第75話目次第77話

Fieldの紅い伝説

Written by B
後半はきらめきのキックオフではじまる。

センターサークルにはきらめきの誇る両FWが主審の笛をいまかいまかと待っている。

後半が始まるこの瞬間。

両チームとも目の色が前半とはまるで違う。

きらめき側は本気モード突入とばかりに目が鋭くなっている。
一方のひびきの側も気持ちだけは絶対に負けないとばかりに視線が鋭い。
特に前半はひどい目にあったほむらと光は気合いがみなぎってきそうぐらい。
少ししゃがみ、すぐにダッシュをしてきそうな格好。



そんな雰囲気は当然ながらセンターサークルの2人は感じ取っていた。


「おい詩織、前の奴の目の色が違うぞ。こりゃ、油断したらひどい目に遭いそうだな」
「そうね、京。でも向こうがヒートアップしてきても、冷静に対処すれば普通よりも簡単になるわよ」
「なるほどな」


中央の2人はいたって冷静だった。




ピピーッ!


主審の笛が鳴る。

京が軽く触ったボールを詩織が止め、後ろの奈津江にパスすると同時に2人は前線へと走り出す。
受け取った奈津江も、後ろの望にパスして前へと走り出す。
望はその場でボールをキープしながら、味方が前へ走り、体勢を整えるのを待つ。

一方のひびきの側。

両FWと光の3人は一目散に前線へとポジションを取る。
ボランチの3人は前へ走り出したFWの動きに注意しながら、ボールを持っている望の動きをマークする。
DFも両FWをマークしながら、前への飛び出しを注意するためにラインを固める。

両チームともごく普通の入り方だった。



そしてボールを持っているのは望。
自陣のちょうど中央に構えている。
攻撃陣はすでに決められた位置に陣取っている。

「さて、まずは軽くジャブ代わりと……右か……」

望は軽く前を見渡すと、相手陣の右サイドへとパスをしようとする。
足を振り上げ、ボールを蹴った瞬間。


「左だよ!」


後ろから聞き慣れた声が。


(しまった!読まれた!)


望が光の声に気がついた時にはもう遅い。
ボールは既に望からみて右へ。
そして、ひびきの側からすれば左サイドのボランチが光の声に反応して、パスコースを完全にシャットアウト。




「ちっ……」


望は後ろを振り向き、10m前にいる光をきりっとにらみつける。
にらまれた光も負けていない。


「べ〜だ!」


下をつきだし、右目を広げて明らかにあっかんべーをすると、すぐにペナルティエリアめがけて走り出す。


「あの野郎……絶対に好きにさせないぞ……」


望は光を追いかけるべく、走り出した。



ひびきのベンチ。

「光の馬鹿……下手すると非紳士的行為でイエローもんだぞ……まったく」

公二は額に頭を当てていた。
冷や汗がでており、思わず隣にあったスポーツドリンクを一口飲んでしまう。

「しかし、よく望のパスを読んだな。それだけ冴えてるとすれば、これは期待できるかもな……」

光の無礼な行為に頭を抱えたくなるが、気持ちを切り替えてグラウンドに向き直る。

「さて、この後、どうするか……」

公二はグラウンドの状況を見つめながら、頭の中ではこの後の戦術について脳細胞をフル回転させ始めた。



先程ひびきのが奪ったボールはすぐに中央にいる光へとパスを回した。
光はすぐにドリブルで前へとボールを進める。


「来た来た!絶対に決めてやるから……って……あれ?」


気がつけば光はペナルティエリアの3mほど手前で囲まれていた。

前には一人でも存在感十分なあのセンターバック。
そして、後ろから、望、パットの両ボランチが迫ってきている。

後ろ、横へのドリブルは無理。
しかし、このまま前へと進んだら、どんな止め方をされるかわからない。


「ありゃりゃ、囲まれちゃったよ……」


両FWはペナルティエリア内でDFのマークを受けながらボールが来るのを待っている。
以前なら無理してドリブル突破して失敗するが、今の光は違う。
足を動かし、ボールをキープしている。


