暑くなりだした6月。放課後の教室。
公二の机のまわりにいつもの連中が集まっていた。
「おい、公二」
「なんだ、匠」
最近公二に対する質問タイムの時間が増えていた。質問の内容は公二と光の関係について。ストレートな質問あり、誘導尋問あり。しかし公二は適当にはぐらかしていた。
そして、今日は何を聞かれるのか?という顔を公二はする。
「あれは、決まっているのか?」
「あれって?」
「あれ」と言われても何がなんだかわかっていない公二。
「もしかして忘れているの?この薄情者!」
「最低です!妖精さん、公二さんをレインボーバズーカの刑に……」
公二の反応に声を荒げる女の子達。そこで初めて「あれ」の意味がわかった公二。
「ちょ、ちょっとまて!おまえら光の誕生日の事をいっているのか?」
6月25日 光の16才の誕生日。
そして、恵の初めての誕生日である。
太陽の恵み、光の恵
第3部 光の誕生日編 前編
第15話〜祝福〜
Written by B
公二の返事に「当然だろ?」と言いたげな表情を見せる匠。
「決まっているだろ!誕生日プレゼントだよ、プ・レ・ゼ・ン・ト!」
「もちろん、贈るんでしょうね!」
「水無月さんに言われなくても贈るよ!」
公二は「余計なお世話だ」と言うような態度をとる。しかしそんな公二の態度からもなにか読みとる匠達。
「おっ!はっきりいうな。その根拠はなんだ?」
「い、いや、それは……」
根拠などはっきりしてる。しかし、そんなことを言えるわけがない。
「あれ?光さんの誕生日にアレ贈るって言わなかったっけ、こうくん」
「うわっ!茜ちゃん、いつの間に!」
「えへっ!みんなが楽しそうに話しているからつい来ちゃった、ボク」
背後からの声に驚く公二。振り向くと茜が笑顔を振りまきながら立っていた。最近、茜も放課後の話に加わるようになってきた。光との関係をある程度知っているだけに彼女の登場は公二にとっては迷惑な話だ。
「ところで、アレってなんだ?公二」
「純!おまえまで……だから、アレじゃないの、今回は!」
たまにだが純一郎まで加わるようになってきた。純一郎曰く「みんなが話していて、おもしろそうだから」ということらしい。琴子たちは仲間が加わったと思っているが、当の本人はちっとも思っていない。
「な〜んだ、アレじゃないんだ……」
「茜さん、アレってなんなの?」
「それはナイショナイショ!」
茜の知っているような口ぶりに琴子が聞き出そうとするが茜は答えようとしない。
「なんでだい?」
「約束だから、ねっ、こうくん!」
「ああ……」
茜が指輪について黙ってくれているからまだ平穏な状態になっている。茜がいつばらすのかと、いつもハラハラの状態の公二だった。
「ところで、『今回は』って言ったな。別の機会にまた贈るのか?」
(しまった!)
匠に核心を突かれてしまった公二は全身が鳥肌状態。
「い、いや、次の誕生日ってことだよ……」
「あやしいですね……」
「まだ、プロポーズの指輪が買えないから、誕生日は別の品ってところかしら?」
(ぎぇっ……ズバリ当たっている……)
ごまかそうとしてみるものの、そんな状態でまともにごまかせるわけもなく、逆に追求が続いてしまう。さらに琴子の指摘が大正解なため、どう対処していいかわからなくなってしまっていた。
「プ、プロポーズ……」
「ふ〜ん、光さんにプロポーズするんだ……」
(うらやましいな……光さん……)
だんだんと追いつめられているのを感じた公二。そこでふと時計を見るとバイトの時間が近づいていた。
「ま、まさか、そんな……あっ、もうすぐバイトだ!じゃあ!」
そう言い残すと、公二は急いでその場から立ち去った。
残された人たちは今日の追求の反省会をしていた。
「プ、プロポーズ……」
「やっぱり、動揺していたな……純は余計だが」
そのなかで純一郎は顔を真っ赤にさせたままだった。それを匠はあきれて見ていた。それとは関係なしに琴子達は公二の反応を分析していた。
「私達の名推理に間違いはないわね」
「あと一息ですね」
「でもやっぱり、物的証拠が必要ね」
「でも、どうすればいいの?」
「まあ、あの調子だといまに状況証拠を残すのでしょうね」
