第37話目次第39話
「Five,Four,Three,Two,One,Zer「はにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
「!?!?!」
 


どかん!



絶望の銃撃音は聞こえてこない。
代わりに聞こえてきたのはなにかぶつかった音。
これには一同拍子抜け。
 
「は、発砲しないのだ……」
「な、なにがあったのでしょうか?……あれ?」
 
工場内をみると、リーダーが倒れている。
その上にはなにやら紫の物体がかぶさっている。
 
「お、おい、今の何だ?」
「なんか紫の物体が工場の中に飛び込んだような……」
「ボク、どこかで聞いたことがある声をしていたと思ったけど……」
「確か、はにゃはにゃ叫んでいたような……」

はにゃはにゃ叫ぶ紫色といえば思い当たるのは一つしかない。

「じゃあ、もしかして……美幸ちゃん?」
「ええっ!美幸ちゃんがどうして?」
 
そのとき美帆がそらから何か聞いている。
どうやら妖精さんの話を聞いているようだ。

「あれ?妖精さん?……間に合ったって……まさか!」
「おい!妖精さんが美幸ちゃんを連れてきたってことかよ!」
「そのようです……」

一同驚きを隠せない。
まさか妖精さんがそんなことをするとは思ってもいなかったからだ。

「どういうことだよ!美幸ちゃんを人質にするつもりか!」
「いえ……まあ見ててください、って妖精さんが言ってますが……」
「大丈夫かなぁ……」
「美幸ちゃん……」

太陽の恵み、光の恵

第9部 危機編 その4

Written by B
その美幸は、確かに工場の中にいた。
 
「はにゃ〜!今日の美幸は不幸だ〜」
「ジャガーにヤマハに日野レンジャーにヤンマーにJRに……もう何台ぶつかったかわかんないよ〜!」
 
正確に言うと、彼女は合計33台の車?にピンボールのように跳ねられてここまできたのだ。
そして、跳ねられた勢いで、リーダーにフライングボディアタックを炸裂させたのだ。
もちろん妖精さんの仕業である。
 
「しかし、ここはどこなの〜。暗くて、物騒で……ん?あれ?」
「はにゃぁぁぁぁぁぁ!」



どんがら!どっかん!ごろごろ!
どかん!ごろごろ!ごろごろ!



工場内にあったドラム缶が一斉に倒れてきたのだ。
ちなみにこれは妖精さんはなにもしていない。美幸自身の不幸が起こしたの現象だ。


「ウワァァァァ!」
「ヘルプミー」
 

マフィアの叫び声からして、どうやらそのドラム缶がマフィア達を直撃しているらしい。
 
「ねぇ……工場の中の様子……変じゃない?」
「なんか、悲鳴が聞こえているが……」
「もしかして、妖精さんはここまで考えて……」
「すごいのか、そうでないのか……」
 


呆然としている4人とは別に琴子はなにやら考え事をしていた。

「もしかしたら……今なら、間に合うかも……」
「どうしたの、水無月さん?」

そんな琴子に茜が近づく。

「茜ちゃん……」
「なに?」

琴子は茜の目をじっと見る。
茜はそれをただ不思議そうに見ている。



「ごめんなさい!許して!」
「ちょ、ちょっと……ごくごくごくごく……」



琴子は無理矢理茜にカップ酒を飲ませていた。
このカップ酒。琴子がここに向かう途中に買っていったものだった。

そしていつの間にか茜は酔って倒れてしまう。

「み、水無月さん!」
「茜ちゃんに何を!……って、まさか……」
「ごめんなさい……」
 
匠も美帆も純一郎も琴子の突然の行動に驚きながらも琴子のねらいに気がついた。
 
「もしかして……まさか……本気か?」
「茜ちゃんには悪いけど……彼女なら……」

「一文字さんは大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思うわ……みんな、合宿のときに体感してるでしょ?」

