第13話目次第15話
「総番長、すまないが……これだけは譲れないんだ……俺の想いは……」


公二は総番長から何十発ものパンチをくらいながらも立ち上がった。


「なんだとぉ……」

「俺には……愛する人がいる……この想いは一生変わらないだろう……」

「てめぇ……」


公二はやっと立ち上がった。やっとの状態なので構えとかそんなものはできていない。それでも公二の眼光は鋭かった。


「茜ちゃんの為なら嘘ぐらい簡単だ……でも、この想いだけは嘘つけられねぇんだ!」

「なめたセリフいいやがって!」


どごぉぉぉん!

太陽の恵み、光の恵

第2部 バイト編 その4

Written by B
「ぐぉっ!」


総番長の右ストレートが公二に簡単に決まった。 公二は再び河原に倒れる。そんな公二を総番長は真上から見下ろす。


「まいっただろう……」

「……まだだ……」

「!!!」


公二はまたもや立ち上がった、しかし立ち上がるだけで精一杯だ。総番長の顔は真っ赤になっていた。公二の態度にさらに怒りが倍増されているのだろうか。


「てめぇ……そんなに刃向かいたいのか?」

「俺は……こんなんで屈するわけにはいかないんだ……そう誓ったからな……」

「はぁ?なんだってぇ!」


総番長の握り拳が震えている。今にも振りかざそうとしていた。


「俺がどうなろうとも……光を守るってな!」

「ふざけるな!」


またもや総番長が公二に殴りかかった。あまりの早さ、強さに公二は何も対応できない。


ぼこっ!


「うわぁ!」
「そんなお前がなぜ茜に近づいた!」


どかっ!


「ぐぇっ!」
「茜を弄んぶだけ弄んで捨てやがって!」


ぐごっ!


「ぐぅぉ!」
「茜の気持ちを考えたことがあるのか!」


ばこっ!


「うぐっ!」
「お前だけは……お前だけは……絶対に許すわけにはいかなねぇ!」


ばこぅぅぅん!


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!」


どかん!


総番長の渾身のパンチが何発も連続で公二に襲いかかった。 特に最後の1発は強烈だった。公二はまたもや河原に横になっていた。






公二は動く様子がなかった。総番長はそれを真上から確認していた。


「終わったか……それにしても、しぶとい奴だった……ん?そういえば……」


総番長は、1カ月ほどまえに、不良3人から変なことを聞いたのを思い出した。


『総番長、そいつ強くないのに……女のために何度も立ち上がって……俺たち怖くなって……』


校門で光に絡んできた不良3人の話である。


「あいつらの言った奴とは、こいつのことだったのか……でも、あれだけ攻撃を食らわせれば動けないだろう……」






総番長が帰ろうとしたとき、地面から声がした。


「まだ……まだ、おわってない……」
「なにぃ!」


公二は三度立ち上がった。しかしもうふらふらの状態ですぐに倒れそうだった。 これが総番長の怒りを増長させてしまった。


(こいつ、俺の攻撃を食らっても、何度もたちあがる……それも女の為に……茜ではない女のために……なのに、なぜ茜に……もう我慢できねぇ……絶対に許せん……二度と動けないようにしてやる……)


総番長の怒りはとうとう最高潮に達した。


「とうとう、俺を完全に怒らせたな……お前、そんなに死にたいんだな……」
「………」


公二は何も言わない。いや、何か言う力も残っていないようだ。


「なら、殺してやる」


総番長の拳に力が入る。 公二には、その拳から強力なオーラがでているように見えた。
もはや公二には動ける力はない。総番長が全ての力と怒りを込めた拳が襲いかかる。


「死ねぇぇぇっ!」


拳を振りかざし殴りかかる総番長。それを何もできずに立ちつくす公二。
そのとき、二人の耳に女の子の声が聞こえていた。


「あぶな〜い!」


どごっ!


「ぐわぁぁぁぁっ!」

「……?」


公二は無事だった。総番長と公二は一瞬何が起こったのかまったくわからない。
しかし、すぐに事情がわかった。


「!!!」
「ひかり!」


そこには、総番長の最強の一撃を食らって宙を舞う光の姿があった。






どかっ!


