第36話目次第38話
酔いどれグループはようやく廃工場についた。

「ふうっ、やっとついたわね」
「自転車でも、結構時間がかかったね」

自転車を置き、さっそく公二達を探すことにする。

「しかし、純の言っていたホスト勤めの男はどこだ?」
「いや、ホストかはわからないが……」
「あれ?あそこに誰かいますよ?」

最初はなかなか見つからなかったが、美帆が何か見つけたようだ。
純一郎が美帆が指す方向をみると、先程見た男がそこにいた。

「あっ、あの男だ!間違いない」
「早速行きましょう!」
(ん?公二と陽ノ下さんがいないぞ?なぜだ?)

太陽の恵み、光の恵

第9部 危機編 その3

Written by B
タイムリミットまであと65分
 
咲之進は焦っていた。
軍隊の準備はできた。しかし、向こうに人質がいるために強行突破ができないのだ。
確実に敵を倒さないと救出ができない。もし強行すれば、人質を道連れにしないとも限らない。
人質を助けにいった公二と光のことも気になる。
彼らも捕まってしまったらもはやどうしようも無くなってしまう。
 
「早くしないと……」
 
一人悩んでいる所に、ふと声が掛けられた。
 
「すいません!どうしたんですか?」
「君たちは?」

咲之進は突然現れた若者5人に驚きながらも冷静に尋ねる。

「私達は妖精さんの導きによりやってきました!」
「はぁ?」

美帆の言葉に呆れる咲之進。
慌てて純一郎がフォローを入れる。

「いや、あなたがここに走っていくのを見てやってきたのです」
「そうですか……私は三原咲之進と申す者で、実は……」
 


咲之進が事情を話そうとしたそのとき。

「咲之進!」
「メイ様!」
 
中学校の制服を着た少女が小さな女の子を連れて咲之進のところにやってきた。
 
「メイ様!ご無事でなによりで……」
「咲之進。心配かけてすまなかったのだ……」

お互いに涙を流さんばかりに喜び合う。
しかし事情を把握していない琴子は少女に問いかける。

「すいません。あなたは?」
「私は伊集院メイ。伊集院家の娘なのだ……」
「い、伊集院家?あの?大財閥の?」
「ええ、そうなんです」
「実は、不覚にも誘拐されてしまったのだ……」

実は大財閥の誘拐事件に首を突っ込んでいた。
それに驚く5人。
しかし、誘拐されているはずの人がなぜここにいるのか気になる。

「しかし、どうやって脱出したの?」
「いや、この子……恵というのだが……この子の親が救出してくれたのだ」
「えっ?」

よく見るとメイの後に恵という女の子がメイのスカートにしがみついている。
可愛らしい女の子だが、メイの話し方から言うとメイの親戚ではない様子だ。

「裏の壁に小さな穴があって、そこから潜入してくれたのだ」
「そうですか……」

「すごい親だね……」
「勇敢だな……俺じゃ怖くて無理だよ……」
「ああ……」
 
このとき、彼らはまったく気づいていなかった。想像すらしてなかった。
その勇敢な親が、実は自分たちが探している二人であることを。
 


ここで咲之進はふと気づく。
メイと恵を助けに行った二人がまだ戻ってこないことに。

「メイ様、お二人はどうなされたのですか?」
「メイと恵は先に脱出したのでよくわからないのだ」
「えっ?どういうこと?」
「この親はメイ達が確実に脱出するために、時間稼ぎをしてくれたのだが……」

咲之進の不安が現実のものになりつつあった。

「まだ戻ってこない……まさか……」
「もしかして、捕まってしまったのですか?」
「そうかもしれません……」
「そんな……」

全員が一斉に落ち込んでしまう。
特にメイの落ち込みようはものすごかった。

「ねぇ、また同じ所から潜入できないの?」
「たぶん、一度気づかれたので無理でしょう。たぶん、彼らには間違いなく見張りがいるはずです」
「そんな……」
「2人がとても心配です……」
 