しかし、推理の結果が出るのはまだまだ先の話である。
その日の夜。
公二と光は恵と一緒に部屋で団らんのひとときを送っていた。
「光、今度の日曜日、光と恵の誕生日だろ?」
「うん、そうやけど」
「誕生日のお祝いに外で食事するか?」
「えっ、ほんまにええの?」
「俺からのささやかなプレゼントだけどな」
光の表情がぱっと明るくなる。実は2人で外での食事をしたことがなかった。まだ普通に食事ができない恵のことが最大の原因である。
だから公二の提案は光を喜ばせた。
「うれしい!ねぇ、ついでにデパートに買い物に行かへん?」
「ああ、3人で行くか!」
光の逆提案に、公二も嬉しくなる。光も公二も恵と一緒に3人で出かけたくてしょうがなかった。しかし安易に出かけるとバレてしまうので、二人とも今まで泣く泣く我慢していたのだ。
「うん!そういえば、初めて3人一緒に出かけるんやな……」
「ああ、3人の記念の日になるな……」
「日曜日が楽しみやわぁ……」
初めての3人でのお出かけ。早くも日曜日が待ち遠しくなっていた。
そして、日曜日。光と恵の誕生日がやってきた。
3人はきらめき市のデパートにやってきた。さすがにひびきのだと知り合いに見つかるので、少し遠出をした。
「マーマ、パーパ、キャッキャッ!」
「恵、えらい喜びようだぞ」
「3人一緒で初めてのお出かけだもんね〜♪」
乳母車に乗っている恵は大はしゃぎだ。今までおでかけというと祖父母といっしょだったので、初めての両親とのおでかけで嬉しいのかもしれない。
「光が一番はしゃいでないか?」
「もう〜、あなただって〜♪」
しかし、一番嬉しいのは公二と光の当人だろう。なんといっても、家の外では初めて親子らしい事ができるのだから。
「まあな。で、最初にどこへ行く?」
「子供服売場!」
というわけで、まず恵の服を探しに子供服売場に行くことにした。
「うわ〜、かわいい服ばっかり!」
「俺たちが子供の頃、こんな服なかったよなぁ」
子供服売場には可愛い柄の服が所狭しと並んでいた。
今の子供服は公二達の子供の頃に比べるとおしゃれで可愛いものが多い。有名ブランドの服だってたくさんある。
「本当、時の流れってこんなところで感じるんやね……」
「ああ……」
公二と光はそんな様変わりした子供服に驚いていた。
このまま感慨に浸っているわけにもいかず、二人はさっそく服を探すのだが……
「え〜ん。どれがいいか迷っちゃうよ〜」
あまりに似合うのが多すぎて、光が困ってしまっている。たくさんの服を抱えている光を公二は呆れた表情を見せる。
「そんなの自分の服を買うわけじゃあるまいし」
「ぶ〜!じゃあ、どれがいいか選んでよ!」
光にそういわれた公二はさっそく服を選び出した。
「そうだな……これとこれなんかどうだ?」
そういって選んだ服を光に渡す。光はその服を恵の服の上に当てて見てみる。その服はまさに恵のために作られた服といっても過言ではないぐらい恵に似合っていた。
光は公二のチョイスに驚いた。
「あっ、素敵!すごい!センスあるわぁ!」
「まあなぁ♪」
光に服のセンスを褒められていい気分の公二。
しかし、公二の心中はというと、
(こうなると思って、恵に似合う服を徹夜で考えた甲斐があったぜ……)
結構、親馬鹿な公二であった。でも、昨日の晩さんざん考えた割には結論はあまりに簡単だった。
(あの頃の光に似合う服を買えばいいんだ……)
親子3人での初めての買い物で公二も光も上機嫌。
そんななか、公二と光の耳に高校生らしい会話が聞こえてきた。
「今年も流行の水着を一番に手に入れるのよ!」
「でも、なんで俺が一緒にいる必要があるんだ?」
「いいの!」
声の方にいるのは 男子一人に女子二人。そのうち二人は恋人だろう。腕を組んでいる男女とその横に歩いている女の子という構図だからたぶん間違いない。遠くだから良くわからないが、ひびきの高校の生徒ではなさそうだ。
そんな3人の会話はさらに続く。
「ねえ、あれ見て!」
「なに?」
「あそこの若い親子……いい雰囲気だねぇ」
「幸せそうだなぁ……」
「私達もあんなふうになりたいなぁ……」
「あ、ああ……」
