第28話目次第30話
2学期始業式の放課後。光は廊下で琴子に呼ばれた。 

「ねえ、光」

「なんや、琴子?」

「ちょっと眠ってもらおうかしら」

「えっ、どういう、うっ……こ、琴子……」


光は後ろから何か嗅がされたと思うまもなく意識を失ってしまう。



一方公二も廊下で匠に呼び止められる。


「よお、公二」

「なんだ、匠」

「いや、ちょっと用事があってな、ちょっと眠ってもらうよ」

「用事っていったい……うっ、こ、これは……」


公二も突然なにか嗅がされたと思うが、すぐに意識がなくなってしまう。


「クロロホルムって効果抜群ねぇ。さて、目が覚めないうちに連れていくわよ!」

「は〜い!」
「じゃあ、妖精さん。お願いね」
「まったく、俺は力仕事しかやらせてくれないのか……」
「ほんと、ボクも大変だよ……」

こうして眠らされた光と公二はどこかに連れられてしまった。

太陽の恵み、光の恵

第7部 始業式編 その3

Written by B
そしてしばらく後。公二と光はようやく目を覚ます。


「……う、う〜ん、ど、どこだここは?」
「……う〜ん、いったい、ここは?」


意識がはっきりしていない二人の頭上から声がかかる。


「御目覚めのようね、おふたりさん」

「琴子!」


自分たちが眠らされた主犯は琴子であることにようやく気づく。


「ここはどこだよ!」

「ここは体育館倉庫よ」


二人は辺りを見回す。ところが自分の体が思うように動かない。二人は自分たちの格好をみて驚く。


「確かに……!!!……こら!この格好はなんだ!」

「ちょ、ちょっと、動けないよ〜!」

「君たちが逃げないようにするためだよ」

「この前の失敗はくりかえしませんよね。妖精さん」


公二と光は全身ぐるぐるに縄で縛られて、手も足も動けない状態だった。体育館倉庫にイモムシが二匹いる状態である。


(ど、どないしよう……)

(しょうがない、こうなるのはわかっていただろ?)

(そうやけど……)


どうやら、二人には考えがあるようだ。それもそのはず、夏休みに琴子に会ってしまった二人は、こうなることはあらかじめ想定ずみだったのである。 そのための対策は十分練っていた。






琴子は勝ち誇ったように二人に問いただす。


「さて、あらためて聞くけど夏休みはなにやっていたの?」

「俺は北海道に同窓会に出たぞ」

「私は神戸に同窓会に出たよ」


正直に答える二人。しかしどう考えても前振りであることは二人もよくわかっている。


(あ〜あ、答えるだけ馬鹿馬鹿しいよ)
(次の質問がミエミエだよ〜)






琴子の質問は当然続く。


「あら?神戸に帰ったときにお二人さん一緒だったわよね」

「えっ?おまえたち二人で旅行だったのか?」
「高校生が二人で旅行……ただの旅行じゃないですよね。妖精さん」
「ふ、ふたりっきり……」
「うらやましいなぁ……ボクはバイトばっかりだったのに……」


琴子以外の4人は驚いていた。どうやら初めて知った事実らしい。


(やっぱりそうきたか)

(琴子はまだ他の人には言ってないみたいね)

(しかし、純はこの話題は弱い癖に、興味だけはあるんだよなぁ)






二人で旅行と聞いたからには追求しないわけにはいかない。さっそく匠から質問が飛び交う。


「なんで二人で旅行したの?」

「いや、俺は神戸に俺の親戚がいるから遊びに行っただけだ」

「うちは北海道に親戚がいるから遊びに行ったら、偶然公二とあったんや、そんで神戸まで一緒に……」


光の失言だった。


「あら?北海道に一緒にいたなんて聞いてないわよ」

「おまえら、北海道も一緒に旅行したのか!」
「ますます、あやしいですね……」
「う、うわわわわわ……」
「ふたりで北海道、神戸と長旅かぁ……いいなぁ……」


光はごまかそうと思って嘘をついたのはいいが、別の重要情報を与えてしまった。


(し、しもた!)

(ば、ばかっ!余計なことを言うな!)


気が付いたときにはすでに遅し。こうなると、琴子達の勘の良さが爆発する。


「でも、本当に親戚かなぁ?未来の親戚じゃないの?」
「そうですね。お互いの親戚へ婚約者の顔見せかもしれませんね」
「婚約者かしら?結婚相手っていったほうが良かったりして」


琴子達に完全に正解を当てられてしまった。


(ほらみろ!おもいっきりバレただろ!)

