第5話目次第7話
長い長い時を経て、公二と光は婚約者となった。
しかし、二人にはまだまだ試練・苦難の道が待っている。

何より、二人にとって一番の試練は、婚約者なのにいまだ離れ離れのままのことである。

公二は光をいつも守ることができない。
光はいざというとき一人でなんとかしなければならない。
それが、二人への試練だった。

太陽の恵み、光の恵

第0部 プロローグ その6

Written by B
光が担任に妊娠を告白した直後、学校では、「2年で妊娠した女の子がいる」という噂が一気に広まり、大騒動になった。しかしその騒動は光が自らその事実を公表することで沈静化に向かった。
クラスメートは光の決意を理解してくれた。そして、光に協力してくれるようになった。

一方、公二は光の夫として何をすべきか悩んでいた。光の側にいればどんなことでも手伝う事が出来る。しかし公二は北海道、光は神戸。あまりに遠すぎる距離だった。
とりあえず、光に栄養のあるものをと、北海道産の農産物を神戸に送っていた。






そんなある日。
公二の家に宅配屋がやってきた。


「毎度おなじみ宅配でーす」

「はーい」


玄関に現れたのは女性だった。作業服を身にまとい、ポニーテイルをなびかせ、公二の前にさっそうと現れた。女性は軽い口調で公二に語りかける。


「この間はちゃ〜んと判子もらってバッチオッケーだったのよん」

「いえ、どういたしましてって……忘れるほうが悪いんでしょ?」

「ま、まあ……そ、そうなんだけどね……」


ここで公二は肝心なことに気づく。宅配屋の女性は手ぶらだった。


「ところで、舞佳さん、今日は?」

「今日は、って何のこと?」

「いや、だから、荷物……」

「あっ、いっけない!トラックに荷物忘れちゃった!ごめんごめん、ちょっと取ってくるね!」

「あ、舞佳さん……」


宅配屋の女性は慌てて玄関から飛び出す。それを呆然と見つめる公二。
この宅配屋は九段下 舞佳といい、いつも公二の家に宅配を届けてくれるバイトの女の人だ。最近宅配をよく使っているので、顔見知りになっていてよく世間話もしている。


