第16話目次第18話
1学期終業式の放課後。
公二の机のまわりにはいつもの連中がいた。


「公二、夏休みはどうするんだ」

「そういうお前らは何をするんだ?」


「僕は、流行スポット巡りだな。あとはデート三昧……」
「私は助平男と違って、合宿があるわね。あとは日本の夏を楽しむわ」
「私も演劇部の合宿がありますので、シナリオ製作の勉強でもしようかと」
「俺も剣道部の合宿があるんだ、レギュラーを目指したいから頑張らないとな」
「ボクはバイトに頑張るよ。夏は稼ぎどきだもんね」


「と、いうわけでお前はどうするんだ?」


みんなそれぞれ個性的な夏休みを過ごすようだ。公二も匠達に負けないぐらい自分達の夏休みを過ごすつもりだ。


「俺かぁ……俺は……」


しかし、匠達に怪しまれないような言い回しを考えていたとき、


ガラガラッ


「こうじ〜。あれ?みんなどうしたん?」


運がいいのか悪いのか、光が教室に戻ってきた。そして真っ先に公二の机にやってくる。公二を含めた全員の視線が一斉に光にあつまる。すぐさま琴子達5人は円陣を組んでひそひそ話を始めた。 


(うふふ、飛んで火に入る夏の虫って感じかしら)
(ど、どうするつもりだ?)
(当然、捕まえて取り調べに決まってるだろ!)
(おもしろうそうだね、ボクも参加させて!)
(満場一致ですね)
(俺はなにも言ってないぞ……)
(あら、そんなに風林火山の刑になりたいのですか?)
(いえ、何も文句はありません……)


そして5人は一斉に光と公二のほうを向く。


「ねえ、みんな目が怖いよ〜」


琴子達の眼は明らかに獲物を狙う眼だ。光はそんな琴子達をみて怯えていた。


「うふふ……いくわよ、せえの!」
「「「「それぇ〜! 」」」」

「キャーーーー!」
「うわーーーー!」


嗚呼、哀れ公二と光は5人組に取り押さえられてしまった。

太陽の恵み、光の恵

第4部 夏休み北海道編 その1

Written by B
そして、公二と光はいつの間にか用意されたロープで縛られてしまった。背中合わせにされ、腕も一緒にぐるぐる巻きにされている。そして一緒に縛られた公二と光は床に転がされている。それを5人が囲い込むようにして見下ろしている。


「琴子〜。何するんや!」
「こら!俺たちをどうするつもりだ!」


あまりの暴力的な手段に抵抗する二人。しかしがっちり縛られているのでほどけようがない。
5人の眼は完全に捕まえた獲物をどう処分しようかと考えている猛獣のようだ。


「うふふ……遂にこの時を待っていたのよ!」

「さ〜て、早速だが君たちの夏休みの予定を聞かせてもらおう!」

「お、俺は同窓会で北海道に帰るだけだ!」

「うちも同窓会で神戸に帰るんや!」


もうこうなってはどうしようもない。半ばやけくそ気味に答える。


「同窓会っていつなんだ?」


「8月8日だ!」

「8月13日や!」


やっぱりやけくそ気味に答える。しかし勢い余って正直に答えたのがまずかった。


「ふ〜ん、そうすると掛け持ちも大丈夫なんだぁ」

(しまった!)
(ねえ、なんかやばいよ〜!)


完全にアリバイが作れない状況になってしまったのだ。
こうなると待っているのははツッコミの嵐。


「本当は同窓会を隠れ蓑にした婚前旅行ってことはないですか?」

「さながら両方の親戚へのご挨拶ってところかしら」

「『公二の妻の光です。不束者ですが宜しくお願いします』とか言ったりして、うわぁ〜!」

(え〜ん!半分あってるよ〜!)
(どうしよう、しかし逃げられない!)


