2人があわてている場所から離れた川岸に一人の少女がいた。
「また、来てしまったのだ……」
中学校の制服、それも独特の改造が施されていると思われる独特の制服を身に付けた女の子。
私服だと小学生に間違えられそうな小さい少女だった。
「どうしても忘れられないのだ……もう7年経つのに」
「あれは、初めて一人でここに出かけた時なのだ……」
少女は川岸に座ってじっと川を見つめる。
少女は目をつぶって思いにふける。
少女は7年前にタイムスリップしていた。
少女は一人で川に来ていた。
この頃、川に行くことは少女にとっては大冒険だった。
川には同じぐらいの男の子いた。
『ねえ、そこのお兄ちゃん。なにやってんの?』
『え?ぼ、ぼく?』
『そうなの』
『なにって、あそんでるんだよ〜』
『ふ〜ん、そうなんだ……たのしいの?』
『うん……いっしょにあそぶ?』
『え?い、いいの?』
『うん、いいよ!』
それからその男の子と少女は楽しく遊んだ。
少女にとっては初めての遊びばかりでとても楽しかった。
「あれは今でも忘れられない……ほんとに楽しかったのだ……」
いつの間にか辺りは暗くなっていた。
遊びに熱中するあまり時間を忘れていた。
少女にとってこんなことは初めてだった。
『暗くなってきたけど……もうそろそろ帰らないとお母さんにおこられない?』
『……いいの』
『ほんとに?』
『だいじょーぶなの!』
本当はもう帰らなければ行けない時間。
でも少女はまだ遊びたかった。
『……さま〜!どちらにいらっしゃいますか?』
しかし近くに自分を捜している声が聞こえてきた。
『??ねぇ、あれって……』
『いやなの!もっとお兄ちゃんとあそぶの!』
「そう、咲之進が迎えに来て……でも帰りたくなかったのだ……」
だだをこねる少女に男の子が提案をする。
『じゃあ、また今度あそぼうよ』
『今度?ぜったい?』
『うん!』
『ぜったいのやくそくっ!』
『わかった、やくそくするよ』
『やくそく!』
『うん、じゃあ、またあそぼうね!』
『うん、またね!お兄ちゃん!』
少女は咲之進という男に連れられて家に帰った。
少女は手を振って見送ってくれる男の子の笑顔が強く印象に残っていた。
少女は目を開ける。
少女の目には男の子の姿はなく、ただ川が流れているだけ。
「でもそれっきり、あのお兄ちゃんは来なかったのだ……」
「昔のことなのに……なんで忘れられないのだ?なんでここに来てしまうのだ?」
「メイにはさっぱりわからないのだ!」
「あのお兄ちゃんはいったいどこにいるのだ……」
そういって、少女はそのまま川の流れをじっと見つめていた。
それからしばらくして、少女は不意に立ち上がった。
「やっぱり、待ってもくるわけないのだ……咲之進が心配するから帰るのだ……」
寂しそうに歩き出す少女。
そんな少女に泣声が聞こえてきた。
「ん?……あれ?あれは?」
「うわ〜ん!うわ〜ん!」
少女が気が付くと、向こうから泣きながら歩いている女の子がいた。
少女はその女の子のところに行く。
「ど、どうしたのだ?」
「パパ〜ママ〜」
その女の子はどうやらいつの間にか両親にはぐれて迷子になったらしい。
「そうか、迷子になったのか……」
「うわ〜ん!」
泣いてばっかりの女の子。
少女はその女の子の頭をなでて慰める。
(なんなのだ?この子とは初対面なのに、こんなに懐かしい気持ちになぜなるのだ?)