ウィーンウィーンウィーンウィーン



突然大きな音が耳に飛び込む。

「おい!建物のシャッターが開くぞ!」
「あ、本当だ!」
「どういうことかしら?」
「さて、さっぱり……いや、まさか、そんな……」
 
半分だけ開いていた建物の巨大なシャッターがゆっくりと開く。
メイも咲之進も琴子達も、そして隠れて待機している特殊軍隊もかたずを呑む。
 
タイムリミットまであと50分
 

完全にシャッターが開く。
一人の男。たぶんリーダーらしき男が、拡声器をもって現れる。
 
「オマエラ、ヨクモ、オレタチヲ、バカニシタナ!」
「えっ?」

男の声は怒りの声だった。

「イジュウイン・メイハ、ノガシタガ、アラタナ、ヒトジチヲ、ツカマエタ!」
「なにぃ!」
「やっぱり……」
「捕まったのか……」

不安は的中してしまった。
こうなると人質の安否が気になってしまう。
それを予測していたかのようにリーダーの声が続く。

「オイ、ヒトジチヲ、ツレテコイ」
「ラジャー」
 
マフィアの構成員が5人ほどが人質を連れてきた。
その姿は、周りにいた人間の誰からもはっきりと見えた。
 
「何で連れてくるの?……」
「私達に見せつける気だわ……」
「そんな馬鹿な……」

次第に人質の姿が現れてくる。
ところが、その人質の姿を見て全員が驚愕の声をあげてしまう。

「あれ?……あれは公二と光ちゃんじゃないか!」

それは、縛られたまま気を失っている公二と光だった。

「なんだって!」
「うそでしょ……」
「どうして、こうくんと光さんが……」
「そんな……」
 
二人の無惨の姿に全員声が出ない。
 


公二も光もなにか道具らしき物で暴行を受けていた。
顔面の痣が、頭からの血が、ボロボロの衣服がそのひどさを物語っていた。
 
公二は光以上に暴行を受けたようだ。もしかしたら骨折している可能性がある。
光も公二とあまりかわらない無残な姿だ。
 
「どうして、あいつらがこんな目に……」
「ひどすぎるわ……」
「だめです。見ていられません……」
「どういうことだよ……」
「どうして……」
 
冷静な時だったら、今までの会話から「公二と光=恵の親」という結論がでていたかもしれない。
しかし、いまの5人にはそんなことを考える余裕はまったくなかった。
 
友達が目の前で無残な姿をさらしており、さらに生命の危機に直面している状態であることが彼らに衝撃を与えていた。
琴子達は生きていて経験したことがない動揺を受けていた。
 
「オレタチヲ、オコラセタ、ダイショウハ、タカイコトヲ、ミセテヤル」
「ど、どういうことなのだ?……」
「私にもさっぱりわかりません……」

リーダーの不適な笑みに不思議がりながらもなにか恐ろしいものを感じていた。
 

リーダーはおもむろに拳銃を取り出す。

「オヤ?ヒトジチハ、ネテイルヨウダ、オコスカ」

そして……
 


パンッ!パンッ!
 


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 


いきなり、公二と光を至近距離で打ち抜いた!


「!!!」「!!!」
「公二!」「なにぃ!」「光!」「きゃぁぁ!」「きゃぁ!」


公二の右脇腹と、光の右肩から鮮血が飛び散る。
公二と光は苦痛の表情を見せる。
 
「ネムケザマシニ、モウイッパツ」
 


パンッ!パンッ!



またもや、公二と光を至近距離で打ち抜く!



「うわぁ!…………」
「ぐわぁ!…………」
 


今度は公二の左太腿と、光の右足からも鮮血が飛び散る。
公二と光はさらに苦渋の表情を見せる。
 


「やめろ!」
「匠……」

匠が必死に大声をだして叫んでいた。

「お前たち、そんなことして何になる!」
「匠さん……」
「お前たちの要求はなんだ!言ってみろ!」
 
たぶん、本人も自覚がないだろう。
ただ、友達を助けたい。それだけが彼を動かしていた。

周りも彼を止めることができない、それは自分たちの気持ちを匠が代弁しているからだ。
 


「ヨウキュウガクハ、1600オクドルダ」
「ちょっと待て!最初の要求は800億ドルだったぞ!」
「ワレワレヲ、オコラセタ、カラダ!」
「ちくしょう……」

リーダーは勝ち誇ったような顔をしている。
完全にこちらが有利とわかっているからだ。

「1600億ドル……」
「伊集院家の力ではそれだけの額はとても無理です……」
「そんな……」
 
タイムリミットまであと30分
 


メイは目の前の惨状に呆然としていた。
気がつくと、メイは頭を抱えて地面に伏せていた。
 
「そんな……メイが……メイが逃げたばっかりに……」
「メイさん……」
「あのとき……メイがあそこに残っていれば良かったのだ!」

メイの体はガクガクと震えている。
自分でも抑えきれないぐらい震えていた。

「そんなことを言ってはいけませんよ」
「えっ?」
 
美帆がメイに声を掛ける。
 
「あの人たちは、メイさんを助けたくて、自分からああなったと思いますよ」
「でも……」
「メイさんのことはなにも恨んでいませんよ」
「そうか?そうなのか?」
「大丈夫です……あの人たちなら……きっと……ううっ」
「どうしたのだ。大丈夫ではないのか?」

