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第30話目次第32話
放課後の野球部部室。
楓子と公二はテーブルを挟んで対峙している。
楓子は公二に依頼の進行状況を聞いている。

「公ちゃん、どうだった?」
「ああ、最初は驚いたよ」

公二はテーブルに肘をつきながら、すこし呆れているというような表情をしながら答える。

「何が?」
「だって、最初のデート、すっぽかしたんだぞ……」
「えっ!そうなの?」

楓子は「信じられない」という表情をみせる。
公二はそんな楓子の顔を見ずに話を続ける。

「まあ、夜『ごめんなさい』って電話がきたけど」
「そう……で、そのあとは?」
「一応来てくれるよ、もう2度ほど会ったかな。最初は彼女はほとんど話をしないけど、徐々に話すようになってきたよ」
「そう……よかった」

自分の話がすんだところで公二は楓子に効果の程を聞いてみる。

「ところで、クラスでは八重さんはどうなの?」
「それが……そのままなの」

結局あまり好転はしていないようだ。

「そうか……ごめんな、力になれなくて」
「いいよ、ありがとう」

「まあ、これからもできる限りやってみるよ」
「うん。お願い」
 

こうして2人は別れたが、なにか腑に落ちない点があった。
 
(公ちゃん。なにか様子が変。どうしたんだろ……)
(楓子ちゃん。なにか反応がおかしいような気がするが……)
 
それは2人が本当のことを言ってないからであるが、そんなことにはまったく気がつかないのであった。

太陽の恵み、光の恵

第8部 倦怠期編 その2

Written by B
次の日曜日。
光の家。
公二は花桜梨とデートの約束はなく。家にいた。
 
「ねえ……なんでここにいるんや!」
「しょうがないだろ!親が言うから!」
 
両親が公二と光に言った、たった一つの提言。
「絶対に別居はするな」
これは光の母の提言である。
2人が別々の家にいたら、仲直りの機会が完全になくなってしまうことを恐れてのものである。

しかし近くにいるだけでなにか腹立たしい。

「だったら、どこへでも行ったらどうや!」
「うるさい、俺だって家にいたいんだよ!」

言葉の一つ一つも攻撃的になる。
 


「パパ、ママ。なんでおこっているの?」

こんな喧嘩ばかりの二人を止めているのは恵である。

「うっ……」
「うっ……」

さすがに娘の前ではどなりちらすわけにはいかない。
最悪の夫婦状態に唯一かろうじて残っている親としての良心である。

しかし事態が好転するわけはない。 

「あー!むかむかする!ちょっと恵と公園に散歩行ってくる!」
「ちょっと待て!見つかるとやばいだろ!」
「いいわよ!そのときはそのときよ!」
「どういうつもりだ……って行ったよ」
 
結局は家内別居の状態になってしまう。
もう日常茶飯事になってしまった。しかし今日だけは違った。
それは今日に限って、光が恵を連れて行ったことだ。
 


中央公園。
家にいたくない光は恵を連れてきていた。
ベンチに座ってお話をしているのだが、
 
「ママ。なんでおこっているの?」
「あの~、その~……」

「パパ、ママ。なんでけんかしてるの?」
「そ、それは……」

恵の質問にまともな答えが返せない光。
そもそもまともな答えなどないのだから答えようもないのだが。

「めぐみ、パパ、ママどっちもすき。けんかしちゃいや。え~ん!」
「だ、だいじょうぶやから、泣いちゃだめだよ……」
「うん……ぐすん」
 
最近、恵が親の仲の悪さに気がついたようだ。
だからといって、仲直りする気にはどちらもなれない。
でも、放っておけば悪影響は免れない。
それが、公二、光をさらにいらいらさせる原因にもなっている。
 
「まったく、公二が浮気するからや!どういうつもりや……って、あっ!」

光は自分の方向に歩いてくる見慣れた顔の人を見つけた。

(あれは、公二が浮気している人!)

