そして、いよいよ光の同窓会の日がやってきた。公二は祖父母と一緒に光を見送りに玄関にいた。
「じゃあ、恵をよろしくね!」
「ああ、まかせとけ!」
「ではいってきま〜す!」
「行ってらっしゃい……ふうっ」
結局、公二は光の中学校の先生の頼みを受けるのをやめた。せっかくの同窓会に部外者がでてもしょうがないし、なにより、光のために迷惑をかけたクラスメイトに顔向けできる勇気がなかった。というわけで、家で恵の世話をすることにした。
「あれ?光ちゃんは恵ちゃんを連れて行かなかったのか?」
「はいおじいさん、宴会に幼児を連れても戸惑うだけだからって」
「そうか、でも同級生は恵の事知っているんじゃろ?きっと成長した姿を見たいんじゃないのか?」
「そうかもしれませんね……」
祖父の指摘がずばり当たるのを知るにはそれほど時間が掛からなかった。
太陽の恵み、光の恵
第6部 夏休み神戸編 その2
第24話〜感謝〜
Written by B
光の同窓会会場。こっちは都会らしく、小さなパーティー会場を借りて行なわれている。
「え〜、ではまずクラス委員長からの乾杯の音頭です」
「ええぞ光晴!」
「社長!待ってました!」
『社長』とはクラス委員長のあだ名である。冷静沈着で何事にもクラスメイトの事を考えた行動で、クラス全員の信頼を受けていた男である。光が入院しているときに、ノートを写す順番を決めたり、お見舞いの品を決めたり。光は彼にとても感謝している。
「え〜、今回は東京から陽ノ下さんも来て、全員出席できてめちゃうれしいです」
「みんな、今日は楽しむでぇ!そんでは「かんぱ〜い!」 」
「「かんぱ〜い!」」
クラス会は突然の副委員長の乾杯の声で始まった。
「こらっ!準!勝手に乾杯の挨拶をすな!」
「リーダーやるなぁ!おいしいところもっていくよなぁ」
『リーダー』とはクラス副委員長のあだ名である。彼こそ、光の出産の応援を言い出した張本人である。とにかく委員長より積極的に行動するのでこのあだ名がついている。彼のあの発言がなかったら、光は今どうなっているかわからないだろう。
どのクラスメイトも久しぶりの再開を喜び近況話に花が咲く。その中で一番大きな花が咲いている場所がある。中学時代に妊娠出産という劇的な生活を送った光である。光は卒業後遠く離れたひびきのに引っ越したため、連絡がつきにくい状態だった。だからここぞとばかりにクラスメイトが光のところに集まり質問攻めになる。
「光ちゃん!元気!」
「あっ!真奈美!久しぶりやなぁ!」
「東京で元気にしてるん?」
「うん!元気にやってるんよ!友達も沢山できたし」
「光ちゃんはすぐに友達ができるから、心配なかったわぁ」
「そんなことないよ〜、最初不安だったんやから〜」
クラスメイトも光の元気な姿が見られて嬉しそうだ。次から次へと光のところにやってくる。光は嬉しそうに話をする。
「ひ〜か〜りちゃん!」
「あっ!貴子に京子!」
「旦那さんとは仲良くしているんか?」
「もちろん、仲良くしてるんよ!」
「そうか〜、毎日ラブラブなんやわ〜」
「ちょっと〜、ラブラブなんて恥ずかしいわ〜」
「光ちゃん……目が喜んでるわ……」
旧友との再会で大はしゃぎの光。そんな光が中心だから周りの雰囲気もさらに明るくなる。
「ところで光ちゃん」
「なんや、晶ちゃん?」
「恵ちゃんはどないしたんや?」
「えっ?おじいちゃんのところに預けとるけど……」
「そうなんや、久しぶりにあってみたいなぁって思ってたんやけど」
「そう?」
光は出産して退院後、しばらくしてから毎日学校に恵を連れて登校してきたのだ。さすがに衛生上教室は無理なの保健室に預けていたのだが、世話はクラス全員でやっていたのだ。
「そうや!生まれたときは毎日連れてきたやないか!恵ちゃんはうちのクラスの一員や!」
「そういってくれるとうれしいわぁ」
おかげで、恵はクラスのマスコット的存在だった。それだけ恵を大切にしてくれたということで、それは光にとってはとても嬉しいことだった。
「ねぇ、もしかして旦那さんも一緒に神戸に来とるんか?」
「うん、まあ、そうなんやけど……」
「なに照れているんや!もうアツアツなんやから!」
クラスメイトには人妻だとは知られてはいるものの、公二の事を言われるとやっぱり恥ずかしい光だった。ここで女の子同士の会話にいきなりさっきの副委員長が口を挟んできた。
「何、恵ちゃんと光ちゃんの旦那が来ている?せっかくだから呼ぼうや!」
「ちょっと、リーダー!」
「お〜い!誰か光ちゃんのじいさんの電話番号知っとるんか?」
「ほな、わてにまかせとき!」
「し、忍ちゃん……」
周りが光の旦那を呼ぼうとクラスメイトが一気に動き出した。その動きにうろたえる光。その光景をみて、先生は静かに微笑んでいた。
(うふふ……やっぱりね……さて、主人さんどうするかしら?)
