第73話目次第75話

Fieldの紅い伝説

Written by B
公二は花桜梨を前半で引っ込めた。
花桜梨の代わりに2年の控えFWを投入した。

ベンチに戻ってきた花桜梨は顔面蒼白に近い状態だった。

そんな花桜梨を公二は厳しい表情で出迎える。

「コーチ……」
「大事を取って……ということにするからな」
「………」
「明日、相談に乗るから……今日は黙ってろ」
「はい……」

花桜梨は公二の横を通り過ぎ、ふらふらとベンチに座る。
1年生が心配そうにタオルやスポーツドリンクを花桜梨に差し出す。
花桜梨はスポーツドリンクを飲みながら呆然と相手ゴール前を見つめているだけだった。



公二はじっとグラウンドの戦況を見つめていた。

「おかしい……」

公二は腕組みをしながらぼそっとつぶやいた。

「こんなに簡単にボールがうちに来ていいのか?実力差からいってこんなに持つのはおかしい」

公二は中盤での攻防を眺めながらそう感じていた。

「ドリブルで勝負してこない……パスばっかり……」

確かに、きらめきの中盤はパスばかりで攻撃してくる。
きらめきはドリブルが苦手だというわけではない。
逆に両サイドMFとFWはドリブルが得意な選手だ。

しかし、そんな攻撃陣がパス回しに終始している。
前線からの果敢な飛び出しもなく、こちらのDF陣は少し余裕で守備ができている。

それを使わないと言うことはどう考えても監督の指示としか思えない。

「どういう意味だ……まさか練習のつもりじゃないだろうな……」

しかし、意図がわからない。
公二はもやもやした状態で試合を見つめていた。



そんな状況で、きらめき側が動き出した。
監督がテクニカルエリアに初めて出てきた。

(えっ?前半が終わろうってときにどんな指示をだすんだ?)

公二が驚きながらも、向こうの監督の指示に耳を傾ける。
その監督の指示に公二は耳を疑う。



「そろそろ1点決めてやれ!」



(なんだって!そんな指示があるかよ!冗談にもほどがあるぞ!)

あまりの指示に公二は驚く以外なかった。



さらに公二が驚くことがグラウンドに起こった。

(ちょっと待てよ!あんな指示できらめきの動きが急に変わったぞ!)

目立った動きではないが、公二は直感できらめきの動きが変わっているのを察知した。
あわてて、公二も前にでて指示をだす。

「残り5分だ!油断するな!守備に集中だ、集中!」

それを聞いて、全体が引き気味のポジショニングを取った。



そんなグラウンドの状況でボールはきらめきのゴール前。
持っているのはセンターバックの田村。

「さぁ〜て、先公がああいってるから、ちょ〜っとだけ本気だそうかねぇ〜」

ボールを右足で軽く前に転がす。
すこしステップを踏んで、足を振り上げる。

「ほらよ!これで点取れよ!」


バシューン!


ボールは鋭い低空飛行でグラウンド中央にボールを運ぶ。



ボールを受けたのはパット。
胸でトラップすると、すぐに体を前に向けドリブルを開始した。

「猪突猛進デス!」

ドリブルはゴール向かって一直線。
しかもちょうど、守備陣も中央ががら空き。
ボランチのラインとと光のちょうど中間に位置していた。

慌ててボランチの一人がパットの道を遮る。
光も後ろから追いかけているが、後ろからなので追いついても止めることは難しい状態。



そしてパットとボランチの内藤が1メートルの間隔で対峙する。
お互いの動きをうかがおうとじっと動かずに見つめ合う。

(ここは絶対に通さない!)

(う〜ん、ムリですねぇ……パスを出す場所は……)

何が何でもという内藤に対して、パットは冷静だった。
周りの様子をじっとうかがう。
顔はあまり動かさない。動かすと意図が読まれてしまい、さらにボールを奪いに来てしまう。



そんなときに背後から気配を感じた。

(左デスね!)

パットは直感で右足をボールの右に出す。
そしてそのままボールを左に蹴り出す。


ボンッ!


「しまった!」

内藤がそういった時にはすでに遅し。
内藤の右をオーバーラップした望がドリブルで通り過ぎていた。



ハーフラインを越えて、望がドリブルで駆け上がる。
しかし、ペナルティエリアまではまだ遠い。
しかも中央からは少し左側。
前後からは相手が迫って来ている。

(そろそろ見切りをつけてと……)

望は前、左、右と見渡し、パスの出所を判断する。

(へへっ、がら空きじゃないか)

望はドリブルして転がるボールはそのままに右足を振り上げる。


「いくぜ!」


ボンッ!


