第4話目次第6話
あれから3ヶ月。
光から初めての電話が公二に来た。しかし光の声はどことなく暗かった。公二はなにか嫌な予感がした。

「公二……」

「光、どうした?」

「あのな……」

「………」




「……できちゃった……3ヶ月だって……」

太陽の恵み、光の恵

第0部 プロローグ その5

Written by B
光の声は真剣だった。その声から光の言葉は嘘ではないことを感じ取る。

「親には言ったのか?」

「まだや、公二が初めてなんや……」

「そうか……」

「………」
「………」


公二と光が結ばれたあの日。
光のお腹の中に新しい生命が宿っていた。

あの時、避妊はしてなかった。二人とももしかしたら、とは思ってた。しかしいざ現実がそうなると衝撃は大きい。






公二はゆっくりと今の心境を素直に光に伝える。


「光、俺の気持ちは、あの時と変わってない……」

「うちもや……」

「ごめん、一晩だけ考えさせてくれないか……」

「えっ?」

「子供となるとこれからの人生が大きく変わってくる……」

「そうやな……」

「だから一晩じっくり考えたい。その上で結論を出したい……」

「………」

「俺はこの決断で後悔したくない。だから……」

「わかった、うちも一晩じっくり考える……」

「ごめん……」

「ええよ、うちも同じ気持ちやから……」


こうして、電話は切られた。そして二人は人生最大の決断を迫られることになる。






「子供か……」

公二は自分の部屋に籠り、ベッドに寝転がりながら一生懸命考えていた。



まさか、本当にな……

俺だってわかってた。あの時避妊しないのがどれだけ危険なことか。光が安全日かどうか把握してるかなんて考えてなかったし。
でも、そんなこと考えられなかった。光とひとつになりたい。それだけを考えていた。もし子供ができたら、それでもかまわない。責任だってとる。そう思ったから、あの時光を抱いた……
しかし、いざ本当にできるなんて……
いったいどうすればいいんだ……






「子供か……」

光も自分の部屋で一生懸命考えていた。



まさか、ホンマに赤ちゃんができるなんて……

確かにわかってた、避妊してへんのがどれだけ危険か。それに危険日が近いってことも。
でも、あの時はそんなのどうでもよかった。公二とひとつになりたい。それだけを考えていた。公二の赤ちゃんなら、できてもかまへん。産んだっていい。そう思ったから、あの時公二に抱かれた……
でも、本当にできるなんて……
どないしよう……






「産ませる」か「堕ろさせる」か……

堕ろせば、それっきりだ。手術1回で終わりだ。でも、そのときは俺たちの関係も終わりだろう……たぶん、光との接触は許されなくなるだろうな……
産ませれば、確かに光との関係は続く。しかし、光は苦労するだろうな。中2だからな……両親にもいっぱい迷惑かけるだろうな……

進むも地獄、引くのも地獄か……






堕ろせば、それで誰にも迷惑はかからない……でも、その時点で公二とはおしまい……
産めば、きっとみんなに迷惑かける……公二もきっと「責任取る」って言うやろな……






どうせ地獄に進むなら、進みがいのある方へ行きたい……






どっちにしてもイバラの道や。それだったら希望のある道へ……






はっ!なに馬鹿なこと考えていたんだ!
俺の光への気持ちはそんなものだったのか?
そんな中途半端な気持ちで光を抱いたのか?






はっ!なにアホなこと考えとったんや!
公二への気持ちはそんないい加減なものやったんか?
そんな軽い気持ちで公二に抱かれたんか?






俺は光が好きなんだ!俺はずっと光の側にいたいんだ!
子供の頃からずっと側にいた、これからもずっと側にいたい!