慰めるはずの美帆から涙があふれていた。
慰められたメイは逆に美帆の事が不安になってくる。

「占ったときから……こうなることはわかっていたのに……何もできないなんて……」
「えっ?」
「占いは、未来の危機を防ぐためにあるのに……それを防げないなんて……」
「……」

突然美帆は建物と逆の方向に走り出す。
そして空に向かってひざまづき祈りだした。
 
「妖精さん!一生のお願いです!公二さんと光さんを助けてください!」
「私達のかけがえのない友達を救ってください!お願いします!」
「妖精さん……妖精さん……妖精さん…………」
 
美帆は空に向かって一心不乱に祈っていた。
自分にできることは、もう祈ることしかなかった。そう思ったのだろう。
 


茜と琴子は恵のそばについていた。
もはや、目の前の光景を目にすることができなかった。
自分達には子供の心配を取り除くことしかできない。
そう思ったのだろうか。
 
「パパ……ママ……」
「大丈夫よ、恵ちゃん」
「はやく……」
「心配しなくていいのよ」
「でも……」

どんなに慰めても恵の心配な表情は晴れない。

「ボクがいるから大丈夫だよ……うん、大丈夫」
「私もいるわ、大丈夫よ……大丈夫……」
「うん……」
 
その言葉は、恵によりも自分自身に掛けている言葉だった。
 
「お願いだから……この子を助けてあげて……お願い……」
「どうしてこの子が……どうして光が……どうして主人くんが……」
 


タイムリミットまであと20分
 
「アト20プンイナイニ、カネヲ、モッテコイ」
「そんな無茶苦茶な……」
「モシ、モッテコナイト……」

再び銃を二人に突きつける。
そして…… 
 


パンッ!パンッ!
 


「うっ!…………」
「ぐっ!…………」
 


「ワカッテルナ……」

リーダーの勝ち誇った声が辺り一面に響き渡る。
 

「おい、なんとかならないのか!」
「なんとかしたいのですが……」

匠は咲之進の胸ぐらを掴んで必死に叫ぶ。

「早くしないと公二と光ちゃんが死んじまう!」
「匠、落ち着け!この人にも考えがあるだろ!」
「こんなときに、あんなのを目の前にして、落ち着いていられるか!」

匠と咲之進の身長差はかなりあるが、そんなことは関係なかった。
純一郎は匠を離そうと必死に匠を掴むが、匠がそれを拒む。
 

咲之進は頭をうなだれていた。
声も暗かった。

「20分以内に1600億ドルは用意できません、どうやっても無理です」
「なんだと……じゃあ、あの軍隊は!」
「できることなら、すぐにでも突入させたい……」
「だったら!無理なら、あそこから狙撃できないのか!」

叫ぶ匠、ほぞぼぞとつぶやく咲之進。
あまりに対照的な二人が事態の深刻さを物語っているように見える。

「無理ですよ……人質があんなにリーダーの至近距離にいては」
「えっ!」
「それに、あのリーダーの格好から防弾チョッキを着ているのは間違いないはずです」
「……」

確かによく見ると厚着をしているように見える。
相手も馬鹿ではない、防弾チョッキぐらい標準装備なのだろう。

「どちらにせよ、こっちが仕掛けたら……あの2人は真っ先に殺されるでしょう……」
「じゃあどうするつもりだ!」
「落ち着け!」
 

「我々は彼らを甘く見ていました……」
「なに……」

咲之進の言葉に匠が怒りの形相を見せる。
咲之進は匠の顔を見ずに話を続ける。

「伊集院家の特殊部隊は確かに市街戦はもちろんゲリラ戦も得意です」
「だったら……」
「しかし、あれだけ堂々と姿をさらされたら、何も手が出せません」
「どうしてですか?」

「近くに隠れる所があれば、そこから一気に仕掛けられるのですが……」
「というと?」
「リーダーの近くには何もなく、彼からは360度見渡せる状況なのです」
「そういうことか……」

よくよく見るとリーダー以外にメンバーがあまり見あたらない。
たぶんどこかに隠れている可能性もある。
そして周り全体を監視している可能性も高い。

「つまり、こっちが仕掛ければ確実にわかってしまうのです」
「ちくちょう、ふざけやがって……」
「全ては私の作戦ミスです……」

匠は咲之進を掴んでいた手を離す。
どちらも暗い表情だった。
 


タイムリミットまであと10分
 
「アト10フンノ、ジホウダ」
 


パンッ!パンッ!
 


