第42話目次第44話
入院2日目。
琴子が学校にやってきた。
校門で待っていた匠達が琴子の周りにあつまる。
しかし、琴子に反応がない。

「水無月さん!」
「………」
「琴子さん!」
「………」
「水無月さん!」
「……はっ!、ご、ごめんなさい……」

琴子の足取りはフラフラでおぼつかない。
琴子は明らかに疲れ切った様子で、目に光がなかった。

「大丈夫?無理しない方がいいよ?」
「ありがとう、でも学校には行かないと……」

琴子は周りの声を聞かずに校舎に入っていった。

「水無月さん、相当参っているよ……」
「もし、教室でなにかあったら……」
「純、頼むぞ、教室ではおまえしか見張ってられないからな」
「ああ、わかった……」
「お願いしますよ……」

太陽の恵み、光の恵

第10部 入院編 その3

Written by B
しかし、匠達の心配は無用だった。
琴子のあまりの様子にクラスで誰も声が掛けられなかったのだ。

その原因が、おとといの事件であることはみんなが気づいていた。
しかし、いまの琴子にそれを聞いてはいけない。
そんな雰囲気がクラスを取り囲んでいたのだ。



そしてお昼休み。
美帆が教室にやってきた。

「琴子さん。屋上でお弁当にしませんか?」
「……そうね、そうするわ……」

そういって、琴子はふらふらと立ち上がり歩き出した。

(琴子さん……このままだと壊れてしまう……)



学校の屋上
琴子を匠、純一郎、茜、美幸、花桜梨、楓子が待っていた。

「あっ、水無月さん。お弁当にしよう!」
「そうだよ、みなぽん」
「……ありがとう……」



お弁当を食べながら楽しい?会話が始まる。

「それで、今日はね……」
「えっ!美幸ちゃん、ハイブリッドカーに跳ねられたの初めてなの!」
「………」
「うん!美幸、自分でもびっくりしちゃった〜」


「美幸ちゃん、いつもどんな車にはねられているんだ……」
「え〜とね〜、アメリカにドイツ、イタリア、イギリス、フランス、韓国に……」
「ひびきのってそんなに外車が走ってたのか……」
「………」


「それで妖精さんがですね……」
「そ、そうだったんだ……」
「ええ、おもしろい妖精さんでしょ?」
「は、は、ははは……」
「………」


「そういえば先々週遊園地で匠さんを見たよ♪」
「おまえ、またデートか?」
「よくわかったな」
「相手は?」
「他の学校の子だよ。可愛かったな〜」
「……節操なし……」
「うぅ……」
「花桜梨さんが言うと、迫力ありすぎだよ……」
「………」