「そうだけど……」
「もう、私達にできることはこれしかないから……」
 

純一郎はすこし考える。
そして琴子のところに歩み寄る。

「水無月さん……」
「どうしたの穂刈くん?」

純一郎の表情は真剣だった。

「……酒をよこせ……」
「え?酒って……ちょっと!」
「俺も行く……ごくごくごくごく……」
 
純一郎はいきなり琴子の持っていたカップ酒を奪い取ると、それを一気飲みしてしまった。
純一郎もいきなりの一気のみに倒れてしまう。
 
「純……お前、まさか……」
 


そうしているうちに茜が目を覚ました。

「う〜ん……あれ?ことこちゃん!げんき〜?」
「ついに覚醒したか……」

茜は完全に酔いどれモードに突入していた。

「茜ちゃん。お姉さんからお願いがあるの」
「な〜に?」

「建物の中のあそこに、茜ちゃんとボクシングがしたい人がいるから遊んであげて?」
「うん!ぼくしんぐ!ぼくしんぐ!」

「じゃあ、行ってらっしゃい!」
「ほ〜い!……きぃぃぃぃぃぃぃん!」
「あっ……いっちゃった……」
「無事でいて、茜ちゃん……」

茜は恐れも知らずに建物の中に突進して行った。
匠達はそれを呆然と見送った。

続いて純一郎も目を覚ました。
 
「う〜ん……ん?う、うぉぉぉぉぉ!」
「穂刈くん……ついに目覚めましたか……」

酔った純一郎は匠の腕を掴む。

「匠!これからお前を徹底的に漢を鍛えてやる!」
「ま、待て!あ!あそこに漢の風上におけない奴が!」
「なにぃ!」

匠の声に酔った純一郎の表情は怒りに変わっていく。

「罪のない男女を痛めつけているんです!許せないでしょ!」
「ゆ、許さん!成敗してくれる!うぉぉぉぉぉぉ……」
「あっ……いっちゃった……」
「頼むぞ、純……」
 
純一郎も建物の中に突進していった。



再び建物の中。
ところでいきなりここに連れてこられた美幸は状況がまったくつかめてなかった。
 
「いったい何が起こっているの?よくわからないな……あれ?」
「テメエ……」

気が付くと自分の下に誰かが潰されているのに気が付いた。

「え、あ、ご、ごめんなさい!美幸のせいで……」
「ナラ、シンデモラウ」
「え?あ?な、なんで〜!」
 
マフィアのリーダーは美幸に銃口を向けた。
そして、躊躇せず引き金を引こうとしていた。
 
「た、助けて〜」
「デハ、シンデモラ「うほほ〜い!」」
「え?」

いつの間にか目の前には酔った茜の姿があった。

「ねぇ、ぼくしんぐしよ?」
「What?」
「わ〜い!ぼくしんぐ!ぼくしんぐ!」
 


ぼか!どか!ばき!
 


茜がリーダーに鉄拳をくらわせる。
女といっても強烈なパンチにリーダーもダメージが大きい。
 

「Help me!」
「うほほ〜い!ほめられちった!」
「チクチョウ、オマエカラ、シンデモラ「待てぇぇぇぇぇ!」」
「え?あ?こんどは誰?」

またもや違う声。
美幸が辺りを見ると、なぜか木刀を持った純一郎が現れた。

「てめぇ、罪のない男女を殺そうとは漢の風上にも置けん!成敗してくれる!」
「オ、オマエハダレダ?」
「漢に言い訳は無用じゃぁぁぁぁ!」
 


ぼか!どか!ばき!
 


