第44話目次第46話
入院2週間目。
暦は12月、季節はすでに冬。
もうじき公二と光を固定していたギプスが取れようかという頃。

「匠、どうした、話って?」
「どうやら、明日……学校からの使者が来るらしいぞ……」
「それって……」
「ああ、公二達の処分を伝えるためだろうな……」
「そうか……」

匠の表情は暗い。
公二達のために学校の動向を集めているだけにその暗い表情がなにを表しているのかよくわかる。

「最近、遅くまで職員室の明かりがついてる。たぶん公二達の処分でもめているんだろう……」
「……」
「結果は俺にもわからない、ただ明日には結論がでるらしい……それだけだ」
「わかった、ありがとう匠」
「すまない……それを伝えることしかできなくて……」

太陽の恵み、光の恵

第10部 入院編 その5

Written by B
次の日。
いよいよ、学校からの使者がやってくる。
心配になった匠達は全員病室の前に集まっていた。
ただし、全員集まっているのは公二達には内緒である。

「いよいよだな……」
「ああ……」
「ボク心配だよ……」
「誰だって同じですよ、私だって……」
「そう、みんな不安なの……」
「どうなるんだろう?」
「う〜ん、美幸心配だな〜」

みんな落ち着きがない。
不安でしょうがないのだ。

「でも、もう俺たちは何もできない。天命を待つしかないんだよ」
「そうだね、公二さんや光さんはなおさらですよね」
「公ちゃんに光ちゃん……どんな気持ちだろう……」



「たぶん、覚悟しているだろうな……」

全員が不安ななか、匠がぽつりとつぶやいた。

「えっ!」
「それって……」
「ああ、退学処分だよ」

匠の冷静な一言が余計にみんなを驚かせる。
まわりの反応をよそに、匠はいたって冷静だった。

「そんな馬鹿な!」
「でもな……あの二人は最初からその覚悟でひびきのに通っていたらしいぞ」
「そうだったんだ……」

二人はわかっている。
そうはいってもやっぱり納得できない。

全員の一致した意見だった。

「でもあいつらはそう思っても、俺たちは最後まであきらめないぞ」
「えっ?」
「あんないい奴、このまま辞めさせたくない。一緒に卒業したい」
「ボクも同じ気持ちだよ」
「そう、みんなその気持ちだとおもう……」
「美幸もそう……」
「私もです、みんなでここで信じましょう……」
「そうだな……」



「しかし、学校からの使者って誰だ?」
「まさか校長じゃあるまいし」
「じゃあ誰だ?」
「さぁ〜?」

そうしているうちに、学校の使者らしき人がやってきた。
自分たちと同じひびきの高校の制服を着ているからよくわかる。

「あっ、来たみたいだぞ!」
「あれは誰だ?」
「あれは……ほむらだ!」
「えっ!……あの赤井ほむらか?」
「そうだよ!ボクが見間違うはずがないよ!」


赤井ほむら 1年F組
1年生なのに、入学式に遅刻した罰として生徒会長をさせられている。
会長なのに仕事嫌いで遊んでばかり、人は彼女をスチャラカ女子高生という。
茜とは子供のころからの大親友である。



「なんで生徒会長?」
「校長の代理なのか?」
「そうだね、ほむら、校長と仲がいいみたいだから」
「そ、そうなんだ……」



そして、ほむらが病室の前にやってきた。

「ほむら!」
「………」
「ねぇ、ほむら!」
「………」

茜が呼びかけるが返事をしない。
表情もない。



こんこん!



「はい?」
「校長代理だ。入るぞ」
「どうぞ」



がちゃ!
ばたん!