端から見ていれば楽しい昼食。
しかし、当の本人達は必死だった。
どうすれば琴子が元気になってくれるか。
それだけで頭がいっぱいだった。



「しかし、天気のいい日に屋上でお弁当は楽しいな〜」
「そうだね」
「……ごめん……」

楽しい雰囲気の中で一人だけ暗い琴子がようやく一言だけ話した。

「どうしたの?水無月さん」
「みんなの気持ち、とても嬉しい……でも、ごめんなさい。今はそんな気持ちになれないの……」
「………」

「お弁当も食べ終わったし……一人にさせてくれないかしら……」
「でも……」

「お願い……」
「ねぇ、ここは水無月さんの言うとおりにしましょう」
「そうだな……」



そういうと匠達は片づけをして、階下に降りようとしたそのとき。

「八重さん」
「えっ、私?」
「あなたと話がしたいの……いいかしら?」
「ええ……」

匠達は帰り支度を済ませて、さっそく階段に向かう。

「それじゃあ、八重さんよろしく」
「うん……」
「水無月さんもそれじゃあ……」
「ええ……あっ、穂刈君。次の授業さぼるから」
「えっ……」

「今は授業にでる気分じゃないの、それよりも、八重さん、あなたとじっくり話がしたいの……」
「……わかったわ、つきあうわ……」
「ありがとう……」

「それじゃあ、保健室に行ったとでも言っておくよ」
「じゃあ、私も適当に理由つけとくから」
「うん、お願い……」

匠達は花桜梨だけを置いて階下に降りていった。



階段を降りた匠達は暗い表情で廊下を歩いていた。

「やっぱりだめだったか……」
「水無月さんを説得する前に、元気づける方が先だというのは正しかったんですけど……」
「かなりダメージが大きいみたいだね……」

「なんで水無月さんは八重さんと話がしたかったんだろう?」
「実は、あの日水無月さんを花桜梨さんが説得したの『光さんの事を考えて、信じてあげて』って」
「そうだったのか……」

