第39話目次第41話
伊集院メイと陽ノ下 恵の誘拐事件は重傷者2名を出したがなんとか解決した。

犯人は伊集院家で全て捕まえた。従って、このまま事件を闇の中に抹殺できた。
しかし、近所の人が工場での銃声で110番通報したらしく、捕まえた直後に警察がやってきてしまった。
警察相手では、たとえ伊集院家でも隠すわけにはいかない。
結局、犯人は警察に渡された。
そして、事件は警察を通じてニュースとして世間に流されることとなった。
 
それにより、公二と光と恵の名前が公表されてしまったのだ。
それも、公二と光は恵の親として。
 
このことは、公二と光は承諾済みである。
 
実は匠達を部屋を呼ぶ前に、こんな会話をしていた。
 
「公二さん。警察があなたたちの名前を公表するという、連絡が来ました……」
「………」
「未成年だからという理由をつけて、伊集院家の圧力で名前を伏せることもできますが……」
「かまいません……公表してください……」
「もう、友達にバレたし……もう隠すことはありません」
「どうせ、どこかのマスコミが調べてしまいますよ……それだったら先に……」

咲之進は驚いた。
まさか公表してくれなんていうとは予想しなかったからだ。

「え?いいんですか?そんなことをしたら、あなたたちの立場が……」
「いいんです……我々がどうなっても」
「そんな……」

「これは俺達への天罰だったんです……友達に本当の事を言わなかった俺たちへの……」
「だから、公表されてこの後どんな事になっても、甘んじてそれを受け入れます……」
「わかりました……連絡しておきます……」
 
咲之進が警察に連絡した直後、マスコミに事件の詳細が公表された。
公二と光と恵の関係と共に。

太陽の恵み、光の恵

第9部 危機編 その6

Written by B
夜中の町中。
もう夜の9時半になろうとしていた。
そこを全力で走る、二つの影。
 
「花桜梨さん……病院はもうすぐだよね?」
「うん……あと5分ぐらいかしら……」
 
楓子と花桜梨だった。
 


花桜梨はTVのニュースで誘拐事件の事を知った。
驚いた花桜梨は、公二の家に電話して病院の名前を聞き出した。
そこで、匠達が一緒にいることも知った。
 
そこで、急いで楓子と一緒に病院へ行こうとしたのだが、こんな時間になってしまった。
なぜかというと……
 
「遅くなっちゃったね……」
「まったく……あなたがこんな時間までノックなんてしているから遅くなったのよ!」
「ごめんなさい……」

楓子がノックに夢中で部活を切り上げようとしなかったからだ。

「なんで、こんな夜中までノックしていたのよ?」
「な、ナイター対策……」

「それに何?『中国、サッカーW杯初出場記念千本ノック』って?」
「あうぅ……」

「でっかい横断幕まで作って……何考えているの?」
「はうぅ……」

「それにあなたの着ていたユニフォームは中国じゃなくてオランダよ!」
「ひぃぃ……」
「オランダはW杯はでないのよ!」
「あうぅ……」

花桜梨はちっともやってこない楓子の様子を見にグラウンドに行ってみた。
花桜梨は変な方向に気合いの入っている楓子をみて呆れるしかなかった。

「どうせ、サッカー部のドアをたたき壊して探したら、それしかなかったんだろうけど」
「どうしてそれを……」
「楓子ちゃん、運動部で評判よ。『ドアを壊して部室から勝手に物を借りていく』って」
「ごめんなさい……」