「!…………」
「!…………」



4度目の銃弾が二人に撃ち込まれる。 
公二も光ももはや叫ぶ力すら残っていないのか、痛みの声が聞こえて来ない。

「ちくちょう……じゃあ、どうすりゃいいんだ!」
「全ての手段が封じられました……もはや……」
「そんな……」
 
匠はがっくりと膝をつく。
 
「俺たちは……あいつらが殺されるのを見ているしかないのか……」
「ちくしょう……」
「我が軍隊もこんなに無力だったとは……」
 


「メイが……メイが助けなければ……いや、メイが助けるのだ……」
「メイ様?」
 
突然メイが声をあげた。その声は独り言のように呟いていた。
 
「うわぁぁぁぁぁ!」
「メイ様!」
 
突然、メイがマフィアの所に向かって走り出した。
 
「うわぁぁぁぁぁ!」
「やめろ!」
 
しかし、純一郎がすぐさまメイを抱くようにして押さえつけた。
 

純一郎の腕の中で必死にもがくメイ。
それを押さえつけようとする純一郎。

「何をする!離すのだ!」
「離れてどうするつもりだ!」

「メイが……メイがあいつらを助けるのだ!」
「お前がいってもどうにもならん!」

「お前はいいのか?あいつらがどうなってもいいのか?」
「いいわけないだろ!」

最初からずっと落ち着いていた純一郎が初めて怒鳴った。

「純……」
「穂刈くん……」

滅多に見ないヒートしている純一郎の姿に誰も返事ができない。
 
「俺だって、今すぐに助けに行きたいよ……」
「だったら……」

「メイさんがここで出ていったら、それこそ、あいつらの思うつぼだ!」
「でも……」
 
「公二達を見ろ……」
「えっ……」

メイは一度公二と光の姿を見る。
二人は苦痛の表情を浮かべて辛そうにしている。

「あいつらはなぁ……俺たちのために痛みを耐えているんだよ!」

「なんだって……」

純一郎の声に周りの目が一斉に純一郎に向かれる。
 

「どういうことなの?穂刈くん?」
「俺も剣道でなんども痛い目にあっている。普通、極度の痛みを受けると大声をあげずにいられないものだ」
「そうだな」
「俺にもよくわからないが、銃で撃たれた痛みはかなりのはずだ……なのに」
「なのに?」

「思い出せ。あいつらは2発目から声をあげないようにしているんだぞ!」
「!!!」
「そういえば……」
「2発目からは悲鳴が小さいような……」

確かに2発目からはだんだんと悲鳴が小さくなっていた。
最初は叫ぶ力さえ無くなっていると思っていた。
ところがそうではないという。

「公二達は何発も受けて、痛みは極限状態だ。でも声をあげずに耐えている……なぜかわかるか?」
「そ、それは……」
「すべて……俺たちが心配しないように……動揺させないように激痛に耐えているんだよ!」
 
確かに二人の表情は激痛に耐えに耐えて見ているこちらも辛くなるほどだ。
ところが声だけは出していない。
なにか必死に我慢しているように見えてきた。
実際その通りだった。

「そ、そうなのか?メイたちのためなのか?」
「そうだ、だから、ここでメイさんが出てくれば、あいつらの苦労が水の泡だ!」
「そ、そうだったのか……」
「だから、耐えろ……耐えるんだ……」
「わ、わかったのだ……」

さっきまで暴れていたメイもようやく落ち着いた。
しかし、いつの間にか抱いていた純一郎の腕の力がなくなっていた。

「そうだ……ううっ……」
「どうしたのだ?」

気が付くと純一郎は泣いていた。

「ううっ……うぁぁぁぁぁ!」
「純……」

純一郎は地に伏せ、拳を地面に叩き付けて、泣いた。

「ちくしょう……ちくしょう!……俺たちはあいつらを見殺しにしかできないのか!」
 
人質を助けてなおかつ相手を倒す手段は何も残ってなかった
 
「絶望」
 
もはやこの言葉しか残っていなかった。
メイや匠達の頭には、もうこの言葉しか残っていなった。
 


「アト3プンデ、ジカンダ。ワカッテイルナ」
 
リーダーは両手に銃を持ち、それぞれの銃口を公二と光の頭に突きつける。
 
「なに!」
「ヒトジチガ、ドウナッテモ、イインダナ」
「咲之進!なんとかならないのか!」
「なんとかしたくても時間が……」
「そんな……」
 
もう手段がない咲之進はお手上げ状態になってしまっていた。

「ねぇ〜、パパとママは?」
「!!!」

突然の恵の声に一同はっとする。
この子のためにもなんとかしなくてはいけない。
しかし何もできない。

「大丈夫よ……大丈夫……」
「パパ〜……ママ〜……」

自分たちにできることはこの子を励ますだけ。

「どうして?どうして光があんな目に逢わなければいけないの?ねえ、誰か教えて!」
「そうだよ!こうくんが何かしたの?光さんが何かしたの!」
「……この世には神様も仏様もいないの?」
「ひどいよ……ひどすぎるよ……」
 