「はいはい、ごちそうさま……でも、本当に幸せそうだね」
「親もアツアツで羨ましいなぁ……」
公二と光は3人が自分たちの事を言っているとわかった。会話を聞いていた公二と光は照れてしまった。さすがにあそこまで言われると、恥ずかしくなる
「ちょっと、恥ずかしいね……」
「俺も……」
「恵のものは買ったし、別の売り場行こうよ……」
「そうだな……」
公二と光達は顔を真っ赤にしながら、子供服売場を離れた。
公二達が子供服売場から離れた後も3人の会話は続いていた。
「ところで、ヨッシー」
「なんだ、夕子?」
「あの両親結構若いんじゃない?どう見ても高校生みたいだったけど、知ってる?」
「いや、俺のデータにはあんな女の子いないぞ」
カップルの男女は記憶をだどっているようだがわからないらしい。カップルの女の子がもう一人の女の子に尋ねてみた。
「真帆、男のほうは見たことある?」
「ううん、ないけど……ん?」
「どうしたの?」
もう一人の女の子が何かを思い出したようだ。
「そういえば、姉さんが子持ちカップルの疑惑をはっきりさせるって、騒いでいるのを聞いたんだけど」
「えっ!高校生で子持ちの夫婦って事?」
「そう。姉さん、絶対に暴いてみせるって燃えているようだったけど……」
「凄い姉さんだな……おい、夕子、水着はどうなった?」
「あっ、そうよ!行くわよ、真帆、ヨッシー!」
「こら、急いで走るな!」
3人はようやく目的の水着売場に歩き始めた。
つぎに3人がやってきたのは、自分達、大人用の洋服売り場。
公二は別に用事はなかったのだが、光が用事があるようだったのでやってきた。
「あのな、今日欲しいものがあるんやけど……見てええか?」
「ああ、もちろんだよ」
「わ〜い!じゃあさっそく探すね♪」
「あっ、光どこへ!……えっ、ここ?」
「うん、ここや!」
そういって、光が一直線に向かったのは、寝間着売り場。
「うちな……公二とそろいのパジャマが欲しいねん……」
「パジャマ……」
「だって、うちら夫婦やろ……なんか夫婦らしい物が欲しいんや……」
「そ、そうだな……」
そうなのだ。
実は公二と光でお揃いのものがまったくなかったのだ。
お金がない二人には仕方がないことなのは事実。でもやっぱりおそろいの物を持つことで、自分達が夫婦であるのを実感したい。でも、単に揃いの服なら恋人でもできる。恋人が持てなくて、夫婦なら持てるお揃いのもの……寝間着がピッタリだ。光は以前からそう思っていたのだが、言い出す機会がなかったのだ。
光の提案には公二も大賛成だった。
「だから、ええやろ?あなたぁ〜」
「なるほど!さすが光だな!」
「えへへ!そうやろ?」
公二に褒めてもらってちょっと嬉しい光だった。
「デザインは光が好きなの選んでいいよ」
「ほんまか?よ〜し!がんばるぞ〜!」
さっそくパジャマを一つ一つ品定めする光。公二はそんな光の姿をじっと眺めていた。
(光、本当にうれしそうだな……)
確かに、パジャマを選んでいる光は本当に輝いていた。そして光が一番気に入ったデザインのパジャマを買った。
そのあと、あちこちの売り場を回った。どこに言ったかは2人の台詞から想像しましょう。
「もうすぐ恵にもこんな洋服タンス必要なのかなぁ?」
「女の子はお洒落だから、服がたくさんいるからなぁ」
「うわぁ、綺麗な靴やなぁ……」
「光ももう少しすれば、似合うようになるよ」
「最近は、こんな便利な調理道具があるんだ……」
「こんなんあれば、うちでもうまく料理ができるやろか?」
「光でも大丈夫だよ」
「おかんに料理をもっと教わろうっと!」
「早く光の手料理が食べたいなぁ♪」
「うふふ、楽しみにしてな♪」
「ここは?ウェディングフェアか……」
「ウェディングドレスかぁ……でも、子供いるから無理やね……」
「………」
「おっ、こんな大きいダブルベッド欲しいなぁ」
「目がいやらしいわ!もう、エッチ!」
「ご、ごめん……でも、毎日あんな狭いベッドいやだろ?」
「うん……ダブルベッド欲しい……」
「次、お金がたまったら買うか……」
べつに何か買わなくてもよかった。3人でいるだけで楽しかった。
