第6話目次第8話
ひびきの高校入学式。
公二は一人で学校に行った。 公二がひびきのに引っ越してきたのが昨日のこと。 昨日もひびきのについたばかりで、荷物の開封・整理で忙しく、 光と連絡する暇も手段もなかった。
校門をくぐった後、公二はクラス分けの掲示板を見る。 さっそく自分の名前を探す。


「さてと、俺のクラスは……1年A組か……」


自分のクラスが見つかったところで、さっそく自分のクラスメイトの名前を確認する。するとそこにはかなり見慣れた名前があった。


「同じクラスの奴はどんなのが……えっ!『陽ノ下 光』?……ということは……」


ゴツン!


「うわっ!」


公二は背中にものすごい衝撃を受けた。不意打ちを食らった公二はそのままバランスを崩して前に倒れてしまう。


「いてててて……何が……」


衝撃を受けた方向をみると、一人の少女が尻餅をついていた。その少女は痛がりながらも公二に謝る。


「ご、ごめん!私がよそ見しとったさかいに……あっ!」


それはいつも聞き慣れた声。一瞬お互いの姿を確認し合う。


「光!」
「あなた!」

太陽の恵み、光の恵

第1部 入学編 その1

Written by B
公二の背中に突っ込んできたのは光だった。二人は起きあがって寄り添う。 別に抱きつくわけではない。正面に向き合う格好になっている。


「こらっ、外でその言い方はやめろっていったろ!」

「ごめん、でもどうして連絡してくれなかったん?恵も寂しがってたんよ〜」


実は恵よりも光のほうが寂しかったのだが、それは照れくさくて言えなかった。


「ごめん、引っ越しで忙しかったから連絡できなかったんだ」

「わかった、でもこれからは許さへんよ。あ・な・た♪」


恵を産んでから、光は公二のことを「あなた」と呼ぶようになった。子供がいる以外に夫婦の証がないので、せめて呼び方だけでも、というのが理由らしい。公二も光も恥ずかしかったが、夫婦である実感が湧いてきて心地よかった。しかし家の外で呼ばれるのはまだ恥ずかしかった。
光は、近くでだれも自分たちを見ていないことをいいことに公二の腕に自分の腕を絡ませた。突然の行動に顔を紅くする公二。


「だから、やめろって……あ、そうだ。俺と光、同じクラスなんだ!」

「ほんま!うれしい!なんか、めっちゃ楽しくなりそうやね!」

「そうだな!」


キーンコーンカーンコーン


「あ、入学式始まるよ!」

「じゃあ、行こうか」

「うん!」


二人は絡ませていた腕を解いた。そして自分たちがこれから1年間を過ごす教室へと並んで走っていく。
こうして、公二と光の高校生活はスタートした。






入学式が終わった、その日の放課後。
これから何をしようか考えていた公二に、いきなり声を掛けられた。


「よお、公二!」

「確か、坂城 匠だっけ?」

「そう!良く覚えててくれたね」

「いや、それほどでもないよ」


彼の名は坂城 匠。公二と同じ1年A組である。 今日の自己紹介で趣味は女の子の情報収集と言い放った奴である。 背丈は低いが、顔は女の子みたいな顔だちをしている。


「ところで、本題なんだけど。君と陽ノ下さんとの関係は?恋人同士?」


いきなりとんでもない質問を聞かれてびびる公二。それでも公二はあらかじめ光と決めておいた答えを返す。


「た、単なる幼馴染みだよ」


間違っても夫婦だとは言えるわけがない。しかし幼馴染みは間違ってはいない。
しかし、匠は納得した表情をしない。むしろもっと聞きたい顔をしている。


「へえ、じゃあ、詳しく聞かせてもらおうかな?喫茶店でじっくりとね」


その言葉に公二の顔に冷や汗が流れる。






「オイ、匠!帰らないのか?」


そのとき、教室の扉から一人の少年が匠を呼んでいた。


「あいつ、誰?」

「俺の友達で穂刈 純一郎っていうんだ。純って呼べばいいよ」

「純?」


純とは穂刈 純一郎のこと。クラスは公二の隣の1年B組。公二から見るに体育会系で硬派な奴に見える。 どう見ても匠とはまったく正反対である。なぜ匠の友達かは公二の直感ではわからない。


「純!お前も一緒に喫茶店に行かないか?今からの高校生活をラブラブに過ごすための作戦会議だけどな」


匠が純に声を掛ける、すると純一郎の様子が一変する。


「ラ、ラブラブ……お、俺は興味がないから帰る!」


純一郎は顔を真っ赤にさせて教室から出て行ってしまった。


「ほーら、あいつ『純』だろ?」

「納得……」


あの言葉だけで真っ赤になるとはそうとうこういった話は弱いのだろう。






それから喫茶店で公二は匠から光との関係、生年月日、趣味、特技等根掘り葉掘り聞かれた。 公二はなんとか適当にはぐらかしながら答えた。結局公二は光のことは誕生日と差し障りのない事柄しか教えなかった。「7年ぶりに会ったんだから、細かいことは全然わからないよ」と言って。
匠の質問が一通り終わったところで、公二が匠に質問を仕返す。


「しかし、匠。何で光の事を聞くんだ?」

「ああ、ちょっと興味があるんだ。明るくて、可愛くて、元気でそれに……」

「それに?」

「なんていうかなぁ……母性みたいなのを感じるんだよなぁ」

(ぎくっ!)


いきなり核心を突かれた公二は思わず体を硬直させてしまう。そしてたった数時間だけで光の母性を感じ取ってしまう匠の鋭さに驚いた。


「ん?どうかしたのか?」

「い、いや、なんでもない……」

「そういえば、さっき光って呼び捨てにしたな。もうそんな関係になっているのか?」

(ぎくっ!やばっ!)


