第12話目次第14話
次の日の夜、いつものように公二と茜はアルバイトをしていた。 ただ、いつもと違っていたのは、2人の間で仕事以外話がなかったこと。

そして、アルバイトの前、茜から一言。


「今日、仕事が終わったら。公園で待ってて……」


と言ったきり無言だったからだ。

太陽の恵み、光の恵

第2部 バイト編 その3

Written by B
アルバイトが終わった公二は一直線に公園に向かった。 公園のベンチに、神妙な顔をしている茜の姿があった。


「茜ちゃん……」

「あの……もう夜遅いっていうのに……その……ごめんね、呼び出したりして」


茜はベンチから立ち上がった。そして公二の真正面に立ち、まっすぐ公二を見つめる。


「そんなこと気にしなくていいよ……それより、用って、何?」

「ボク、キミを無理矢理同じバイトに誘ってごめんね……」


いきなり謝られて戸惑う公二。自分は茜のおかげで悪いことは感じていなかったからだ。


「どうして謝るのさ?茜ちゃんのお陰で楽しいよ、俺。お礼を言うのは、俺の方さ」

「ボク、家が大変でしょ……だからバイトばっかりで……」

「たしかそうだったね」


前に茜本人から話は聞いていた。茜の親は格闘家で、今はは武者修行の旅とかで子供を置いたまま家を留守にしてしまっている。送られてくる生活費は十分ではなく、茜がバイトをして生活費を稼いでいた。


「他のみんなみたいに自由に遊べなかったし……ボクなんて、ボクなんて……」

「茜ちゃん……」


寂しそうな表情をする茜。しかし公二が何かできるわけではなく、ただ話を聞くしかなかった。
茜の話は続く。茜はいつのまにかうつむいていた。自分の表情を見せたくないかのように。


「ボク、寂しかったんだ……だから、こうくんがバイトを探しているって聞いたとき、嬉しかったんだ……」

「えっ……」

「一緒にいてくれる人ができたって……」

「………」

「ボク、できるだけ近くにいるようにしたんだ。キミが近くにいるだけで嬉しくて……」






「でも、キミには好きな人がいる、大切にしている人がいる……迷惑だったでしょ……」

「そんなんじゃないよ、俺は……」

「言わないで!いいんだ、キミって優しいから……」

「茜ちゃん……」


辛そうに話す茜。それを見ている公二も痛々しく思う。しかし茜は話すのを止めない。


「でも、聞いて……ボクだって、一度はあきらめた、それも仕方がないって……でも、駄目だった……だって、キミがあの時の、ボクがずっと忘れられなかった、あの男の子だって知っちゃったから!」

「!!!」


公二はこのあとの茜の言いたいことにやっと気が付いた。しかし、もう遅い。
茜はゆっくりと頭を上げる。
そして公二の瞳をじっと見つめる。
公二から見た茜の瞳はさっきの寂しそうな瞳ではなかった。
何か燃え上がるような決意を秘めた瞳だった。


「ボク、本当に悩んだよ。昨日だって眠れなかったし……だから、ボク、決心した!けじめを付けるためにも、ボクの気持ちを、ボクの気持ちを知っておいて!」


そして茜は自分の想いを大きな声で公二に打ち明ける。


「ボクは……ボクはキミのこと大好きだ!ずっとずっと一緒にいたいんだ!」

「……ごめん」


今度は公二が頭を下げた。公二には謝ることしかできなかった。


「やっぱり、だめだよね……」

「茜ちゃんは何事にも前向きで、いつも元気で好きだけど……」

「………」


公二は辛かった。公二は女の子を振るのは初めてだった。女の子を振るのはこんなに辛かったのか。公二は身にしみて感じていた。


「茜ちゃんの想いには応えることはできない……ごめん」

「謝ることはないよ……こうなることはわかっていたから……」

「茜ちゃん……」


二人の間に沈黙が走る。告白した女の子と、それを振った男の子。一度こうなった二人は次はどんな関係になるのか難しい。
そんな雰囲気のなか、最初に声を掛けたのは振られた女の子のほうだった。


