第24話目次第26話
「旦那……頼む、3発殴らせろ!」

「……わかった。ただ、3発と言わずに好きなだけ殴れ」

「えっ……」

「俺に言いたいことがあるんだろ?たぶん俺は殴られるべきだろう。気の済むまで思う存分やってくれ……」


二人の間に長い沈黙が続く。


「……うぉぉぉぉぉ!」


そして、突然リーダーが叫びだし、公二に襲いかかってきた。


ぼかん!

太陽の恵み、光の恵

第6部 夏休み神戸編 その3

Written by B
「ぐぉっ!」


リーダーは公二の頬を思いっきり殴った。


「1発目はなぁ、中学生の光ちゃんの苦労のおすそわけや……光ちゃんはなぁ、お腹が膨らんでから大変やったんや、教室移動も授業でさえも、光は辛そうやった……それに、生まれた直後は、体調が良くなくても登校して、見ているこっちが辛かったんや……補助している俺たちも大変やったから、本人はもっと大変のはずや……お前は知らないやろ!光ちゃんのそんな苦労を!」


(リーダー、俺だってわかってるよ……でも俺は助けることができなかったんだよ)


光が大変なのは十分わかっていた。いつも神戸に来ていたから、光が家で大変そうに重い体を動かしているのはわかっていたから。 しかし、公二が手助けできたのは月に2度ぐらいだけ。学校での苦労は想像しているものの、何もすることができなかった。光のことだろう、かなり無理していたのかもしれない。


(そうだよな……妻を助けられない俺は夫として失格だよな……)


公二はリーダーが殴られながらそうおもっていた。






「はあ、はあ、やっと追いついた……!!!」


光が公園で二人を見つけた。光が見たものは、公二が仰向けに倒れ、リーダーが公二を殴りつけているところだった。


(どうして……どうしてリーダーが……)


光は木陰で二人の様子をじっと見つめていた。本当ならすぐにでも飛び出したいのだが、事情がわからずに飛び出すわけにはいかない。はやる気持ちを抑えてじっと見つめていた。
そのうちに光は何か変なことに気がつく。


(どうして公二は何もしないの……もしかして!あなた……いったいどういうつもりなんや?)






リーダーの心の叫びはまだ続いていた。


「そしてなぁ、そしてなぁ……うぉぉぉぉぉ!」


ぼかん!ぼかん!ぼかん!


「うぉっ!」


リーダーは公二の上に馬乗りになり何発も殴りつけた。


「2発目はなぁ、俺のやり切れない気持ちや……俺はなぁ、俺はなぁ……光ちゃんが好きやったんや!」


公二にとっては覚悟していた言葉。しかし、それでも目の前で言われるとショックが大きかった。


「俺はなぁ、入学したときから明るくて元気があって可愛い光ちゃんが好きやったんや!いつ告白しようかとずっとずっと迷っていたときに……光ちゃんの妊娠や、しかも産むつもりやないか……もう、告白すらできなくなってしもうたんや……もう俺には応援するしかなかったんや」


リーダーは切ない表情を見せる。公二にはリーダーの気持ちが痛いほど伝わってくる。


「お前だよな、確か最初に光を応援しようって言ったのは」

「そうや、それしか俺が好きな人にできることはなかったんや……でもな……」

「でも……」


リーダーは再び怒りの表情を見せる。


「幸せそうな光ちゃんの姿見て……余計にあきらめられなかったんや!でも俺にはチャンスすらない……このやり切れない気持ち、どうして……どうしてくれるんや!」


ぼかん!ぼかん!どかん!


「うぉぉぉぉ!」


リーダーは再び公二に殴りかかった。


(リーダーが私のことが好きだった……気がつかなかった……)


光は木陰でまたショックを受けていた。光は公二の事ばかり想っていて、リーダーの気持ちにまったく気づいていなかった。近くにいる人だっただけに衝撃は大きかった。






「そしてなぁ、3発目は……俺の今の怒りや!」


リーダーは拳に力をじっと込める。


「お前……どうして、どうして……学校で光の事を隠しているんや!」


そしてその拳を思いっきり公二に叩き付ける。


ぼかん!


今までで一番強い衝撃が公二を襲う。


「そんなに光ちゃんとの関係が恥ずかしいことなんか!」

「そんなに……そんなに光ちゃんとの結婚を後悔しとるんか!」


一発一発が重い。それだけリーダーの力がこもっている。


ぼかん!