「まったく、大丈夫なの?荷物忘れるなんて……あれ?確か、舞佳さん、いろいろなバイトしているんだってな……舞佳さんなら……」






舞佳が大きな段ボール箱を持って再び玄関に現れた。


「おまたせ〜、じゃあ判子お願いね……」

「………」


舞佳は公二の様子がおかしいことに気が付いた。さっきは楽しく話していたのが、急に無口になっていたからだ。


「あら?少年、どうしたの?」

「舞佳さん……僕に、バイト先を紹介してください!」


公二は急に土下座をし、舞佳に頭を下げた。突然の行動に驚く舞佳。


「ち、ち、ちょっと!少年、どうしたのよ!」

「お願いです!俺を男にしてください!」

「えっ!お、男?バイトで男ってどういうことよ!」


舞佳はかなり動揺していた。いきなり玄関で土下座されれば誰だって驚くのだが。






舞佳は公二を落ち着かせて事情を聞くことにする。


「わ、わかったから、理由を話しなさい!」

「俺……お金が必要なんです!でも、小遣いでは到底足りなくて……」

「中学生がそんなに欲しがってどうするのよ?」

「その荷物の送り主の住所見ていただけませんか……」

「ええと、神戸ね………神戸に誰かいるの?」


今日、公二についた荷物は光が送ってきた荷物である。電話で聞いたところ、新喜劇傑作選のビデオだそうだ。


「神戸には……俺の妻がいるんです」

「妻ねぇ……え?え?……い、いまなんていったの?」


一瞬空耳かと思った舞佳。しかし確かに「俺の妻」と聞こえた。


「俺の身重の妻が神戸にいるんです」

「……え〜〜〜〜〜っ!!」


まったく思ってもいなかった事実に驚愕の声を挙げる舞佳。その舞佳のあまりの声の大きさにびっくりする公二。


「ま、舞佳さん!声が大きい!」

「ご、ごめん……で、でも、本当なの?」

「本当です、こんな嘘、つきたくてもつけません」

「わかった、信じるわよ……で、お金ためてどうするのよ?」


やっと冷静になった舞佳は率直な質問をぶつける。


「彼女中2だから、大変なんです……だから、できるだけ側にいてあげたいんです」

「ふ〜ん、でも電話は?」

「電話は頻繁にしています。でもやっぱり側にいたほうが安心すると思うんです」

「そうね……」

「どうしても神戸に行きたいんです……男として、夫として、父として……」






「えらい!」

「うわぁ!」


またもや大声を出す舞佳。今度は驚きの声ではない。感動している声だった。


「かっこいいねぇ、少年!お姉さん、感動して涙がでちゃいそう……」

「い、いや、そんな……」


涙を拭く仕草をして一人で盛り上がっている舞佳にたしろぐ公二。そんなことは関係なく舞佳の話は続く。


「わかったわ、この美人なお姉さんが何とかしてあげよう!」

「ありがとうございます!」


頼みを受け入れてくれて喜ぶ公二。


「ただし!」

「えっ?」


ここで舞佳は真面目な顔になる。


「わかってる?中学生の深夜労働は法律で禁止されてるの」

「わかってます………それを承知で頼んだのですから」

「お姉さんができるだけフォローするけど、最後は少年が一人で責任を取ること!いいね?」

「もちろんです。舞佳さんには迷惑を掛けません」

「じゃあ、じきにバイト先紹介してあげるから、楽しみに待っててねん♪」


そういって、舞佳は玄関を出て行った。


「『少年』か……でも、俺には『少年』という甘えは通用しないんだよな……」






こうして、公二は九段下 舞佳の紹介のバイト先で、とは言っても全てのバイト先で舞佳と一緒なのだが、放課後から深夜までアルバイトに精を出した。法律違反なのでこっそりとやっていたのだが、バレずに続くことになる。






