第10話目次第12話
「いらっしゃませ〜!」


夜、商店街にある『響野食堂』で公二はアルバイトをしている。
公二も光も部活には入っていない。 光は家に帰って、食事の準備や、恵の世話をするため。 公二は、アルバイトをするためだ。

恵の身の回りのものは、親からの援助がある。しかし、できるだけ自分で稼いだお金で買ってあげたいとの思いから、公二は毎日アルバイトをしているのだ。
それに、公二には何より大切な目的がある。 それは……婚約指輪を買うためである。

太陽の恵み、光の恵

第2部 バイト編 その1

Written by B
今日も普段通りに客席での仕事に励む公二。そんな中、お店に見慣れた3人が現れた。


「お客様何名様で……あれ?匠に水無月さんに白雪さん!」

「こんばんわ」

「お邪魔しますわ」

「やあ!お前がここでバイトしているっていうから見に来たんだ!」


琴子と匠と美帆が私服で食堂にやってきた。意外なお客に少しだけ驚く公二。


「それはありがたいけど……ここは、夜は居酒屋だぞ!」


琴子は出で立ちが大人っぽいのでなんとかごまかせるが、匠と美帆はどう見ても大人には見えない。少なくとも夜に居酒屋にわざわざ友人に会うためにやってくる高校生は普通いない。


「別にいいだろ。酒を飲まなければ。飲んでも見つからなければ」

「まあな……」


匠の言葉に不思議と納得してしまう公二。


「大丈夫ですよ。もし飲んでいるのが見つかったら、妖精さんに記憶を消してもらいますから」

「ははは……」


美帆の発言には公二はただ笑うしかなかった。


「そうとわかればさっさとお客様を席へ案内しなさい!」

「は〜い……」


琴子の台詞に、説得しても無駄と判断した公二は普通に3人をテーブルに案内する。テーブルに着くやいなや、早速メニューから料理を選んで注文する。


「じゃあ、注文はこれでよろしくね!」

「は、はい……」


注文内容に一瞬戸惑う公二だったが、反論したところでさっきの会話を繰り返すだけだと公二は感じてなにも言わなかった。そして、半ばやけくそ気味に店の奥の店員に注文を知らせる。


「天麩羅定食と豚の生姜焼定食と刺し身定食……に……日本酒3本!」

「う、うん!わ、わかったよ!」


公二の声に女の子が返事をする。ここでは、もう一人ひびきの高校の同級生が働いている。実は、この職場は彼女の紹介なのだ。






彼女と知り合ったのは1週間ほど前のことである。
それは、公二が休み時間、授業の復習を一人でしていたときのことである。


「……ということは?ここは、えーっと……」

「ふむふむ」


いつの間にか公二の目の前に、見知らぬ女の子がいた。 まだ5月なのに夏服を着ている。


「……あのう、君は?」

「あ、ボクのことなら気にしないで。続けて、続けて」


女の子はそう言うので、公二は気にせずに復習を続けることにした。


「う、うん……ここは、これがこうだから、あれがそうなって……」

「ふんふん。で、ここんとこは、どうなってるわけ?」


気にしないで、と言っておきながら質問すう女の子。


「えっ、ここ?これの場合は……」

「あ〜、そうするわけね」


しかし、公二はそんなことは気にせずに質問に親切に答える。


「……というわけで答はこう!」


疑問に応えるのは答える方としても勉強になる。本当にわかってないと、質問に答えることができないからだ。そういうこともあり、公二は質問には親切に答えるようにしている。


「一応分かったけど、ボクが一人でも出来るように、もうちょっと、分かりやすく解けない?」

「は、はあ、うーんと、これが教科書のこれだからこうなるでしょ?」

「ふんふん」


公二は矢継ぎ早の質問に呆れながらも親切に答える。今度はさっきよりも詳しくそれでいてわかりやすいように。女の子はその説明を真剣に聞いている。


「で、これをあれに使うとそうなるの」

「あ〜!そっか!わかった!助かったよ!ありがとね!じゃあ!」


そういって、女の子は教室をでていってしまった。






突然現れて、いきなり質問されて、颯爽と消えてしまった女の子に驚いたままの公二。


「……い、今の誰だ?」

「お前、一文字さん、知らないの?」

「うわっ!出た!」

「何だよ、人を妖精さんみたいに」


そんなときに不意に匠から声を掛けられた。不意なのですこしオーバー気味に驚く公二。それを見てなぜか少し不満そうな匠。


「急に現れるお前が悪いんだよ!それに妖精さんって……まあいい……で、一文字さん?」

「ああ、一文字茜っていう名前だよ」


そう言って匠は自分の手帳から一文字茜のデータを公二に見せる。






『一文字 茜 1年D組
 両親が旅行に行ったっきりで帰ってこないために、アルバイトで家計を支えている。
 今夏服を着ているのは、制服がそれしか買えなかったかららしい。
 3サイズが、89・59・86でとてもナイスバディ』





(なんだこの匠のデータは?3サイズがえらく強調されているぞ……)


匠のデータの特別事項に呆れる公二。


「茜ちゃんはかわいいし、なんたってバストが……」

「はいはい……」

(しかし匠はバストの大きな女の子が好きなのか?)


匠はついつい本音がでてしまったようだ。しかし他人のスリーサイズにあまり興味のない公二はその話題をさらりと受け流す。


(ふ〜ん、一文字茜か……でも、なんでわざわざD組からA組まで来たのだろう?)