プロロロロ!プロロロロ!
光の祖父母の家に電話が鳴り出した。
「もしもし、陽ノ下ですが」
家でくつろいでいた公二が受話器を取る。
「あ〜、こちら警察やけど……」
「えっ?」
「ちょ、ちょっと!忍ちゃん!……あ、私だけど」
「あ、ひ、光か……た、楽しいクラスメイトだね……」
「そ、そうなの……」
これが関西のノリなのか。公二は一瞬そう感じた。
「で、用事はなんだ?」
「あのね、クラスの皆が恵を連れてこないかだって……」
(やっぱりきたか……)
予想された展開だった。しかし公二はまだ結論を出していなかった。すこし考えた。その間受話器の向こうからいろいろな声がいやでも聞こえてくる。
「お〜い、光ちゃん、ご挨拶のキスはないんか?」
「あほ!電話でキスするか!」
「光ちゃん、顔真っ赤やでぇ!」
「いいなぁ、うらやましぃわぁ」
(確かに先生の言う通りだ、変わっているかも……)
しかし、これが公二の考えを決めた。光を支えてくれた明るいクラスメイトに会ってみたくなったのだ。そして、一言でもいい。お礼がいいたい。相手が自分のことをどう思っていてもいい、感謝の言葉が言いたい。さっそくその決断を光に伝える。
「わかった、これから恵を連れてそっちへ行くわ」
「うん、待ってるから」
「「おおっ〜〜〜!」」
受話器の向こうから、クラスメイトのざわめきが聞こえてくる。
「じゃあ、すぐ行くから」
受話器を置いた公二は出かける準備を始めた。
「やっぱり出かける羽目になったか……ん?」
ふと、公二の脳裏に一瞬、一人の少女の姿が浮かんできた。
「楓子ちゃん……」
屋上で泣いていた楓子の姿が浮かんでいた。楓子は公二が好きだった。でも、それを言えずに公二は転校してしまった。
「もしかしたら、光が好きだった奴、いるんだろうなぁ……」
「いたら、そいつ妊娠したの知ってどう思ったんだろう?」
「俺の顔みたら……殴りたくなるんだろうなぁ……それもしかたないか……」
公二は覚悟を決めた。もし、そうなっても、正直に殴られよう。抵抗するのはやめよう。相手がそれで気がすむのなら、自分はどうなってもかまわない。それが、あのときイジメにあった光を守ることができなかった自分への罰だと思って受け止めよう。そう思ったら意外と気が楽になった。
「さてと……過去の清算に行ってくるか!」
それからしばらくしてからのこと。
「お〜い、旦那と娘が来たでぇ!」
会場の外で見張っていたクラスメイトが会場に戻ってきた。
「ちょっと!声が大きいよぉ!」
光が照れている間に公二が恵を連れて会場にやってきた。
「こんばんわ……」
「「おおっ〜〜〜!」」
公二と恵はクラスメイトの大歓声を受けながら会場の中を歩いていく。あまりの大歓声ぶりに公二は戸惑っているようだ。
「ほんまに来たでぇ、旦那さんが!」
「あっ!恵ちゃんや、やっぱかわいいわぁ!」
「光ちゃん、旦那様に抱きつかんか?『逢いたかったわぁ』って」
(な、なんだ、この異様なテンション……)
さすがに関西の雰囲気にはまだ慣れていない公二だった。
そんな公二の目の前にクラス委員長がマイクを持って現れた。
「あ、俺がクラス委員長だけど……さっそくだが、自己紹介してくれへんか?」
さすが、こんな中でも委員長は冷静だった。委員長は公二にマイクを渡す。マイクを渡された公二はさっそく自己紹介を始めた。
「初めまして……光の夫の主人 公二です……」
「わあ、『夫』やて!」
「主人さんねぇ、じゃあ、将来『主人 光』になるわけや」
「………」
「き、今日は一言お礼が言いたくてやってきました……」
「お礼なんていらん!こんな体験めったにできんさかいに」
「赤ちゃんの世話なんていい経験させてもろた……お礼をいうのはこっちの方や!」
「………」
「僕が光の側にいられないために、皆さんには大変ご迷惑をおかけしたと思います」
「旦那さんは北海道から通ったんやろ?それだけでもすごいぞ」
「光ちゃんは、旦那が頑張ったから幸せなんよ!」
「そうや!旦那が頑張ったおかげや!」
「が、頑張ったって……あ、ありがとう」
「………」
自己紹介に交えて自分の素直な気持ちを話す公二。しかし公二の言葉一つ一つに、ツッコミやら、からかいやら、暖かい言葉が掛けられる。公二の隣に立たされた光は、ずっと顔を真っ赤にしてうつむいていた。
