第8話目次第10話
学校にもだいぶ慣れてきたある日の朝
廊下をなりげなく一人で歩いたときのこと。


どんっ!


公二は誰かにぶつかった。背中から強烈にぶつかられたので、バランスを崩して倒れてしまう。


「痛っ!」

「あ、すいません!大丈夫ですか?ついぼーっとしてて」


「そ、そんなことないよ。俺の方こそ……」


(なんか、おもいっきり体当たりされたような気がするが……)


公二の目の前には髪を前に束ねた変わった髪型の女の子が立っていた。


「あのう、お名前は?」

「主人 公二だけど……」

「やっぱりそうでしたか!」

「何が?」


少女の目が爛々と輝いている。公二はその表情に少しひいてしまう。


「あなたは私の白馬の王子様なのです!」

太陽の恵み、光の恵

第1部 入学編 その3

Written by B
「へっ?」


いきなり訳のわからないことを言われて、どうしていいかわからない公二。


「私を迎えに来てくれたのですね!」


しかしこの女の子は大はしゃぎで公二に話しかける。


「な、なんだ?」

「結婚式はいつにしますか?式場は教会がいいですよね!あと披露宴は……」


勝手に話を進める女の子。もちろん公二はそんなつもりは毛頭ない。さすがにヤバイ雰囲気を感じ取った公二はこの場から逃げようとする。


「お、俺は王子様になったつもりはないぞ!」

「いいえ!あなたは王子様です!妖精さんが決めたから間違いないです!逃がしませんよ!」

「た、助けてくれ〜!」


しかし女の子は公二の腕をしっかりとつかんで離さない。笑顔のまま話しているので一種の恐怖感を憶える公二。


きーんこーんかーんこーん


「ちぇっ……そ、それでは、失礼します」


予鈴を聞いた女の子はやはり笑顔のままで立ち去ってしまった。


(た、助かった……それにしても、い、今の娘、だ、誰だ?)


なんだかわからないけど、とにかく予鈴に助けられてほっとしている公二。そんな公二に匠が怯えた表情で話しかける。


「お、お前、い、いつのまに白雪さんと、知り合いになったんだ?」

(し、白雪さんって言うんだ。絶対に近づかないようにしよう……)

(お、恐ろしい。もう白雪さんには関わりたくない……)






『白雪 美帆。1年C組
 占いはプロ以上の的中率を誇るらしい。演劇部に所属して、シナリオを書いているそうだ。
 前世は中世の女王様で絶世の美女、現在は妖精さんの女王として毎日妖精の国の政務に忙しい、それに……』






(彼女のデータは頼んでないぞ……それになんだこのデータは?……聞かないふり聞かないふり)


自分の手帳から彼女のデータを必死に無理矢理聞かせる匠。それを必死で遮断する公二。


「人の話、聞けよ……頼むから聞いてくれぇ……」

(そ、そうしないと……の、呪い殺される……)


匠の表情はなにかに怯えていた。何に怯えているのかは匠自身しかわからない。






その日の休み時間。


「私の王子様はどこかしら〜。あれ?……なに、あれは?」


美帆は公二に会いにA組の教室へ出かけた。


「さっきの授業難しかったわ、なっ、公二?」

「ああ、家で復習しないといけないな」

「今晩、一緒に勉強しような♪」

「そうだな」


美帆の視界には楽しそうに会話をする公二と光の姿があった


(誰?私の王子様を奪おうとするのは?……きっと彼女は魔女に違いないわ……ようし……)

「妖精さん、王子様の側にいる魔女を懲らしめてあげなさい!」


美帆の表情は笑顔のまま。しかし内側の嫉妬心は火山のように燃えていた。美帆は宙に向かってなにやら命令した。






そうとは知らない公二と光は楽しく話をしている。


「次は体育か、楽しみやわあ!」

「光は本当に体育が好きだなぁ……ん?……光!」


突然公二の表情が険しくなる。


「なんや?」

「危ない!」


ガッシャーン!