純一郎が木刀でリーダーをボコボコに叩き付ける。
 
「グェッ!」
「許さん!許さん!お前は絶対に許さぁぁぁぁぁぁん!」
「グハッ!」
 


そんな状況で茜は非常に不満そうだった。

「あかねにかまってくれないんだ。つまんないの〜。じゃあ、あっちのひととあそぼ〜!」
 
それから、建物のなかから悲鳴が起こるのには時間がかからなかった。
 
「ウギャァァァッァ」
「うほほ〜い!ぼくしんぐ!ぼくしんぐ!」
「ヘルプミー!」
「ぱんち!きっく!ちょっぷ!ひざげり!わ〜い!わ〜い!」
 
酔った茜にはマフィアなんて子供みないなもの。
容赦なくボコボコにしていく。
 


この間、呆然と様子をみていた。メイと咲之進だったが、やっと口をひらいた。
 
「これは夢なのか……」
「いや、私にもさっぱり……」
「はっ!い、今のうちにマフィアを倒すのだ!」
「はい!全軍総突入させます!」
 
咲之進はトランシーバーで特殊部隊に連絡をとる。
しばらくして特殊部隊が一斉に建物の中に突進していく。

「おおっ!軍隊が突入するぞ!」
「私たちも行くわよ!」
「当然だ!」
「私達には妖精さんがいるから大丈夫です!」
「美幸ちゃんも助けないと!」
「まず、あいつらの酔いも覚まさせないと……味方まで倒しかねん」

世界中を騒がせる極悪マフィアも、美幸の不幸と茜と純一郎の暴走によって大混乱していた。
マフィア達は特殊部隊によって全員捕獲されたのはいうまでもない。
 


一方、匠達は暴れている茜と純一郎に決死の覚悟で強力な酔いざましの薬を飲ませたあと、
公二と光の元に走っていった。
 
そこには、周りの騒然さにまだ呆然としている美幸がいた。
 
「美幸ちゃん!」
「あ……美帆ぴょん」
「ごめんなさい……私が力不足だから……また美幸ちゃんに迷惑を……」
「別にいいよ〜、美幸は平気だから〜!」

全員が美幸の周りに集まっていた。
美幸はまったく無事だった。
どうやらいつもにくらべれば大したことは無かったらしい。

「でも、美幸ちゃんのおかけで助かったわ、ありがとう」
「そうかな〜、だったらうれしいな〜……でも美幸は誰を助けたの〜?」

とたんに周りに表情が暗くなる。
美幸は突然の変貌に少し混乱する。
その理由は匠がゆっくりと話す。

「……そこにいる2人だ……」
「え?そこ?……え〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
 
美幸はそこに人がいることに初めて気がついた。
美幸の視線の先には、血まみれで倒れている公二と光がいた。
どうやら意識はないようだ。
 
「こ、声が大きい!」
「ごめん……でもどうして?」
「話はあと!美幸ちゃんも呼びかけて!」
「うん……わかった!」
 


「おい!公二!しっかりしろ!」
「光!聞こえる!返事して!」
「こうくん!返事して!お願い!」
「光ちゃん!」
「おい!もう大丈夫だ!しっかりしろ!」
「お〜〜〜〜い!返事して〜〜〜〜〜!」
 
6人は公二と光に声を掛け、体をゆすってみた。
しかし、返事も反応もない。
 
「なんにも動かない……」
「まだ、生きているようだけど……」
「返事がないなんて……」
「とにかく声を掛け続けるしかないな……」
「そうね……光!光!しっかりして!」
「おねがい……返事してよ……」
 
