第38話目次第40話
伊集院家の私設病院。
救出された公二と光はICUで緊急手術を受けた。
手術は3時間もかかる大手術だったが無事に終わった。
そして、2人は病室に運ばれていた。

咲之進がお礼と状況の説明を匠達にしていた。

「みなさん、ありがとうございました……」
「………」
「あと3分遅かったら、手遅れだったそうです……」
「よかった……」

「手術が終わりましたが、警察の事情徴収がありますので明日から3日間程面会謝絶になると思います」
「そうですか……」

「みなさんも疲れているでしょう……あとは私達に任せて家にでも……」
「いや……もう少しここにいさせて欲しい……」
「わかりました……」

太陽の恵み、光の恵

第9部 危機編 その5

Written by B
時刻は夜8時。
琴子、匠、美帆、純一郎、茜、美幸は2人の病室の前のいすに座っていた。
病棟の廊下には彼らしかいない。
そして、誰もかも表情は暗い。
 
「ボク、あの子が2人に叫んでいる光景が頭から離れないよ……」
「2人が重体なのもそうだが……まさかな……」
「まさか、公二と光に子供がいたなんてな……」
「信じられません……」
「………」

最後の二人の姿は壮絶だった。
子供のために必死に耐え、そして最後の最後に力尽きる。
あのインパクトはまだ全員の脳裏に焼き付いている。
 
「なあ、俺達、公二と光ちゃんの関係ずっと調べてたの……知ってるよな……」
「うん、美帆ぴょんそのことずっと話していたから……」
「入学してしばらくしてから、あの2人の事が妙に気になり始めたいたんです……」

公二と光は入学当初から仲の良いことで有名だった。
幼馴染みということも知られていたが、二人の姿はそれ以上のものをだれもが感じていた。
それがなんであるかは誰も知らなかったが。
 
「美帆ちゃんに占ってもらったら、2人は子供がいるかもって結果がでたんだ」
「実は、そうなんです……」
「なるほどな……」
「それからだな……あいつらを徹底的に追いかけたのは……」
「………」

二人は本当はどういう関係なのか?
今日まで追いかけてきた。
質問攻めや、強引な方法も使ったこともあった。
確証は得られなかったが手応えは少しずつ感じていた。
 
「日が経つにつれて、その可能性が高くなっていって、今日ついに疑惑が事実になった」
「占いは当たっていたんですね……」
「白雪さんの占いはよく当たるけど、まさかそこまで……」
「びっくりしたよ、ボク……」
「そんなことまで当てていたんだ……」
「……光……」

調査を始めてから約半年。
今日間違いない事実となった。
しかし、そのことに誰も喜びの表情はなかった。
 
「でも、いざ事実とわかってみると……やっぱりショックだよ……」
「ずっとそうだと思っていたのに……こんなにショックだとは思いませんでした……」
「まさか、子供がいる関係だったなんて……今でも信じられん……」
「結構大きい子供だったよ……昔からそんなだったなんて……」
「美幸、まだ頭が混乱してる……」
「……どうして……」
 


ここでみんなが琴子の様子が変なことに気が付いた。

「水無月さん?」
「どうしたの?」
「大丈夫?」
「……泣いてる……」
「……ううっ……」
 
さっきから黙っていた琴子は声を上げずに泣いていた。
 
「大丈夫?」
「ごめんなさい……大丈夫よ……」
「当分光ちゃんには会えないし……帰ろうか?」
「そうね……そうするわ……」
「俺たちも帰ろうか……」
「そうだね……」

雰囲気からして今日中の面会は無理そうだ。
全員が一斉に立ち上がって帰り支度を始める。
 


そのとき、病室の中から咲之進の声があがった。
驚いたような声が扉越しに聞こえてくる。
 
「え?いいんですか?そんなことをしたら、あなたたちの立場が……」
「わかりました……連絡しておきます……」

「え?まだお願いがあるんですか?」
「ち、ちょっと待ってください!今の状態では……」

「それだったら後でも……」
「わかりました……待っていてください」
 
病室から咲之進が出てきた。
帰ろうとした足が止まり一斉に咲之進の顔を見る。
 
「皆さん、まだ時間はありますか?」
「え?一応、大丈夫だけど……」

「主人さんと陽ノ下さんが話があるから来て欲しいとの要望です」
「え?大丈夫なのか?」

「私も心配なのですが、どうしてもということなのですが」
「わかりました……みんなもいいだろ?」
 
匠の提案に、全員無言で首を縦に振った。
 


公二と光の病室
2人部屋で中には公二と光しかいない。
伊集院家の配慮によるものである。

コンコン!