窓の外から窓ガラスを破って光に向かって野球ボールが飛び込んできた。 公二は光に覆いかぶさるようにして光を守る。


「うわっ!」


公二の背中には、ボールがあたった衝撃と、割れた窓ガラスが刺さった痛みが襲ってきた。


「大丈夫!」

「ああ、光を守るためなら、このくらい……ううっ!」

「大変!保健室にいかな!」

「ああ……」


公二は光に連れられて保健室に治療をしてもらいに行く。


「ええっ!なんで王子様が怪我をするの?……妖精さん、失敗しましたね……今度は成功させてくださいね!」


近くにいた美帆は、思わぬ展開におどろきを隠せない。しかし美帆は次の指示を宙に向かって行っていた。






保健室。怪我の治療を終えた公二と光がいた。 公二の怪我はそれほど重くはなかったようだ。二人はベッドに腰掛けていた。


「ごめんな、うちのために……」

「光のせいじゃないよ。単なる事故だ……」


気まずそうな表情を見せる光。公二はそれを否定しようとする。


「そうだね、事故やな……あれ?」


ガタガタガタ


いつの間にかなにやら物が揺れ動いている。


「地震か?……キャーッ!」

「光!」


バタン!ドサドサドサ!


突然、光の近くにあった本棚が光めがけて倒れてきた。公二は本棚と光の間に割って入る。


「うわぁぁぁ!」


本棚から落ちてくる医学書が次々と公二に襲いかかった。分厚い医学書はある意味凶器である。


「ひ、光、大丈夫か?」

「うちは大丈夫や、それより……」

「ああ、また治療のやりなおしだな……」


結局公二はその場でさらに治療を受けることになる。


「ちょっと!妖精さん!懲らしめる相手が違うでしょ!……今度失敗したら許しませんよ!」


この光景を保健室の扉の裏からこっそりと見ていた美帆。自分の思い通りにならないことにいらだちを感じていた。






その日の放課後。怪我でふらふらの公二はゆっくりと校門へ向かった。


「はあ、今日は災難続きだ……光は校門で待っているはず……なにぃ!」


公二は校門の光景を見て驚いた。


「よう、ねえちゃん。俺たちと遊ばないかぁ?」

「あ、あそぶわけないやないか……」

「そんなこといわずにさぁ、あぁ?」

「い、いやや……」

「そんなに抵抗すると、可愛い顔に傷がつくぜぇ?」


光は他の学校の不良らしき人3人に囲まれていたのだ。光は柄の悪い連中に囲まれて怯えていた。


「まあ、妖精さん。不良さんを使うとは考えましたね。これなら成功するかも……」


校門から離れた教室からは美帆がその光景をみて微笑んでいた。






公二がふらふらの状態ながらも光のところに駆け寄る。そして光を自分の後ろに隠れさせる。
当然不良は公二にいちゃもんをつける。


「おい、俺の光に何をする気だ」

「公二……」


いきなり知らない男に邪魔されて不機嫌な不良達。


「てめぇ、このねえちゃんの何なのだぁ?」


不良のドスの入った声に怯える光。しかし公二はそれにはまったくひるまなかった。


「光は俺の大切な人だ!」

「このやろう、ふざけやがって!」


ぼこっ!ばきっ!どかっ!


不良達が一斉の公二に襲いかかる。怪我している公二はどうすることもできなかった。 公二は不良3人に袋だたきにされる。


「ううっ!」

「公二!」


公二は倒れて動かない。


「へっ!口ほどにもないやつめ……さあ、ねえちゃん、いこうぜ」

「いやぁ!」


動かないのを見て、光を無理矢理連れて行こうとする不良達。それを嫌がる光。


「……待て」


公二は立ち上がった。しかし、立ち上がっただけという言い方が正しいのかもしれない。


「まだ生きていたのかぁ……しょうがねぇなぁ……とどめをさすぜ!」


不良達は再び公二に殴りかかる。


ぼこっ!ばきっ!どかっ!どぼっ!ぼこっ!ごきっ!


