第76話目次第78話

Fieldの紅い伝説

Written by B
ひびきのはとにかく光にパスを集めることに集中する。

さっきのプレーで光のプレーが冴えていることを誰もがわかっていた。
ひびきのの選手には「いけるかも」という気持ちが強くなっていた。


そして光の足元にパスが回ってくる。
後ろから足元に転がっているボールに寄り添うように光が追いつく。

「今度こそ好きにさせない!」

前からは望が迫ってきた。

それをみた光はきりっとにらみ返した。
望もそれをみってきっとにらみつける。

2人の視線が絡み合い、火花が散りそうなぐらいににらみつける。



そんな望の後ろから焦りの色が混じった声が。

「馬鹿!ノゾミ、足元だ!」

「えっ?」

後ろのDFの声にふと足元をみると。

「ああっ!!!」



ボンッ!



ボールは光の右足のアウトサイドに当たっており、今にも右に弾かれようとしていた。
慌てて望が左足を伸ばすが届かない。



ボールは右へと飛んでいく。
そこにはボランチの葛西が待っていた。
しかもフリーでボールを受けていた。

「思い切って前に来たら、いいところにボールが来たよ」

フリーなので来たボールを足で止め、周りを見渡す余裕がある。

「私は光みたいにダイレクトはできないけど、これならいけるわよ!」

そして狙いを定めると、足を振り上げる。



バシュン!



綺麗なクロスがゴール前に上がる。

しかし、これは相手DFが頭でクリアする。

「やっぱり空中戦は無理か……」

そういうと葛西は急いで後ろに戻っていく。
花桜梨がいないため、攻撃陣の空中戦力は格段に落ちてしまっている。
そこが悩みの種になっていた。



それでもひびきのの攻勢は続く。

再びボールは光のところへ。
今度は相手ゴールを背にして、さらに少し高めにボールが飛んできた。

(今度こそ!この高さなら胸でトラップしてからだから、追いつく!)

後ろからは望が迫ってきていた。
今度は光に追いつくという計算がある。
接近戦なら絶対に負けない自信がある。



しかし、光のプレーは望の想像を超えていた。

ゴールを背にしたまま、光の右足が蹴り上げたのだ。
しかも光はボールだけを見ており、周りは見ていない。

(なんだって!無茶だ!どこに出すんだ!)

そんな望の疑問を無視して、光は右足を上げたまま体を回転させ、ボレーを打つようにボールを蹴る。



バンッ!



ボールは2人の右を通り過ぎて、ペナルティエリアの中に入っていく。
そこで望は驚愕する。

「うそだ!なんでそこに!」

「えへへ、まってたぜ!」

そこにはほむらが待っていた。
またもやフリーの状態でだ。



「前半のうっぷんを晴らしてやるぜ!」

ほむらは足元にボールを止めると、少し前に転がす。
そして一気に駆け上がる。


「ドラゴンシューーーート!」


低い弾道のシュートがゴール前に襲いかかる。



バシュ!



しかし、ボールはGKが手で弾いて、ゴールラインを越えた。


「ちぇっ、いい感じだったのになぁ。まあ次は決めるぜ!」

ゴールは決められなかったが、いいシュートが打てたので満足の様子だった。

「「………」」

一方のきらめき側は危ないシュートに冷や汗を流していた。
ひびきののコーナーキックへと変わる。



ゴールから左からのコーナーキック。
蹴るのはもちろん光。
左側に見えるゴールを見ながらターゲットを決めようとしている。


「花桜梨さんがいれば楽なんだけど……」


本来は何も考えずに花桜梨を狙っている。
背が高く、バレー出身のジャンプ力は大きな武器だ。
しかし、花桜梨は前半で退いている。

逆に花桜梨以外はそれほど背が高い人がいない。
しかもきらめき側は背が高い選手が多い。
今は守り時と感じたのか、FWの2人も戻って来ている。


「空中戦じゃあ絶対勝てないね……よぉし」


光は考えがまとまると、後ずさりし、蹴る体勢に入る。



光が中央をじっと見つめる。


ひびきのの選手は動き回りフリーの状態を作ろうとする。
きらめきの選手はひびきのの選手をマークし、フリーの状態を作らせないようにする。


腕を広げ、足をだし、体を張る。


あわただしく動いているなかに、緊張感が漂う。


光がゆっくりと前と進む。


足を振り上げる。


中央の選手の動くスピードが一気に上がる。
光の右足がボールを蹴る。




ガシュ!