「もう、かおりんに任せるしかないんだよね……」
「そうですね……八重さんに任せましょう……」

屋上の様子が心配ながらもどうすることもできない。
後ろ髪を引かれる思いで全員それぞれの教室に戻っていく。



午後の授業の鐘がなる。
しかし、屋上には二人の少女がいた。
琴子と花桜梨である。
二人は並んでじっと空を見つめていた。

「花桜梨さんって呼んでいいかしら?」
「ええ、じゃあ琴子さんって呼ばせてもらうね」
「花桜梨さん……聞きたいことがあるの」
「なんですか?」


「友情って……どんな友情でもいつかは消えるものなの?」

琴子は花桜梨をまっすぐに見つめていた。
その眼差しに花桜梨も琴子をまっすぐに見つめ返す。

「えっ……」
「あれから考えたの、寝ないでずっと光の事ばかり考えてた」
「………」

「花桜梨さん、光は私の事を考えて秘密を隠していたんでしょ?」
「ええ、そう言ってたわ」

「でも私は光の事を考えてなかった、自分が光の事を知りたいから動いた」
「………」

「結局、それってただの自己満足だって気がついた……でもそう思うと悲しくなった」
「琴子さん……」



「光は昔から親しかったわ。言葉にしなくても考えていることがわかる。ツーといえばカーという仲だった」
「………」

「中学の時に引っ越しで別れて、高校で再会した……それでもその仲は変わらないと思った」
「………」

「でも、よく考えてみたら……光の考えがわからなくなっていた、心の中が見えなくなっていた」
「………」

「光は変わってなかった……でも私はあまりに変わってしまった……」
「………」

「それに昨日気がついた……ショックだった」



「あれだけ、堅い友情だと思っていたのに……今は変わってしまった」
「………」
「もう、このまま消えてしまうのかしら……」

「もう昔みたいに戻れないの?壊れた友情は取り戻せないの?教えて!お願い!」
「琴子さん……」

花桜梨を見つめる琴子は悲しそうな目をしていた。
なにか、今まで大切にしていた宝物をなくしてしまったような。



花桜梨は琴子から視線を外す。
そしてじっと空を見つめる。

「昔みたいには戻れないわ……」
「!!!」

花桜梨の一言に琴子は驚きの表情を見せる。
花桜梨はそんな琴子の表情を見ることなく空を見つめたまま話し続ける。

「でも、それは悪いことではないと思う……」
「えっ……」

「みんな大人になるの、大人になれば友達でも見えない心が大きくなるの……」
「………」

「それに卒業すれば、離ればなれになるように、友情の形も変わってくるの」
「………」

「見えない心が大きくなっても、友情の形が変わっても……堅いものにはできるとおもうの」
「花桜梨さん……」

ここでようやく花桜梨は視線を琴子に向ける。
まっすぐに琴子を真剣な眼差しで見つめる。

「琴子さんと光さんは今、友情の形が変わろうとしているだけ、壊れたんじゃない」
「まだ……壊れてないの?」

「大丈夫、今からでも堅い友情にはできる、一生続く友情にできると思う……」
「本当?そうなの?」

「ええ、なくしてからでは遅いわ……」
「………」

沈黙が続く。
自然とお互いに視線を外して空を眺め出す。



空を見つめたまま花桜梨は琴子に尋ねる。

「琴子さん」
「なに?」
「なぜ、私と話したいなんて言ったの?」
「花桜梨さんなら私の気持ちがわかってくれそうな気がして……」
「そう……」

琴子の返事にまた沈黙が続く。



花桜梨がまた沈黙を破る。

「琴子さん」
「こんどはなに?」



「私……去年、すべての友情を失ってしまったの……」
「!!!」


花桜梨の告白に琴子は今までで一番の驚きを見せる。