公二は何発も殴られて顔が紅くなっていた。それにも関わらず公二は優しい表情を準に向ける。


「リーダー……そんなわけないだろ……」

「じゃあなんや!」


公二の優しい表情にリーダーは逆にいらだちを隠せない。


「リーダーもわかっているだろ……高校にはお前のクラスメイト見たいな奴だけじゃないのを」

「ああ、わかっとる……」

「知っているだろ、光が妊娠直後どんな仕打ちをされたか……もう、光にはあんな辛い目には会わせたくない……」

「それを光ちゃんから守るのがお前の役目やろ!」


リーダーの怒りは頂点に達している。


ぼかん!ぼかん!ぼかん!


もう何も考えず、ただ力を込めて殴り続ける。いまのリーダーはそんな様子だった。


「うぉぉぉぉっ!」


叫び、怒り、そして殴る。そして公二はそれをただ受け止めていた。


(そうだよ……俺はそれすらできないダメな夫だよ……)

(あなた……わかった、あなたがなぜ抵抗しないか……)

(殴ってくれ……こんな俺を殴ってくれよ……)

(お願い、やめて!……悪いのはあなただけじゃない……)


光は気づいた、公二は自分が光になにもできなかったと思っているから、あんなことをしたのだと。 あのとき、光は公二に助けてもらったのに、公二はまだ足りなかったと思っているのだと。






そんな公二の姿にいてもたってもいられなくなった。


「もうやめて!」


木陰から光が現れた。光の存在に気づいた二人の動きが止まる。


「光……」

「光ちゃん……」

「ずっと見てた!全部聞いた!リーダー、もういいやろ?」

「でも……」

「リーダー、わかってる?公二が何も抵抗しないの……素直に殴られていたの」

「!!!」

「公二はリーダーの気持ちわかっていたんだよ!」


リーダーははっとする。そしてやっと我に返り、真っ赤な顔の公二をじっと見つめる。


「そうか、そうなんか?旦那」

「ああ、俺は殴られるべき男なんだよ……」


リーダーの顔から怒りの色が徐々に消えていく。リーダーは公二の上から離れる。そして寝ている公二に手を差し出し、公二が立ち上がるのを手伝う。


「すまん、殴るだけ殴っておいて……」

「いいんだよ、リーダーの気持ちが納まれば……」

「おおきに、おかげで俺の気持ちに区切りがついたわ……」

「そうか……」


リーダーはすまなそうな顔をみせる。確かに身勝手な理由もあったが、公二はそれを咎めることはしなかった。こういう状況にしてしまったのは自分にも責任がある。公二はそう思っていたからだ。だから公二はリーダーの拳を真正面から受け止めたのだ。


「すまん、俺頭冷やしてから戻るから先に会場に帰ってくれへんか……」

「ああ……」


そうしてリーダーは公園に消えていった。






そして、その場には光と公二のふたりっきり。二人はじっと見つめ合う。


「あなた」
「光!」


公二は光に抱きついた。


「ちょ、ちょっと!」
「ううっ……ううっ……」


いきなり抱きつかれて驚く光。公二は泣いていた。


「俺は……俺は最低な男だ……」
「あなた……」

「中学の辛いときに何もしてあげられず……好きだった人の気持ちを踏みにじり……光をクラスメイトの前で恥ずかしい目に逢わせてしまって……そのくせに、光のことをなにひとつ守ることができない……」


公二の口から辛い思いが次から次へとあふれ出す。


「俺は、夫として最低だ……」


公二は涙ながらに自分の非力さを謝っていた。そんな公二を光は優しく抱きしめる。 


「そんなことない。うちが辛いのを耐えられたのは、あなたが励ましてくれたから……うち一人ではなにもでけへんかった。人の気持ちを踏みにじったのは、うちも同じや……楓子ちゃんやリーダーを傷つけちゃったんや。うちだって、夫のあなたを何も支えることができない……」