ボールは中央へと高く上がる。


全員がボールの行方を見定めながらポジション取りが激しくなる。


ボールは勢いよく中央へと向かう。


そしてボールは急に曲がり始める。
ボールはゴールの隅へ向かっている。



「「!!!」」



直接狙っていることがわかると、今度は外れたときのリバウンドを狙うべくポジション取りが激しくなる。
しかし、全員はボールの行方に集中している。


GKがジャンプしてボールを弾こうと懸命に手を伸ばす。
しかし、ボールはGKの手をかすめてゴールの隅へ吸い込まれていく。


ピピーッ!


コーナーキックが直接入り、1−1の同点に追いついた。



ひびきのの選手がコーナーにいる光の元に駆け寄る。

「おおっ!すげえじゃねぇか!」
「えへへ、決まっちゃった!」

「ひかりん、すっご〜い!」
「練習の成果だよ」

「いつの間に練習したの?」
「毎日部活の後に練習してるよ」
「そうなの!知らなかった……」
「私、FKって下手だったから、頑張って自主トレやってきたんだ」

「じゃあ、セットプレイは期待していいな?」
「もちろん!いいボール送るから!」

「よし!じゃああたし達もドリブルで上がっていくぞ!」
「「お〜〜〜っ!」」

チームメイトにもみくちゃにされながら、センターサークルへと戻っていく光。
チームのボルテージも最高潮に上がってきた。



「おいおい。光、いつの間に……」

ベンチの選手が喜び合っているときに、公二は腕を組んだままじっとグラウンドを見つめたまま。
しかし、表情が少しだけゆるんでいた。

「合宿前は下手くそにもほどがあったのに……」

公二も光のFK技術の向上に驚いたようだ。
そこまで上手になっているとは思わなかったようだ。

「合宿の時に『FKには期待してない』って言ったのに刺激されちゃったのかな?あはは、軽率だったな」

自分の昔の一言を思いだし苦笑いした。

「でも、これでセットプレイでもチャンスが広がるな。相手もファウルを出さないようにしなくちゃだからな」

公二のゆるんだ表情が元のしまった表情に戻る。

「これで、きらめきもようやく本気を出してくれるかな?」

公二はちらりときらめきベンチを見る。
監督の顔色が青いように見えた。

「同点になっただけで青くなるようじゃあ、まだまだだなぁ」

ベンチでは公二の方が余裕があるようだ。



ベンチよりも青くなっているのが、きらめきの選手達だ。


「ぐあぁぁぁぁ!ヤキいれてやりてぇ!」
「サチ!落ち着け、グラウンドでやったら終わりだから!」
「奈津江の言うとおりよ。落ち着いて!」
「はぁ、はぁ、はぁ……ちくしょう……」


いいように弄ばれて失点しただけにDF陣は気分が悪い。
特にセンターバックは暴れ出しそうだ。
奈津江と詩織が必死に押さえる。

「でも、このままじゃ勝てないよ!どうする?」
「どうするといっても……あれ?望は?」
「そういえば……あれ?」

奈津江が望を探す。


「………」


望は1人じっとうつむいたまま立っていた。
両手の握り拳を強く握りしめ、全身がふるふると震えていた。


「ねぇ、望ちゃんの様子が……」
「あれは……やばい……」


ただならぬ気配に2人は近づけない。



「奈津江!」
「うわぁ!」

突然、望が奈津江に叫んだ。
思わず驚く奈津江。

「ど、どうしたの?」
「光は……光はあたしが1人で潰す!他は光じゃなく別の人を対処しろと言ってくれ!」
「えっ?!」
「あたしの前で何度もあんな真似を……許さない……」
「わ、わかった……」

望は顔を真っ赤にし、体を震わせていた。
奈津江はその気迫に押されてOKしてしまった。



「もう、奴にあんなことは絶対にさせない!みんなは周りをよく見てマークしろ!」

望はDF陣に大声で指示をだす。



光のプレーに望のなにかのスイッチが入ったようだ。
後半10分。
これから本当の戦いが始まる。
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後書き 兼 言い訳
同点です。
話が盛り上がりますね(なんだそりゃ)

同点のシーンはもうすこしプレーの流れの中で点を入れさせたかったんですけど、今回はこのぐらいで。
一応光の司令塔らしさを出したかったので、こういう展開になりました。

次回は望に焦点が当たるかな?