「こうくん。明日からも私たち、仲のいいバイト仲間だよね?」

「ああ……もちろんだよ……」

「ありがとう、こうくん……じゃあ、また明日!」

「あ、茜ちゃん……いっちゃった……」


茜は走り去ってしまった。その背中はとても寂しそうだった。
公二はそれをただただ見送るしかなかった。






その晩。光の家に帰ってきた公二は……


「ただいま……」

「おかえり〜……って、あなた、どうしたん?」


公二の表情は暗かった。どう考えてもバイト先で何かがあったとしか考えられない。


「………」

「ねぇ、バイト先で何があったん?」


心配になった光は公二にそう問いかける。


公二は返事をする代わりに逆に問い返した。


「なあ、光。自分を振ったバイト仲間と一緒にバイト続けられるか?」

「うちやったら無理や。その相手を見たら辛くなる……ねえ、もしかして……」


光は今日公二に起きた出来事がなんとなくわかってきた。


「ああ、一文字さんから告白された……振られることを承知の上で……」

「どういうこと?」

「俺には大切な人がいるって言ったんだ……さすがに、結婚しているとは言ってないが」

「そうなんや……」

「しかも、俺、彼女の初恋の人らしいんだ。小2の時に出会ってそれが初恋だったらしい」

「じゃあ、余計辛かったんやろうね……」


光は公二しか好きになった人はいない。しかし恋の辛さはイヤと言うほどに味わってきた。だから光には茜の辛さがわかるような気がした。


「そう思う……もう、告白して振られる以外に諦める方法がなかったんだろうな……」

「一文字さんを振った、あなたも辛いやろ……」

「ああ……一文字さんは健気でいい人だ……だから余計に……」

「………」


公二が女の子を振ったというのを聞いて、光は少し複雑な気持ちだ。確かにに告白を受け入れるのは問題外。しかし女の子を振って辛い思いをしている公二を見るのもやぱり辛い。


「なあ、光。明日どうやってアルバイトすればいいんだろう?どんな顔でいたらいいんだろう?」
「変に気をかけないほうがええ……友達として接したほうが……彼女も友達でいたいと思うやろから……」

「……そうだな……」

「一文字さん……大丈夫やろか……」


光は会ったことも見たこともない茜のことを心配していた。






一方、茜の家。茜の部屋では……


「やっぱり振られちゃった……でも、これでいいんだ……もう、未練はないよね……」


茜は机に座ってつぶやいていた。


「こうくんには大切な人と幸せになって欲しいから……」


バイトから帰った後、ずっとこの状態だった。


「明日からは、こうくんとはただの友達……仲のよいバイト仲間……そう、それでいいよね……」


しかし、ひとり語っている茜の頬に涙が伝わっていた。


「あれ?どうして……もう、未練はないのに……なんで涙がでるの……」


拭いても拭いても止まらない。


「どうして?……涙がとまらない……」


それどころか、どんどんあふれ出てくる。


「今日ぐらいいいよね……泣いてもいいってことだよね……」


茜は黙ってしまう。そしてもはや涙も拭かずにただじっとしている。
そして……


「……うわぁぁぁぁぁぁん!」


茜は大きな声で泣いた。自分の想いを吐き出すかのように……






そして、次の日の放課後。事件が起こった。
公二が生徒玄関に行ったのが事件の始まりだった。


「さて、帰るか……ん?何だ、これ?」


手紙には男の字でこうかかれていた。


『今日の放課後、河川敷公園にて待つ』


力強い豪快な字。この手紙にはそれだけではない。なにか強いものを感じていた。


「こ、これは……河川敷公園か……どうしよう?」

(なぜだろう……行かなければいけないような気がする……行こう……)


公二がこう決心したときに、部活に向かう純一郎と出会った。


「よう、どうした?珍しく真面目な顔してるけど」

「おいおい、珍しくはないだろ。ま、ちょっとした用事があるんだ。じゃあ」

「お、おい。どうしたんだ?……あれ?」


公二は走って玄関を出た。そのとき、手紙を落としてしまったのに気づいていなかった。


「なんだこの手紙?……何だ?これ?……しかし、誰からだろう?」


純一郎は何の目的の手紙だかさっぱりわからなかった。






純一郎は思案しながら部活の準備をしていると、誰かを探している様子の光をみつけた。光はいつも公二についているので、純一郎との面識もかなりある。赤面症の純一郎だが光にはある程度声を掛けることができる。


「あれ、陽ノ下さん?」

「あ、穂刈くん!ねえ、公二くん見なかったん?」

「ああ、あいつなら下駄箱にこの手紙を見つけて、真面目な顔をして走っていったぞ」


そう言って純一郎は光にさっきの手紙を渡す。


「えっ?手紙って……なになに……!!!」


手紙を読んだ光の顔から血の気がひいていく。


「どうしたんだ?」

「すまん!私、急いでいるから!さいなら!」

「あ、陽ノ下さん!」


光は後ろに方向転換して全速力で走り去ってしまった。


(なんでやろ……ものすごく、いやな予感がする……急がないと……)


