った光も後ろのボランチの内藤秋菜にパスすると前に飛び出す。

攻撃陣が前に飛び出してパスを待つ。


受け取った秋菜は少しずつドリブルで前に進みながらパスの受け手を探す。

(監督の指示はは中央突破だったよね……)

秋菜は周りを見渡す。

(ありゃりゃ……もう体勢を整えているわ……)

秋菜は焦っていた。
もう相手がすでに自分を中心に扇形のように囲んでいた。

(こういうときは一旦体勢を立て直しってことで……)


ぼんっ!


秋菜は冷静にボールを左サイドに回す。
左サイドには美幸が待ちかまえていた。



(う〜ん、前かな?中央かな?)

美幸はゆっくりと駆け上がりながら状況をみている。

前にはMFの内藤。
中央には光が待っている。
コースとしてはこのどちらか。

(考えてもいられないね……)

早くボールをパスしないと、相手が守備体型を整え、ボールを奪いに来る。
その前にパスをしないといけないと美幸は感じていた。

(監督の指示だ!中央にパスだ!)


ぼんっ!


美幸は中央にロングボールを蹴った。



しかし。


ぼんっ!


(あっ、失敗した!)

パスのボールをヘディングでインターセプトされてしまった。
ボールは味方のDFが拾ったので、被害は最小で済んだ。

(あの金髪おねえちゃん……あなどれない……)

インターセプトしたのは金髪の女の子だった。

(さっきは結構奥にいたのに……いつのまにあそこにいたんだろう……次は気をつけよう……)

美幸は後ろを向いてパスを受けるポジションへと急いで移動した。



ボールはDFから再びボランチの秋菜に廻ってきた。
前を見ると、まだ体型が整っていない。

(今度はすぐにパスだ!)

見ると右サイドの人数が薄い。
すぐに右サイドにパスを回す。


ぼんっ!


しかし。


ぽんっ!


(うそ!さっきまでいなかったのに!)


相手がパスをインターセプトしたのだ。
今度は胸でトラップして、確実に自分のボールにする。

「パット!ナイスカット!」
「マカセテクダサイ!」

後ろの望の声に返事したのはきらめきの新戦力だった。


(確かにすごい……パスカットがすごいのかしら?)


確かに周りを見回したときは彼女は中央にいた。
しかし、パスをしようとしたときには、自分から見て右サイドに陣取って待っていたのだ。
これではパスの通しようもない。


(監督の予想はすごい……でも、前半は中央突破を徹底させないと……)

秋菜はゴール前に戻りながら前半の対策を考えていた。



そのあとのゴール前の攻防はたいした場面でもなく、ボールはまたひびきのに渡る。
ボールをもったDFがロングキックを放つ。

そのボールは中央の光のもとへ。

(ふう、やっとボールがきた。やっぱりあのボランチは危険だね……)

自分の前にいるパットの動きに光は警戒を深めることにした。

しかし、そう思った一瞬が悪かった。

(しまった!囲まれた!)

真後ろから、相手の10番が迫ってくる。
真正面からは金髪のボランチが迫ってくる。

左右には味方の姿はいない。
両サイドが光の横の位置に走るが、相手もマークしていて、パスしても成功する確率は低い。

(ドリブルで行くしかなさそうね……前に行くか横に動くか……)

光がひらめいた選択肢は2つ。

真正面からボランチを突破する。
もしくは、横に動きながら前線へパスを送る。

光の決断はすぐにきまった。

(正面突破!)

光の視線はまっすぐ前に向かった。



一方のパットは相手の10番が自分に向かってくることに気づいた。

(アノ人がノゾミさんのダーリンを狙っているのデスね……)

どうやらパットは光の存在をチームメイトから聞いているらしい。

(私とタイマン勝負らしいですね……コテンパンにしてあげます!)