「事情はわかってるけど、できるだけ自制しなさい。いいわね?」
「は〜い……」
「ほんと、強引に止めなければいつ終わっていたのやら……」

花桜梨は楓子がノックの小悪魔であることを噂で聞いていた。
しかし花桜梨にはどうしようもなく楓子に注意するぐらいしかなかった。
 


病院に近づくにつれ話題は公二と光に移っていく。

「でも、とうとう公ちゃんと光ちゃんの関係……バレちゃったんだね」
「ええ……でも、まさか坂城君や水無月さんがそこにいたなんて……」

「もう、みんなに全部話しているんだろうね……」
「そうね……」

「本当のこと知って欲しい……ずっと悩んでいたからね……」
「うん……その悩みから開放されるんだね……」

楓子と花桜梨は二人の苦悩を直接聞いていた。
それだけに二人の悩みが解決されたことに少しだけ喜んだ。
ただ、それまでの過程がとても心苦しいものであったが。
 


楓子と花桜梨は病院の前に着いた。
コンクリートの建物が月に照らされて、それが何とも言えない冷たさを感じさせる。
 
「やっと、着いた……」
「でも、こんな夜中に大丈夫なの?」
「ええ、公二くんのお母さんに頼んでもらったから……」

「そう、じゃあ、さっそく入ろう!」
「あれ?……あそこに誰かいるわ……」
「あれは……水無月さんじゃない!」
 
病院前の広場のベンチに琴子はいた。
暗くてよく見えていなかったが、うつむいていて、泣いているようだった。
 
「もしかして……」
「楓子ちゃん、間違いないわ……」
 
楓子と花桜梨は、光と琴子の間になにかがあったことに気がついていた。
それは間違いなく、今日の事に関して。
 
「公ちゃん達に逢う前に……」
「そうね……」
 


「光……どうして……どうして、私に……」
 
琴子はベンチで泣いていた。
 
琴子はショックだった。
光に子供がいたことではない。それは、以前から予想していたから。
ショックだったのは、あんなに親であることを自覚してながら、結局、自分にはなにも教えてくれなかったことである。
 
昔から琴子と光はお互いに色々話した。
出会う前のこと、家庭のこと、色々語り合った。
それに楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、いつも一緒だった。
あのときから姉妹のように仲がよかった。
 
「それなのに……」
 
光の秘密を無理矢理聞き出そうとはしていた。
その一方で、こちらから聞かなくても、光から教えてくれるのを待っていた自分がいた。
しかし、光は最後まで話してくれなかった。
 
光がどう思っているのかは、琴子にはわからない。
しかし、琴子にとって、それまでの光との時間がすべて否定されてしまったような気がしたのだ。
 
「そんなに私は秘密を守れない人に見えたの?そんなに信頼されてなかったの?」
 


そんな彼女にふと声が掛けられた。
 
「水無月さん……」
「えっ……佐倉さんに八重さん……」
 
琴子が顔をあげるとそこには楓子と花桜梨がいた。
 
「聞いたんですね……主人君と陽ノ下さんのこと……」
「ええ……」
「やっぱり……」

琴子は「やっぱり」という返事に違和感を関した。
少なくともなにも知らない人がいう返事ではない。

「えっ?……あなた達がどうして知ってるの?」
「実は……2人が夫婦ってこと、知っていたの」
「うそ……どうして?どうしてなの!」
「水無月さん!」
 
琴子は驚きの表情を表すと同時に花桜梨の両肩を掴んだ。
そして必死に叫び出す。
 
「どうしてあなたが知っているの!」
「えっ……」
「私にはなにも教えてくれなかったのに……どうして!」
「それは……」
「私はあなたより光のことは知っているわ……それなのに……」

琴子とは対照的に花桜梨は冷静に返事をする。

「でも、水無月さんは2人の事知りたかったんじゃないの?」
「ええ、そうよ……でも……どうして……」
「えっ?」

「どうして……どうして……どうして、私には……ああああっ……」
「水無月さん……」
 
琴子は膝から地面に崩れ落ちた。そして、そのまま泣いていた。
 


「楓子ちゃん。やっぱり……」
「こうなっちゃったんだね……」
 
楓子と花桜梨はわかっていた。
 
公二と光が友達に秘密を明かすときに恐れたこと。
それは、結婚して子供もいる本当の自分達を受け入れてくれないこと。
それと、友達だと言っておきながら自分達の重大な事実を今まで打ち明けなかったことに対する怒り。
 
それが怖くて今まで打ち明けたくても打ち明けられなかったのは2人ともよく知っている。
楓子と花桜梨にとって、2人の悩む姿を見るのは事情がわかっているだけに辛かった。
 
