第74話目次第76話

Fieldの紅い伝説

Written by B
ハーフタイム。
それは選手達が体を休ませる貴重な時間であると同時に、後半の戦術についても話し合う貴重な時間。
前半を踏まえて、後半どう修正するかがポイントとなる。

きらめき高校はそこは十分理解している。
椅子に座ったり、床に直接座って足をのばすなど、選手は自分達の休憩スタイルで体を休ませている。
そしてそれぞれがスポーツドリンクを飲んで水分補給している。

「おい。てめぇ、試合中になにやった?」
「はァ〜?単なる友達との再会だよォ〜」
「どこがだよ。脅してるようにしかみえなかったぞ!」
「まぁまぁ、そんなの気にしなぁ〜い♪」
「………」

そんな部屋の片隅で京とDFの田村が言い合っている。
話題は田村が会話していた相手FWとの関係。
しかも直後にボールを頭部にぶつけて、その直後に彼女を追いかけて左サイドまで行ってるのだから尋常じゃない。
京からすれば怪しさ200%なのだが、この女を問いつめてもまともな答えが返った試しがない。



田村はそんな京を無視して隣でドリンクを飲んでいる奈津江に話しかける。

「しっかし、つまんねぇ試合だねぇ〜」
「えっ?どうして?」
「あんな相手、前半でボッコボコのギッチョンギッチョンにすりゃいいのに『前半は抑えろ』ってさ」
「う〜ん、戦術のテストって意味もあるとは思うけど」
「叩ける時にグチョグチョに潰したほうがいいのにねぇ〜。ああつまんねぇ〜」
(言い方はなんだけど、確かにそうなんだよね……)

「点を取れる時に点を取る」というのは定石だ。
それを無視して、前半はテストに終始した。
今までの経験からして最低でも2点は取れたと思っている。
奈津江にとっては少し不満な展開だった。

(後半が不安だな……気を引き締めないとね……)

気を引き締めてるうちに監督がミーティングを始めようとしたので話はそこで終わった。



きらめきの監督は至って普通の表情だ。
さっきまでリラックスしていた選手の顔がキリッと引き締まる。

「さて、後半から本気出すぞ。
 ひびきのにうちのサッカーを見せつけてやれ。

 足を使って、相手をかき回す。
 パス回しは正確に。
 相手の動きをみて2人以上でプレスをかける。
 基本的なことをすれば、簡単に勝てるはずだ。

 しかし、最後まで油断するなよ!」


「「「はいっ!」」」


力強い声が控え室内に響き渡る。
すでに、全員が試合モードに戻っている。
こうした切り替えの速さは名門校だからできることだろう。



一方のひびきの側。

こちらも選手達はスポーツドリンクを飲んでいる。
公二が試合中の水分補給の大事さを常に言ってきたせいもあり、去年まであった、ハーフタイムで懸命に水を飲んでいるということはもうない。
そして全員が椅子に座っていない。床に直接座ったり、バッグを椅子代わりにしたりしている。
「学校の椅子は腰が楽になるようにできてないから、休憩中に座ると腰が休まらない」という理由で公二が指示していた。

その公二は教壇にある椅子に座っているのだが、すこぶる機嫌が悪い。

「おい、主人。どうした?」
「何でもない……何でもないんだ……」
「………」

ほむらが聞いてみるが返事はつれない。
仕方ないので、ほむらはその場に座って、スポーツドリンクを飲み直す。

「主人。ミーティングしねぇか?これからの指示が多そうだからな」
「……わかった」

ほむらに言われてようやく公二は重い腰を立ち上げる。



控え室は一瞬にして鎮まる。
スポーツドリンクなどは飲んではいるが、視線は公二に集中している。

公二は険しい表情で話し始める。


「おまえら……馬鹿にされてるぞ」


この一言で控え室は緊張感がピンと張りつめる。
そして公二は一気にまくし立てる。

「前半で0対1。
 この前は0対2だから単純に比較すれば差は縮まっている。

 しかし俺はそう思わない。差は縮まっていないと思っている。
 じゃあなんでこのスコアなのか。

 相手が前半全然やる気がなかったからだ!

 確かに守備は真面目にやっていたが、攻撃陣のあれはなんだ!
 前線でプレスをかけてこない!
 ドリブルで勝負しない!
 スルーパスを狙う気配もない!
 ただ、ロングボールをペナルティエリアにポンポンと入れるだけ!