匠達の予想がズバズバと当たっている。当たっているので反論のしようがない。


「2人で旅行かぁ、そうするとロマンチックな甘い夜ってのもあるのかなぁ?」
「神戸の夜景をバックに愛を囁いたりして、素敵ねぇ」
「北海道の自然がバックでもいいですね、妖精さん」
「ロ、ロマンチック……あ、甘い夜……」
「こうくんと光さんってそんな関係なんだ……」

(とうとう私達の秘密バレちゃうの〜?)
(白状するしかないのか……)


思わせぶりな言葉に公二と光はだんだんと追いつめられているのを感じていた。






じわじわと追いつめたところで琴子達はいよいよ核心を追求し始める。


「ねぇ、お二人さん。あなたたちの本当の関係を教えてくれたら助けてあげてもいいのよ」
「白状したほうが身のためですよ!ねぇ妖精さん!」
「そうだな……妖精さんから地獄の断頭台の刑をくらうよりはマシだぞ……」
「ぜ〜んぶ話して楽になれよ!」
「そうだよ、こうくん!光さん!」

「「「「「 観念して白状しなさい!」」」」」


5人が声を揃えて二人をじっくりとにらみつけている。


(もうだめだ、諦めよう……)
(もうええよ、全部話しても……)

(ああ……)
(終わったね……)


二人はもはや逃げられないことを悟った。もはや全てを白状して無条件降伏するしか手段は残っていなかった。






公二は諦めて白状することにした。


「………実は俺達………結 「はにぁ〜〜〜〜!」」


公二が全てを白状する直前、突然開いていた窓から紫の物体が飛び込んできた。


どっかーん!


その物体は徹底究明隊とその下にいた公二と光に襲いかかった。


「いてて……なんだ、いったい!」


公二と光も衝撃をもろに受けたのだが、


(光!)
(なに、あなた?)

(紐がほどけてるぞ!急いで逃げよう!)
(うん!)