光の体は人形のように何も抵抗せず河原にたたきつけられた。公二は光の所へよろよろと歩き出す。


「光!」
「よかった……君が無事で……」


光は公二に微笑んだ。しかし、総番長に殴られた顔は非常に痛々しかった。


「どうして……どうして俺をかばった!」

「だって……あなたのピンチを救うのは当然や……」


光はあくまで微笑んでいた。公二に心配掛けないように、そんな思いからだろう。そんな光の姿に公二の心が非常に痛む。その痛みは総番長に殴られた時以上だった。


「なぜ……」

「私たちは夫婦……夫婦だからお互いに助けあわなきゃ……」

「だからって……」

「あなたは……うちにとって……命よりも……大切な……」


光の頭がガックリと垂れる。光は意識を失ってしまった。


「光?……ひかり!……ひかりぃぃぃぃ!」


公二がいくら声を掛けようと、体を揺すろうと反応はなかった。






公二は鬼の形相で総番長を睨みつける。総番長は突然の出来事に呆然と立ち尽くしている。


「てめぇ……俺の光を……愛する光を……」

「そ、それは……」


総番長はさっきとはうってかわっておろおろしていた。自分の渾身の一撃を普通の女の子に食らわせてしまったことに動揺していた。


「許せねぇ……絶対に許せねぇ!」


反対に公二は怒りに震えていた。
光を傷つけた。光を痛めつけた。そして光を守ることができなかった。自分への怒り、そして総番長への怒り。公二の体は怒りのパワーで満たされていた。さっきまでフラフラの状態だったのが嘘のようだ。


「お、おまえ……」

「うぉぉぉぉぉぉ!」


完全に立場が逆転した。






公二は全ての力を振り絞って、総番長に向かって走り出した。そして、怒りの渾身の右ストレートを繰り出した。


「くらえぇぇぇぇぇ!」


どかぁぁぁぁん!


公二の拳が総番長の顔面を直撃した。総番長の顔が衝撃で歪む。


「うわぁぁぁぁ……」


ばたん!


総番長は地面に倒れてしまった。総番長はもう動く様子はなかった。


「はあ、はあ……勝った……光、かたきはとった……」


公二もそこで意識を失ってしまった。






「……大丈夫!?……ねえ、大丈夫?」


公二は誰かの声に気がついた。気が付くと目の前には茜の心配そうな顔があった。


「……あ、あれ?……茜ちゃん?どうしてここに?」

「そんなことより、怪我は?」

「大丈夫、大丈夫。平気、平気、っ痛……」

「良かった……!!!」


茜は公二の意識が戻るのを確認すると、突然総番長のところにズカズカと歩いていった。総番長は意識が戻って、起き上がるところだった。


「お、お、お……」

「あ、茜ちゃん?」

「……お兄ちゃんのバカー!」


ぼかっ!


「グボォッ!!」


なんと、茜は総番長に右ストレートをお見舞いしたのだ。茜の怖いもの知らずの行動に驚く公二。それよりも驚いたのが茜の口から飛び出した『お兄ちゃん』という単語。


「おっ、お兄ちゃん!?まさか、茜ちゃんのお兄さんって……」

「そうなの……ここと隣町を仕切る、番長なの……」

(そ、そうなのか……それで、俺を……)


公二は初めて総番長が自分に喧嘩をふっかけた訳がわかったような気がしていた。
一方、茜は総番長にふっかけるように問いつめていた。


「でも、でも、どうしてこんな事するの!?今日こそ教えて、お兄ちゃん!」

「……俺はもう、茜の泣き顔を見たくなかった」

「?……ボクの、泣き顔?」

「茜がまだ小学生の頃、ある日、泣きながら帰ってきた……。好きだった男の子がいなくなったと」

「だ、だからって……」

「俺は決めたんだ!『茜を泣かす奴は許さん!』と。それからは茜に近づく男は俺が……」

「お兄ちゃん……」

「………」


間違いなかった。
昨日振られた茜が泣いているのをみてしまったのだろう。その怒りは振った自分に向けられた。公二は総番長の気持ちがわかるような気がしていた。






ばたん!