(ご、ごめん……)


自滅によって立場がだんだん悪くなっていく二人だった。






ここで一回深呼吸を入れた琴子が追求を再開する。


「そういえば、あなたたち、神戸でとんでもないことをしていたわねぇ」

「ねぇ、なんのこと?」
「な、なんのことだ?」


もちろん、自分たちが何をしでかしたのかはわかっているが、もちろんはぐらかしている。


(たぶん琴子、あのキスのことを言っているんやね?)

(ああ、でも証拠なんかもっているのか?)

(さあ?でも、見ただけだと証明できないもんね)


半信半疑の二人。琴子がキスの証拠を持っているようには見えなかったのだ。一方他の4人はもったいぶる琴子の言葉にいらだちを隠せない。


「なあ、とんでもないことってなんだ?」
「もったいぶらないで教えてください!水無月さん」
「お、俺も、し、知りたい……」
「ボ、ボクも……」


(純も茜ちゃんもなに考えているんだ?)
(苦手だけど興味はあるって、よくあることなんやね……)


琴子の言葉を怪しむ二人は4人のことを冷静に見ている余裕があった。






しかし、その余裕も長くは続かない。琴子は想定通りの段取りを勧める。


「ふたりともしらを切る積もりね。しょうがないわ……」

「?」
「?」

「穂刈くん。茜ちゃん、こっちへ来て」

「な、なんだ?」
「ボクに用?」


突然呼ばれた純一郎と茜は驚くものの琴子のところに向かう。また呼ばれなかった匠と美帆も驚いていた。


「俺たちは?」
「そうですよ。除け者は許さないですよ。ねぇ妖精さん……」

「待ちなさい!あなたたちも後で見せるから!」

(見せる?)
(どういうこと?)


公二と光は琴子の変な言葉に一抹の不安を感じていた。






「穂刈君。茜ちゃん。この沢山の写真をじっくりと見て」


琴子はそう言うとたくさんの写真を二人に見せる。


「写真って……!!!」
「どれどれ……!!!」


身を乗り出して写真を見る二人。ところが見た瞬間二人の顔が真っ赤になっていく。


(おい!二人の様子がおかしいぞ!)
(ま、まさか……)


二人の顔が完全に真っ赤になるのに時間がかからなかった。
そして二人に限界がやってくる。


「う、う、うぉぉぉぉぉぉぉぉ……」


ばたっ!


「ボ、ボ、ボクには刺激が強すぎる……」


ばたっ!


純一郎と茜は大量の鼻血を出して倒れてしまった。


(う、うそ……撮られてたの)
(そ、そんな馬鹿な……)






「すごい写真ねぇ……」


琴子は写真をみて呆れた表情をしている。


「そ、その写真はどうやって……」
「い、いつ撮ったのよ……」

「デジタルカメラって便利なのよねぇ」

(こ、琴子がデジカメ……信じられない)
(水無月さん……パソコンできるのか?)


二人は写真を撮られたというとことよりも、別の観点で恐怖心がでていた。






ところでさっきから無視されていた匠と美帆も待っていられなくなっていた。


「水無月さん!俺にも見せろ!……!!!」
「わ、わたしにも!どれどれ……!!!」


二人は琴子の持っている写真を無理矢理見る。ところが見た瞬間、二人も顔が真っ赤になってしまう。


「お、お前たち……こ、こんなこと人前でやっていたのか!……」
「み、淫らです……ふ、不謹慎です……ふ、不健全です……」


匠と美帆は写真を見ておもいっきり動揺していた。


「あなたたち。穂刈君はともかく、茜ちゃんまで鼻血を出すような行為をしていたのよ。わかる?」


そういって琴子が公二と光に見せた写真とは、夏休みに神戸に行ったときに寺の石段で二人がした熱く激しいキスの様子が撮られていたデジカメ写真の数々だった。

(琴子……いやらしい写真だけしか撮ってない……)

(興味があるのか?水無月さんは……)

(ある意味天才やね……)

(そ、そうだね……)


琴子は天才でもなんでもない。普通に撮っただけである。ただ公二と光のキスがあまりに激しいために、そんな写真しか撮れていなかった。それだけである。


(でも、あのとき、フラッシュとかカメラの音とか聞こえなかったけど……)

(俺もだ、水無月さん隠し撮りしていたのか?)

(さあ?)