 それなのに監督の『点を入れろ』という指示でようやく動き出す。
 そして簡単に点を入れる。

 これは完全に俺達を馬鹿にしているとしか思えない!」


バンッ!


公二が机をたたきつけた。
その音に全員がびくっと体を硬直させる。
光は公二の横に座っているがすこしおびえるように公二を見上げている。
ほむらもさすがに口を挟めずにいる。



「俺はすごく悔しい!
 いくら実力差があるとは言っても、あれは馬鹿にしてるだけだ!
 それだったら、前半でボコボコにされた方が納得できる!

 お前達もこれで悔しくなかったら嘘だ!
 こっちは何もさせてもらえず。
 それで向こうはやる気なし。
 監督に言われてから、簡単に1点取られる。
 向こうの意図はともかく、こんなふがいない試合でなんとも思わないような奴は帰れ!」

全員が首をすこしうなだれてしまう。
その様子からみても、全員が前半がひどい内容であることは共通認識だった。



「そうか、みんな悔しいか。それでいい。

 後半はやるぞ。
 こっちの実力を見せつけるぞ。
 窮鼠猫を噛むってやつだ。

 相手が前半にやったことの重さを思い知らせれやるぞ!

 そうだよな!
 絶対にやってやるよな!」


「「「はいっ!!」」」


選手達の力強い声が控え室に響き渡る。
いつの間にか全員の顔が真剣な表情に変わっている。



「よし、これから後半の指示を出す。

 きらめきの弱点を徹底的につくぞ。
 八重は頭のこともあって前半で下げたから、いつものスタイルとは違うけどな。

 会長と光は守備の時でもハーフラインから戻るな。
 ボールを奪ってからの速攻に備えろ。

 守備陣はボールを奪ったらすぐにロングボールで前の2人に送れ。
 両サイドはすぐに駆け上がって2人のサポートを忘れるな。

 攻撃の時は必要以上に相手に近づくな。
 すぐにロングパスでボールから離れろ。

 あとはシュートを積極的に打て。
 多少無茶だと思っても打っていい。ミドルシュートで十分だ。
 大切なのは思いきり強く打つこと。それだけで十分だ。

 あとは恐れずにゴール前に飛び込め。
 ボールが来ると思って積極的に飛び込め。

 全体の指示は以上だ」


全員がうんうんと首を縦に振っている。
指示が理解できているようだ。

公二の指示はわかりやすいので、選手にもすぐに頭に入る。
まあ、複雑な指示はまだできないと公二が思っていることもあるが。



公二は一息つくと隣の光を見下ろす。

「ふぅ……さて、光」
「はい?」
「俺の前に立て」
「は、はい……」

光は教壇を挟んで公二の前に立つ。

「光、これから俺は光個人に対して指示を出す」
「はい」
「勝つために重要な指示だ。しっかりと守れよ」
「はい」

公二は光の目をじっと見つめながら指示を出した。


「光、ドリブルで勝負はするな。
 キラーパスで勝負しろ。

 大丈夫だ、光のパスは誰にも負けない。俺が保証する。

 光が感覚で見てたところにパスしろ。
 周りを信じろ。光の狙いのところに誰かが飛び込んでくれる。
 自分を信じろ。光に勝てる奴はだれもいないんだから」


「わかりました……パスをすべて決めてみせます」


「わかった……たのむな」


「はい……」


真剣な表情でじっと見つめ合う2人。
周りは物音も立てず、2人をじっと見ている。



2人は見つめ合ったまま。
そして公二はさらに真剣な表情で光を見つめる。


「光、これから言う指示だが……光がどうなろうと、俺が全責任を取る……」





「………」





「光、ここぞと思ったら……打て」





「えっ……」





「この試合であのシュートを解禁していい……いや、しろ。見せつけろ」





「……わかりました……」



ざわざわざわ……



教室がざわめき出す。


公二が必殺シュートを打つように指示をだした。
シュートの危険性を一番知っている公二がである。

全員が驚いたが、公二と光の真剣な表情で口を挟むこともできない。



公二が時計を見る。


「時間だな……行くぞ……気合い入れるぞ!」

「「「はいっ!」」」

再び力強い声が響き渡る。
そして気合いが入った表情のまま控え室を飛び出す。


そして後半が始まる。
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後書き 兼 言い訳
ハーフタイムです。
いたって静かなきらめき側に対して、ひびきのは緊迫した雰囲気。
そこで出した公二の指示。

さて、どうなるんでしょうか?(作者が言うな)
次回から後半です。