そして今日。
どういう事情でバレたのかはわからないが、たぶん、事の成り行きでバレたのだろう。
そして、公二と光は覚悟を決めて全てを話したのだろう。
……その結果が、目の前に泣きくずれている琴子の姿である。
 


泣いている琴子に、花桜梨がそっとささやきかけた。
 
「水無月さん……」
「………」

「私が2人の事を知ったのはつい最近……どうしてかは、私達の事情があって言えない……」
「………」

「でもこれだけはわかって……陽ノ下さんは、ずっとあなたに隠すつもりはなかったってこと」
「………」

「主人君と陽ノ下さん、いつ秘密を打ち明けようかってずっと悩んでたわ……」
「うそ……」
「うそじゃない……2人は怖かったのよ……秘密を打ち明けることで周りが変わってしまうことを」
 
それを聞いて、琴子は花桜梨をにらみつけた。
そして花桜梨に向かって怒鳴り始めた。
 
「うそよ……絶対にうそよ!」
「水無月さん!」

「だって……あなたたちに話せて、なぜ私達に話してくれないの?」
「それは……」
「光だって、私がどう思っているかは分かっていたはずよ!それなのに……」
 

「水無月さん、分かってない!」
「佐倉さん……」
 
2人の会話をじっと聞いていた楓子が口を開いた。


 
「光ちゃんには、水無月さんに打ち明けられないことで、ずっと苦しんでいたのよ!」
「うそ……」

「うぞじゃない!光ちゃんは自分の秘密を話すことで水無月さんが変わってしまうのが怖かったのよ!」
「どうして……」

「自分が結婚して子供がいる……そんな自分を受け入れてくれるか心配だったの!」
「そんな、私はずっとそのことを問いただしていたのよ!受け入れるにきまってるじゃない!」

「そうかしら?」
「えっ……」

反論する琴子。
しかし、今度は花桜梨が口を挟んだ。
 
「わかっていても、いざ現実となると人間なんてどういう反応するかわからないわ……」
「なによ、その言い方……」

「たとえ、友達でも、もしかしたら……そう考えるのは、別におかしくないわ……」
「なに言ってるのよ……」

「結婚して子供までいる自分に対する、偏見、軽蔑……もし、昨日まで友達だった人がそうしたらどうなる?」
「そ、そんなの……」
「それが、一番の大親友だったら……」

花桜梨の言葉に琴子が慌てて割ってはいる。

「ちょっとまって!それって、私が裏切るみたいじゃない!」
「……」

「私と光はずっとずっと友達だったのよ!あなたに何がわかるっていうのよ!」
「……」
「私は光のことは何でも知ってるつもりよ!あなたよりは何十倍もわかっているわ!」



琴子の叫びに花桜梨は冷たく突き放す。



「嘘吐き」



「なんですって!」
「……陽ノ下さんのこと、なにも分かってないじゃない」
「ふざけないで!あなた、なんの権利があって私に……」

琴子は立ち上がり花桜梨につかみかかろうとするが、
 



パンッ!




花桜梨は琴子に平手打ちを見舞った。  
平手打ちの鋭い音が辺りに響く。

「目を覚まして、水無月さん」
「………」
「花桜梨さん…………」
 


平手打ちを喰らった琴子も、
それを見ていた楓子も呆然と花桜梨を見つめる。
 
花桜梨はそんな2人に構わず語り続ける。
 
「ここまで言って、まだわからないの?」
「………」
「陽ノ下さんが、あなたと一緒にいない間、何があったか……わからない?」
「えっ……」
 

「たぶん、陽ノ下さんは……妊娠したために……中学のときいじめられていたのよ」
 

「うそ……」
「もしかしたら……友達にも裏切られたかもしれない……」

琴子が驚いた表情を見せる。
琴子にとっては想像してなかったことなのかもしれない。

「そんな……」
「私にも詳しい事はわからない。ただ、こう言ってた『もう二度と、中学の頃のあんな辛い思いはしたくない』って」
「………」
「秘密を明かして、周りが大騒ぎしてしまうのが怖いって言っていたけど……たぶん、一番の原因はこれだと思う」
「………」
「間違いなければ、たぶんその心の傷はまだ深いと思う」
「………」