光は公園に来ていた花桜梨を偶然見つけたのだ。
 


「あっ……確か、学校であったことがあるような……」

花桜梨もベンチに座っている光に気づいたようで光に話しかける。。
 
「そ、そうやね。うちは1年A組の陽ノ下 光や」
「私は1年E組の八重 花桜梨……」
「八重さんね。よ、よろしくね……」

光は煮えくりかえっている怒りの感情を必死に押さえて笑顔で挨拶する。



その挨拶のときに花桜梨は光の隣にいる小さな女の子の存在に気づく。
その女の子はきょとんとした顔で自分を見つめている。
よくよくみると光にすこし似ている。

「ねぇ……陽ノ下さんが連れている子供は?」
「えっ!……え~と、その~、親戚の子なの……」
「そうなんだ……」
 
光はいつになく緊張していた。
楓子以外で恵と一緒のところを見られたのは始めてだったのだ。
しかも公二の浮気相手らしき女性に。


あまりに緊張してしまったのか……
 
「ご、ごめん!ちょっとトイレに行ってくるから、その子ちょっとお願い!」
「あっ、陽ノ下さん……」

花桜梨が呼び止めるのも聞かずに走っていってしまう。

「恵!そのお姉さんのところでおとなしくしてるのよ!」
「は~い」
 
光は恵を置いてトイレを探しに行ってしまった。
 


仕方がないので花桜梨は公園のベンチで恵を抱いて座っていた。
 
(かわいい子供……私もこんな頃があったのかな……)
「おね~ちゃ~ん」
 
恵はじっと花桜梨の顔をじっと見ていた。
 
(子供の目ってこんなに澄み切っているんだ……もう、私にはこんな目はできない……)
「おね~ちゃ~ん、あそぼ~」

恵の目はとても透き通っている。
それは恵の純粋な心を表現しているように花桜梨は感じた。

(どうして、その澄んだ瞳で私をみるの?……私はそんな目で見られる資格はないのよ……)
「ねぇ~」

花桜梨は思わず恵の目から自分の顔をそらしてしまう。
恵はそんな花桜梨にしがみつく。

(どうして?もしかしたら、あなたにひどい事をするかもしれないのよ?なぜそんなに私になつくの?)
「あそぼ~よ~」

恵にはそんな花桜梨の心がわかるわけがなく、
ひたすら花桜梨と遊ぼうとせがんでいる。

(信じてくれるの?……こんな私を信じてくれるの?……だめよ……そうしたら私……)
「おね~ちゃ~ん!」

花桜梨はようやく恵が自分を必死に呼んでいることに気が付いた。

「あっ……ごめんね、ちょっと考え事していたから」
「?」
 


花桜梨がそんなことをしているうちに光が戻ってきた。
 
「ごめんなさい。ありがとう、八重さん」
「そんな……お礼なんて、私にはそんな資格ないから……」
「えっ、どういうこと?」
 
花桜梨は光に恵を渡す。
花桜梨は恵に視線を合わさないようにしている。

「ごめんなさい!」
「ちょっと、八重さん!」
 
突然、花桜梨はその場から走りさってしまった。
 


しかし……
 
「きゃ!」
「八重さん!」
 
花桜梨は転んでしまった。しかも彼女の様子がおかしい。
 
「大丈夫?」
「……うん……っつ!」

花桜梨は足首を掴んでいる。
その表情はとても辛そうだ。

「足首、ひねってるみたいだね……」
「……」
「とりあえず医務室へ行こか。肩ぐらいは貸すさかいに」

光は花桜梨の肩を担いで花桜梨を立ち上がらせようとする。
恵も心配そうに花桜梨を見つめる。

「おね~ちゃん。だいじょうぶ?」
「大丈夫……」

光は自分より背の高い花桜梨をなんとか立たせようとしていた。

「立てますか?」
「ごめんなさい……」

花桜梨は立ち上がりながら光に謝っていた。

「うちじゃあ、頼りないかもしれないけど、少しの間の我慢やから……」
 
花桜梨はそれに対して何も言わなかった。



公園の医務室にて検査の結果は軽いねんざだった。
 
「軽いねんざだけで良かったですね」
「……うん」
「気をつけてゆっくり帰ってくださいね」

花桜梨はもう少し休んで帰るらしいので、光は先に帰ることにする。

「今日はごめんなさい……」
「謝ることなんかないですよ。そんな覚えはないですから」
