「ふーん、なんだかパッとしない男ねえ……」
入学式の次の日の放課後。公二の前には一人の女生徒がいた。
水流のようにさらりと延びた髪。
キリッと整った顔立ち。
意志の強さを表すような瞳。
日本舞踊を踊っているような、華麗な立ち振る舞い。
公二は、光とは正反対だというのを感じていた。
(誰だ?いきなり人の顔見てあの言い方はないだろう……)
会っていきなり失礼なことを言われてちょっと怒っている公二。そんな公二に目を向けず、この女性は誰かに声を掛けた。
「あ、光。こっち、こっち!」
「ごめーん、琴子。あっ!公二!」
「光!」
その女性が呼んだのは光だった。まさか光だとは思わなかった公二は驚いた。そんな公二に琴子はため息をついた。
「ふぅ……光、アンタも物好きねえ……」
「琴子〜!」
太陽の恵み、光の恵
第1部 入学編 その2
第8話〜疑惑〜
Written by B
「光、彼女知っているのか?」
「うん、小学校のときの友達なんや……」
「私の名前は水無月琴子よ。1年B組にいるわ。まあ、よろしく」
「ああ、こちらこそ……」
(水無月さん。光の友達だったのか……信じられない……)
意外なつながりに驚いた公二だった。まさか小学校の頃の友達だとは思わなかったからだ。
しかし、琴子は驚いた様子の公二にはまったく関心がないかのように光に話しかける。
「私の事はどうでもいいから、この子と……」
「琴子!」
「はいはい……」
「もう〜、何言ってるのよ〜!じゃあ、一緒に3人で帰ろうや!」
「そうだな……」
「そうね、一緒に帰りましょ」
こうして、公二、光、琴子の3人で帰ることになった。
帰り道、公二と琴子が自分の自己紹介を交えながらの話が弾んでいた。そこで出たのが琴子の小学校の頃、光と友達だという話。
「へえ、水無月さん。神戸で光と一緒だったんだ」
「そう、もう7年間の腐れ縁ってとこかしら」
「実はね、私が神戸に引っ越して最初の友達なんや!」
(そうか、あの手紙の友達って水無月さんのことだったのか……)
琴子は自分たちが文通をするきっかけとなった人だ。大げさに言うと公二と光が一緒にいられるのは琴子のおかげなのかもしれない。公二はそんなことを考えていた。
「じゃあ、中学も神戸だったの?」
「いいえ、中学のときにこっちへ引っ越したの……引っ越しのとき、光、ひどく泣いていたわ」
「琴子〜!それはいわないでよ〜」
不意に昔の恥ずかしい話を暴露されてちょっと怒った仕草を琴子に見せる。昔も今も変わらない光の泣き虫ぶりに思わず公二は笑ってしまう。
「はは、光は泣き虫なのは相変わらずだな」
「そんなことないんよ、今はもう泣き虫じゃなくなったんや」
「本当かなぁ〜?」
「もうっ、公二ったら!」
泣き虫をからかわれて思わずふくれてしまう光。端から見ていればとてもいい雰囲気だった。
(本当に仲がいいのね……あれっ?)
公二と光の仲のよさに、半ば呆れて見ていた琴子はあることに気がついた。
(光と主人君……いつの間に手をつないでいたの?……しかも、自然なつなぎ方だわ……)
光と公二はずっと手をつないでいた。それも誰からというわけでもなく、自然と手をつないでいた。
琴子はそのことに少し違和感を感じたが、話を続けることにした。
「そういえば、主人君はどこにいたの?」
「俺はずっと北海道にいたんだ。俺も4月にこっちへ戻ってきたんだ」
「へえ、向こうで彼女を置いてきたってことはないかしら?」
「そ、そんなことはないよ……」
「ふ〜ん、女の子は光だけなんだ」
「う、うん、い、いや、そんなわけでは……」
確かに光しかいなかった。しかし、それをストレートに言われるとやっぱり恥ずかしくなってしまう。
そんな琴子の思いがけない一言に動揺したのか、それとも前を見ていなかったのか。
ごつん!
公二は電柱にぶつかってしまった。 そのまま、公二は尻餅をついて倒れてしまう。
「だいじょうぶ、公二」
「いててて……」
頭をさする公二。それを心配そうに見つめる光。
「もう、前を見てないから……」
「ごめんごめん……」
「無様ねぇ……あれ?」
琴子は倒れて痛がる公二とそれを起こそうとする光の姿を見ていた。しかし、ここで琴子はあることに気が付いた。
(何か違う……この2人……この雰囲気……何なの?)
公二に自然に手を差し出す光。
その手を自然とつかむ公二。
公二が怪我した部分をハンカチで拭く光。
その姿をじっと見る公二。
その顔を見て微笑む光。
微笑み返す公二。
その様子をじっと見る琴子。
(本当に7年ぶりに再開した幼馴染みなの?……なんかずっとつき合っている感じがする……)
二人の行動に何か不自然さを感じていた。
「大丈夫?主人君」
「ああ、大丈夫だ」
「それよりも、光」
「なんや、琴子」
「主人君って、本当に7年ぶりに再開した幼馴染みなの」
「そうだよ、それが?」
「あなたたちを見ていると、そんな感じがしないのよ……なんか恋人同士のような……」
(ぎくっ!)