花桜梨は光から直接は聞いていないが、光の辛そうな表情から見てそう感じていた。
事実、花桜梨の予想通りである。

「一度、友達から裏切られると……また、裏切られることが怖くなるの……」
「………」
「陽ノ下さんは特殊な事情のために裏切られた。そういう人がとる行動は二つに一つ」
「………」
「裏切りの元になる特殊な事情を隠すか……いつか裏切られるなら、最初から信頼しなくなるか……」
「花桜梨さん……」
 
花桜梨の説得に楓子は何も言えなかった。
花桜梨がそこまで言える理由を楓子は知っていた。
だからこそ楓子は必死に琴子に語る花桜梨の口を挟むことができなくなっていた。

「でも、陽ノ下さんには一つしか選択肢がなかった……いや、それしか選ぶ積もりもなかった」
「えっ……」
「なぜだか分かる?」
「?」


「水無月さん……あなたがいたからよ」


「わたし?」
「ええ、陽ノ下さんがずっと大切していた友情。絶対に壊したくないあなたとの友情があったからよ」
「友情……」
「だから、隠し事があなたを裏切るということを分かっていながらそうしたのよ」
「………」

琴子は地面を向いて黙ってしまう。
琴子は花桜梨を通じて光の心が見えてきている気がしていた。
 


明らかに琴子は落ち込んでいた。
そんな琴子を楓子が慰める。

「主人君と陽ノ下さん、私達にこう言ってた『早く打ち明けて本当の友達になりたい』って」
「本当?……それ、本当なの?」

「ええ……だから、水無月さん……陽ノ下さんと本当の友達になってあげて」
「だめよ……」

「えっ?どうして?」
「私から……私から光との縁を切ったのよ……いまさら、私にそんな資格が……」

「一度切れたら、また結べばいいじゃない」
「えっ?」

「一度信じられなくなっても……もう一回信じることから始めればいいじゃない」
「もう一回……」

「大丈夫、水無月さんなら……きっと大丈夫、光ちゃんもわかってくれるはずよ」
「ありがとう……八重さん、佐倉さん」

二人の言葉は琴子の心を落ち着かせていた。
先程の感情の高ぶりはなくなっていた。
 


「じゃあ、一緒に病院に行きませんか?」
「これから、公ちゃん達の病室に行くんだけど……」
「………」

二人の提案に琴子は首を横に振った。

「大丈夫。陽ノ下さんはわかってくれるわ」
「私達も一緒だから……」
「ごめんなさい……今日は、もう気持ちの整理がつかないから……」
「そう……」

説得はしてみたが琴子は首を横に振るばかり。
よほど心が乱れているのだろう。
二人は琴子を連れて行くのを諦めることにした。

「じゃあ、私達が光ちゃんに伝えようか?」
「だめ……それは私から光に言うから……何も言わないで」
「わかったわ……そうする」
「それじゃあ……ごめんなさい……」
 
琴子はそういって、ゆっくりと家に帰っていった。
 
だが、琴子は重要なことを忘れていた。
公二と光は明日から3日間面会謝絶になることを。
 


琴子と別れた花桜梨と楓子は、公二と光の病室にやってきた。
 
「やっとついたね」
「でも、病院の人が『静かに』って言ってたけど、何でだろう?」
「まあ、とりあえず、入りましょう」

花桜梨が扉をノックする。

コンコン!

「はい?」
「公ちゃん?」
「楓子ちゃん?入っていいよ」

その声を聞いて二人が扉を開ける。



がちゃ!