そして、バイトの給料をためた公二はついに神戸にやってきた。もちろん、光に逢うためである。
久しぶりに公二と再会した光はおおはしゃぎだった。


「神戸までやってきてくれるなんて、嬉しいわぁ!」

「そ、そうか……」

「公二は神戸は初めてだよね?」

「まあ、そうだけど……」

「公二と一緒に神戸にいるなんて、信じられへん……」


光の部屋に公二と光がふたりっきり。
しかし、機関銃のように語り掛ける光の様子に公二は何かを感づいていた。


「光」

「なんや?」

「光………何か隠しているだろ?」

「えっ………」


公二の指摘に声を失う光。公二の考えは当たっていたようだ。


「伊達に幼馴染みはやってないし、光の性格はよくわかってる」

「………」

「光、いったい何があったんだ?教えてくれよ……」

「………」


光は何も言わない。ただじっとうつむいたまま。なにも言うつもりはないらしい。
公二は一つため息をつく。


「光は本当に人に気をつかうんだな、悪くないけど……俺に対しては別だぞ」

「えっ……」

「辛いことがあったら、俺にぶつけてくれよ。悲しいことがあったら、俺に分けてくれよ」

「公二……」


公二の言葉に光の瞳が潤み始める。


「だって、俺たち……夫婦だろ……」


「夫婦……こ、こうじ……う、うわぁぁぁぁん!」


「光!」


突然光が泣き出したかと思うと、公二の胸に飛び込んだ。


「うわぁぁぁぁん!」

「光……」


光は公二の胸の中で堰を切ったかのように泣き出した。


「もう公二に隠し事はしない!我慢しない!一人で抱え込まない!」

「そうだ……」

「でも……今は何も聞かないで!……今はただ泣かせて……」

「わかった……なにも聞かない……だから好きなだけ泣きな……」

「お、おおきに……うわぁぁぁぁぁん!」


しばらくは光が泣いているのをじっと抱きしめる公二だった。






光が泣きやんだあと、公二は光の父と対面した。公二にはもうひとつやることがあった。光の父に正式に婚約の許しをもらうためである。


「今日は改めて、お願いに参りました……」

「………」


部屋には公二と光の父の二人きり。緊張感が張りつめる。


「お父さん、光さんを僕にください……」

「………」


公二は婚約の許しを請う。光の父は何も言わない。


「光を妊娠させた責任は僕にあります。でも、責任とかということだけじゃないんです。それだけ光が好きなんです」

「………」


公二は自分の気持ちを伝える。光の父はそんな公二をじっと見つめるだけ。


「中2の小僧がいうことではないかもしれませんが……光を絶対幸せにします」

「………」

「光を泣かせるようなことはしません……だからお願いします」


公二は深々と頭を下げる。そして光の父の返事を待つ。






光の父は優しい声で公二に語りかける。

「ありがとう、公二君」

「えっ……」

「婚約が成立したあの日、どうも私には違和感があって素直に喜べなかった」

「………」

「いきなり、娘を嫁にだすことになったから、気持ちの整理がつかなかったかもしれない」

「………」


光の父は優しい表情で公二を見つめる。そんな光の父を公二はじっと見つめている。そしてじっと耳を傾ける。


「私としては、儀式めいた何かがないとけじめがつけられなくてね……」

「それって……」

「そう、私は公二君のその言葉を待っていたのだよ……」

「じゃあ……」


公二の表情が明るくなる。


「これで私も気持ちよく、光を嫁に出せる……光をよろしく頼むな」

「あ、ありがとうございます!」


公二はまた深々と頭を下げる。こんどは感謝の印としてである。






光の父から許しを得て、上機嫌でリビングを出た公二を光の母が呼び止めた。


「公二君、おめでとう」

「ありがとうございます」


光の母もなにか嬉しそうだった。公二の真面目な姿をほほえましく感じたのだろうか。


「で、光にプロポーズはしたの?」

「えっ?」

「先に婚約は決まっているのに、わざわざうちの旦那にお願いしたんでしょ?」

「はい、そうですが……」

「だったら、当然プロポーズもするよね?」

「ええ、もちろん!」


これは公二の本心だった。確かに婚約したがそのままでは自分が納得しない。あのまま流されるように結婚まで進むのは嫌だ。たしかに意味のない儀式かもしれないが、公二にとっては区切りをつける大切な儀式だった。


「それで、どうなの?プロポーズは?」

「実はまだなんです、でも、プロポーズは考えています、だからご心配なく」

「よかった……女にとってプロポーズの言葉は一生ものよ」


公二の言葉に光の母はほっとするのだった。


その後、公二はバイトでお金がたまるとすぐに光に逢いに神戸に行っていた。バイトのお金はそれ以外には一切使わなかった。






そんな日々が続いて、中3の6月。
公二が学校にいるとき、突然担任から呼び止められた。


「おい、主人」

「なんですか先生?」

「さっき家から連絡があって『神戸のおじさんが倒れたからすぐ帰って来い』ということだ」


公二の表情が急に変わる。真剣な表情と喜びの表情がまじったような表情だった。


「はい!わかりました、すぐ帰ります!」

「お大事に……でも、なんであんなに急ぐのだろう?しかも喜んで?」


公二は猛ダッシュで学校をあとにした。
公二には神戸に親戚はいない。本当は「光の陣痛が始まった」という意味の嘘の連絡だったのだ。






函館の空港で公二の両親が待っていた。光の両親から先に連絡を受けた公二の両親は公二の荷物も用意して待っていた。


「母さん、光は?」

「今さっき、分娩室に入ったそうよ」

「そうか……」

「なんか時間が掛かりそうよ、まだ14歳だからね……」

「………」


公二は光のことが心配になり無口になってしまう。


「大丈夫よ!夫は妻を信じればいいの!」

「……はい!」


母の言葉に元気を取り戻す公二だった。






光の出産はかなりの難産だった。光が出産を終えたのは、公二達が病院に到着した直後だった。


6月25日、光は公二の子供を無事出産する。


女の子だった。
難産だったものの、母子ともに健康だった。






出産を終えて分娩室から出てきた光を公二は待っていた。公二も光も出産の感動で瞳が少し潤んでいた。


「光……頑張ったな……」

「公二……うち、めっちゃ嬉しい……」

「あそこにいるのが俺の娘か……」

「そう、うちと公二の娘や……」


ガラスの向こうには大きな鳴き声を上げる新しい生命。公二と光の子供がそこにはいた。子供は生まれた喜びを表すかのように大声で泣いていた。


「とうとう俺も父親か……」

「うちもとうとうおかあさんや……」

「3人で幸せになろうな……」

「うん……」


改めて将来を誓い合う公二と光だった。






ここで光が公二に話し始める。


「公二……」

「なんだい、光?」

「実はね、妊娠した直後……学校でいじめられとったんや」

「えっ……」


それは公二にとって衝撃の事実だった。
神戸に来たときに、光はなにかに耐えているようだった。その原因とは……イジメだった。たぶんそうだろうとは思っていたが、さすがに公二もショックが大きい。