琴子と茜はもううつむいたまま、顔をあげる気力も失っていた。
 


「妖精さん……妖精さん……妖精さん……」
 
美帆はずっと天に祈っていた。
時間がある限りずっと祈っているのだろう。
 
「……妖精さん!お願いします!時間がないんです!」
「白雪さん!」
「お願いですから……公二さんと光ちゃんを救ってください!」
「美帆ちゃん……」
「お願いです……」

必死に祈る美帆に一人の影が近づいてきた。
そしてその影は美帆の隣に跪いた。

「おい!妖精さんよぉ!美帆ちゃんがこれだけ頼んでいるんだぞ!なんとかしたらどうだよ!」
「匠さん!」

それは匠だった。
匠が空に向かって必死に祈っていた。

「俺たちの友達が死ぬかもしれないのに……なにもできないなんて……」
「……」

なぜ匠がこんな行動に出たのか誰もわからない。
しかし匠は必死に祈っている。

「俺からも頼む!妖精さん!公二達を助けてくれ!お願いだ!頼む……」
「匠さん……」
 
匠の姿に美帆はじっと見守っているだけだった。



「Sixty,Fifty-Nine,Fifty-Eight,Fifty-Seven,Fifty-Six……」
 
突然カウントダウンが始まった。
 
「みんな、公二達の表情見てみろ!」
「えっ……あいつら、なんて穏やかな表情しているんだ……」
「どうして……体中激痛だらけでしょ……どうして……」

公二と光の表情に苦痛の色が消えた。
カウントが進むに従い表情が穏やかになっていく。

「馬鹿な……あいつら覚悟決めたのか……」
「なんで、なんで、私達の前で死ぬ覚悟決めるのよ……」
「なんで、あきらめるの?まだ……時間はあるんだよ……」
「でも……」
「わかってるよ!……でも、ボクあきらめ切れないよ!」
「みんな同じ気持ちだよ……でも」
「……」

誰も声が出ない。
もうすることは残っていない。

「俺たちも……覚悟決めなけりゃいけないのか……」
「……」
「……光……なんで……」
「……こうくん……ひどいよ……」
 


「Thirty,Twenty-Nine,Twenty-Eight,Twenty-Seven,Twenty-Six……」
 
メイは何とかしようと動こうとするが、それを咲之進が止めている。

「やっぱり、メイが行くしかないのか……」
「やめてください!危険過ぎます!」

「でも……」
「……こらえてください……」

「どうしてなのだ?この子は何も悪いことはしてないのだ!なのに、なのに……」
「……私だって、助けたい!……でも、もう……」



「Ten,Nine,Eight,Seven,Six……」
 
「もうだめだ……」
「そんな……」
「ちくしょう……」
「ううっ……」
「だめ……」
 
「Five,Four,Three,Two,One……」
To be continued
後書き 兼 言い訳
気分を悪くしてしまいすいませんでしたm(_ _)m
 
マフィアは大胆な手段に出ました。
360度見られるところに出ることで、逆に相手の手段を封じてしまった……
これは咲之進や特殊部隊も予想できませんでした。
戦力とは裏腹に状況はまったくの不利になってしまいました。
 
公二と光。マフィアに人質になってしまってさらに……
残酷過ぎる……
 
こいつら血も涙もあったもんじゃない!
書いていて、怒りが沸き起こってきそうでした。
 
この話、本当に苦労しました。
残酷なシーンは書いていて、良心の呵責にふれながらの執筆でした。
どこまで、意味があるシーンが書けるか。
読む人に引かせない程度を作れるのか。
本当に難しかったです。勉強になりました。
 
しかし、書いていて心が痛んだ痛んだ。もうこんなシーンあまり書きたくない……
 
じゃあ、そこまでして何が書きたいか?それは次回以降に答えがあります。
 
公二と光はこのまま殺されてしまうのでしょうか?
それとも起死回生の一発逆転があるのでしょうか?
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