「し、主人君?」
「うそ……」
 
2人は驚いた。
ベッドに全身包帯とギプスだらけの公二がいたから。
花桜梨達も匠達同様の驚きを見せていた。
 


「公ちゃん大丈夫!」
「し、静かに!」
「え?」
「周りをよく見ろ!」
「……あ」
 
楓子は改めてベッドの周りを見てみた。
ベッドの周りには……
 
「……ぐぁ〜、ぐぁ〜……」
「……う〜ん、で〜とはいいなぁ……」
「……ようせいさん、う〜ん……」
「……も、もうたべられない〜……」
「……おにぃちゃんのばかぁ……」
 
匠、純一郎、美帆、茜、美幸が毛布をまとってぐっすり寝ていた。
 
「これって……」
「ああ。匠が『明日から面会謝絶で不安だろ?今日は一緒にいてやるよ』って」
「それで……」
「おかげで少しは安心できそうだ……」
 


「ちょっと待って!じゃあ、水無月さん……」
「えっ、水無月さんがどうした?」
「実は……さっき水無月さんに会ったの」
「そうか……」

「絶縁……されたそうね」
「ああ……でも、しかたないよ。俺たちが全て悪いから……」
 
公二の顔が暗くなってしまう。
よほど衝撃が強かったのだろうか。

「大丈夫よ」
「え?どうして?」
「花桜梨さんが説得したの『陽ノ下さんのことも考えてあげて、信じてあげて』って」
「そうしたら、水無月さん……わかってくれた……だから大丈夫」

「本当か?水無月さんは俺たちの事を許してくれるのか?」
「うん。たぶんそう思うよ」
「ありがとう……八重さん、佐倉さん」
「そんなことない……この前は、私が助けてもらった……それのお礼」
「ありがとう……ほんとうにありがとう……」
 
公二は花桜梨にお礼を言った。
表情は嬉しそうだ、でもまだ半分といったところだ。
完全に問題が解決したわけではないので当然だろう。

「それで……一緒に病室に行こうって誘ったけど……気持ちの整理がつかないって、断られた」
「自分で陽ノ下さんに話すからって、何も言わないでって、頼まれたのだけど……」
「そうか……弱ったな……」
「うん……あの様子だと、余計に心配だな……」
 
そう言って公二、楓子、花桜梨は隣のベッドを見る。
 
「ことこ……ことこ……ことこ……」
 
そこには、夢の中で琴子の名を呼ぶ光の姿があった。
 
「光ちゃんは水無月さんと終わったと思ってるのかしら……」
「面会謝絶の間、2人にとって辛いかもしれないわね……」

「俺から言うとまずいのかな?」
「まずいと思う。ここは2人に任せるしかないと思う……」
「そうか……しかたないか……」
 


「ねぇ、公ちゃん」
「なんだ、楓子ちゃん?」
「坂城くん達はどうだったの?」
「ああ……水無月さんが飛び出したあと、重苦しかったんだが……」

公二は楓子に琴子が飛び出した後の病室の状況を語り始めた。
 


「………」
「………」

病室はとても暗い雰囲気に包まれた。
そのなかで匠がぽつりと口を開く。

「なあ、公二……俺はお前の友達だからな」
「匠……」

「確かに、子供までいるとはかなりショックだった……でも、今は冷静になれる……」
「坂城くん……」


「結婚したって、子供がいたって……公二は公二、光ちゃんは光ちゃん。そうだろ?」
「匠……」

「俺も同じだ……よく考えると、俺達、結婚して子供がいる公二と陽ノ下さんしか知らないってことだよな」
「純……」

「うん。そうなんだよね〜。そう考えると、別になにも変わらないんだよね〜」
「美幸ちゃん……」

「悔しいぐらいにお似合いの夫婦だよ……こうくん。光ちゃん」
「茜ちゃん……」

「あんなに深い絆で結ばれていたなんて……うらやましいです」
「美帆ちゃん……」

「みんな……ありがとう!」
「ありがとう……ほんまにありがとう!」

みんなからの暖かい言葉。
みんなが受け入れてくれた。
公二と光は感動していた。
 
「光ちゃん」
「茜ちゃん……」

「たぶん、水無月さんも同じ気持ちだと思うよ」
「そうですね。まだ水無月さん。まだ混乱していると思います」
「だから、心配するなって!落ち着いたらきっと戻ってくるよ」
「ありがとう、みんな……」
 