「はい?」
「公二、入るぞ?」
「ああ……」
 
部屋の中に匠達6人が入ってきた。
公二と光はベッドで寝ていた。

体中に巻かれた包帯とギプスが非常に痛々しい。
顔も包帯で巻かれて半分は隠れてしまっている。
そのミイラ男のような状態が傷のひどさを強烈にアピールしているようだった。

想像以上のひどさに全員が驚いていた。
 
「だ、大丈夫か?」
「ああ、なんとかな……」
「よかった……」

話す分には支障はまったくないようだ。

「なあ、公二、話ってなんだ?」
「わかってるだろ?俺と光の本当の事だ」
「もうバレちゃったから……もう隠すことないから……」
「わかった……話を聞こう……」
 


公二と光は遂に自分たちがずっと隠していた秘密を打ち明けることになった。
ぽつりぽつりと本当のことを話し始めた。
 
「実は俺と光は中2の秋に婚約しているんだ……」
「やっぱり……」

「そして私の15才の誕生日に子供が産まれた……」
「そんなに早いときに……」

「娘の名前は恵……もうわかっているよね?」
「ああ、あのとき呪文のように呟いていたからな……」

あれだけの状態でもしきりに娘の名前をつぶやいていた。
娘の安否だけを考えていた。
あれをみればどれだけ娘を思っているのか伝わってくる。

「たしか、7年間離れ離れだろ?どうして、子供なんか……」
「確かに離れ離れだった……でも、実はずっと文通していたんだ……」
「話せば長くなるけど……離れてからすぐに文通していたんや……」
「友達にも親にも内緒で……2人だけの秘密の文通だった……」

「えっ、中学卒業までですか?」
「いや、中1の夏に途絶えた……でも、そのときにやっと自分の気持ちに気づいた……」
「うちも……お互いにずっとずっと好きやったってこと……」
「そっかぁ……」
 
匠達の疑問も公二達は全て答えた。
もう隠すことのない事実。
だからこそ心の中まで全てを打ち明けた

「それで、子供は?」
「中2の春に逢おうって約束して、夏にここで再会した……6年ぶりだった……」
「その日に告白して……その夜、うちらは結ばれた、心も体も……」

「恵ちゃんはそのときに……」
「うん、恵はそのときの子供……」
「………」
 
二人の表情は包帯で隠れてよく見えなかったが穏やかなように見えた。
なぜ穏やかなのか。
それは本人達しかわからないだろう。

「それから3カ月後、光から妊娠したって電話が来たよ」
「そのとき、どう思ったんだ?」

「俺たちの気持ちは同じだった……子供が欲しいと……」
「2人で両親を必死に説得して……産むのを許してくれた……」
「そのときに婚約して……今日まで来たってわけだ……」
 


匠達の一つ目の疑問はある程度わかった。
しかし疑問はまだあった。

「なあ、公二」
「なんだ?」
「マフィアに捕まって、銃で撃たれたとき、なんで必死に耐えていたんだ?」
「ああ……」
「メイさんを心配させてもいけなかったからね……」
「しかし、俺だったらあそこまでは無理だ……」

公二と光は痛みを必死にこらえていた。
必死に耐えていた。
なぜあそこまで耐えるのか?
疑問は当然であった。

二人の答えは簡単だった。

「ねぇ、あそこまでさせるものがあったの?」
「守るもの?決まってるだろ……恵だよ」
「あっ……」
「恵は俺たちの子供だ……親である俺たちが守らなくて誰が守る?」
「うちらは誓ったの……恵はうちらが命懸けで守るって」
「………」

二人をここまでさせるもの。
それは恵だった。

「だからって、だからって……あそこまでしなくても……」
「だめ……うちらが苦しんでいるのを見て、恵はどう思う?」
「えっ?」

「きっと、恵は心配する、悲しむ、苦しむ……そんなことは絶対にさせるわけにはいかない」
「それに、うちらが苦しんでマフィア達が図に乗せるわけにもいかなかった……」
「でも……」



「匠」
「なんだ?」

「俺が銃で撃たれたとき……俺の頭に何が浮かんだと思う?」
「?」

「恵の泣いている姿だよ」
「えっ!」

「実はね……うちもそうなんや……」
「光ちゃん……」
 
恵の泣いている姿。
それは二人が一番見たくない姿だ。

「そのとき……俺は再度神に誓ったよ……恵を泣かせないって」
「実は少し前に……うちらのせいで恵を悲しませた……もうそんなことは親として許されへん」
「そう思ったら……なぜか痛みも和らいだよ……」

