第41話目次第43話
伊集院家私設病院。
公二と光の病室。
入院初日。

「あ、あの……」
「め、メイさん……」
「ど、どうかしましたか?」

公二と光が唖然としている。

「そ、その格好……」
「ど、どうしたんや、それ……」

「主人様、陽ノ下様、わ、わたくしが身の回りのお世話をするのd……お世話します♪」

一度病室から飛び出したメイはお昼に再び病室に戻ってきた。
それも、メイド服を身にまとって。
病室にメイド服、誰がどう見てもミスマッチである。

そんな事は気にしていないメイにさらに困惑する公二と光であった。

太陽の恵み、光の恵

第10部 入院編 その2

Written by B
引き続き、ぎこちない言葉遣いで話すメイ。

「主人様、陽ノ下様、ど、どうしたのでしょうか?」
「メイさん、主人様なんて恥ずかしいよ、公二と光でいいんだよ」
「それに、そんな丁寧な言葉はいらへんのや、普通でええよ」
「そ、そうなのか……じゃあ、普通にしゃべるのだ」

あっさり普通の言葉遣いに戻すメイにまた困惑する二人。



「公二殿に光殿、今日は午後から警察の方がくるので、早速お昼にするのだ」
「殿って……まあいいや、じゃあ、お昼だな」
「そうやな、ちょっとおなか空いたかも」

慣れない病院生活。
動いていないのだが、精神的に疲れているので意外にお腹が空くのかもしれない。

「そうなのだ……でも今日だけは病院食で我慢して欲しいのだ」
「今日だけ?」
「毎日、病院食じゃないの?」
「昨日手術したばかりなので、二人とも栄養不足なのだ、でも明日からはいいのだ」

メイの説明にふむふむと聞いている二人。

「まあ、俺たちは病気じゃないけど……」
「だから明日からは伊集院家専属のシェフに食事を用意させるのだ!」

「はぁ?」
「二人には美味な食事をして欲しいのだ……だから今日は我慢するのだ」
「はぁ……」
「明日が恐ろしい……」

しかし、病院食も伊集院家のシェフの指導もあるので、
普通の病院に比べて豪華である事を知るのはそれから数分後の話である。



病院食とは思えない病院食が並べられたあと、
メイが一言。

「では、メイが食べさせてあげるのだ」
「た、食べさせるって……」
「ちょ、ちょっと……」

いきなりの行動に二人もさすがに戸惑ってしまう。

「でもしょうがないのだ、二人とも手が使えないのだ」
「あ……」
「そうだ……」

二人とも肩や腕に銃弾を受けてしまっている。
それに骨折もひどい。
したがって、腕や肩はギプスで完全に固定されて動かせない状態である。
はっきりいうと、二人とも全身ギプスだらけでまったく動けないのだ。

「だから、メイが食べさせるから、安心するといいのだ」
「じゃあ、お願いするね……」
「うん、お願い……」
「では食べさせるのだ♪」

メイは嬉しそうに食事の準備をする。



「では公二殿から食べさせるのだ……では、口を開けるのだ」
「は〜い……」
「はい、あ〜ん」
「あ〜ん……」

公二は恥ずかしそうに口を開けると、メイは口に食べ物を入れる。

「もぐもぐもぐ……」
「ど、どうなのだ?おいしいのか?」
「ああ、結構いけるな……」

「本当か?本当においしいのか?」
「ああ、本当だよ」
「そうなのか!メイは嬉しいのだ!」

メイは自分が作った料理が褒められたかのように喜んでいた。



「つぎは、光殿が食べるのだ」
「ほ、ほな、たのむわ……」
「はい、あ〜ん」
「あ〜ん……」

光も恥ずかしかったが、大きく口を開ける、そこにメイが口に食べ物を入れる。

「どうだ、おいしいのか?」
「なかなか、おいしいね」
「やっぱりそうか!メイは嬉しいのだ!」

病院食ごときで大喜びするメイにまたまた困惑してしまう二人だった。



そして午後、警察がやってきた。
メイもそこにいると言ったが、個人的なことだからと言って、公二と光はいったん病室から追い出した。

事情聴取が始まった。
警察が質問をして、二人が答える。単純な形式である。

事情聴取と言っても、二人は犯人ではなく被害者なので、そんなに質問はない。
犯人のマフィアはどんな武器を持っていたか、
どこの国の言葉を話していたか、
どんな顔の人が多かったか、
犯人の実態を聞く質問ばかりだった。
とは言っても、二人は半分気を失っていた時間が多く、あまり答えられなかったのだか。

不思議なことに二人の個人的な事はいっさい聞かれなかった。
たぶん伊集院家が配慮するように頼んだのだろう。

そんなことで、時間がかかると思っていた事情聴取があっさりと終わってしまった。
これには警察も公二達も拍子抜けだった。

なんで3日も面会謝絶にしたんだろう?と双方が思ってしまうほどだった。
それでも3日間も大げさに時間を用意したのに、初日で取り消すのも格好悪いので、
面会謝絶は続けることにした。

おかげで公二達はあと2日間治療に専念することになった。



しかし、メイのお手伝いさんはまだ続く。
それがうまくいけば問題ないのだが、そうはいかなかった。

事情聴取のあと、怪我の治療からもどってきた時のこと。

「メ、メイさん……」
「こ、これなに……」

戻ってきた公二と光は病室の状態に驚いていた。

「し、失敗してしまったのだ……」

どうやら、二人がいない間に掃除をしようとしたらしい。
しかし、ゴミは散らかるわ、花瓶は落とすわ、備品の場所が変わってるわ、
最初に比べて綺麗になるどころか、汚れてしまっていた。