少女はその女の子から感じる雰囲気に少し戸惑いを感じていた。
少女はなんとか女の子を泣きやませようと頭を優しくなでる。
「よしよし……メイがいるから大丈夫なのだ」
「おね〜ちゃん……」
ようやく女の子は泣きやんだ。
落ち着いたのを確認した少女は名前を奇知恵見る。
「名前は何と言うのだ?」
「めぐみ……」
「私はメイというのだ、メイおねえちゃんでいいのだ」
メイはめぐみに優しく微笑む。
めぐみはメイに警戒心もなく寄り添う。
「メイおね〜ちゃ〜ん……めぐみのパパとママは?」
「大丈夫、すぐに来てくれるのだ……」
メイはめぐみを安心させようと答える。
「ぜったい?」
「うん、絶対なのだ」
めぐみの問いにメイは自信をもってこたえる。
「ぜったいのやくそくっ!」
「えっ……」
「やくそく!」
「ああ、約束するのだ……」
(あれ?どこかで……)
めぐみの答えに少し戸惑うメイ。
なにかどこかで聞いたような言葉。デジャビュのようなものを感じている。
「よしよし、しばらくここで待っているのだ……」
「うん、まってる……」
めぐみを抱きかかえ、待つ所を探すメイだったのだが、
突然、2人の周りに謎の男たちが現れた。
「イジュウイン・メイ、ダナ?」
「な、何者なのだ!」
男達は片言の日本語でメイに問いかける。
なにか危険なものを感じたメイはめぐみを守るように強く抱きしめてる。
「オマエニ、ヨウガアル、ツイテコイ!」
「い、いやなのだ!」
「おね〜ちゃ〜ん!」
男達の口調が強くなる。
男達はじわじわとメイ達に近づく。
メイ達は逃げようとしても恐怖のあまりに足が動かない。
「イヤナラ、イモウトト、イッショニ、ツレテイク」
「い、妹?この子は関係ないのだ!」
「ウソツクナ……モノドモ、ツレテイケ」
「な、何をする!……うわぁぁぁぁ……」
「うわぁぁぁん……」
男達は一斉にメイ達を捕まえる。
メイ達は何もしようがなかった。
そして男達は2人をつれてどこかに消えてしまった。
一方、光と公二は恵を探して川岸を歩いていた。
「めぐみ〜!どこにいるの〜!」
「お〜い!めぐみ〜!」
探しても探しても恵の返事がない。
声を出しても声を出しても、歩いても歩いても恵は見つからない。
「いない……どうしよう……」
「まだ、子供だからそんなに遠くにはいってないと思うけど……」
二人は疲れ切っていた。
肉体的にも精神的にも参っていた。
二人に焦りの表情が見え隠れしている。
「警察呼ぶ?」
「もう少し川岸を探そう、もし駄目だったら……仕方がないな」
「ごめん……うちが恵を見ていなかったばっかりに……」
「いや、俺も悪いんだ……」
そのとき、川岸から誰かの声が聞こえてきた。
「……さま〜!メイさま〜!どちらにいらっしゃいますか?」
スーツを来た背の高いホスト系の男がこっちへ向かって走ってきた。
ただならない様子に二人は思わずその男に駆け寄る。
「あなたは誰ですか?」
「私は、伊集院家の次女メイ様の付き人をしている三原咲之進と申します」
「い、伊集院家?あの、大財閥の?」
「はい、日本にある5大財閥の一つ、とでも言っておきましょう」
伊集院家は日本有数の大財閥の一つである。
ひびきの市のとなりのきらめき市を本拠地に日本中で活動している。
そのためきらめき市はここら辺の都市では一番の発展をしている。
そんな家の人がなぜここに?二人には当然の疑問が湧きあがる。
「あなたがなぜここに?」
「実はメイ様がここら辺に一人で出かけたのはわかっているのですが、探しても見当たらないのです」
「えっ?」
咲之進も迷子を捜していたのだ。
自分たちとまったく同じで二人は驚いていた。
「すいません、ここらで背の小さい中学校の制服を着た女の子を見ませんでしたか?」
「ごめんなさい……見てへんのや」
「そうですか……」
そもそも恵を探し始めてから小さい女の子と会っていなかった。
咲之進もすこしがっかりした様子だ。
もしかしたらこの人は恵の場所を知っているのでは?