しかし総番長は再び倒れてしまった。


「お兄ちゃん!」

「茜ちゃん。総番長の手当を!」

「で、でも……」


今の公二には自分のことよりも気がかりな事があった。


「俺は光の事が……」

「光?」


茜は何のことかわからなかったが、近くで倒れている女性に気がついた。


「光って彼女のこと?」

「ああ……俺の愛する人だ……」

「なんでここに?」

「俺の身代わりになって……総番長の渾身の一撃を喰らった……」

「嘘……信じられない……大人でも病院送りになるのに……」


公二の言葉に茜は顔面蒼白になった。それだけ総番長の一撃はすごいのだろう。






「……う〜ん……」


光が微かに動き出した。 それに気づいた公二は光へと駆け出した。


「光!大丈夫か!」

「……あなた……」

「光!」


公二は光に抱きついた。


「ちょっと!あなた!」

「よかった……よかった……」


公二は光に抱きついたまま泣いていた。公二は光が無事なことを確認して思わず泣いてしまったのだ。


「どうしたんや!」

「光に何かあったら、俺……」

「……おおきに……」


男泣きをする公二に抱きつかれて光も顔が真っ赤になっていた。






「……どうして、俺のこと知った?」

「あなたを探していたとき、穂刈くんから手紙のことを聞いたんや……」

(純のおせっかい野郎が……)