「おかしいよね……殺されるかもしれへんのに……なにも怖くなかった……」
「そうなんだ……」
「………」
 
自分たちの娘のためなら命だって捨ててもいい。
そこまで二人は娘を愛していた。

「子供のためなら、相手がどんなに巨大でも、自分がどうなろうとかまわない……そう思ってる」
「うちも同じ……恵が助かれば、自分はどうなってもいい……これって親の本能なのかもね」
「実を言うと……メイさんの事まで頭が回らなかった……恵のことで精一杯だった」
「うん……メイさんには申し訳ないけど……」

みんなは、それだけの想いを経験したことがないのだから。

「親の本能か……」
「そうなんだな、公二も光ちゃんも親なんだよな……」
「親ねぇ……」
「私は親じゃないけど……わかるような気がします……」

でもなんとなくわかる気がしていた。
 


それはわかった、しかしまだある。
これは疑問というより不可解というほうが正しいかもしれない。

「公二、それじゃあ聞きたいことがある」
「なんだ?」
「マフィアのカウントが0に近くなったとき……なんで、穏やかな表情ができた?」

死を悟りきったような顔。
自分たちではあんな顔は絶対にできないと思っている。
だから不可解だった。

二人はこの答えも意外とあっさりと答えた。

「実は……あの時、もうあきらめてた」
「えっ?」
「うちも……もうすぐ、死ぬんやって……そう思った」
「うそ……」

やはりそうだった。
二人は覚悟していた。
あっさりと答えた分、純一郎たちの衝撃は大きかった。

「でもな……なぜか、怖いとは思わなかった……」
「何だって?」
「なにかやるべきことはやった……そんな気分だった」
「精一杯努力した……そして、恵を守り切った……満足していた……」

「俺のできることは全部やった……そう思ったら、自然と気持ちが落ち着いた……」
「うん、もう悔いはない……そして、公二と一緒になら……うちも驚くぐらい落ち着いていた……」
「そうだったのか……」
「そんなもん、なのかな?」

 


「……そんなわけないじゃない……」

 


「えっ?」
「水無月さん……」
 
部屋に入ってから一言も話してなかった琴子が初めて口を開いた。
 


「……光、あなた最低よ……」
「水無月さん、いまなんて……」
 
琴子の表情は哀しみと怒りが混じっていた。
声も震えていた。泣くのを押さえているようでもあった。
 
「水無月さん……」
「ふざけないで!もう、悔いはない?生意気なこと言わないでよ!」
「琴子……」

「もう満足?自分だけの事ばかり考えて!残された人のことを考えているの!」
「水無月さん、落ち着いて!」

「目の前で友達が殺されるのを見ることになる、私達はどうなるのよ!」
「……」

「死ぬほうはいいわよ!それっきりだから!私達はそれ見て何年も苦しむことになるのよ!」
「……」

「光がそんなこというとは思わなかった……そんな人だとは思わなかった」
「琴子……」
 
堰を切ったように琴子から二人を責める言葉があふれ出ている。



「水無月さん、気持ちはわかるけど……」
「そうだよ、でもいくらなんでもあんな言い方は……」
「そこまで言わなくても……」

琴子の突然の叱責ぶりに匠達があわてて止めようとする。
しかし琴子は止まらなかった。

「誰が……誰が私の気持ちがわかるっていうのよ」
「えっ?」
「私は……私はとても傷ついたのよ!」
「傷ついた?どうしてですか?」

琴子はゆっくりと光のほうを向く。
琴子と光の目があう。

「……」
「琴子……」
 
琴子の目は明らかに怒りの目だった。
それは光が今まで見たことがない目をしていた。
 
「光……どうしてなの?」
「えっ?」
「どうして……どうして、こんな大切なことを教えてくれなかったのよ!」
 

琴子は落ち着いた口調で光に向かって話し出す。

「光、私達が出会ってからもう8年になろうとしてるわよね」
「うん……」
「あなたが声を掛けたときから私達は友達だった……そう思ってきた」
「……」
「私達色々な話をしたよね」
「……」

琴子はまっすぐ光を見つめていた。
光は琴子の視線の強さに光は驚いた。

「公二くんのことも聞いているわ、光が昔話を今のように話しているから……」
「そうだったんだ……」
「でも……あのとき公二くんと文通しているなんて、一言も聞いてないわ」
「本当なのか、光ちゃん?」
「うん……」
 