「……ということだ」
「そっかぁ……」
「みんな、本当の俺たちを受け入れてくれた……嬉しかった」
「よかったね……」
「ああ、これで本当の友達になれる……そんな気がする」

公二の表情から本当に嬉しかったことがよくわかる。
公二の悩みが一つ消えてほっとしているようにも見える。
 
「でも、水無月さんをなんとかしないと……」
「そうだな……」

「水無月さんは私がなんとかする……きっと、ここに連れてくるから」
「私も協力する、坂城くん達にも協力してもらうから」

「ありがとう……光のために頼む」
「わかったよ、公ちゃん」
 
自分は動けない、光を慰めるしかできない。
今は公二は花桜梨だけが頼みの綱だ。
頼む公二の声は本当にすがるような声だった。

「主人君……私達もここに泊めてもらおうかしら?」
「えっ?」

「本当の友達として……いいでしょ?」
「ああ、いいよ……」
「じゃあ、毛布借りてくるね♪」
 
こうして、楓子、花桜梨も病室に泊まることになった。
 


主人 公二と陽ノ下 光は子持ちの夫婦である。
夜が明けるとこの事実は世間にさらに知れ渡ることになる。
地元ひびきの市では当分大騒ぎになるだろう。
 
公二と光の周辺は大きく変わりだす。
変わった後の世界は天国か地獄か。
それは公二と光の力で決めていくことになる。
 
公二と光の人生は新しい局面を迎えている……
To be continued
後書き 兼 言い訳
第9部は危機編これで終わりです。
 
琴子は花桜梨の説得でよりを戻す決意を固め、
匠たちは子持ちの公二達を素直に受け入れてくれました。
 
久しぶりの花桜梨、楓子が登場。
今回は花桜梨が大活躍。
友達への信頼を無くした琴子を救えるのは彼女しかいないでしょう!
 
 
いやあ、第9部は大変でした。
残虐シーンがあるという意味ではなく。
実は、最初の下書きをほとんど書き直しという状況だったからです。
 
今は部ごとに大体下書きして、それから全体を修正するという手法をとっていたのですが。
今回、37話であるシーンを入れようとしたら、それからあとをかなり変えざるおえない状況になり、
それで変えると新しいアイデアが浮かんでしまい。
結局、35話と38話の前半以外は9割ぐらい、最初の構想とまったく違っています。
 
一例をあげますと、
琴子が花桜梨に平手打ちを喰らうシーン。
本当はMROの影響か「琴子が光を平手打ち」という衝撃のシーンでした。
しかし、お話の展開から「琴子が平手打ちされる」というもっと衝撃のシーンができました。
 
まあ、なんといってもメイ様の存在感がほとんど無かったのが最大の変更点でしょう(爆
最初はメイ様のストーリーは第9部で完結させる予定だったのですが、
第9部で書き切れなくなり、次に後回しにされてしまいました。
最初はメイ様中心だったはずなんだけどなぁ〜(汗
 
全部書き直しは初めてだったので、大変でした。しかしいい経験になったと思います。
 
 
第9部は公二と光の恵に対する想いと、秘密を打ち明けたときの友達の想いを中心に書きました。
テーマ?にしては結構難しかったです。
この中での公二、光、匠達の心のなかについての意見はいろいろあるでしょう。
こういうのって正解なんてないですから、書いていて凄く迷って悩みました。それだけいい勉強になりましたけど。
 
 
次回からは第10部です。
ここからがいよいよこのHPオリジナルになります。

第10部は公二と光の入院中を描いた、入院編になります。
公二と光の秘密が公表され、大騒ぎになったひびきの高校で匠達はどうするのか。
公二達にお見舞いをする匠達のドタバタぶり。
光と琴子の仲直り。
そして、第9部で滅茶苦茶割を食ったメイ様と公二のお話の決着。
 
久々のドタバタストーリーの予定です。
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