そんな状況でも公二は一つ一つお礼の言葉を述べていく。
「おかげで、今、光と一緒に楽しい高校生活を送っています」
「そうやな、そうでないとうちらが納得いかへん」
「恵も1才になりました。これも皆さんのおかげです、ありがとうございます!」
「じゃあ、お礼がわりに皆の前でキスしてもらおか?」
「「おおっっ〜〜〜!」」
光の友達の言葉にクラスメイトのボルテージも上がる。
「そうだぁ〜、やれぇ〜!」
「き、キス……」
「し、忍ちゃん……」
とんでもない頼み事に公二も光も顔を真っ赤にさせてしまう。
「あれだけ世話かけたんや、仲良くやっている証拠を見んと安心できんのや!」
「………」
クラスメイトはかなり強気だ。本当に見ないと納得しないような表情だった。
「ほら!はよ!」
「ちょ、ちょっと!……光……」
戸惑っている公二。しかし光は無言で公二に抱きつきいた。
(光……)
(もうめっちゃ恥ずかしいわ……もうキスしても恥ずかしいのは一緒や……)
(もう、やけくそだ!みんなに見せつけるぞ!)
(うん!もう、やけくそや!)
(こうなったら、滅茶苦茶濃いやつをやってやる!)
(そうや!みんなにはできん、夫婦のキスを見せたる!)
そして……
「うおおっっっっっ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
やけになった公二と光はめったにしない熱く激しい大人なキスを見せつけたのだ。
クラスメイトも二人の大胆な行動に大騒ぎになっていた。公二と光も恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらもキスは続けていた。
その後しばらくの間、興奮がおさまらなかったのはいうまでもない。
しばらくして、興奮も完全に覚め、再び歓談が始まった。
「高校生夫婦かぁ……クラスの皆、うらやましいやろなぁ」
「……学校には内緒なんや……」
「えっ〜!なんでや?」
「ちょっとね……いろいろあってな……」
「ふ〜ん、関東の人間はわからへんなぁ……」
不思議そうなクラスメイトに少しくらい表情になった光。そのとき、光の隣にいた公二は不意にだれかに声をかけられた。
「おい、旦那」
「ああ……」
「リーダー……」
公二に声を掛けたのはリーダーこと副委員長だった。
「おまえに用事があるんや、ちょっと目の前の公園までつきあってくれんか?」
「……わかった……」
(ついにきたか……)
公二はリーダーの目から何かを察したらしく、『リーダー』準の申し出を受けた。
光はリーダーのいつもとは違う表情に不安を感じる。
「公二……」
「光、これは俺とリーダーの問題だ、お前はここにいろ」
「でも……」
「絶対にくるなよ……」
そして、二人は会場を出た。その様子を見ていた他のクラスメイトが委員長に報告した。
「社長!大変でっせ!リーダーが旦那を連れて出ていったでぇ!」
「やっぱりな……」
「やっぱりってなにがや?」
「旦那が来てから、準の様子がおかしかった、きっと旦那にいいたい事があるんやろ」
「だからって……」
「旦那もそれがわかっているみたいや、ここは旦那に任せよう」
「社長……」
「光ちゃん、急いであいつらを追いかけるんや」
「えっ?」
「準の言いたいことは間違いなく光ちゃんのことや、聞いても罪はないやろ」
「じゃあ、行ってみるわ!」
光も会場を出て二人を追いかけた。
公園にて。周りにはだれもおらず、公二と準のふたりっきり。
「ここなら、誰もおらんな」
「リーダー、用事ってなんだ?」
「旦那……頼む、3発殴らせろ!」
「……わかった、好きなだけ殴れ」
To be continued
後書き 兼 言い訳
光の同窓会が始まりましたが、展開が変な方向に。
しかし、どうやら私の関西人のイメージは変かもしれません。
光のクラスメイトに違和感があるかもしれませんが、勘弁してください。
あっ、ちなみにこっちのクラスメイトの名前も適当ですから……えっ、嘘だろって?やっぱり、わかりましたか(^^;)
次回は光の同窓会のクライマックスです。