あちこちを回った後、公二と光は食料品売り場にいた。カートには恵が乗っている。カートの中には恵以外なにもない。
「こういうのもいいなぁ……」
「うち、3人で食料品売り場を歩くのがちょっとした夢だったんや……」
カートは公二が押している。光は買うわけでもないのだが、食材を眺めて買い物気分を味わっている。
「そうか……でも、まだ夢は叶ったわけじゃないだろ?」
「えっ?」
「夕食の材料を買って、家に帰って夕食を作って、3人で食べるのが夢だろ?」
「うん……まだ叶ったわけじゃないよね……」
やっぱり、買い物の振りではなく本当に買い物をするのが楽しいはず。見せかけの夢にちょっとがっかりの様子の光。
そんな光を見て、公二が光を慰める。
「今はまだだけど……高校卒業したら、叶えような……」
「うん……約束や……」
この頃から時計をちらちらと見ていた公二だったが突然光に恵が乗っている乳母車を渡した。
受け取った光は公二の突然の行動に戸惑う。
「あ、光。ちょっと用事があるから、ここで待ってくれないか?」
「ちょっとどこへ!……あ、いっちゃった……もう……」
光が何か言う前に公二はどこかに走っていってしまった。結局公二が戻ってきたのはそれから20分たった後だった。
夜、公二と光と恵はファミリーレストランで夕食を食べていた。
本当は洒落たレストランがいいのだが、それはまだ無理な話。理由は、恵がおとなしく食事を食べられる状態ではないからだ。手で食事を掴みたがったりして、それはそれは大変だからだ。まあ、ファミレスなら大丈夫だろうということになったのだ。
恵は光の横でお子様ランチを食べている。公二は光の反対側でハンバーグ定食を食べていた。ちなみに光はエビフライ定食を食べている。
「今日は、楽しかった……」
「光、誕生日はまだ終わりじゃないぞ」
「えっ?」
「はい、誕生日プレゼント。16才の誕生日おめでとう!」
光の目の前には大きな包みが現れた。まさかこんなプレゼントをもらうとは思ってもいなかった光はビックリしていた。さっきデパートで公二がいなくなったのはこれを受け取りに行ったからなのだ。
「うそ……ねぇ、中身見てええか?」
「どうぞ」
ドキドキしながら光は包みを開けていく。大きな包みの中には、可愛いエプロンと、綺麗なガラスの置物が入っていた。
「エプロンは『俺の妻、光』へのプレゼント。ガラスの置物は『俺の愛する人、光』へのプレゼントって意味なんだけど……」
「うれしい……」
そう言って横を向く公二の顔は真っ赤だった。公二の真心がこもった贈り物に光の瞳は微かに潤んでいた。
「でも、これより今日3人で暮らした時間のほうが最高のプレゼントになっちゃったな……」
「ううん、これを含めて、今日一日が今までで最高の誕生日プレゼントや!」
「そう言ってもられると俺も嬉しいな……」
「今日はとても楽しかった……ありがとう、あなた」
「俺も楽しかった……ありがとう、光」
「あなた……」
「光……」
公二と光は見つめ合う。
テーブル越しに二人の顔が自然と近づき出す。
二人の瞳が閉じる。
そして唇が重なりあう……直前
ガシャン!
「バー、ダー!」
恵がお皿をガシャガシャ大きな音を立てた。公二と光はキスする雰囲気ではすっかりなくなっていた。
「ああ!恵!また、手で食べ物掴もうとして!いけないのよ!」
「マーマ、パーパ」
「ははは、俺たちふたりっきりの世界に入ったから恵が嫉妬したのかな?」
「ふふふ、そうかもね!」
大笑いする公二と光。
端から見ていれば、最高に幸せな3人であった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
第3部は前公開時には「中休み」としていたものを新作を加えて前後編にしたものです。
光と恵の誕生日は初めてづくしの誕生日でした。
幸せな雰囲気を書いてみたのですが、伝わったのでしょうか?
今話では、ヨッシー&ヒナがゲストで登場させました。
1キャラをゲストで投入する考えがありますが、うまくできるかどうか……
そしてなりげなく、真帆嬢が初登場。
今話までで一番まともかもしれません。でもあまりにめだってない(汗
次回は光の誕生日の次の日の話です。