公二は一瞬そう思っていたが、純一郎のお節介がなければ今頃病院送りだったかもしれない。お節介でも感謝しないといけないな、公二はそう思っていた。


「嫌な予感がして、ここに来たらあなたがピンチで……もう、無我夢中で飛び込んじゃった……」

「無茶しやがって……」

「ごめん……」

「帰るぞ……」

「はい……」


公二と光は肩を組んで立ち上がった。






2人の目の先には,、その様子を離れて見ていた寂しそうな茜の姿があった。


「こうくん……」

「一文字さん……」

「彼女が光さん……お似合いだね、こうくん……」


茜の顔には笑顔が戻っていた。しかしその笑顔は依然寂しい雰囲気が潜んでいた。


「茜ちゃん……ごめんな……」

「いいんだ……ごめんね、お兄ちゃんが迷惑掛けて」

「総番長は悪くない……悪いのは俺だから……」

「えっ……」


公二は光の肩をかりたまま、ゆっくりと歩き出す。


「怪我しているから……今日はアルバイトは休むよ……じゃあ」

「そうなんだ……じゃあ、明日ね……」

「じゃあ、また明日……」


公二と光は肩を組んだまま、フラフラと公園から去っていった。






公二と光の姿が見えなくなった頃、総番長が茜のところにふらふらと歩み寄る。


「あいつらは行ったのか……」

「うん……」

「すまん、茜……」

「もういいよ。お兄ちゃん……もういいよ……」

「茜……」


総番長と茜は公二と光が歩いて言った方向を向いていた。姿は見えないが、明らかに公二と光の姿を見ていた。


「あの2人……お似合いだね……」

「女のために何度も立ち上がる男……男のためにためらいもなく盾になる女……お似合いの2人だ……」

「そうだね……」

「茜、惚れた相手が悪かったな……あまりに良すぎたな……男も女も」

「でも、こうくんとは友達になれたから……」


茜はつぶやいたが、本心ではそう思っているように見えなかった。やはりまだ未練があるのかもしれない、総番長はそう感じていた。


「………」
「………」


二人の間に沈黙が走る。
何かしたわけではないが気まずい雰囲気が漂う。


「帰るか……」

「ボクも一緒に帰る……」

「いや、お前はバイトへ行け……それがいやならここで思う存分泣けばいい……」

「お兄ちゃん……」

「俺は一人で帰る……また、茜の涙を見たら、俺はどうなるかわからないから……じゃあな」


総番長も一人で帰っていった。






河川敷公園にはただ一人茜だけが残された。 茜は芝生に座って川の流れをじっと見つめていた。


「また、ひとりになっちゃった……でも、ボクには友達ができたから……あれ?」


茜の耳に何人かの声が聞こえてきた。


「はあはあ、やっと着いたわ……みんな遅いからいけないのよ!」

「水無月さんこそ……最初に疲れて休んだのは誰だよ!……はあ」

「さすがに妖精さんもそんなに早く走れないようで……はあはあ」

「みんな体力ないからな……そうなるとは思っていたが……」


遅れてやってきた琴子、匠、美帆、純一郎だった。部活が終わってからという事情があるものの、かなり遅い。


「まったく……純も俺達に合わせてくれよ……」

「文句は言わない!体力のない男はもてないわよ!」

「………」

「お〜い!匠、大丈夫か〜!」

「よほどショックだったみたいですね……」


琴子の一言に何も言えなくなってしまった匠。それほど「もてない」という言葉が胸に刺さってしまったのだろう。
4人は河川敷公園を眺めてみる。しかし人がほとんどいない。


「しかし、だれもいないな」

「おかしいですね……はあ……確かにここのはずですが……」

「もしかしてもう終わってしまったってこと?」

「そうかもしれないな……あれ?誰かいるぞ!」

「あれは……一文字さんだ!お〜い!」


4人は一人でいた茜を見つけた。そして茜のところに駆け寄っていく。声を掛けられた茜も4人中3人の顔は見たことがあった。


「あれ?お店に来ていたひとだっけ?」

「そうね。ところで主人君はいなかった?」

「ああ、さっきまでいたけど帰っていったよ」

「そうなんですか……」


残念、というような表情を浮かべる匠達。しかし、そんな事は関係ない純一郎は茜に質問する。


「一文字さん、ここで何があったんですか?」

「それは……秘密」


笑顔を見せて何も言わない茜。これではなんにもわからない。


「そんなこといわないでさ……」

「……だから、ナイショナイショ!」


それから必死に頼む匠達だったが、結局、茜は公二達の事は何一つ話さなかった。
4人はなんとなく気がついていた。 明るく振る舞っているが、何か寂しい目をしていた。本当は何か辛いのでないかと。 しかし、気を使ってだれも口にしようとはしなかった。






「えっ!」


次の日、アルバイト先で茜は衝撃の事実を知った。
公二がアルバイトを辞めたのだ。
店長から茜へ公二からの手紙を渡された。



「茜ちゃんへ
 本当は直接話したほうがいいけど、手紙になってしまってごめん。
 俺、食堂のバイトを辞めることにした。
 ここより、手当てがいい仕事がみつかったのもあるけど。
 やっぱり、毎日君の姿を見るのが辛いんだ。
 俺、茜ちゃんを2回泣かせちゃったんだよな。
 茜ちゃんを振ってしまったし……
 あのとき、茜ちゃんは友達になろうと言ってくれたけど。本当にそうできるかな?
 茜ちゃんを振った夜。ずっと考えたんだ。
 俺が茜ちゃんの立場だったら、すぐに友達なんてなれない。
 できるとしたら無理して笑うことぐらい。振られたことがいい思い出になるまでずっと……
 俺は茜ちゃんが無理している姿を想像すると辛いんだ。
 お互い辛くなるよりも、少し離れたほうがいい。そうすれば、普通に接することができる。友達にもなれる。
 俺はそう結論づけた。
 自分勝手かもしれないけど、これが俺の正直な気持ちだ。
 アルバイトは別々になるけど学校ではいい友達だからな。
 勉強がわからないところがあったら、気軽に声をかけていいよ。
 最後に………茜ちゃんとのアルバイト。とても楽しかったよ。ありがとう。
 主人 公二」



その夜、茜は公二に告白した公園のベンチで再びこの手紙を呼んでいた。


「こうくん……キミは優しすぎるよ……こんなに優しいと……」

「お礼を言うのはボクの方だよ……」

「学校で勉強教えてね……いい友達になろうね……約束だよ、こうくん……」


茜は溢れる涙がこぼれないように空を見つめていた。
見上げれば満天の星空。夏はもうすぐ……
To be continued
後書き 兼 言い訳
第2部これにて完結です。
みんな、ちょっと大人になった。そんな第2部だったのではないでしょうか。
何がどうなったというわけではありませんが、これでひと段落です。

第2部は茜ちゃんがサブヒロインでしたが、ちょっとかわいそうだったかな?
茜ちゃんはこれからも少しづつ登場していきます。

次回からは第3部になります。
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