「友達のためだった……でも、その友達も私から離れてしまった……」
「………」

「気がついたら私はひとりぼっち……そのとき、やっと気がついた……」
「えっ……」

「本当に友達の事を考えていたのかって……かえって傷つけてなかったのかって」
「………」

「そう、私のせいで友達をよけいに傷つけてしまっていたの……」
「………」

花桜梨は琴子の方を向く。
そして花桜梨は琴子の手を両手で掴む。
視線はまっすぐ琴子に向けて。

「琴子さん、あなたには私のようにはなって欲しくないの」
「花桜梨さん……」

「あなたには私のように大切な物を失って欲しくないの」
「………」

琴子は黙って立ち上がる。

「だからお願い、光さんを……」
「ありがとう……でもごめんなさい、もう少し自分を見つめたいの……」
「琴子さん……」

琴子は屋上から去っていった。
結局、琴子はそのまま学校を早退してしまった。



屋上には花桜梨だけが残されていた。
そして琴子との会話を振り返っていた。

「なんで、あんなこと言ったのだろう……」

いつの間にか花桜梨は自分の過去を語っていた。

『私……去年、すべての友情を失ってしまったの……』
『友達のためだった……でも、その友達も私から離れてしまった……』
『そう、私のせいで友達をよけいに傷つけてしまっていたの……』

今でも思い出したくないあの過去を花桜梨は他人に語っていた。。

「思い出に……なったのかな……」

「素直に話せられるように……なったのかな……」

「あの頃が……微かにセピア色になったのかな……」

花桜梨の問いかけに誰も答えるものはいない。
花桜梨の視線の先は青い空が広がっていた。



「………」
「どうした?光?」
「ことこ……」
「………」

伊集院家私設病院
ベッドで寝ている二人がふと青空を見ていた。

「あの青空見ていたら……琴子を思い出してしもうた」
「光……」
「駄目だとわかっていても……琴子を思い出してしまう……」

空を見つめる光の表情は悲しい表情だった。

「心配するな光。水無月さんは大丈夫だよ」
「うん、みんな言うてくれるけど……」


「思い出せよ、光と水無月さんはそんなので壊れるような友達か?」
「そうやけど、でも……怖いんや」
「えっ?」


「怖いんや……琴子と会うのが」
「………」


「うち、琴子の気持ちを裏切ったんや。琴子、今どう思っているかわからへん」
「………」
「琴子、うちの事許してくれるやろか……」
「大丈夫だよ、許してくれるよ……」


「でも、怖いねん!実際に会ってなに言われるのか……」
「だから……」
「もし、怒っていたら……うち、もう立ち直れん……」

光は今にも泣きそうだった。



公二はそんな光の表情にいてもたってもいられなかった。

「馬鹿言うなよ!」
「えっ!」

「光には俺がいるだろ!」
「あなた……」

「光が駄目なら俺も一緒に謝る。許してもらうように俺も説得する」
「………」

「今は駄目なら明日。明日が駄目なら明後日。一緒に謝ろうよ」
「………」

「俺たちには誠意を見せるしかない。そうだろ?」
「うん……」

「だから……立ち直れんなんて言うなよ……」
「ごめん……」

公二の口から自然に思いが飛び出していく。
光もその公二の言葉にようやくを取り戻す。

「今は水無月さんが、病院に来るのを待とうよ」
「でも来てくれるかどうか……」
「大丈夫だよ……」
「でも……」

いまだに不安げな表情の光をみて公二はにこりと微笑む。

「信じようよ、水無月さんを」
「えっ?」
「光はある意味今まで水無月さんを信じていたから、秘密を隠して来たんだろ?」
「うん……」
「だったら今も信じようよ……」
「でも、琴子はうちを信じてくれるか……」