俺にはもう光しかいないんだ……






うちは公二が好きなんや!ずっと公二の側にいたいんや!
今までずっと側にいた、これからもずっと……

うちにはもう公二しかおらへんのや……






決めた
光、俺覚悟決めたよ……
俺、光と一緒にいたい……
それが叶うなら、俺は天からどんな罰を受けてもかまわない……






決めた
公二、うち決心がついた……
うち、公二と一緒にいたい……
それが叶うなら、地獄に落とされてもかまわない……






そして次の日。
公二から光に電話をかけた。


「光……」

「公二……」

「光、俺の心は決まった」

「うん、聞かせて」


公二が一晩悩んでたどり着いた結論。その決断を光に伝える。


「光……俺の子供、産んでくれないか……」


その声にはなにも迷いはなかった。


「公二……」

「責任はとる。中学卒業したら働く。それでも俺は光と一緒にいたい……」

「おおきに……」

「光……」






「公二、うちの心も決まっとるんよ」

「ああ、聞かせてくれ」


そして光も自分がたどり着いた結論を公二に伝える。


「公二……公二の子供、産ませてください……」


その声にも一切の迷いはなかった。


「光……」

「中学卒業したらうちも働く。世間からどう見られようとも、うちは公二と一緒にいたい……」

「ありがとう……」

「公二……」


ふたりの思いは同じだった。自分と同じ厳しい道を選んでくれた。それだけで二人の心は熱くなっていた。






しかし、自分たちが決断しても自分たちは子供である。そう簡単には自分たちの道へは進めない。二人は今後の事を話し合う。


「じゃあ、これから覚悟決めて、両親に話そうな」

「うん……」

「たぶん、堕ろすように説得されるだろうけどな……」

「………」

「たぶん、どちらかの家で話し合うことになるだろう」

「そうやな……」

「そのときに、二人で説得しよう……」

「わかった、説得しような……」

「俺たちの気持ち、伝えような」

「うん……」


こうして電話は切られた。






そしてその夜、公二は両親に事実を打ち明けた。


「父さん、母さん、話さなければいけないことがあるんだ」

「何だ、急に真剣な顔になって?」

「俺の彼女……妊娠3ヶ月なんだ」






そして光もまた両親に事実を打ち明ける。


「おとん、おかん、大事な話があるんよ」

「光、どうしたん?急に真顔になって?」

「うち……妊娠3ヶ月なんや」






それぞれの両親は一瞬冗談かと思ったが、子供の顔をみて嘘ではないことを悟った。そして何より驚いたのがその相手である。小2の春に別れ、しばらく文通はしていたものの、今は音信不通だと思っていた幼馴染みだったからだ。






あわてた光の両親は翌日光を連れて北海道にやってきた。当然この問題の処理について話し合うためだ。


「主人さん、お久しぶりです……」

「陽ノ下さん、お久しぶりです……」

「まさか、こんな事になるとは……」

「本当です……」


両親たちは久しぶりの再会の喜びと今の事情の驚きが混ざった挨拶だった。
そんな両親たちを尻目に公二と光はお互いを見つめ合っていた。


「光!」
「公二!」


「逢いたかった……」
「逢いたかった……」


そして、何のためらいもなく抱きしめあった。この行動に両親たちはまた驚いた。
二人はすぐに体を離したあと、両親たちに告げた。


「事情は、僕たちが全て話します……」
「引っ越してからのこと……全部話します……」






公二と光は両親の前で全ての事情を話した。

実は文通はずっと続いていたということ。
両親に言った言葉は嘘だったこと。
小5あたりから、お互いの距離に苦しんだこと。
中1の夏に文通は一度終わったこと。
その後、昔からお互いに好きだったこと。
好きなことに気がついてからは、切なかったこと。
中2の春に文通を再開したこと。
中2の夏にひびきのへの旅行は実は二人で逢うためだったこと。
そこで自分の想いを告げて、両想いになったこと。
そのまま帰るつもりだったが、また離れ離れになるのが怖かったこと。
強い絆が欲しくて、その晩愛し合ったこと。
そして、光のお腹の中の子はそのときの子であること。

小2から今まで、自分たちの事情、気持ち、行動を全て話した。二人とも何も隠すことはなかった。さすがに昔の苦しい時代を思い出すのは辛かった。しかし自分がいかに好きなのたかを知って欲しくてあえて話した。