そんなことはない。琴子は普通にバシャバシャと写真をとっていたのだが、二人はキスに夢中でまったく気がついていないだけの話である。






「ねぇ?あなたたち、こんなことが人前でするような関係になっていたの?」

「お、おまえら、ほ、本当は恋人以上な関係じゃないのか?」

「こ、答えないと、こ、この写真をばらまきますよ!」


これをネタに追求を続ける3人。ところが匠と美帆は未だに動揺していて凄みが全然無い。


(しょうがない……あの作戦をやるぞ)

(は、恥ずかしいけど……しょうがないね)

(お、俺だって恥ずかしいよ!……あんなこと言うと思うと!)


しかしこのままではどうしようもない公二と光はあることを実行しようとしていた。






「さあ、なにかいったらどうなの?」

「は、は、はっきり白状したほうが、い、い、いいんじゃないの?」

「こ、こ、この写真。そ、そ、そんなに、ば、ば、ばらまかれたいのですか?」


動揺しながらも、脅す3人(残る2人は気絶したまま)。しかし、次に光から放たれる言葉が3人をさらに動揺させる。


「いいよ……別に」


光は平然とした表情で答えた。


「え?」

「ばらまいたってかまわないよ、俺たちは」

「ど、どういうことだよ……」


予想外の答えに琴子達は動揺する。あまりに動揺して次の追求に入れない。


「うちら、そないことができる関係やから」

「別に隠すような関係じゃないからなぁ」


公二と光は向かい合って話し合っている。


「そんな関係って……」

「別にええやろ、そんなこと……不満?」

「い、いや、そ、そんなこと……」


思わぬ反応に、完全に動揺してしまった3人であった。






そして、とどめの一撃が3人を襲う。


「なんなら……見せてあげようか?」

「ど、ど、どういう、あわわわわわ……」


さすがの琴子もとうとう動揺を表に出してしまう。


「そんなに見てみたいのなら、実際に見せてやるよ」

「お、おまえ、い、いつから、だ、大胆、だだだだだ……」


匠も動揺に動揺を重ねてもはや言葉が文章になっていない。


「さっき、夢中で見てたやろ?興味あるんじゃないの?」

「そ、そんな、わ、わたくしは、きょうみがあるなんて、ああああああ……」


美帆も同様に混乱している。そして、光は公二に思いっきり色気のある声でつぶやく。


「そこのウブな3人に大人のキスを見せてあげようね♪」

「%£∞※∀!!!」
「жтщмй!!!」
「θχδζξ!!!」

「!!!」


公二と光のとった作戦は単純明解。「開き直り」。言葉にすれば簡単だが、効果的に3人に精神的に多大なダメージを与えている。 もはや、3人は言葉になってない。






でも、どうも様子がおかしい。明らかに公二も動揺している。


(お、おまえ、本気か?本当にやる気か?俺は脅かすだけだと思っていたが)

(うん、本気やよ♪)


実は光の最後の言葉は公二にとっても全くの想定外だったのだ。光の言葉に慌ててしまう公二。


(あれだけ人前で見られて、まだ見られたいのか?)

(うん、実は……やみつきになりそうなんや♪)

(!!!)


光は笑顔だが目は真剣だ。こうなると頑固な光の決意を変えるのは至難の技。


(うちのせいだけじゃない!1回目はうちからだけど、2回目はあなたからよ!)

(うっ……それは……)


確かに事実だ。正直言うと公二も光とのキスは大好きなのだ。


(責任とってな♪)

(……わかったよ……)


結局、公二も諦めてしまう。完全に開き直りから越えてしまった二人。もはや、単なるラブラブバカカップルになってしまっている。二人はキスしようと顔を寄せる。表情は本気でやるのがよくわかる。早く激しく絡みたいとばかりに口を開き、舌をつきだして近づく。
完全に無視された3人は、口をあんぐりさせて硬直状態になっている。






公二と光の唇の距離が3cmになったとき、体育館倉庫で物音がした。


ドンガラガッシャンガラガラゴチーン


「いっけな〜い!またやっちゃった〜。なんで私はこうドジなんだろう?でも甲子園にいくためなら、くじけないモン♪」


倉庫で道具を探していた楓子だった。


彼女は野球部マネージャーとしての初仕事をしていた。ちなみに、本当の初仕事は昨日だったが、野球部員の記憶からは自己防衛機能によって消えている。そこで、なにか道具を倒してしまったらしい。


「あ、楓子ちゃん……」
「た、助かったかも……」


二人は我に返って楓子の方を向く。キスする雰囲気はいっぺんに消え失せた。他の人がやってきて安心した表情を浮かべていた。






視線が彼女に突き刺さったのか、そこからかなり離れていた楓子も二人を見つけた。


「あっ、公ちゃんに光ちゃん……ど、どうしたの!」

(気づいたみたいだな)


楓子は縛られた公二と光の姿を遠くから発見したようだ。楓子の驚いた表情は公二や光からもよく見えた。


「しばられて、どうしたの?……きっと、いじめよ!拷問よ!公開処刑なのよ!」

(あれ?なんかおかしくない?)