そのかわりに、ふと公二の頭によぎった疑問。
その理由がわかるのは、それからしばらくたってのことになる。






その日の放課後。
公二はアルバイトを探しに街へ行こうと玄関にいた。 そこで、帰ろうとしていた茜と出会った。


「あれ?確か一文字さんだっけ?」

「うん。今日はありがとう」

「一文字さんはこれからどこへ行くの?」

「これからボク、アルバイトに行くんだ」


これはいいところでいい人を見つけた。そんなことを考えていた公二は茜にアルバイト情報を聞き出そうとしてみる。


「ちょうどいいや、ちょっと頼みがあるんだけど……」

「何?ボクにできることなの?」

「いや、学校にも慣れたから、俺もアルバイトを始めようと思うんだけど、いいアルバイト先知ってる?」


茜は腕を組み目を閉じて公二のお願いについて色々考えてみる。するといいことを思いついたようだ。


「え〜と……そうだ!知り合いの食堂で従業員を探していたから紹介してあげるね!」

「うん、ありがとう!」


とっておきの情報を提供した茜ととっておきの情報を入手した公二。二人の思惑はちょうど一致していた。


「そういえばキミの名前知らなかったね」

「あ、そうだ。俺の名前は主人 公二。よろしくな」

「うん。よろしくね!」


その夜、茜から連絡をもらった公二は、さっそく次の日から働くことになった。






茜が紹介したアルバイト先はは茜のアルバイト先でもあることは、初勤務の時に知ることになる。
茜が紹介してくれた「響野食堂」に言ってみると、割烹着姿の茜がお店の中で待っていた。


「あれ!一文字さんも!」

「えへへ!実はボクがバイトしているとこなんだ!」


茜の顔はほんのり紅かったが、公二はそれには気づいていなかった。


「それならそうと早く言ってくれれば……」

「だってぇ……」


しかし茜は照れてしまって、それ以上は答えてくれなかった。
茜はカウンターで料理を作っている。家でもしているのかバイト経験が長いのか腕前はかなりのようだ。 一方、公二は客の注文を聞いたり、料理を運んだり、要はウェイターである。






時間は元に戻って、あの3人組はというと……


「うぃ〜。うちの高校には西洋かぶれが多いのよぅ!ここは日本よぅ!だいたい……」
「聞いてよ、妖精さん……最近の妖精さんの勤務態度はなんなの〜!ひっく……」
「みんなで俺を助平男だ助平男だって……うぃ〜……男が助平で何が悪い……」


完全に酔っ払ってしまいました。


(こ、こいつら、何をしにここに来たんだ?)


そもそもの今回の本当の目的は「公二がアルバイトをする真の理由を聞き出すこと」だったのですが、 いつの間にか愚痴話大会になってしまっていた。


(どうしようか……放っておくわけにもいかないし……)


公二は今晩彼らをどうしようか悩んむことになった。 そして、もう友達でも未成年に酒を出すのをやめようと決めた。
次の日、琴子、匠、美帆は初めて飲んだ酒で二日酔いになってしまい、学校を休んだのはいうまでもない。






そんな中、茜は料理をしながら店の常連2人と話をしていた。


「やあ、茜ちゃん。あの子は新入りかい?」

「うん!ボクと同じ高校なんだ!」


その言葉を聞いてお客は驚いていた。


「えっ!高校生!そう見えたかい?」

「いいや、そう見えなかったけど」


あまりの驚きように茜は不思議がっていた。なんでこの客はそこまで驚くのかわかならかったからだ。


「本当?どこが高校生に見えないの?」

「なんて言うかなぁ。顔つきが違うんだよなぁ……」

(そういえば公二くん……何か輝いているような気がする……)


たしかに接客をしている公二は真剣だった。サービス業なので表情はさすがに明るく笑顔で接客していたが、目は真剣で輝いていた。


「そうだ!つい最近結婚した奴があんな顔していたなぁ」

「おまえんとこにそんな奴がいたんだ」

「ああ、そいつ『俺には命よりも大切な妻が待っている』って感じで気合が入っていたんだよなぁ……」

「へぇ……」

(大切な人かぁ……公二くんにもそんな人いるのかなぁ……)


お客の会話を静かに聞いていた茜はそんな公二に対してそんなことを考えていた。


「しかし、あんなにしっかりした高校生めったにいないよなぁ」

「茜ちゃんもあんな人を旦那さんにすればいいよ」

「えっ!だ、旦那さんなんて……そんなぁ……ボクなんか、まだぁ……」


お客の突然言葉に驚きながらも照れてしまう茜。


(でも、公二くんなら……いいかも……)


しかし茜の表情はまんざらでもない様子だった。
その日から、茜には公二に対して特別な感情が芽生え始めていた。
公二には命よりも大切な妻と娘がいるとも知らずに……
To be continued
後書き 兼 言い訳
第2部がいよいよスタートです。
ストーリーはここからが本番といってもいいかもしれません。

今話で茜ちゃんが初登場。
彼女は、第2部のサブヒロインです。
茜ちゃん中心にストーリーは流れ出します。

あの3人組、さっそく酔っ払いました(爆
この話の酔いどれストーリーはここからスタートです。
この先、彼女達を中心に事あるごとに酔いだします(汗

次回、茜ちゃんにある事実が判明します。
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