光は静かに、公二をあやすようにささやく。


「うちだって、最低な妻や……」


光は静かに自分の非力さを謝った。抱きしめあったまま二人は見つめ合う。


「……お互い最低な夫婦だな……」

「しょうがないよ、まだ半年だから……これからや」

「そうだな……これからだよな」

「うん……」


2人は見つめ合う、そして自然と瞳を閉じ、軽いキスを交わす。






唇を離した後じっと見つめる二人。そのまま光が話し出す。


「うちな、同窓会前ずっと気にしていたことがあったんや……」

「何?」

「うちクラスメイトにあれだけ助けてもろて、励ましてもろて、支えてくれたのに……何もお礼をしてへんのや」

「そうだったのか……」

「物ではとても返しきれない恩がある。でもどうお礼をしたらいいのかわからなくて……同窓会本番でも迷ってた」

「そんなときに、俺が現れたってわけか」


二人の表情にはさっきの辛い表情は消えている。元の二人に戻っていた。 


「うん。実はわかってたの、あなたが来ればきっとああなるだろうって……」

「俺たちを滅茶苦茶からかっていたな……そういうこと?」

「うん、でもうち思ったんだ……それでみんなが喜んでくれるなら、それでもいいって、喜んでピエロになろうって」

「光……」

「……それがうちがみんなにできる精一杯のお礼だから……」


自分の言葉に照れてしまう光。思わず軽く抱きしめる公二。 


「それで、キスのとき自分から……」

「うん……でも、あれは恥ずかしかったわ……」

「ごめんな……あんな目に逢わせてしまって」

「いいよ、あやまることはない……」






「あっ!」

「どうした?」


突然光は何かを思い出したかのように公二から離れた。


「恵、会場に置いたままや!」

「えっ!心配だ、急ごう!」

「うん!」


二人は急いで会場に戻ったが、そんな心配は一切ご無用だった。なぜなら……


「恵ちゃん、これが大阪名物パチパチパンチや!」

「ハハハハハハ!」

「こら、ここは神戸や!誰か神戸名物見せたりぃ!」

「それなら、神戸名物元祖イチローコールを……」

「もう名物やないし、覚えてどないせいっちゅうんや!」

「キャッキャッ!」

「恵ちゃん、いまから正しいコケ方を教えてやるからな」

「女の子にそんなの教えてどうする!」

「キャッキャッ!」

「じゃあ、鶏の真似でも……コケー!コケコケコケー!」

「いいぞリーダー!」

「ニワトリ、ニワトリ!」

「リーダー!さっき何があったかわからんけど、めちゃ吹っ切れているやないか!おもろいで!」

「恵ちゃん、喜んでるわ!可愛いわぁ!」


同窓会はいつの間にか、恵に宴会芸を見せる会に変わっていた。


「し、心配なかった……ようだね……」

「そ、そうやね……」


呆れながらも、本心は恵の笑顔をみてほっとしている二人だった。






そんな二人の前に担任の先生が現れた。


「主人さん、やっぱり来てくれたんですね」

「先生!」


先生は満面の笑顔で二人の前に立っていた。


「ねえ、なぜ私が昨日主人さんを誘ったかわかる?」

「えっ?昨日そんなことがあったんか?」


全然知らなかった事実に驚く光。公二は光に軽く事情を話す。


「ああ、そのときは断ったけど……結局、このような結果に」

「うふふ、いいのよ。どうせそうなると思っていたから」

「え?」


先生は理由がわからない光に向かってその根拠を話す。


「みんな心配だったのよ。陽ノ下さんが東京で旦那と仲良くやっているか」

「そうだったんですか?」

「そう、たまに街角であっても、必ずあなたたちの話がでてきたのよ。『心配だ』って」

「そんなにうちらの事が……うちに聞けばええのに」

「無駄よ」

「え?」

「陽ノ下さんに直接聞いても無駄。陽ノ下さんならたとえ悪くても『大丈夫』って答えるにきまっているから」

「あ……」

「みんなわかっているのよ、みんなを気遣って心配させないように本当の事を隠す陽ノ下さんを」

「たしかに、優しい光のことだからな……」

「………」


先生は生徒のことを十二分にわかっていた。それは生徒が卒業してからも。


「だから真実を知る方法は、ただひとつ、直接旦那を呼んで話を聞くしかないって、みんな言っていたわ」

「それで先生俺に……」

「そういうこと」


先生はにっこりと笑う。そんな先生に対して光はすこし照れた表情を見せる。それだけ先生の言葉は光の本心を的確に表現していた。






「ねえ、主人さん。さっきは確かに悪ノリだったけど、悪気はないのよ」

「ええ、わかってます」

「あれが、彼らなりの優しさであり愛情表現だから」

「そうですね……」


しばらくして公二と光の背後から呼ぶ声が聞こえてきた。


「お〜い、旦那!光ちゃん!こっちこいよ!恵ちゃんが待っているぞ!」

「ちょ、ちょっと〜!」

「ああ、いま行くよ!……じゃあ、先生。ありがとうございました」

「いえいえ……主人さんも元気でね」

「はい!」


その後も、光の同窓会はゲストの公二と恵をまじえて、楽しく行なわれていた。公二と光はクラスメイトにからかわれながらも嫌な顔をせず対処した。恵はみんなに可愛がられてとても楽しそうだった。
こうして光の思い出に残る同窓会は幕を閉じた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
光の同窓会も無事終了しました。

公二、滅茶苦茶殴られてましたな。やっぱり公二は漢です。
リーダーは3発といっておきながら何十発と殴っていますが、公二がいいと言ったから殴っているだけですから。

公二の同窓会も光の同窓会も、一生思い出に残るような同窓会をイメージして書きました。
やっぱり同窓会っていいですね。

次回は第6部最終話。話題が変わってちょっと甘い話です
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