光は琴子から視線をそらしてしまう。
あまりに琴子がまっすぐに見つめるので思わずそらしてしまったのだ。

「中学のときに引っ越したから、そのときの頃はわからない。それは当然よね」
「まあな……」
「ひびきの高校に入って、光と再会した。私本当に嬉しかった」
「私も……」
「再会して印象に残っているのは、光が幸せそうな表情していたことよ……」
「離れ離れの公二と遂に一緒の生活……思い起こせば、幸せなのは当然かもしれないな……」

それでも琴子はまっすぐに光をみていた。
一心に光に向かって語っていた。

「公二くんと一緒だって、とても喜んでた……私もそうだと思ってた……」
「………」
「でも、まさか、まさか……結婚していたなんて思わなかった」
「………」
 

「あのときから、2人のくっつき方があまりに自然だったから、変だと思ったわ……」
「それで、私や匠さんと一緒に調べ始めたのですね……」
「そういうことだったのか……」

「確かに、2人にはずいぶんひどいことをした……それは誤るわ……」
「水無月さん……」
「確かに強引に本当の事を聞き出そうとした……話させようとした……でも」
「でも?」

琴子の表情が少しずつ寂しくなっている。
声もとぎれとぎれになってきた。
そしてとうとう琴子が叫んだ。

「それは、本心じゃない……本当は……光、あなたから私に話して欲しかったのよ!」
「琴子……」

まぎれもない琴子の本心だった。
いつの間にか琴子から涙があふれていた。
 
「私はね……光のことをもっと知りたかった。だって友達だから……」
「わかるな、その気持ち……」

「友達ならば、なんでも話してくれる……そう思ってた……」
「………」

「でも……私には話してくれなかった!」
「琴子……」

「あなたの娘に対する想いは十分にわかったわ……だからよけいに傷ついたわ!」
「えっ?それって……」

「そんなに大切なことを話してくれないほど、私達の絆は弱いものだったのかって……」
「………」

琴子の悲痛な想いが光の心にグサリと突き刺さる。

「光、私達の8年間は何だったの?ねえ教えて!」
「………」

光は琴子の顔をまともに見ることができなかった。



光はなにも言わない。
これ以上待っても何を言わないと感じた琴子は不意に立ち上がる。
 
「そう……なにも言ってくれないのね……」
「水無月さん……」

「私達……もう友達じゃないのね……」
「ちょっと!なんてこと言うんだよ!」

「私、わかったわ……私は光からまったく信頼されていなかったの……」
「………」

琴子は光に向かって背中を向ける。
そして扉に向かって歩き出す。
 
「さよなら!」
「水無月さん!」



ばたん!



琴子は部屋から走り去ってしまった。
 


琴子がいなくなった病室。
部屋には沈黙が走る。
 
「光ちゃん……何でなにも言わなかった?」
「こうくんも……光ちゃんが言えないなら、なぜ言わなかったの?」

「………」
「……ううっ……」

「公二……」
「光ちゃん……」
 
公二はただ黙っていた。
光は声をあげずに泣いていた。
 
「わかっていたよ……こうなることを」
「どういうことだ?」
「うちらなんて、友達って言う資格なんてなかったんよ」
「ひかりん……」


「水無月さんの言うこと、もっともだよ……俺たちは反論できないよ……」
「琴子の言うこと……正しいよ……間違ってないよ……」
「でも……」


「俺たちが秘密を明かしたとき……こうなることは思ってた……」
「友達の縁を切られるかもって……だって、そうなることをずっとしていたから……」


「覚悟していた……けど……」
「私も……覚悟してた……でも……でも……ううっ……」
「光ちゃん……」

 
「うわぁぁぁぁぁん!ことこぉぉぉぉぉぉ!」
 
光の絶叫は琴子に届いたのであろうか……
To be continued
後書き 兼 言い訳
人質になったときの公二達の心境が話されました。
すべては恵のため。恵のためだけに全てを耐え抜く。それが自分たちの親としてできること。
そんな感じなのでしょうか?
 
耐える理由としてこれは正統なのか?それは経験がないのでわかりません。
しかし、生きるための理由。この子のために生きる。そういう理由は当然あると思います。
 
そして、公二と光は匠達に全てを打ち明けました。
しかし、琴子が……
 
たぶん、2人にとって最悪の展開かもしれません。
2人のショックは相当なものかもしれません。
 
第39話までが、今はなき「シシリン's Factory」で実質公開されていた話です。(一部を除く)
(実際は次の第40話も公開していたのですが、運営終了後だったので、見ていない人が多いと思います)
 
次回、飛び出した琴子にあのふたりが遭遇します。
ふたりって?あのふたりしかいないんですけど。
 
次回、危機編最終回です。
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