第71話目次第73話

Fieldの紅い伝説

Written by B
「サイドからのクロスをあげろ。相手のDFを動かせ……」

公二はこう指示を与えるとベンチに戻ってきた。
そして、腕組みをして、じっとグラウンドの状況を見つめる。



「監督、いいですか?」
「えっ?」

突然、公二は左から声を掛けられた。
左を向くと、ベンチ入りしている1年生の控えの女の子がいた。
おそるおそると言った表情で公二を見上げている。

「すいません。いまの指示はどういう意図ですか?」
「えっ?」
「いや、ベンチにいるみんな、どうしてそういう指示を出したのか気になってまして……」
「聞きに来たと……」
「はい」

公二は顔をグラウンドに相手のゴールの方をみる。

「きらめきはFWとMFがタレント揃いで知られてるんだけど、DFの話を全然聞かないんだ。
 でも、練習試合では何試合か連続で無失点で抑えてるって聞いてる。
 それで、今日の試合。
 俺も初めて見たんだけど、あのDF陣……怖そうだろ?」

「ええ……ヤンキーというか、レディースというか、なんというか……」

「だろ?3人が3人金髪でピアスじゃらじゃら。
 特にセンターのやつは雰囲気から尋常じゃない。」

「怖そうですね。なんかラフプレーと反則が得意そうで……」

「でも、ラフプレーばかりのDFなんて使えないはず。
 でもあの3人で無失点……だから気になるんだよ」

「たしかに……」

「試すのならフィジカルコンタクトするしかない。単純だろ?」

「大丈夫ですか?」

「わからない……でも、そこを避けたら絶対に勝てないからな……」

そういう公二の顔はとても心配そうだ。



そして、その恐れていたことがすぐに訪れる。


右サイドからセンタリングのボールが上がる。
ペナルティエリアの右深く。
そこにはほむらが待っていた。

(ようやくやってきたぜ!)

ゴール前でずっと我慢していたほむらはここぞとばかりにジャンプする。
それと同時にほむらをマークしていた左サイドのDFも一緒にジャンプする。

(やべぇ、ぴったりくっついてジャンプしやがった!)

ほむらにジャンプ力があってもくっつかれるとその勢いは半減する。
背が低いため、ボールは相手がヘディングでクリアする。



問題はここからだった。



(うわぁ!)

突然ほむらが空中でバランスを崩す。
ほむらは仰向けの状態で地面に落ちる。
ほむらはうまく受け身をとり、頭をぶつけずにすんだのだが、ほむらの上から相手DFが重なるように落ちてきた。


ぐぼっ!


「ぐぉぉ!」

ほむらが苦しそうな声を上げた。
相手DFはすぐに立ち上がり、ボールを追いかける。
ほむらは腹を押さえて痛がっていたが、すぐに立ち上がった。

(あの野郎!空中で突き飛ばしやがった!それに膝蹴りしやがって!うう、痛ぇ……)

相手DFが重なったときに、どさくさ紛れにほむらに膝蹴りをかましたのだ、それも力強く。
審判の見えないところでくらわされたほむらは審判に言うこともできず走り始める。



続いてはゴール中央。

DFが中盤を飛ばしていきなり前線へボールを蹴りこんだ。
DFは公二の指示に従い、FWにボールを渡そうとしてのプレーだ。

中央には花桜梨が走り込んでいた。
花桜梨は上を見ながら走っていく。

(強すぎる!追いつけるかどうか微妙ね……)

そんな花桜梨の視線の先に高速で襲いかかる黒い影。

(早い!それに高い!)

黒い影は花桜梨より高くヘディングでボールを跳ね返す。



問題はやはりここからだった。


黒い影は花桜梨に向かって落ちてきた。
花桜梨は避けきれずにぶつかり、倒れてしまう。


どすっ!