「前に、花桜梨さんが『信じることからやり直す』って言っただろ?同じことだよ」
「………」
「こっちが信じれば、いつか相手も信じてくれる。俺はそう思う」
「あなた……」
「だから俺たちも水無月さんを信じようよ、いつかきっと来てくれるって」
「うん、ありがと……信じるよ、琴子のこと……」
「そうだな……」



「主人さん、陽ノ下さん。検査をするので移動しますよ」

看護婦が自分たちを迎えに来てくれた。
公二はすぐに迎え入れる。

「は〜い……さて行きますか」
「さて、今日は部屋がどこまでめちゃくちゃになってるかな?」

「それはメイさんに失礼やろ、彼女やて一所懸命や」
「そうだな、でもあまりに失敗ぶりが怒るよりもおかしくて」

「うふふ、実はうちもそうなんや!」
「ははは!」

(よかった……光が笑ってくれて……)

公二は光の笑顔に安心して、ベッドごと病室から出て行った。
(公二と光は自力では動けないのでこうして移動している)

無論、戻った時には、メイが掃除をするつもりが部屋が滅茶苦茶になっていたのは言うまでもない。



そして、夕食後。

「公二殿、話があるのだ……」

急にメイが改まって口調で話しかけた。

「どうしたの、メイさん?」
「実は聞きたいことがあるのだ?」
「なんだい?」

メイは公二のベッドに近づき公二をまっすぐに見つめる。

「公二殿は昔、河原で遊んだことはあるのか?」
「そりゃあ、何度も遊んだことがあるよ」

「じゃあ、小2の頃、小さい女の子と遊んだことはあるのか?」
「え?光となら毎日遊んでたが……」

「光殿ではなくて別の女の子と遊んだことはないのか?」
「う〜ん、あったような、なかったような……」

昔を思い出しているのか上目遣いになる公二。

「えっ、あなた浮気してたの?」
「あの年齢で浮気はないだろ。それに24時間いつも一緒だったわけじゃないだろ」
「そうやったね」

「茜ちゃんと遊んでたって、前に言っただろ。別に茜ちゃんが好きとかではないって言ったよな?」
「うん」

「あの頃から俺は光が好きだったから……あっ……」
「……うちもあのころから好きやったよ……」

「………」
「………」

照れてしまった二人は恥ずかしくてお互いに視線をそらしてしまう。



「ラブラブなのはわかったから、質問に答えて欲しいのだ」

それを黙って見ていたメイが呆れるように言った。

「ご、ごめん……」
「ごめん、そうだな……そういえば、あった気がする」

その言葉にメイの表情が変わる。
驚きと喜びが混ざったような表情だ。

「い、いつなのだ?」
「確か転校前に光じゃない子と遊んでいたような……」
「ど、どんな子だったのだ?」
「そうだな……服が派手だったのは覚えているが……」

熱心に聞くメイ。
しばらくするとメイはうつむいて、なにか考えている。

「間違いないのだ……」
「メイさん?」

「やっと……やっと、逢えたのだ……」
「どうしたの?」

「………」
「メイさん?」

「お兄ちゃん!」

いきなりメイは公二に抱きついてきた。



「やっとお兄ちゃんに逢えたのだ……」
「ちょ、ちょっとどういう……」

いきなり抱きつかれた公二は動けないのでどうしていいのかわからずにおろおろしている。

「公二殿の言っていた女の子は絶対にメイの事なのだ……」
「ええっ!」

いきなり過去の告白をされて公二はまた驚く。

「メイは河原でお兄ちゃんと遊んだことが忘れられなかったのだ……」
「メイさん……」

「でも、また遊ぶと言ったきり、二度と来なかったのだ……」
「………」

「噂ではお兄ちゃんはその直後に引っ越してしまったそうだ……」
「………」

「でも、メイはお兄ちゃんのことが忘れらず……ずっと河原で待っていたのだ……」
「メイさん……」

「ひどいのだ……メイはずっと待っていたのだ……」
「………」

メイは涙声になっていた。
感極まってというのはこういう事をいうのかもしれない。



「ねぇ、メイさん、なんでそのお兄ちゃんが公二だと思ったの?」
「恵ちゃんなのだ」
「恵が?」

「恵ちゃんを会ったとき……なにか懐かしい気持ちがしたのだ」
「えっ?」

「なぜだと思っていたのだが、ようやく気がついたのだ……お兄ちゃんの子供だからじゃないかって」
「………」

「昨日今日とお兄ちゃんの世話をしていて……お兄ちゃんにも同じ懐かしさを感じたのだ」
「………」

メイは公二を抱きしめたまま。
さっきとは違ってなにか懐かしいものに触れたような優しい表情をしていた。

「間違いないのだ……公二はメイのお兄ちゃんなのだ……」



公二は寂しそうな表情を見せながら、メイに話しかける。

「メイさん……その男の子……俺じゃないよ……」
「えっ……」
「何度も河原で遊んだっていったろ?俺が遊んだのはたぶん別の子だと思う」
「うそ……」
「俺……メイさんのような顔の女の子……思い出せないんだよ……」