「す、すまないのだ……」
「いいよ、いいよ、気持ちだけでも嬉しいよ」
「ほんと、ほんと」
「ご、ごめんなさいなのだ……」

結局、看護婦に後かたづけをやってもらった。



それからもメイの失敗は続く。
夕食もメイに食べさせてもらったのだが、
掃除の失敗で緊張してしまったのか、うまくタイミングが合わない。
顔にこぼしてしまうことが何度もあった。

そのあとの片づけも失敗ばかり、
食器を落とすこと数度、
自分が転びそうになりそうになるのも数度。

見ている公二と光の方も疲れてしまいそうであった。



しかし、メイはそれでも手伝おうとする。
仕方がないので二人もつきあう。

でもさすがにトイレの世話は恥ずかしいからと言って断った。
体を拭いてもらうのも同様である。

メイは不満そうだったが、従うことにした。



そして夜。

メイは二人よりも先に床に布団を敷いて寝てしまった。

「スー、スー……」

可愛い寝息をたてて眠っているメイ。
二人はそれを眺めていた。

「寝ちゃったな」
「結構疲れたんやろね」
「やってくれるのはありがたいけど……」
「お嬢様だからね、やったことがないんじゃないの?」
「それもそうだな。そんなにやったことがなかったんだろうな」


「メイさん、俺たちに対して責任でも感じているのかな?」
「でも、夜にはそんなこと考えてなかったみたいだけど」
「そうだな、なんか人をもてなすって方が強くなったのかもな」
「うちらが喜ぶとメイさんも喜んでたね」
「責任なんて、忘れてくれたほうがこっちとしてはありがたいけどな」
「そうやな、今朝の状態だと一生引きずりそうやからね」
「メイさんだけの責任じゃない、俺たちの責任でもあるからな」
「うん……」



「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」

メイが何か寝言を言っている。
しかし「お兄ちゃん」という単語ははっきりと二人の耳に入った。

「メイさん、何か寝言いってる……」
「お兄ちゃんって、誰の事だろう?」
「メイさんにお兄さんっていたっけ?」
「確か俺たちと同じ年にレイさんという人がいるみたいだぞ」

「夢にでるなんて、メイさんも甘えん坊なんやね」
「でも光ほどじゃないと思うな」
「ぶ〜」

「ごめんごめん、でも甘えん坊も悪くないぞ」
「そ、そうかな……」
「照れちゃって〜、やっぱり光は甘えん坊なんだな」
「………」



「しかし、あわただしい一日だったな」
「そうやね、メイさんが気になって考える暇がなかったわ」
「明日からは落ち着くかな」
「そうやね」
「俺たちの怪我は焦ったって無駄だ、ゆっくり確実に治さないとな」
「うん、うちらにできることは、それぐらいやからね」

公二にとって、忙しい日々でありがたかった。
それは、光が琴子の事を考える暇を与えなかったという意味で。
昨日の今日である、もし考えてしまったら、光のことだ、間違いなく一日それで苦しむだろう。
昨日のことを冷静に見つめるには1日という時間は十分な間隔だと思っていた。

明日もし光が琴子の事を考えたら?
そうなったら、俺が救ってあげよう、
すべてが解決するわけではないが、できるだけのことをしよう。
公二はそう思った。

「それじゃあ、俺たちも寝るか」
「そうやね、お休みなさい……」
「お休みなさい……」

公二も光も眠りについた。



それからもメイの寝言は続いていた。

「やっと、来てくれたね、お兄ちゃん……」

メイの夢は昔の夢だった。
河川敷公園で一緒に遊んでくれた男の子。
今までは、その男の子が離れてしまう夢だった。

今日は違っていた、その男の子がまた現れる夢だったのだ。
そしてメイはその男の子と一緒に遊んでいた。
メイにとっては本当に楽しい夢だった。
そう、そこまでは……

「お兄ちゃん!」

メイはがばっと起きあがった。

「ゆ、夢か……」

その夢の続きとは……
あの後、突然その男の子が銃で撃たれてしまったのだ。
メイが声をかけるがいっこうに反応がない。
しだいに、だんだんと冷たくなっていく……

そこでメイは目が覚めた。
あまりの恐怖に、体中冷や汗だらけだった。



「こ、怖かったのだ……せっかく楽しい夢だったのに……」
「どうしてなのだ?どうしてあんな夢を見たのだ?」

ふとメイはベッドの方を見る。
視線の先にはぐっすりと眠っている公二の姿があった。

「もしかして……」

メイの頭の中にある仮定が浮かんでいた。

「もしそうだったら……メイはどうしたらいいのだ……」

そうつぶやきながらメイは再び眠りについた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
やっと書けました、メイ様メインのお話です。

ここではメイ様のお嬢様ぶりを書いて見たのですがいかがでしょうか?
いや、お嬢様というより、おこちゃまぶりを書いただけのような(汗

しかし、伊集院家私設病院の病院食ってどんなでしょうね?
たぶん、常識からかけ離れているのは間違いないと思いますが……

警察の取り調べのシーンはいれませんでした。
理由は本文の通り、公二達が答えられる質問がほとんどないからです。
ここらへんはみなさまの想像におまかせということで(こら

次回は琴子、メイそれぞれに動きがあります。
目次へ
第41話へ戻る  < ページ先頭に戻る  > 第43話へ進む