(ぎくっ!)
かなり鋭いことをいわれて焦ってしまう公二と光。
さらに琴子の言葉が追い打ちをかける。
「いいえ、もう結婚して何年かたった夫婦みたいな……」
(ぎくっ!な、なんでわかる……)
(ぎくっ!琴子、鋭すぎる……)
完全に正解である。
当てられてしまって全身冷や汗、鳥肌状態の二人。無駄なあがきかもしれないがとにかく否定しようとする。
「そ、そんなことわけないだろ……」
「そ、そうよ。高1で子供がいるわけないやないか……」
「ふふふ、冗談よ」
「琴子〜!じょ、冗談きついわ!」
「そ、そうだよ、びっくりしたじゃないか……」
「ふふふ、ごめんなさいね」
思わずほっとしてしまう公二と光。そこで、会話に区切りがつき、また帰り道が違うところだったので、琴子はここで2人と別れた。
(そういえば……光、さっき変なこと言ったような……気のせいよね……)
琴子はこの二人にまだなにか違和感を感じているようだ。
入学して2日目で早くもバレてしまったかと思っていた二人はバレずにすんで安心したのか完全に脱力していた。
「はあ、危なかった……」
「ほんと……琴子ったら、感が鋭いんやから……」
「俺たちのこと、なにもしゃべってないよな?」
「当然や!そんなこと言ったら琴子に嫌われる……」
「しかし、なんで俺たちを見て、あそこまで見抜くけるんだ?」
「さあ?」
それが、自分たちが無意識にやっている仕草が原因であることには全く気付かない2人であった。
「なあ光、もう水無月さんと3人で帰るのやめような」
「なんでや?」
「この調子だと、俺たちの関係がバレちゃうだろ」
「そ、そうやね……」
それから、琴子と3人で帰ることは止めることにした2人であった。
さっきの琴子との会話を振り返ってみて、公二は光に語りかける。
「光、昔手紙に書いた友達って水無月さんのことだろ?」
「うん。あなたの手紙のおかげでできた友達が水無月さんなんや」
「そうか……あの手紙から俺たちの関係が始まったんだよな……」
「そうやね……琴子ってうちらの愛のキューピットなんやなぁ……」
「そういうことになるな……」
「でも、そのときあなたと琴子と一緒に下校するとは夢にもおもわへんかったわ……」
「運命のいたずらかなぁ……しかし、あれから7年たっているんだよな……」
「7年かぁ……」
二人は縁というもの不思議さを感じていた。それはそうだろう。いわば二人の昔の恩人と一緒に下校しているのだから。
「あ、こんな時間だ!早く帰らないと恵が寂しくて泣いちゃうかも!」
「うん、ほな早く帰るで!」
2人はしばしの感傷に浸りながら家に帰った。
そんなことがあったその日、放課後の教室。
自分の手帳になにやら書き込んでいた匠に一人の少女が声を掛けた。自分の髪の毛を前に束ねた特徴ある髪型。なかなか可愛い女の子だ。
「坂城 匠さんですか?」
「そうだけど?僕にデートのお誘い?」
「……ねえ、妖精さん。この人を呪ってあげましょうね♪」
表情を変えず笑顔で宙に向かって話す少女。とんでもない一言と恐ろしいぐらいの殺気に顔が引きつる匠。
「じょ、冗談だよ……ところで用件は何?」
「主人 公二さんについて何か知ってますか?」
「ああ、何でも知ってるよ。でも、公二とはどんな関係なの?」
「ええ、あの人は私の白馬の王子様なんです!」
「はぁ?」
これまた変わった一言で呆れる匠。その表情にむっときたみたいで、少女は宙に向かってまた話しかけた。
「ねえ、妖精さん、この人を呪って……」
「わかった!教えるから!え〜と、公二の生年月日は……」
やっぱり笑顔でとんでもないことを言う少女。このままだと本当に呪われそうだ。身の危険を感じた匠は正直に情報を伝えることにした。
「はい……そう……ありがとうございました」
「ところで君の名前は?あと生年月日とかも……」
「ねえ、妖精さん……」
「ちょっと待て!公二から君のことを聞かれたときに答えるためだよ!」
「あ、そうですね。私の名前は……」
(俺、本当に呪い殺されるかも……)
完全に抵抗するのをやめてしまった匠。ずっと笑顔のまま自己紹介をする少女。
嵐が起きる予感……
To be continued
後書き 兼 言い訳
第1部その2です。
公二と光と琴子の下校シーンです。
恋人と夫婦、やっぱり違う雰囲気があるような気がします。
ここでは、そんな光景を書いてみました。
琴子さん。さっそく、二人に疑問をもってます。
ここら辺から波乱含みの展開が少しずつやってきます。
あ、一番最後の女性。もちろん、あの人です。この話ではおもいっきり壊れてます。