女の直感だった。
絶対に行かなくては行けない。なぜだかはわからない、でも行かなくては。そんな思いが光を走らせていた。






そのころ、茜は校門で公二を待っていた。


「せっかく、バイトに一緒に行こうと思ったのに……どうしたんだろう?」


しかし、既に公二は河川敷公園に向かったあとだが、茜はそれを知らない。 そんな茜の前を一人の女の子が全速力で通り過ぎていった。


「きゃっ!いまの人、凄い顔をして走っていったけど……あれ?この手紙は?」


その子はは手紙を落としていた。茜はその手紙を読んでみる。


「あれ?この字は……もしかして……うそ!……私も急がなきゃ!」


手紙を読んだとたんに茜の表情が険しくなる。そして茜も思い立ったかのように河川敷公園に向かった。






公二は河川敷公園に着いた。 しかし、そこには誰もいない。


(誰もいないようだけど……)


すると、いつのまにか、学ラン姿の大男が立っていた。


(見覚えがある、この街の総番長と呼ばれている男だ!)


「逃げずに良く来たな。その勇気は賞賛に値する。しかし、お前は絶対に許さん!」

「一体どういう事だ!?」

「問答無用!!」


いきなり、総番長が公二に襲いかかってきた。 公二は素早くよける。 間をおかずに、総番長がパンチを繰り出す。運動能力がそれほど高くない公二は避けるだけで精一杯だ。


「ちぇっ……でも、いつまで避け切れるかな?」

「てめえ、何の因果があって俺に!」

「うるさい!」


どかっ!


「うわっ!」


総番長のパンチが公二を直撃した。さすがの威力に公二は倒れてしまう。 すかさず総番長は公二の上にまたがる。マウントポジションと呼ばれる格好だ。公二は完全に逃げられなくなった。
そして、総番長は上から無数のパンチを食らわせる。


ぼこっ!


「ぐわっ!」
「食らえ!」


総番長の表情は鬼のように怒っていた。


ぼかっ!


「ううっ!」
「この野郎!」


総番長のパンチは強力だった。そんなパンチを至近距離から猛烈に喰らっている公二。


ぼこっ!


「ぐえっ!」
「茜を泣かせやがって!」


総番長の一言に公二が反応する。それはこんな時に思ってもいなかった名前だった。


「えっ!茜ちゃんがどうしたんだ!」
「昨日なぁ、茜はずっと泣いていたんだ!お前のことでなぁ!」

「何で、茜ちゃんのことを知っている!」
「お前に言う必要はない!とにかく、茜を泣かせたお前は絶対に許さん!」


ぼかん!


「うわぁぁぁ……」


強烈な一発に公二も半分意識が飛んでしまっていた。






その頃、匠は玄関で琴子と美帆と一緒に食堂に行こうと待っていた。食堂に行く目的はいつもと同じなのだが。


「お待たせ」

「いや、全然待ってないよ」

「それでは参りましょう」

「ああ……あれ?お〜い、純!」


3人の前に純一郎が現れた。彼も部活を終えて帰るところだった。しかし、純一郎は何かを考えている様子だった。


「どうした、純?」

「いや?公二が誰かに呼ばれて、河川敷公園に行ったんだが、なぜだろうと思って……」


公二と聞いて無視しないわけにはいかない。3人は純一郎に詳細を聞こうとする。


「本当なの穂刈君?」

「ああ。そういえば、そのことを陽ノ下さんに話したら血相を変えて走っていったけど……」


さらに純一郎の口から光の名前まで飛び出した。こうなると無視できない。
そんななか、美帆はなにやら宙に向かってなにやら聞いている様子。そんな美帆の表情が険しくなっていった。


「!!!妖精さんが重大事件だと言っています!行きましょう!」

「そうね!何かあると思うわ!」

「急ごう!河川敷公園だな、純!」

「ああ、俺もついていくぞ!」


4人は急いで河川敷公園に向かって走り出した。






河川敷公園では、何十発もパンチを食らった公二が倒れたまんまだった。そばで総番長が公二を見下ろしていた。


「もうへたばったか……」


そう言って、総番長が立ち去ろうとしたとき、公二が立ち上がろうとしていた。


「総番長、すまないが……これだけは譲れないんだ……俺の想いは……」
To be continued
後書き 兼 言い訳
とうとう茜ちゃんが告白しました。しかし振られてしまいました。
公二は茜ちゃんを泣かせました。そうなると薫あにぃの出番です。

今回は本編イベントが中心で特に変わったことはありませんけどね。

次回は第2部最終話。二人の戦いが結末を迎えます。
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