「慌てない慌てない!集中集中!……!!!」


光は何かをひらめいた。



そこからの動きは本能的だった。

自分の周りの50センチに敵が3人囲んでいた。
身動きは取れない。

それでも光は動いた。



体をゴールに対して横に向ける。ちょうど右向きになる。


ボールを右足の甲に乗せる。


そしてボールを真上へと軽く上げる。
それと同時に光は右へと走り出す。


守る3人もそれにつられて右へと動く。


しかし、ボールは右ではなく真上。
光はボールのぎりぎり下をくぐり抜ける格好になる。


望が気がついてボールを蹴ろうとするが、すでにボールは地面すれすれ。


そのボールを光はボールを見ずに真後ろにヒールキック!


光の動きにつられた3人はボールを追いかけることができない。



ボールはペナルティエリアのぎりぎりのラインを左へと転がっていく。
そこのスペースの周りには誰もいない。


しかしそこに猛ダッシュで走り込む影が。



「いっけぇ!」



バシューン!



ボールはまっすぐにゴールへと一直線。
ボールは少し浮き上がり、ゴールの上側に入るか入らないかの高さ。

GKがジャンプしてボールをはじこうとするが届かない。

そしてボールはさらに浮き上がり、ゴールの上側ギリギリをすり抜けてゴール裏へと飛んでいった。


きらめきのゴールキックへと変わる。



「ひかりん、ごっめ〜ん!美幸、シュート慣れてないから……」
「ううん、ナイスシュートだったよ!」

フリーのボールに飛び込んできたのはDFの美幸だった。
両手を合わせて謝る美幸を光は褒めている。
ゴールキックに備えて一緒に走る2人の横にほむらが追いついた。

「しっかし、よく飛び込んだな」
「う〜ん、何となくボールが転がって来そうな気がして……さっき飛び込めってコーチの指示がなかったら……」
「ほう、で、陽ノ下も寿の飛び込みは見てたのか?」
「ううん、見てない。なんか、フリーのスペースが見えたような気がしたの」
「うわぁ、すっげぇなぁ!あたしも負けてられないぞ!」
「美幸は今度は守備をがんばるぞぉ!」

3人は幸先よい滑り出しに気合いを高まっていく。



いっぽう、光に翻弄された3人はそうはいかない。

「な〜に?あのふざけたパスは!」
「サチ、落ち着け。怒ったら相手の思うつぼだ」
「その通りです。もっとレイセイになりましょう」
「ちっ、胸くそ悪いわ……」

決定的場面を作られ、いきり立っているDFを望とパットが落ち着かせている。
望がこのなかでは一番冷静だった。
すぐに問題点を見つけ出す。

「しかし、3人で囲んだのも失敗の原因だな」
「頭に来た。あんな奴、アタシ1人で潰してやる!」
「タイマンはよくありません」
「サチ、1人はどうかと……しかし、3人はやめよう。相手にスペースを作られる」

「確かにそうだな……」
「パットは前でスペースを潰して。この場はあたしで対処するから」
「ワカリマシタ!」

さっそく、問題点を修正した3人はポジションの再確認を簡単にすると、ゴールキックのボールに合わせて前へと走り出した。



ひびきのベンチ。

腕組みしてグラウンドを見つめていた公二は思わずにやりとした。

「光、よくやった。あれでいい。あれでいいんだ……」

公二はうんうんと軽く頷き、一人で納得している。

「寿さんのシュートは惜しかったな。でもあれでいい。
 シュートで終わらせるのが基本の基本だからな。
 それに、相手もこっちがミドルシュートも打つってことがわかれば、対処に困るんじゃないかな?
 そうなれば、光の本領発揮だな。」



公二は横のきらめきベンチをみる。

思わぬピンチに冷や汗を流している相手の監督と偶然目が合う。

公二はニヤリと監督に向かってほほえんだ。

きらめきの監督はむっとした表情をすると、すぐにグラウンドに向かって、指示を出し始めた。

「ははは、焦ってるな」

それをみて公二はまたニヤリとした。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
後半開始です。

いきなりひびきののチャンスで始まりました。
さすがのきらめきもこれで目を覚ますのではないかと思われます。

次回も後半。
そろそろ点でもいれさせようかな?