たしかに呼び捨てで呼び合う以上の関係になってしまっている。完全に見破られたと思い全身冷や汗だらけになる公二。


「そ、そんなことないよ……」

「まっ、女の子の情報とか聞きたかったら遠慮なく聞いてよ!」


公二の否定をあさっりと受け入れる匠。どうやら秘密を見抜いたわけではなさそうだ。公二は少し安心した。


「あ、ああ……」

「世の中ギブ・アンド・テイクだからさ、今日光ちゃんのこと教わった分、君にもいろんなこと教えてあげるよ。じゃあね〜」


そう言って一足先に喫茶店から出て行った。


(こいつに下手な事に言うとまずいな……気をつけよう)


一人になった公二はぐったりしてしまった。しかしこのとき、匠の飲み物の分も払うことになるとはまったく気づいていなかった。






一方、光は放課後の教室でいきなり声を掛けられた。


「ねえ、もしかして、光?」


ふと見ると、髪の髪の長い女性がそこに立っていた。その声、その瞳、そのいでたち。あのころと髪型は変わっていたが光はすぐに誰だかわかった。


「えっ、もしかして、琴子?」


絶対に忘れてはいけない大切な友達。あの頃、ひとりぼっちの自分を暖かく迎えてくれた友達がそこにはいた。


「久しぶり!」

「うん!久しぶり!」


二人は3年ぶりの再会を果たした。


水無月 琴子。クラスは光の隣の1年B組。落ち着いた性格で光とは正反対の女性である。 彼女は光が神戸に引っ越してできた最初の友達であり、一番の大親友でもある。 ただ、中学に入るとき、琴子はひびきのに引っ越してしまっていた。 それ以来の久しぶりの対面となる。


「光もひびきの高校なのね」

「うん!高校からこっちに戻ってきたんや」

「そう、なんかこれからが楽しくなりそうね」

「うちもや!」


光は思いがけない再会をここで果たした。






「そういえば、いつも話していた幼馴染みはどうしてるの?」


光は琴子だけには幼馴染みの公二の思い出を毎日のように話していた。 しかし文通しているのは内緒だった。 それに小5になったときにはあまり話さなくなっていた。


「えへへ!実はね〜。公二くんも一緒にここに通ってるんよ!」


別に前からわかっていることだが、やっぱり公二と一緒に通えることはとても嬉しかった。嬉しさを隠しきれず微笑んでいる光。そんな光に琴子がツッコミを入れる。


「よかったわね。で、さっそく愛の告白はしたの?」

「琴子〜。そんなことできるわけないやないか〜」


琴子のツッコミにもまんざらではない様子の光。さすがに、2年前に告白済みだとは言えなかったが。


「そうかしら?光のことだから、意外ともう会ってすぐに結婚なんかしていたりして」

(ぎくっ!ば、ばれてるの……)


思いっきり正解を言われて焦る光。とにかくなんとかしてごまかそうとする。


「こ、琴子。そ、そんなわけ、な、ないやない」

「うふふ、冗談よ。でも、その彼に是非会ってみたいわ」

(ふうっ……よかった……)


どうやら本当に冗談らしい。とりあえずほっとした光だった。


「じ、じゃあ、明日紹介してあげるね!」

「光、これからもよろしくね!」

「うん、よろしく!」

(琴子……感が鋭いのは変わってへん……)






「ただいま〜」

「おかえり〜、あ・な・た♪」

「あいかわらず、甘えん坊だなぁ」


公二は光の家にやってきた。
一応、公二と光はそれぞれの家に住んでいることになっている。 ただ、実際は光が公二の家に住んで家族3人で暮らしているので同居も同じである。 ちなみに、ふたりが学校に行ってる間は、恵の面倒はそれぞれの母親が交代でみている。


「えへへ。それよりも、早くこっちへ来てよ!」

「えっ?なんだなんだ?」


光に引っ張られて居間にやってきた公二が見たものは……


「恵……」

「ほら、すごいやろ……」


恵の姿に思わず声を失う公二と光。


「ああ、驚いた……」

「私も帰ってきたら驚いちゃった……」


恵が物につかまりながらも立っていたのだ。子供の成長に感動する感じる二人。


「まだ、2本足で歩けるのはまだまだだけど、うれしいな……」

「そうやね……」

「もしかしたら、俺たちの関係も今の恵と同じかもな……」

「えっ……」

「俺達も自力で立つのはまだまだだってこと……まだまだ他人の力が必要だってこと」

「そうやね……恵は私達の子供やけど、お母さんに頼りっきりだもんな……」


自分たちはまだまだ子供だ。娘の恵はこれからもどんどん成長している。自分たちも恵に負けないように頑張ろう、そんな思いが湧いてくる。


「これからは少しづつ俺達が恵を育てていこうな……」

「うん……がんばろうな……」

「やっと2人で一緒に暮らせるようになったんだからな……」

「そうやね……」

「これからもよろしくな、光」

「はい、あなた」


公二と光の新しい生活はまだ始まったばかり……
To be continued
後書き 兼 言い訳
第1部 入学編スタートです。
入学直後の様子が中心です。

この第7話が前に公開していたバージョンの第1話です。
ここからは、前に書いたところなので更新が少し楽です。

ここで、琴子、匠、純一郎が登場しました。 ここから徐々に人数が増えていきます。

前回書き忘れていたことがあったので、列挙しておきます。

・光を神戸に引越しさせたのは、ひびきので出産させると必ずバレるから。
・同様の理由で、琴子と光は中学では音信不通。一緒ならどうしたってバレる。だって琴子だもん。
・それでも、光と琴子は昔からの大親友にしたかったので、小学校で一緒にした。

というわけです。納得していただけたでしょうか?
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