いきなり公二に否定されたメイは驚いて反論する。

「う、嘘なのだ!だって派手な服の女の子と……」
「あのころは派手な服が流行っていた時期だよ。派手な服の女の子はたくさんいた記憶があるよ」
「そ、そんな……」

「俺は記憶力はいいから、そんな約束なら覚えているはずだが……記憶にないんだよ……」
「………」

「ごめんな……メイさんの思い出のお兄ちゃんじゃなくて……」
「………」

メイは悲しい表情を浮かべている。
今にも泣きそうにもなっていた。

「でも、メイさん。きっとそのお兄ちゃんは現れるよ。信じればきっと……」
「うん……」

「元気だして、メイさん……」
「公二殿……」
「あなた……」



そして、その晩。
メイは先に寝てしまっている。
布団を頭からかぶって外からではなにも見えない。

光はベッド越しに公二に話しかける。

「あなた」
「なんだ光?」


「あなた……嘘つくのがめっちゃ下手くそや」
「!!!」

光の一言に公二の顔が引きつる。


「あのころ派手な服なんて流行してない……誰も派手な服は着てなかった」
「………」

「女の子は河原で遊ばない。河川敷公園なら花畑があったけど」
「………」

「それに、あなたの目がいつも以上に動いてた……あれは嘘をつくときにしかしない動きや」
「………」

「うちは、あなたの幼馴染みでもあり、妻や……あなたが嘘ついていることぐらいわかる」
「………」

「メイさんは公二を待ってたんよ……どうしてあんな嘘ついたんや?」



公二はようやく重い口を開く。
その表情は辛そうな表情だった。

「メイさんを傷つけたくなかったんだよ……」
「えっ?」

「メイさんはお兄ちゃんに逢いたくて河原に通っていたんだろ?」
「そうや」

「でも、メイさんは誘拐されて……その結果俺たちがこの様だ」
「………」


「俺がお兄ちゃんだったら……どういうことになる?」
「あっ……」


「お兄ちゃんに逢うつもりが、お兄ちゃんを傷つけたことになるだろ?」
「!!!」
「そんな事実を知ったら、メイさんが傷つくだけだ……」

公二がさすがにそこまで考えていたとは思わなかった光は驚いていた。
たしかに公二の言うとおりだ。
公二がメイを傷つけたくないという気持ちはとてもよくわかる。

「それに、メイさんが俺に抱きついたときの目は……普通じゃない、たぶん恋する目だ」
「えっ……」

「メイさんは、昔の俺が好きだったと思う……あの様子だとな」
「………」

「もし、俺があのお兄ちゃんだったら……俺はメイさんを振らなくてはいけない」
「………」

「もう嫌なんだ……女の子を振って悲しませるの」
「あなた……」

「俺は茜ちゃんに楓子ちゃんを悲しませた……もう悲しむ顔は見たくないんだ……」
「……」
「そんな顔を見るのは、辛いんだ……もういやだ……」

公二も辛かった。
女の子を振れば振るほど自分もつらくなっていた。
振り慣れるという人もいるかもしれないが、公二は逆に辛い思いを倍増させていた。
だからこそメイを振りたくなかった。

「ごめん……そこまで考えていたなんて……」
「いや、いいんだ……メイさんにとって、振られるよりもそのほうがいいと思う」

「そうやね……」
「河原で遊んだお兄ちゃんは、永遠に思い出のお兄ちゃん……それでいいんだ」

そう言うと公二はメイが寝ている布団をじっとみつめていた。



「……すまないのだ……全部聞いてしまったのだ」

布団の中。
メイは二人の会話を聞いていた。
そして静かに泣いていた。

「そこまでメイの事を……お兄ちゃんは優しすぎるのだ……」
「やっぱり、公二殿はメイのお兄ちゃんだったのだ……」
「そしてたぶんメイの……」
「でも駄目なのだ……もう終わってしまったのだ……」
「………」



次の日。
公二達が目を覚ますと、メイは病室にはいなかった。
ただ一通の書き置きを残して。


「約束は1週間なのだが、もうやめにするのだ
 メイは家に帰るのだ。
 また退院直前にくるのだ。
 それでは元気でリハビリをするのだ。
                伊集院 メイ」


そして、その書き置きの裏側には小さな字でこう書いてあった。


「ごめんなさい。
 昨日の話、全部聞いてしまいました。
 メイはお兄ちゃんのことはあきらめます。
 お兄ちゃんはもう届かないところにいるのですから。
 
 退院直前に一度病室に行きます。
 その後はいつ逢えるかわかりません。
 もしかしたら一生逢えないかもしれません。
 でも、メイは公二さん、光さん、それに恵ちゃんの事は忘れません。
 それではお元気で。
 
 そして、ありがとう……お兄ちゃん」


二人はその書き置きを看護婦に見せてもらった。

「メイさん……わかってたんやね……」
「しかし、なんでこんな書き方をしたんだろう?」
「たぶん、本音を表立って言えなかったのかもね」
「本音か……」
「表の手紙が普段のメイさん。そして裏が本当のメイさん……なのかもね」
「そうだな……」


「しかし、いなくなると……寂しいな……」
「そうやね……2日ずっと一緒だったからね……」
「退院してから、また逢えるかな……」
「逢えるよ……きっと、どこかで……」
「そうだね……」
「でも、逢ったときは昼間のあの口調だけどね」
「そうだな、あははは!」
「あははは!」

こうして嵐のように現れた伊集院メイは、そよ風のように二人の前から消えていった。

そしていよいよ面会謝絶が解ける……
To be continued
後書き 兼 言い訳
前半が琴子と花桜梨、後半がメイ様のお話でした。

友情とは?というのは昔からある話で難しいものです。
従って、琴子と花桜梨の会話に違和感がある人がいますが、それでいいとおもいます。
私だってこれでいいのかわかりませんから。


そして、メイ様。
ここではどうしても決着をつけないといけない「お兄ちゃんは誰?」の話です。
素直に認めても良かったのですが、ここではこんな風にしました。
理由は公二の台詞が物語ってます。


次回はあの連中がお見舞いにやってきます。
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