そう考えた光は咲之進に聞いてみる。
「あの〜。こちらもお聞きしたいことがあるのですが……」
「なんでしょうか?」
「1才ぐらいの女の子がそちらにいませんでしたか?」
「いませんでしたが……失礼ですが、その子はあなたの親戚の子ですか?」
「いえ……うちらの娘なんです……」
がっかりしながら恵と自分との関係を話す光。
それを聞いて少し驚いた様子の咲之進。
「えっ!……そんなにお若いのに……ちなみにお歳はいくつで?」
「俺達……高校1年生なんです……」
「学校や友達には隠していますが……」
「そうでしたか……それは失礼しました……」
ここで思わず自分たちの秘密を明かしてしまった二人。
思わず口止めしようとする。
「す、すいません、このことは誰にも内緒にしていただけませんか?」
「秘密保持は伊集院家ではよくあることです。あなたたちに何か事情があるのでしょう、お安い御用です。」
「ありがとうございます」
快く秘密を約束してくれた咲之進。
ほっとする二人。
「なんでしたら、一緒にお嬢さんを探しましょうか?」
「本当ですか!」
「もしかしたらメイ様と一緒にいるかもしれませんから」
「ありがとうございます!」
「では、さっそくですが川の上流を探しましょう」
お互いに仲間が増えて少し気が楽になったようだ。
そう言って3人で歩きだそうとしたとき。
ピピピピピピ!ピピピピピピ!
突然、咲之進の携帯電話の着信音が鳴った。
「いったい誰から……『送信者不明』?一応でますか……もしもし」
携帯電話には見知らぬ男の声だった。
「ミハラ・サキノシン、ダナ?」
「そうですが……あなたは一体何者?」
「『………………』」
「何だって……」
片言の日本語の声に咲之進の顔がみるみる青くなっていく。
「イジュウイン・メイト、ソノイモオトハ、アズカッタ」
「えっ……」
「カエシテ、ホシケレバ、800オクドル、ヨウイシロ」
「800億……」
「バショハ、カワラノ、ハイコウジョウダ」
「河原の廃工場……」
「3ジカンイナイニ、モッテコナイト……ヒトジチヲ、コロス……ワカッタナ……」
そして電話は一方的に切れてしまう。
「おい!ちょっと待て!……切れたか……」
「いったいどうしたんですか!」
咲之進は頭をうなだれて答える。
「おたくのお嬢さんは……メイ様と一緒に誘拐されてしまったようです」
「なんだって……」
「恵が……誘拐された……」
「誘拐」と聞いて呆然としてしまう二人。
二人の表情からはショックの色が強く出ている。
「どうやら、犯人はメイ様の妹と勘違いされたようです」
「ねぇ、どこや!恵はどこにいるんや?教えて!お願い!」
「光、おちつけ!光!」
咲之進につかみかからんとするばかりの光。
その光の腕をつかんで落ち着かせる公二。
「メイ様と娘さんは河原の廃工場にいるようです。今から行きましょう!」
「急ぎましょう!」
「河原の廃工場やね!」
「詳しいことは道すがら話します!急ぎましょう!」
公二、光、咲之進は河原の廃工場に向かって走っていった。
タイムリミットまであと3時間
ところで、この頃川岸を一人の男が通り過ぎようとしていた。
「はあ〜、疲れたな……帰ってすぐ風呂でも入るか……あれ?」
部活帰りの純一郎である。
純一郎はふと見た川岸に公二達の姿を見つけた。
「あれは公二と陽ノ下さんじゃないか?なんだあのスーツの男は?」
純一郎は二人がスーツ姿の男と話しているのを見つけた。
「なんか3人とも顔が真っ青だぞ?」
純一郎の距離からも3人の表情はよく読みとれた。
しばらくすると3人の声が大きくなってきて、純一郎にも聞き取れるようになっていた。
「えっ?『河原の廃工場』?そこに何があるんだ?」
気が付くと3人はいつの間にか走り去っていた。
「あれ?3人とも走っていったぞ……何だ?」
3人がいなくなったあと、純一郎は再び歩き出す。
「どうも気になるな。あいつらに教えるか……どうせあそこで酔ってるはずだからな……」
そう言うと純一郎は今来た道を引き返して早足で歩き始めた。
これが長い長い1日の幕開けの光景であった。