ボールは大きく右サイドへ。


「ナイスサイトチェンジ!あとはまかせて!」


そこには神戸が待っていた。
ひびきの側はDFの美幸ただ一人、しかも神戸の前ではなく少し横側。
いわばノーマーク状態。
きらめきに絶好のチャンスがやってきた。



神戸がサイドを猛ダッシュで駆け上がる。
美幸も横についてボールを奪おうと必死に追いかける。

(うわ〜ん、早くて追いつけないよ〜)

(ふん。元陸上部を甘く見るんじゃないわよ!)

しかし、スピードに乗った状態でボールを受けた神戸の方がスピードが速い。
2人の距離が一向に縮まらないまま、ゴールサイドから5メートル時点まで到着する。

(ここまでくればあとは2人がやってくれる!)

神戸は体を90度回転させ、ゴールのサイドをみる格好になる。
そして、FWの位置を確認すると、すぐさま右足を前に蹴り上げ、ボールを蹴り上げる。


ボンッ!


ボールはこれまた低空飛行でゴール前に一直線。



ゴール前にはきらめきのFWが2人、ひびきのはDFが2人とGKの計3人。

ドリブルと鋭いパスの速攻で、ひびきのはまだ選手が戻り切れていない。


(ナイスパス、これなら決まる!)

そんななかで低空飛行のボールがきらめきのFWの京の目の前に飛んできた。

京は左足を横から振り上げて、ボレーシュートを狙う。
狙いはゴールの右端。

それを止めようとDFが飛び込み、GKの茜も横っ飛びする。


ボンッ!

バシッ!


「うわぁ」

京が小さく悲鳴を上げた。
ボールは飛び込んできたDFのつま先に当たり、ゴール前に戻される。



「「しまった!」」

今度、悲鳴を上げたのはひびきの側。

ボールはきらめきのFWの詩織の足元に。
茜は横っ飛びして倒れたまま。
ゴールをとめたDFも座ったまま。
もう一人のセンターバックは詩織のマークをしていたのだが、シュートに気を取られてマークを外してしまった。


ゴールの左は完全ながら空き。
それでも、ボランチや他のDFが急いで迫ってきている。


しかし、詩織は慌てず冷静にボールを右足でとめ、蹴り足を左足に変え、確実にボールをゴールの左隅に蹴りこんだ。



ピピーーーーーッ!



個人技と組織的な攻撃がかみ合った速攻があっさりと決まった。

きらめきが前半終了間際に先制点を上げた。



「いつでも点を入れられる……そういうことか……」

喜び合うきらめきの選手達をじっと見ながら公二は苦虫を噛みしめたような顔をしていた。

「前半は実戦でのパスの練習……ってことかい……ちっ……」

公二は思わず舌打ちをしてしまう。

「ちくしょう……」

公二がいらだっているまま、前半はそのまま0−1で終了した。



嬉しそうに引き上がるきらめきの選手に対して、すこしうなだれ気味のひびきのの選手。
思うような攻撃ができないばかりか、あっさりと点を決められてしまえば当然なのだろう。

ハーフタイムのため、それぞれ控え室に引き上げる。

その途中で、公二はきらめきの監督と顔を合わせる。

きらめきの監督は笑顔でこう公二に言った。




「いやぁ、後半が楽しみですねぇ」




その言葉に公二は顔が引きつりながらも笑顔でこう返した。




「ええ、そちらが前半余裕ぶっこいていったのを猛烈に後悔させてみせますよ」




そう言うと、監督の顔を見ずに足早に控え室に戻ってしまった。



その公二の様子を後ろからほむらと光がじっとみていた。
2人とも思うような仕事ができず、表情も暗い。
それでも公二の様子は少し気になる様子。

「陽ノ下、主人、えらく荒れてないか?」
「そうだよね。やっぱり私たちがふがいないから……」
「いや、主人はあたしたちへの不満を相手にぶつけるような奴じゃねぇ」
「じゃあ、なんで?」
「わからん、まあ、早く控え室で休むことにするか」
「そうだね、休憩は大事だからね」

2人は公二の後を追いかけるように控え室に入っていった。

これからハーフタイムが始まる。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳

前半がようやく終わりました。
4話使った割にはあまりプレー自体は書いてないですねぇ(汗

しかし、得点シーンは難しいです。
シュートしてゴールしただけではまったくだめ。
味方がどういうコースでボールを送って、相手がどのポジションにいるかなんかを想像しないとだめですから。

次回はハーフタイム。
1話で終わらせる予定です。