「うわぁぁl!」

「公二!」


公二はさらにボコボコにされた。殴られ、蹴られ、踏みつけられた。公二は何も抵抗できない。再び、公二は倒れて動かなくなる。


「もう、動けねぇだろう……さて、行くか」


自分たちの気が済んだところで帰ろうとする不良達。しかし……


「……待て、おまえら」

「なにぃ!」

「あなた!」


公二はボロボロの体ながら気力で立ち上がった。ゆっくり、ゆっくりと、公二はゆっくりと立ち上がる。体はボロボロなのに立ち上がる姿には力がみなぎっていた。
公二の気迫に驚く不良達。あまりの気迫にすこしながら恐怖を感じているようだ。


「なぜ、なぜお前はそこまで……」

「俺は誓ったんだ……俺がどうなろうとも、光を守るってな!」

「あなた……」

「やれるもんならやってみろ!俺は光のためなら絶対に立ち上がってやる!」


公二は光の前に立ち、光を守っていた。体はボロボロ、しかし目は鋭く、不良達をにらみつけていた。


「……俺たちの負けだ……お前に免じて引き下がってやるよ……ほら、帰るぞ!」


不良達は公二の気迫に圧倒されたのか、あっさり引き下がった。
不良の姿が見えなくなたとたんに公二はがっくり膝をついてしまう。


「うっ……」

「大丈夫!あなた!」


光は急いで公二の元に駆け寄る。・


「ああ、家に帰るぞ」

「うん……」


公二は光の肩を借りてふらふらの状態で校門から帰っていった。






2人の様子を教室から見ていた美帆は妖精さんと会談していた。

「なんで、王子様はあの魔女にそこまでするの?……ねえ、妖精さん、もっと懲らしめて……えっ!」

「もう勘弁してくれって……妖精さんにできないことはないでしょ!……え、今なんて言ったの!」


美帆の口調は明らかに焦りの色が見えていた。いつもならうまくいくのに、今日に限ってまったくうまくいかない。ずっと笑顔だった美帆の表情も焦りと怒りの表情が見え始めていた。


「彼はあきらめろって……どうして?あの人は私の白馬の王子様なんですよ……えっ!」

「あなたにとって、彼は王子様かもしれないが、彼にとってのお姫様は彼女だって……ちょっと!」


どうやら、妖精さんに命令するはずが、逆に説得されているらしい。


「ふたりは深い絆で結ばれている、これを切ると彼は不幸になるって……そんな……」

「そこまでして、好きな人を不幸にしたいのか、好きなら身を引けって……」


妖精さんと話している内に、美帆の表情には怒りも嫉妬も焦りもなくなっていた。もう選択肢は一つしか残っていないことを知ってしまったからかもしれない。


「……わかりました、彼はあきらめます……ぐすん」

「……えっ、白馬の王子様は別にいるよって……ありがとう、妖精さん……ぐすん」


校門を出る2人の姿を見つめる美帆の頬には一筋の涙が流れていた。






その夜、公二の部屋。公二は怪我した部分に包帯を巻き付けていた。光はそれを悲しそうな表情で見つめている。


「今日は、怪我ばっかりだったな」

「それもみんなうちのために……ううっ」


とうとう光は泣き出してしまった。公二は光を抱きしめ、落ち着かせようとする。


「お、おい泣くなよ!」

「だって……あなたにもしものことがあったら、うちは……ううっ」

「大丈夫だ、俺はずっと光の側にいるから……約束するよ……」

「ありがとう……あなた」

「俺は絶対に側にいるよ……光のためにも……そして恵のためにも」


2人は恵の様子をじっと眺めていた。 光もいつの間にか泣きやんでいた。恵を眺めているときが、2人が一番幸せなときである。


「あれ?……光!」

「どうしたの?」

「恵の口をみろ!」

「ああっ!」


恵に歯が生え始めていたのだ。驚きと喜びの混じった表情を浮かべる二人。


「恵に歯が生えたんだ……」

「2本だけだけど、可愛いなぁ」

「本当……」

「俺……この笑顔があれば、どんなことでも耐えられると思う……」

「でも……無理しないでね……辛いことはふたりで乗り越えようね……」

「ああ……もう、無茶はしないよ……」


恵の成長とともに、公二と光も、大人として、夫婦として、成長しているのかもしれない。
To be continued
後書き 兼 言い訳
第1部その3です。
公二と光に最初の波乱がやってきました。

公二は運動がすごいわけではありません。喧嘩も強くありません。
でも、公二は男です。そんな情景を描いてみました。

美帆ちゃん。かなり暴走してます。
なんたって、妖精さんが実際に見えているんですから。
彼女は当分あのキャラです。

次回は第1部の最後、これからの展開を示すお話です。
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