両親は事実に驚きを隠せないものの、二人の真剣な表情で話す姿にじっと耳を傾けていた。






そして、すべてを話し終えた公二はおもむろに床に土下座をした。


「お願いです!……光に、俺の子供を産ませてあげてください!」


公二の思わぬ行動に驚く親たち。


「公二……」

「俺たちはまだ中学2年で、無茶だというのはわかっています……でも、俺は光が好きなんです!俺は……好きな人と俺との子供を堕ろすことなんて……絶対にできません!」

「公二……」


公二は自分の想いをすべてぶちまける。その言葉には迷いなどなにもなかった。


「中学を卒業したら、就職する覚悟もできてます……結婚もします……だから、お願いします!」

「しかし、公二君……」


公二は頭を地面にこすりつけたまま動かない。






「私からもお願いします!」


今度は光が公二の隣に座り込みで土下座をした。


「うち……公二くんの子供、産みたいんや!」

「子供なら後でも……」

「この子でなくては駄目なんや!」

「光……」

「あの晩……お互いに自分の想いの総てをぶつけて愛し合った……お腹のなかの子供は、私と公二が総ての想いをぶつけて作った愛の結晶なんや……私たちにはこれ以上の愛の結晶をつくる自信がない、たぶんこれからも……」

「光君……」


光も自分の決断を打ち明ける。光の言葉にも迷いなどなかった。


「ふたりの愛がつまった子供を堕ろすことなんて……うちには無理や!中学を卒業したら、私も就職して働く……子供も自分で育てる……だから、お願いします!……産ませてください!」

「光さん……」


光も頭を地面にこすりつけたまま動かなかった。






その後、二人は公二の部屋で待つように言われた。たぶん両親4人で話し合うのだろう。公二と光は二人寄り添ってベッドに座っていた。


「公二……うちら大丈夫なんやろか?」

「大丈夫だ……きっと認めてくれる」


そういいながら、公二は光のお腹をさすった。


「ここに、俺たちの子供がいるんだよな……」

「そうや、うちと公二の子供や……」

「大丈夫だからな……きっと生ませされてあげるからな……」

「そうや……もうちょっと待っててや……」


二人はお腹の子供に語りかけていた。その二人の表情はすでに父と母の表情だった。






一方、二人の両親の話し合いは長々と続いていた。色々と話し合った。二人の将来を考えた。親としてどうしたらいいのか必死に考えた。
しかし、それは考えれば考えるほど時間の無駄だった。


「まあ……俺たちがどういってもな……」
「二人の決意は固いみたいですしね……」
「まさか、あそこまで思いつめていたとはな……」
「でも、あんな燃えるような恋をしとったなんて、うらやましいわぁ」


それは、どう考えても結論は同じところにたどり着いていたからだ。


「引越しのとき、辛い思いをさせたからな……」
「その代償ですか……大きな代償ですね……」
「ああ、この年でおじいちゃんか……まあそれもいいかもな」
「しかたないですね……もう二人には敵いませんよ」


もう最終的な結論はでたようだ。
しかし光の父だけは何か表情が暗い。


「………」
「陽ノ下さん、まだ覚悟はできていませんか?」
「覚悟?」
「自分の娘を嫁にだす覚悟ですよ、14で嫁入りですから……」

「………」
「あなた、あの二人の絆にはもう勝てまへん、あきらめなさい」
「わかってるが……直接、決意を聞かへんと……」
「はいはい……答えはわかってるような気がするが……」


みんな、わかっていた。どんなに自分たちが言っても二人の絆にはかなわないことを。あれだけ、初めて見る真剣な表情で、初めて聞く真剣な想いを告げられれば、認めないわけにはいかないことを。






がらがらっ


扉から公二の父が現れた。


「公二、光さん。下へ降りて来なさい」


(いよいよだな……)

(……)

(大丈夫だ、心配するな)

(おおきに……)


二人は再び両親の前にやってきた。光の父が語り出した。


「光、公二君。二人に聞きたいことがある。」

「………」
「………」


光の父の表情は光が今まで見たことがないぐらい真剣な表情だった。


「中学生で出産となると、世間から冷たい目で見られる。生活も苦しいだろう。若いゆえに障害もたくさんあるだろう。それでも、子供と3人でこれからの長い長いイバラの道を歩んでいく覚悟はあるかな?」