「ぐわぁ!」

花桜梨は頭の前後とお腹と足の甲に強い衝撃を同時に受けた。

黒い影はすぐに横に転がるとすぐに立ち上がる。
しかし、花桜梨はまだ動けない。

(汚い……肘鉄に膝蹴りしながら甲を踏みつけるなんて……)

黒い影は花桜梨の顔に肘鉄を食らわせた状態で地面にたたきつけたのだ、
そのときに左足で花桜梨の腹に膝蹴り、さらに右足で花桜梨の甲を踏みつけたのだ。

これらすべては黒い影の真下で行われており、外側からではただぶつかって倒れ込んだようにしか見えない。

黒い影は起きあがろうとした花桜梨の真正面に顔を見せる。

黒い影はきらめきのセンターバックだった。

そのセンターバックは花桜梨の顔を見てにっこりと笑った。

「花桜梨ちゃ〜ん!お久しぶりぃ〜♪」
「あ、あなたは……」

花桜梨の顔は一瞬に青くなった。



そうしているうちに今度は左サイド。

左サイドの奥深く。
またもやDFからのロングボールを光が待ちかまえている。
中央からDFが光に向かってくる。

(う〜ん、たぶん、追いつかれて競り合い……持っていたらまずいな……)

光は横から来る相手DFの場所を把握しながら目の前のボールを待つ。

そしてボールは光の足元に来る。

(よしっ、このまますぐにセンタリング……えっ?)

光は一瞬油断していた。
相手DFがスライディングタックルを仕掛けてきた。

(しまった!)

気づいたときにはもう遅い。
光はボールをタックルで奪われてしまった。



それだけではない。

(うわぁ!)

光は突然後ろに引っ張られるように倒れる。
突然のことに何がなんだかわからず、光は受け身もできずに倒れてしまう。


どすん!


(ああっ!)

光は思いきり頭をぶつけてしまった。
相手DFはすぐに起きあがってボールを中央に蹴り出す。
そしてすぐに自分のポジションに戻ってしまう。

光はそのあと、ようやく頭をさすりながら起きあがる。

(頭が……くらくらする……)

光はふらふらしながらも自分も中央のポジションに戻っていく。



ひびきののベンチでは公二に控えの選手がなにやら叫んでいた。

「コーチ!あれは反則じゃないですか!」
「う〜ん、あまり褒められたものじゃないな……」
「じゃあなんで!」
「プレー自体はボールを狙っている。それにプレーがそこから自然に流れているから審判も気づかない」
「ううっ……」

感情的になっている控え選手。
しかし、公二は腕組みしたまま、冷静にグラウンドを見つめている。

「しかし、あのDFがやってるのは確かにカニ挟みだ。しかも狙ってやってる」
「狙って?」
「ああ、最初から光を危険な状態で倒れさせようとしている」
「ひどい……じゃあ、審判も相手に味方してるんですか……」
「違う、審判はたぶん気づいてない。相手の審判の目を逃れてのプレーが秀逸なだけだ」
「『マリーシア』って言葉があるけど、これだけやると怖いな……」

公二の冷静さに選手達も冷静さを取り戻していく。

「これが、きらめきDFの怖さですか?」
「これだけじゃないだろうな」
「えっ?」
「一番怖いのは間違いなくあのセンターバックだ……あれはまだ何かある……しかし、おかしいな」
「えっ?」
「いま、センターバックが八重さんについているが、様子がおかしい……」
「確かに……」



事件はペナルティエリア、真正面で既に起こっていた。

「花桜梨ちゃ〜ん!お久しぶりぃ〜♪」
「あ、あなたは……」
「いやぁ、ここで遇えるとはうれしいねぇ〜♪」
「やっぱり……」

花桜梨がそのセンターバックの前に固まっていた。

そしてこれが戦況に大きく響くことになる。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳

きらめきDF陣のうまさとひどさが伝わってるかなぁ?
マリーシアとは「狡猾なプレー」って意味らしいですね。
詳しいことはネットで検索してください(こら

次回も前半の続き。
花桜梨に何かが起こる!
何かはこれから考えます(こら)