二人の姿をみておろおろし始める。しかしどうも様子がおかしい。楓子はなにやら探しているようだ。


「いますぐ助けないと!……えっと、武器は……あっ、あった!」

(や、やばい!)
(楓子ちゃん!それは駄目!)


公二と光は最悪の展開にならないように心の中で必死に祈っていた。しかし、二人の心の叫びも届かず、楓子は近くの金属バットを手にした。手にした瞬間に、楓子の表情が一変する。笑顔なのは変わらないが、その裏から悪魔が見えかくれする。


「公ちゃんをいじめる人は許さないモン♪」


公二と光には、楓子の目がキラリと光ったように見えていた。






目の前で過激なシーンを見てしまうところだった3人はやっと楓子の声に我に返った。


「よ、よかったのかしら……」
「ま、まさかあの二人が……」


まだ、さっきの二人のシーンの余韻がわずかに残っていた。しかしそんな余韻に浸っているのも今のうちだけだった。


「ねぇ、あの人は誰?」
「えっ、あの人って……うわっ!」


3人の目の前に、バットをもって微笑む小悪魔マネージャーがいた。彼女の側には野球ボールの入った籠があった。ただ、籠のなかにテニスボールやゴルフボール等違うボールもまざっていたが。
楓子に聞こえないように3人で話し合う。まずは、目の前が誰かという事から始めていた。それもそうだ。楓子は今日正式に転校してきたのだから。それでも匠は知っていた。


「た、たしか、今日から1年E組に転入してきた。佐倉楓子という女の子だ」

「他に情報は?」

「そうだ!中学のとき公二と一緒だったという噂があるぞ」


匠はさすがに目の前の転校生の情報をかなり入手していた。ちなみに匠の言う噂とは自己紹介で楓子本人が言ったことなのだが、匠の耳には噂という形になっていた。


「そうなの……で、なんでここにいるのよ!」

「たしか、野球部のマネージャーになるとか……!!!」

「どうしたんですか?」


匠は何かを思い出したようだ。しかし、その瞬間匠の顔から少し血の気が引いてしまう。


「思い出した……なあ、昨日野球部員全員がノックで半殺しになったとかいう事件聞いているだろ?」

「ええ、噂だけなら」

「その犯人が……彼女だという噂らしい」

「うそっ……」


美帆と琴子の顔からも若干血の気が引いていく。






そんな3人の会話を遮る女の子の声。


「公ちゃんと光ちゃんをいじめる人はおしおきだモン♪」


3人の目の前の楓子は可愛い笑顔を振りまいていた。しかし、3人にはそこから恐ろしいほどの殺気を感じ取っていた。


「ひいいっ!怖い……」

「こ、殺される……美帆!なんとかならないの!」

「そんなこといっても……あっ!後ろ!」


美帆がそれとなしに楓子の後を二人に教える。


「……う〜ん、俺はいったい……」

「……う、う〜ん、ボクはなんでここに……」


気絶していた純一郎と茜がちょうど目を覚ますところだった。


「た、助かったわ……」

「とにかく、俺が、それとなしに、合図するよ」


匠は二人に「そこの女の子のバットを引き抜け」と目で合図を送った。二人もわかったようだ。純一郎と茜は気配を消して後ろから楓子に近づく。そのとき、楓子は後ろを振り向くなやいなや、電光石火の早業でテニスボールを二人に打ち込んだ。


カキーン!カキーン!


「うっ……」
「うっ……」


ボールは見事二人の下腹部にクリーンヒット!


ばたっ!


二人はボディーに強烈なパンチをくらい再び倒れてしまった。二人が倒れるのを確認した楓子はニコニコしながら3人に向かって歩き出した。


「悪いことしようなんて10年早いモン♪」


3人の顔にはさらに血の気がなくなってきている。






「う、うそだろ……」

「茜ちゃんが一発でKOだなんて……」


怯える匠と美帆。それでも琴子はなんとかしようと考えている。


「ちょっと!美帆の妖精さんではなんとかならないの?」

「わかりました、妖精さん、総動員で彼女をなんとかしてください!」

「こんどこそなんとかなるかも……」


美帆の妖精さんならなんとかなるだろう。第一、楓子には見えないから、どうしようもないだろう。3人は妖精さんの登場で事態を楽観視している。


そんななか、楓子がいきなり無数のボールを打ち出した。


カキーン!カキーン!カギーン!カギーン!ガキーン!カキーン!カキーン!
カキーン!ガギーン!カキーン!ガキーン!カキーン!カギーン!カキーン!