光の父の問いに二人は何も迷わなかった。二人には答えはすでに一つしかなかったからだ。話し合わなくても十分だった。お互いに見つめ合い、頷くだけで答えは伝わる。


「覚悟はできています……どんな道でも光を守ってみせます……」

「公二となら……どんな道でも進む覚悟はできてます……」

「もう、光を泣かすようなことはしません……約束します……」


その言葉を聞いた両親たちは、「やっぱり」というような表情をしていた。そして、光の父は喜び半分寂しさ半分の表情で結論を告げた。


「わかった。それだけの覚悟があるなら、我々は二人の進む道に何も文句は言わない」


「それじゃあ……」
「許してくれるんやな……」


「ああ、光の出産を認めよう」


「ありがとうございます!」
「うれしい!」


歓喜の声を挙げる公二と光。そんな二人にそれぞれの母親が祝福の声を掛ける。


「光、丈夫な赤ちゃんを産むんやで!」
「おかん……おおきに」

「公二、援助はするけど、父親として最大限の努力はするんですよ!」
「母さん……俺、頑張るよ!」






そんななか光の母が公二に話しかけた。その表情は少し真剣だ。


「公二君」

「はい?」

「さっそくだけど……光の責任をとってもらうからね!」


一瞬なんのことやらわからなかった公二だがすぐにその言葉の意味がわかった。もちろん公二の頭の中には答えは一つだけしかなかった。


「!……はい!喜んで!」

「責任って?」


さっぱり意味がわかっていない光に公二が語りかける。


「ああ、俺は光と結婚する」
「結婚……」


光は「結婚」という言葉を聞いて一瞬声を失う。


「光、公二が18になるまでは正式は無理やから、それまでは婚約や」

「……う、嬉しい!めっちゃ嬉しいよ!」

「おめでとう、光さん!」

「おおきに!」

「さて、婚約のお祝いでもするかな」

「そうしますか!」


その晩は、公二と光の婚約祝いになった。光の家族が来たときとは、うってかわって明るい雰囲気になった。
喜ぶ公二と光を祝福するなか、ひとり複雑な表情の人がいた。光の父である。そりゃそうだろう、自分の愛娘を突然14で嫁にだすことになったのだから。光の父のこの複雑な思いは、しばらく続くことになる。






そして次の週。
二人の行動は早かった。

光は職員室に出向き、担任に妊娠の報告とした。担任は女性の先生である。

「先生、話があるんやけど」

「なんですか、陽ノ下さん?」

「実はうち、妊娠3ヶ月なんや……」

「う、嘘!本当?」


驚きの声を挙げる担任。しかし、そんな事は気にせず話を続ける光。


「ほんまや、冗談でこんなこと言わん」

「まさか……産むの?」

「もちろんや!この子、頑張って産むんや!」

「ひ、陽ノ下さん、こ、声が大きい!」

「あっ……」


光は、公二の妻として、お腹にいる子供の母としての生活を始める決意をした。






一方公二も担任である野球部の監督に辞表を提出した。


「主人、おまえ本気か?」

「はい、申し訳ありません」

「本当に野球部辞めるのか?」


監督もまた突然の辞表に驚きを隠せない。


「はい、僕には野球以上にやることができたんです」

「そのやること、ってなんだ?」

「すいません、それはどうしても言えません……」

「う〜ん……まあ、主人のことだ、いい加減な事情じゃないだろう……」

「………」

「わかった、主人の気持ちを尊重しよう」

「ありがとうございます……」


公二は、野球部をやめて、光の夫として、光のお腹にいる子供の父としての生活を始める決意をした。






幼馴染みから婚約者にまでなった公二と光。
しかし、二人にはまだまだ試練は続くことだろう。
そして、その試練はさっそくやって来る。
To be continued
後書き 兼 言い訳
光ちゃん、妊娠しちゃいました。
そして公二と光は婚約者に……

第0部を作ったもう一つの訳。
それは、「公二と光はどうして子供を産む決意をしたのだろう?」
前に公開していたのは、そこが何も書いてありませんでした。

ここのメインは公二と光が産む(産ませる)決意を決める過程です。
先ほどの疑問の自分なりの解答がそこにあるからです。

次回は、プロローグ最終話
婚約してから、光の出産、そして高校入学前日までのお話です。
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