「う、うん。それじゃ……」
「おね~ちゃん、バイバ~イ」
 
光はこのまま家に帰った。
この出来事は当然公二の耳に入ることはなかった。
 


次の日。
公二は屋上にいるはずの花桜梨に声を掛けてみた。
 
「八重さん!」
「……」

花桜梨の様子がいつもにもまして暗い。
なにか思い詰めいているようだった。

「どうしたの?」

公二が聞いてもなにも答えない。
しかし、しばらくしてようやく花桜梨が話した。
しかしその言葉は公二の想像外だった。


「……ごめんなさい。もう……もう、私のことかまわないで!さよなら!」


「え!?八重さん!」
 
突然、花桜梨は屋上から走り去ってしまった。
公二には何が何だかわからず、しばらくそのままの状態だった。
 
(八重さん……なにがあったんだろう?)
 


それから3日後。
公二は家に帰ろうとしたとき。校門で花桜梨を見かけた。
公二は急いで花桜梨に声を掛けた。
 
「八重さん!今、帰り?」
「……」

花桜梨の足が止まる。
しかし花桜梨は何も答えない。

「一緒に帰らない?」
「……もう、かまわないでって言ったと思うけど」
「聞いたよ。でも、納得する理由を聞いてないし」

花桜梨は冷たい口調で返事をする。
しかし公二はそんな花桜梨に関係なく花桜梨の答えを待つ。

「……だって私、あなたの事、信じたくない……」
「俺、八重さんを何か傷つけたの?俺が何かした?」

花桜梨の言葉に公二は思い当たることは何もない。
だから公二は余計に納得ができない。

「いいえ。最近みんな私に親切にしてくれるけど……」
「みんな?……でも誰も八重さんを傷つけてないだろ?」
「うん、確かに今はそうじゃないけど……いつかきっと、きっとそうなる気がする」
 
「みんな」には光や恵のことも含まれているのだが、そんなことは公二はまったく思っていなかった。

それでも公二は花桜梨の今の気持ちに気づいた。
傷つけられることを非常に恐れて、自分の殻に閉じこもっている花桜梨に。


「……そう。そうやって、信じられるかどうかわかる前にあきらめちゃうんだ」


「!!!」

花桜梨は公二の言葉にはっとした表情を浮かべる。
そしてそのまま黙ってしまう。



そんな花桜梨に公二はもう一回誘う。

「八重さん、一緒に帰らない?」
「……うん」

今度は拒否しなかった。

「じゃあ、帰ろう」
 
こうして公二は花桜梨と一緒に帰った。
そのときの花桜梨の顔は今までとは違って少し明るかった。
 


ところが、公二はこれが光に知られるとは思ってもみなかった。
なぜなら運の悪いことに……
 
「ちょっと、公二君、光じゃない子と下校しているわよ!」
「匠さん。彼女は誰だかわかりますか?」
「ああ、確か1年E組の八重 花桜梨って子だ」

琴子、美帆、匠の3人が遠くから公二と花桜梨の姿を見ていたのだった。

「まったく、光って子がいながら、なんなのよ!ちょっと一言いってやるわ!」
「待って、水無月さん!ここは様子を見ましょう。私達が入るとややこしくなるだけです!」

怒り心頭の琴子。
それをなだめる美帆。
それとは関係なく冷静に花桜梨の姿を見ている匠。
 
「そうだな……でも?」
「でも?」
「彼女、美人だから目をつけていたけど、いつも寂しそうな顔をしていたんだ。俺、あんな顔見るの初めてだよ」

匠の言葉に琴子はさらに怒り出してしまう。

「なに?じゃあ、きっと公二君がなにかしたに決まっているわ!あの男!」
「待ちなよ、きっと何かあるんだよ!」
「いいや、勘弁なりません!」
 
ついに公二と光の間に嵐が吹き始めた……
To be continued
後書き 兼 言い訳
公二と花桜梨の仲は進展してますが、光との関係がだんだんと怪しい方向に……

遂に恵ちゃんの台詞がカタカナからひらがなに進化しました!
しかもちゃんと文章をしゃべる!
さらに、ストーリーにからむようになりました!

今後、恵ちゃんを話にからませたいのですが、うまくいくかは作者しだい(汗
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