ソフトボールだろうが、ゴルフボールだろうが、ゲートボールだろうが関係なかった。 しかし、それは3人には当たらなかった。


「な〜んだ、全部はずれじゃないか」

「たいしたことないわね……あれ?」

「………」


匠と琴子は余裕が出てきたようだ。しかし美帆の様子がおかしい。


「あら?美帆さんどうしたの?」

「よ、よ、よ、妖精さんがぁぁぁぁぁ!」


美帆は顔面蒼白になってしまっている。


「どうしたんだ?」

「妖精さんが……全て打ち落とされた……」

「な、なんだって!」

「うそ……」


さっきの楓子のボールは全て見えないはずの妖精さんを打ち落としていたのだ。 それも百発百中!美帆の目の前には気絶しているたくさんの妖精さんの無惨な姿が映っているはずだ。 もはや、3人にはなにも抵抗手段がなくなった。






じりじりと3人に詰め寄る楓子。


「絶対に許さないモン♪」


もはや3人には説得以外の方法がない。


「なあ、楓子ちゃん……話し合おうよ」
「こ、これには事情があるの……」
「そ、そうね……悪気はなかったのよ……」


しかし悪あがきに過ぎなかった。


「問答無用だモン♪」


カキーン!ガキーン!カキーン!カキーン!ガキーン!カキーン!カギーン!
カギーン!カキーン!カギーン!ガキーン!ガキーン!カギーン!カキーン!
カキーン!カギーン!ガキーン!ガキーン!カギーン!カキーン!カキーン!


「%£∞※∀!!!」
「жтщмй!!!」
「θχδζξ!!!」


体育館倉庫はまさに地獄絵図へと変貌していく。


(匠……葬式にはでてやるからな……)

(琴子、美帆ちゃん……二人のことは一生忘れないよ……)


公二と光は目をつぶって、3人の断末魔の叫びだけを聞いていた。ふたりには楓子による阿鼻叫喚のシーンを見ることはとてもできなかった。






打球音が止まった。二人は目を開ける。目の前には楓子が微笑んでいた。


「た、助かった……ありがとう」

「楓子ちゃんがいなかったら、どうなっていたか……あれ?」


どうも楓子の様子がおかしい。


「ベタベタしているカップルは嫌いなんだモン♪」

「えっ?」


公二と光は、二人の顔の距離が10cmしかなく、体も密着状態だったのだ。


「夏に私を振っておいて、目の前ではしたないことを……許さないモン♪」


楓子はボールの準備に取りかかる。身の危険を感じた二人は必死の説得を試みる。


「ま、待て、これには訳が……」
「そ、そうよ、好きでこうなった訳やないんよ」


これもやっぱり悪あがき。バットを持った小悪魔の耳にはまったく入っていなかった。


「問答無用だモン♪」


カキーン!カギーン!カキーン!ガキーン!カギーン!カキーン!ガキーン!
カキーン!カキーン!カギーン!ガキーン!カギーン!ガキーン!カキーン!
カキーン!ガギーン!カキーン!カキーン!ガキーン!カギーン!カキーン!


「うわぁぁぁぁ!」
「きゃぁぁぁぁ!」


地獄絵図の再来だった。






それから30分後。体育館倉庫に一人の少女がやってきた。美幸である。


「え〜と、ライン引きはここだよね〜」


がらがらっ!


「はにゃはにゃはにゃ〜〜〜〜〜!」


そこには野球ボールやらテニスボールやらが無数に散らばっていた。さらにボールをぶつけられて気を失っている7人の無残な姿があった。そのなかの二人は体が縛られた状態で密着状態で気を失っている。


「み、見なかったことにしよう……」


美幸はそのまま立ち去ってしまった。






結局、7人が目が覚めたのが夕方の6時だった。一発KOの純一郎、茜を除いた5人は全身打撲で次の日の授業を休んだのはいうまでもない。
ちなみに、犯人の楓子はあれから何事もなかったかのように部員に地獄のノックを始めたのもいうまでもない。
To be continued
後書き 兼 言い訳
第7部最終話です。
公二と光はキスの写真をネタに脅されましたが、見事反撃に成功しました。
しかし、小悪魔のおかげで無残な結果に……ご愁傷様です。
尋問なのに、拷問になってしまいました。

次回からは第8部です。
展開ががらっと変わります。そして、いよいよあのキャラが登場です。
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