これまたチームメイトから聞いた言葉を使ってボールを奪おうとするパット。
足は真正面をむく。



パットがまっすぐ光に向かって足を進める。
横への動きに注意しながら距離を詰めていく。

(パスにもチュウイしないと……)



光もボールを丁寧に蹴っていく。
隙あらば横へ動いて抜こうとするが、相手も警戒しているらしく隙がない。



(近づく!ぎりぎりまで近づいて……)

光はぎりぎりまで近づいて、一気に横を抜き去る狙いだ。



そして2人の距離が1メートルほどになったとき。

(!!!)

パットがいきなり足元めがけてスライディングを仕掛けてきた。

スピードが乗っていて、勢いがある。



しかし、光は慌てなかった。

光はボールを一旦ストップさせる。
そして、ボールをふわりと浮かせて蹴る。
そして光も前に向かってジャンプする。


(シマッタ!)

パットが気がついた時には、光とボールは自分の真上を飛んでいた。



(やった!)

相手のボランチを突破した光は地面に着地した。
しかし、抜けたときことに気を取られてボールが光とはすこし離れた場所に落ちている。

それを狙う一つの影。


「油断大敵だぜ!」


ぼんっ!


「あっ!」


光が気がついたときには、ボールは味方のゴール前へと上がっていた。
しかし、勢いがつきすぎたのか、ボールは相手のいる場所には飛ばなかったのが幸いだった。



「光、パットだけで満足してるようじゃまだまだだな」
「ううっ……」

ボールを奪ったのは望。
一番奪われたくなかった相手に奪われて光は悔しそうな顔をする。

「あと、パットを甘く見るなよ……あたしとパットでボールを全部奪ってやるからな……」
「………」
「中央突破はやるだけ無駄だぜ……」
「………」

望はそういうと自分の位置へと戻っていった。

(く、悔しい……悔しい……絶対に抜いてやるから……)

何も文句さえ言えなかった光は唇をかみしめていた。



ひびきの側のベンチ。

公二は腰掛けてじっくりとグラウンドの状況を見極めていた。

「思った通りだ……
 彼女はパスカット、いやそのためのポジショニングが天才だな……
 でも、1対1だと荒っぽいところがあるからそこがねらい目だな」



公二はぼそっとつぶやいた。
そして、自分がつけたノートをちらっとみる。

そこには相手のフォーメーションが書かれていた。

「望を後ろに下げたは大正解だな……

 横に並んでいるようだけど、ボランチは前後に並んでいる。
 前のマクグラスがパスコースを消す。
 そして後ろの望がドリブルで上がってくる相手を潰していく。
 非常にバランスがとれてるな……

 それに俺が知ってる限り、望はまだシュートが打てない。
 もしそれを考えてのことなら……
 望にプレッシャーがなにもない……

 望に今まで以上に活躍されたらたまらんな……」



前半15分。
スコアは0−0。
ボールはほとんどひびきのサイドで動いている。
きらめき側にはロングフィードのボールがゴール前に2回ほど上がった程度。
ひびきのの両FWどころか光もろくに仕事ができていない。

「ダブルボランチの事はもうわかった。
 これ以上やっても無駄だ。
 中央にどんどんボールが吸い込まれる感じだ。
 次はとにかくゴール前に上げることをさせよう。

 なんか、相手の最終ラインが嫌な予感がするんだよなぁ……

 う〜ん……中央を見せながら、サイドからのアーリークロスを中心にいくか……」

公二の判断は速かった。
すぐにサイドラインまで近づくと、新しい指示を全体に与えた。

全員に指示が渡ったことを確認すると公二はまたベンチに戻って腰掛ける。



「ふぅ……やっぱり、きらめきはすごいな……勝てるかなぁ」

公二のぼそっとつぶやいた本音は歓声で誰にも聞こえなかった。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
いよいよ試合が始まりましたが、まだ大きな場面はないですね。
さぐり合いの状況でもきらめきが押し気味ですね。

次回も前半の続き。
ひびきの攻撃陣どきらめき守備陣のぶつかりでも書こうかな?