これぞまさに不幸中の幸いといったところか。






しばらくして紫の物体がむっくりと起きあがった。紫の物体は普通の女の子だった。黒髪にほんのわずかに紫がかっているのが紫の物体に見えた原因であろう。


「はにゃ?」

「な、なんで寿さんがここに?」

「美幸は80年製のフェラーリに跳ねられて気がついたらここに……」


女の子はとんでもないことを普通のことのように話している。そして琴子達もその言葉に普通に対応する。


「まったく……ああぁぁ!」


ここで突然琴子が素っ頓狂な声を上げた。


「どうしたの?」

「逃げられた!」

「なにぃ!」


気がつけば、公二と光は廊下を走って逃げていた。






琴子達は逃げている公二と光の背中が小さくなるのをただ見つめるしかなかった。


「ちくしょう……もう少しだったのに……」

「あらあら、手をつないで逃げているわね、まったく……」

「公二さんが白状するところだったのに……美幸ちゃん!」

「はにゃ?」

「この責任どうつけてくれるの!」

「え?何のこと?」

「そうね、責任とってもらおうかしら」

「え?え?」


5人の冷たい視線は一人の女の子に向けられた。なにがなんだかわからない女の子はおろおろするばかり。


「やっぱり、『あの刑』ですかね、水無月さん!」


そうしているうちに美帆が琴子達に責任の取り方について主張し始めた。


「え、そ、それはヤバいんじゃないの……」

「いいえ!『あの刑』です!許しません!」


なぜか琴子が必死に止めるが、美帆はまったく聞く耳を持たない。


「しょうがないわね……みんな、例のアレやるからよろしくね」


珍しく頑固な美帆の態度に琴子も諦めてしまった。その瞬間、女の子に向けられた視線は冷たいものから哀れみの視線へと変わる。


「そうか、かわいそうに……」

「え?何するの?」

「美幸ちゃん……葬式には出席するから」

「ちょっと、どういうこと?」

「ボク……キミのことは忘れないから……」

「なんで?なんで?」


女の子は突然の変貌に混乱していた。


「みんな、いくわよ!」

「「「「それぇ〜!」」」」

「はにゃ〜!やめて〜!お嫁に行けなくなる〜!」


それから彼女がどうなったかは、とてもここでは書けません。ご愁傷様。
ちなみに、被害者の寿 美幸はいつもこんな不幸な日常なのだがそれはまた別の話で。






一方、九死に一生を得た公二と光は学校から少し離れたところで一息ついていた。


「た、助かった……」

「彼女がいなかったら、全て話しているところやった……」


二人は立ち止まって冷や汗を拭いている。


「でも、夏休みに入ればこっちのものだ……」

「せっかくの新婚旅行を邪魔されたくないもの!」

「新婚っていっても、恵も一緒だけどな」

「うふふ、子供同伴、同窓会ついでで親の援助もある新婚旅行なんてうちらだけかもね!」

「そうかもな、ははは!」


実は二人の同窓会への出席を機会にに恵と3人で旅行をすることになっていたのだ。前半は北海道、後半は神戸。大旅行であることは間違いない。






そのまま二人は公二の家に戻ってきた。


「ただいま〜」

「ただいま〜、あれ?手紙だ……しかも俺にだ、誰からだろう?」


郵便受けには公二宛に一通の手紙があった。公二はその場で開けてみる。
手紙の中身はこんな文面だった。


「拝啓 公二様
 お元気ですか?
 北海道も夏になりました。
 ひびきのはどうですか?
 春に公二君が突然ひびきのに行ってしまって、私はとてもショックでした。
 絶対に私と同じ高校に行くと思っていたのに……
 あれから、ずっとあなたに逢いたいと思っていました。
 あなたのことは忘れた時はありません。
 今度の同窓会に出席するということで、私はとても嬉しいです。
 同窓会ではひびきのの話をいろいろ聞かせてください。
 それでは同窓会で逢いましょう。
 P.S. 同窓会の後、とても大切なお話があります
                             佐倉 楓子」


「楓子ちゃん……」


手紙を読みおえた公二の表情はなにか辛そうな表情だった。


「楓子ちゃんって?」

「中学のクラスメートで、俺がいた野球部のマネージャーだ。向こうでは一番仲が良かった女の子かな」

「どんな子なの?」

「おとなしくて、おっちょこちょいで、かわいくて……昔の光のような子だな」

「ふ〜ん」


公二は手紙を光に渡す。光は手紙を読んでみる。


「光、この手紙、何か感じるだろ?」

「うん、佐倉さん、あなたの事が好きみたいね」


7年間も手紙をやりとりしていた二人。手紙の文面、文字、内容から色々なものを感じ取ることができる。


「ああ、もしかしたら、同窓会のあと告白されるだろうな……」

「どうするの?」

「断るしかないが……光と恵のことが」

「私達が?」


突然出てきた娘の名前に少し驚く光。


「光の事を話したら、たぶんショックを受けるだろう。そうなったら友達にも戻れなくなる。それはいやだ」

「そうやろね」

「でも……友達には本当の俺を知って欲しいというのもあって、迷っているんだ」

「難しいね……」


公二の話に光も納得した。二人の関係はどんなに親しい友達でも話していない。しかし、本当の自分も知ってもらいたい。でも知られると……
相反する2つの想いが公二の中に交錯していた。


「1年以上隠していたからな……いまさらって感もあるけど」

「焦らないほうがいいよ」

「そうだな、同窓会までじっくり考えるか……」


こうして、夏休みに突入するのであった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
第4部がスタートしました。
第4部から第6部までが夏休みが舞台ですが、第5部は別物です。第4部と第6部がセットのような構成です。

公二と光は同窓会ついでの新婚旅行に出かけます。第4部は公二の同窓会が舞台です。

今話で新キャラが二人

まずは寿 美幸。お決まりの跳ねられての登場(^^;)
しかも、なにやらひどい目にあってしまってます。
それにしても「あの刑」とはなんでしょう?いまは秘密です。

そして、佐倉 楓子。彼女がいよいよ登場です。
実は第4話でちょこっとでていますが、ここで正式登場です。
楓子が第4部のサブヒロインです。彼女はひびきのにはいません。北海道にいます。

次回は公二達が北海道に里帰りします。
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