「悪口、陰口、根拠のない噂……今にもつぶされそうだった」

「ごめん……何もできなくて……」

「ううん、公二がいてくれたおかげで、今日まで頑張れた……」

「そうか……」


公二は光が隠さずに話してくれたことが嬉しかった。でも、光が辛かったときに、自分はなにもできなかった。公二はそれが悔しく、情けなかった。






今日の日付は6月25日。
それは二人にとって絶対に忘れてはいけない日だった。


「光」

「なんや?」

「誕生日おめでとう!」

「おおきに!」


6月25日は光の誕生日。そう、光は自分の誕生日に娘を出産したのだ。親子が同じ誕生日というのもまた珍しい。


「ごめん……プレゼント持ってきてないんだ」

「えっ?もうもらったよ」

「え?」

「公二の子供という最高のプレゼント……ねっ?」

「それだったら、俺にとっても最高のプレゼントだよ……」


光の15歳の誕生日は2人にとって一生忘れられない誕生日になった。






子供が生まれた。そうなると名前を付けなくてはならない。


「公二」

「今度はなんだ?」

「あのね、今日までベッドの中で、子供の名前ずっと考えてたんよ……」

「その名前、教えてくれないか……」



「女の子やから『恵』ってどうかな?うちらがこの子が生まれて幸せになったように、みんなにも恵みを与えるような女の子になってほしいから……」



公二はその響き、字がとても気に入った。


「『恵』か……いい名前だな……俺は賛成だよ」

「そっか……じゃあ決まりだね」


こうして娘の名前は『恵』と命名された。当分は光と一緒に暮らすので陽ノ下姓を名乗らせることにした。






恵が生まれてからも、公二の神戸通いは続いた。
今度は、公二の両親が「孫の顔が見たい」と一緒に行くようになったので、財政的には楽になった。それでも、公二はバイトをやめなかった。それは、父としての自覚を持ち続けるため。神戸に行くだけでなく、恵の物を買うための資金にするため。そしてもう一つ、重大な理由があるのだが、ここでは触れない。






そして、年が変わろうかとしている12月の末のこと。
公二と光は両親達に呼ばれた。公二の家族は、生まれた子供と一緒に正月を過ごすために神戸に来ていた。


「公二、光さん。話があるんだけど」

「なんだい父さん?」

「お前達、中学卒業したら働くつもりだったよな」

「はい、そうですけど」
「うちもそのつもりや」

「そのことなんだが……考えを変えてくれないか?」


「えっ?」
「どうして?」


突然の言葉に二人は驚いていた。二人とも子供を養うために就職するつもりだった。
その考えを変えろと言われた。どういう意味なのか二人にはさっぱりだった。






親たちは一斉に理由を告げる。


「よく考えてみろ……両親が二人とも中卒だと、後々大変だと思うぞ」
「そう、就職後も少し不利だって聞くし……」
「恵ちゃんの世話も大変や、職場の都合もあるから……」
「人生は長い、自分達の青春を失ってまで家庭に生きることもあるまい……」


確かに親たちの言うことはもっともだ。親たちには二人が自分から進んで厳しい道を選んでいるように見えた。
その姿勢には文句を言うつもりはない。しかしこのままでは、やはり親としては心配になる。


「………」
「………」


そんな親達の言葉に二人はなにも反論が出来ない。ただうつむいて聞いているしかなかった。






なにも言えない二人に公二の父が声を書ける。


「そこで、4人で考えたんだが……ひびきの高校を受験してみないか?」


「ひびきの……」
「高校……」


ひびきの高校。
二人が引っ越す前に住んでいたひびきの市にある私立高校。昔いた家から歩いてすぐの場所にあった。中庭にある鐘のある塔がシンボルの昔から人気がある高校だ。


「実はね、中学卒業したら、一緒にひびきのに引っ越すことが決まったの」
「職場にお願いして、無理を承知だったけど、認めてくれたよ」
「うちらは両方とも一人っ子よ、もう一人の面倒を見るお金はあるわよ」
「なあに、高校卒業してから就職しても罰は当たらないよ」


婚約して就職するつもりだった二人は高校進学はとっくにあきらめていた。ましてや昔住んでいたひびきの高校なんて。
二人にとっては夢のような話だった。


「………」
「………」


自分たちの身勝手で子供を作った。本当ならば親から独立して生活しなくてはいけない。
しかし、あと3年面倒を見てくれると言ってくれた。これほど嬉しい話はなかった。


「われわれ親からの出産祝いだ……どうだい?」

「父さん、母さん……ありがとう!」
「おとん、おかん……おおきに!」


二人は涙を流さんばかりに感激していた。






こうして、公二と光はひびきの高校を受験することが決まった。受験は学校の配慮で受験問題を郵送する形で行われた。その結果、見事二人そろって合格した。
そして、二人で合格を祝っていた。