再び6人は公二と光に声を掛ける。
しかしまったく意識を取り戻さない。



「パパ〜!ママ〜!」
「えっ?」
 
そのとき、突然琴子たちの耳に子供の声が聞こえてきた。
 
「ど、どうしてこの子がここに?」
「わからないわよ!」

いきなりの登場に驚く6人。
そした後からメイが慌ててやってきた。

「恵ちゃん!ど、どこに行くのだ!」
「メイさん!」
「すまないのだ。目を離した隙にこの子がここに走って……えっ……」
 
恵は意識のない公二と光の側に近づいて叫んだ。
 
「パパ〜!ママ〜!おきてよ〜!ねぇ〜!」

恵は公二と光の体をかわりばんこに揺すって起こそうとしている。

「パパ?」
「ママ?」

ここで6人は恵の一言にはたと気が付いた。
その気が付いたことは美幸が代弁した。

「ねぇ、パパ、ママってこの子どういう子なの?」
「あ、美幸ちゃんは突然来たからわからないわね、この子は……あれ?」
「美帆ぴょん?どうしたの?」

ここで美幸以外の5人がなにか考え込む。

「あれ?そういえば……」
「あれ?何かわすれていたような……」
「なんか大事なことがあるような……」
「今日の事を振り返ると……」
「確か……」
 


美幸を除く5人は今日の出来事を思い出していた。
公二が目の前にいることで、すこし前よりは冷静に振り返ることができる。
 


『何か、真っ青な顔をして河原の廃工場に向かっていったぞ』


『公二さんと光さんはある事件に巻き込まれてます……下手をしたら命の保証もないと……』


『いや、この子……恵というのだが……この子の親が救出してくれたのだ』


『もしかして、捕まってしまったのですか?』


『あれ?……あれは公二と光ちゃんじゃないか!』


『パパ〜!ママ〜!おきてよ〜!ねぇ〜!』
 


「!」「!」「!」「!」「!」「?」
 


匠達はとうとう気がついた。
全ての言葉から導き出される、たった一つの偽りのない重大な事実が。
 


「この子の親って……公二と光ちゃんだったのか……」
「それしか、考えられません……」
「そのようだな……」
「やっぱり……」
「光……」
「うそ……」

事実を目の前にしていばし呆然としてしまう6人。

「おきてよ〜!」
 
そんななか、恵は必死に親たちを起こそうとしていた。



「め、めぐみ……」
「め、めぐみ……」

「あっ、意識が戻ったのだ!」

恵の声が通じたのか公二と光が目を覚ました。

「……あれ?……匠に純……」
「……琴子、美帆ちゃん……茜ちゃんに美幸ちゃんまで……」

二人はフラフラながらも状況を確認している。
声もとぎれとぎれで必死に話そうとしている。

「しっかりしろ公二!」
「匠……」

「光、もう大丈夫よ!」
「琴子……」

いつの間にか現れた大勢の友達に少し驚いているようだ。

「おまえたち、どうして……」
「美帆ちゃんの占いで、お前たちが危ないって出て、駆けつけたら……」
「美帆ちゃんの占い……よく、あたるんやね……」
「ええ……そうですね……」
 

匠は公二に事実の確認をする。

「なあ、公二……子供、いたんだな……」
「えっ?どうしてそれを……」
「この状況から、やっとわかったよ……」
「この子の親が身代わりになって、それが公二くんと光……今、やっと気づいたわ……」

周りの言葉に全てがバレてしまったのを理解した。

「そうか……バレちゃったね……とうとう」
「ああ……バレたか……」
 
しかし二人の表情はなにかほっとした安心の表情だった。



「パパ〜ママ〜」
「めぐみ……だいじょうぶ……なんだね……」
「そうか……たすかった……のか……」
「うん!」
 
恵は満面の笑顔を見せる。
それに返すように公二と光は恵に満面の笑みを浮かべる。
そして……
 


「よかった…………」
「よかった…………」
 


公二と光は同時に意識を失ってしまった。
恵の姿を見て安心したのか、完全に力尽きてしまった……
 


「公二?公二!しっかりしろ!」
「………………」


「光ちゃん!しっかりして!ねぇ!」
「………………」



「こうじぃぃぃぃ!」
「ひかりぃぃぃぃ!」
「いやぁぁぁぁぁ!」
To be continued
後書き 兼 言い訳
事件は一応解決しました。
予想通りの一発逆転でしたが……
 
ああ、やっちまった……定番の美幸オチ
しかも、今回は酔いどれを混ぜてしまった……
これで、前話までの緊張感が台無し……
 
とうとう、公二と光の秘密が匠達にバレてしまいました。
今回の誘拐劇。恵を助けたものの、2人が払った代償はかなり大きなものになりそうです。
それは今後大きく響いてくることになるでしょう。
 
しかし、公二と光はとうとう力尽きてしまいました……
これで終わってしまうのでしょうか?
いいや、終わりません!
 
次回、公二と光は何を思って耐えてきたのか。2人の口から明かされます。
そして、2人が恐れていたことがついに……
目次へ
第37話へ戻る  < ページ先頭に戻る  > 第39話へ進む