「合格おめでとう!」

「うん、合格おめでとう!」

「高校か……少し前はあきらめてたからな……」

「うちもや……高校なんて夢の夢やと思っとったから……」

「俺達のために転勤までしてくれて……親に感謝しないとな」

「そうやね……」


これからの高校生活に期待に胸ふくらませる二人。しかし、ここで気が付いたのは自分たちのあまりに特殊な事情。


「ところで、光」

「ん?」

「高校で、俺達の関係……どうする?」

「そのことなんやけどな……うち、ずっと考えとったんよ……」

「………」


光の表情が暗くなる。公二には光の思っていることがなんとなくわかる。


「うちらの関係、あまり言いたくないねん……」

「確かに、入学時点で子持ちだってわかったら大騒ぎだろうな……」

「それもあるけど……もう、あんな思いしたくないねん……」

「光……」

「友達にも避けられて……もういややねん、あんな辛い日々……」


光は泣いているのを我慢しているようだった。それを見ていた公二の胸が痛んだ。光の表情を見れば、どれだけ妊娠したことで苛められていたのか想像がつく。


もう光にそんな思いをさせたくない。公二はそう感じていた。


「そうか……わかった、光のいう通りにしよう」

「えっ?ほんまにええんか?」

「ああ、卒業まで内緒にしよう……俺達は7年ぶりに再会した幼馴染み。それでいいだろ?」

「うん、わかった……」


こうして、二人の関係は高校では秘密にすることに決まった。

「でも、もしバレちゃったら……どないしよう?」

「もしバレたら……学校辞めようか?」

「えっ?」

「大騒ぎになったら、学校中に迷惑をかけるだろう、それは恵にも迷惑をかけることになる」

「そうやね、恵がかわいそうやね……」

「そもそも、最初は行くつもりはなかったから……辞めることに未練はないよ」

「わかった、そうしよう、その時はうちも一緒に辞める」

「でも、その前に退学処分になりそうだけどな」

「そうやね、こんな不純な学生なんて要らないもんね」

「あはははは!」
「あはははは!」


自分たちの高校生活は厚意でさせてくれるもの。その厚意を踏みにじるようなことは絶対にしたくない。もしそうなってしまったら、学校を辞める。
二人の決意は堅いものになった。






そして、4月。
恵の乳離れが終わった光は、中学卒業直後、両親と一緒にひびきのに引っ越してきた。
ところが、公二たちはそうはうまくいかなかった。仕事の都合や、引越しの準備が思った以上に時間がかかり、そのため、引越しが入学式の直前になってしまった。おまけに公二はその間、光と連絡が取れなかった。






そして、公二は今、ひびきのに向かう電車に乗っていた。荷物は先に送って、人間だけあとで家に向かう段取りである。
公二の目の前になつかしいひびきのの市街地が見えてきた。


「あれから7年か……本当に、帰ってきたんだなぁ……」

「あっ、ひびきの高校だ……明日からあそこに通うんだよな……」


そう、感慨にふけっているうちに、公二の家に着いた。


「ここが新しい家か……昔と同じ家なら学校から近かったのになぁ……」

「ついでにいうと、光の家からちょっと離れてるのも……まあ仕方ないか」


公二の家と光の家。実は200mぐらい離れていたのだ。すでに建っている家を探したために、そういい条件の家なんてなかったのだ。ましてや2世帯住宅なんてものは、とうてい見つかるわけがなかった。200mに家が2件あっただけでも幸運だといわなければ贅沢以外の何者でもない。


「俺も明日から高校生……そして光との生活、心機一転頑張るとするか!」






こうして、公二と光のひびきの高校での生活は始まろうとしている。

表では、久しぶりに再開した、幼馴染みとして、
裏では、子供もいる新婚夫婦として。

公二と光の新たな物語の幕開けはもうすぐ……
To be continued
後書き 兼 言い訳
第0部これにて完結です。
最後は恵ちゃんの誕生のお話でした。

あっ、そうだ!ひとつ言い忘れてた!


これはコメディSSです。ええ、誰がなんと言おうとコメディSSです!
(↑嘘つけ! by 165話書いた時点の作者)
(↑大丈夫!言ったモン勝ちだ! by 227話書いた時点の作者)


今回は特に大きな波乱はありません。
第0部を締めるところですから。

ここでいきなり舞佳さん初登場。
公二が中2ということは、舞佳さんは大学1年相当。
バイト生活は始まっていたはずです。
ということで、北海道にバイトをやりに出かけさせてしまいました。

第0部は単に、前書いたプロローグを長くしただけでなく。その先の話のネタ振り等も混ぜてみました。書き直しをすると、ネタ振りや、伏線が入れやすいんだなこれが。

次回からは第1部になります。
第7話にして、やっと入学式の話になります。
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