ほむらは茜たちを無視して病室に入っていった。

「まさか……」
「そのまさかかもしれないな……」
「そんな……」



病室内。
部屋には公二と光。それに恵がいた。
母親は、病院内の喫茶店で休んでもらっている。
恵だけは、この瞬間に立ち会って欲しくていてもらった。
自分の人生の分岐点に娘にいて欲しかった。そんな気持ちからだった。

ほむらが静かな口調で話しかける。

「あたしが校長代理の赤井ほむらだ」
「お待ちしてましたよ……」
「ようこそいらっしゃいました……」

ほむらは二人の落ち着いた様子に少し驚いていた。

「なんか、えらく、落ち着いているじゃねぇか」
「ああ……内容は大体わかってるからな……」
「えっ、そうなのか?」
「うん……いつかこうなることはわかってたから……」

二人の言葉にほむらはさらに驚く。

「怖く……ないのか?」
「俺たちはもう覚悟決めてるよ……」
「うちらに遠慮せんでええから……」

「……いいのか?」
「ああ、さっさと俺たちを地獄に突き落としてくれよ……」
「そうや、はやくうちらを地獄に落として……」

二人の言葉にほむらはほっとしたような表情を浮かべる。
最初は緊張していた表情もすこしだけ緩んでいる。


「あたしもさすがにこれを伝えるのは迷ったよ……一応同じ学年の仲間だからな」
「………」


「でも、二人のおかげで、あたしも決心がついた……じゃあ言わせてもらうぞ」
「………」


「おまえ達の処分は……「おねぇちゃん、あそぼ〜!」 」


二人の処分は女の声でかき消されてしまった。



「えっ?」
「恵?」
「パパとママ、めぐみとあそべないの。だからあそぼ〜?」

恵はほむらのスカートを掴んで離さない。
いきなりの行動にほむらも戸惑っている。

「なあ……恵って」
「恵は俺たちの子供だ」
「生まれて1年半になるかなぁ」
「そっか……」

ほむらは足下でスカートを引っ張る恵を見つめていた。



「……綺麗な目をしてるじゃねぇか……」



「えっ?」
「いまなんて?」

二人の質問には答えようとせず、ほむらは恵を抱きかかえる。

「ほ〜ら、たかいたか〜い!」
「わ〜い!」
「よ〜し、ほむらお姉ちゃんがいるから大丈夫だぞ!」
「うん、ほむらおねぇちゃん!」

「恵……すごくなついてる……」
「信じられん……」

二人には暴力的なイメージがあるほむらなのだが。
そのイメージとはまったく違うほむらに驚いていた。



「恵、お父さんは大好きか?」
「うん!パパだいすき〜!」


「そうか、じゃあお母さんは?」
「うん!ママもだいすき〜!」


「お父さんとお母さんは仲がいいのか?」
「うん!パパとママ、らぶらぶ〜!」

「こ、こら!恵!」
「な、なんてこというんや!」
「………」

恵の思わぬ一言に顔を真っ赤にする公二と光。

「パパとママ、らぶらぶだって、おばあちゃんがいってた〜」
「お、おかんはなんてこと言うんや……」
「は、恥ずかしいだろ……」
「………」

恵の一言になぜかほむらまでが真っ赤になっていた。

(……こいつ、なかなかいい子じゃねぇか……)

しかし、ほむらはニヤリと笑っていた。



しばらく、恵をあやしていたほむらだったが、突然恵をおろした。

「じゃあな、恵ちゃん。また遊ぼうな」
「うん!あそぼ〜!」

ほむらは公二達に背中を向けて歩き始めた。
帰ろうとしていることに気づいた公二がほむらをとめる。

「赤井さん」
「あ、なんだ?」
「俺たちの処分は?」
「恵ちゃんを見て、考えが変わった……報告はまたにする」

「それってどういう……」
「じゃあな、また今度な……」
「ばいば〜い!」



がちゃ!
ばたん!



ほむらは結局二人に何も告げずに病室から出ていった。



匠達は病院のロビーにいた。
病室の前にいてもよかったが、さすがに緊張感に耐えられなくなってしまっていた。
ロビーでほむらから直接処分を聞くことにしたのだ。

「しかし、遅いな……」
「処分を伝えるだけなら、そんなに時間はかからないのにな……」
「どうなってるんだろ?」
「美幸、心配だよ……」

そうしているうちに、ほむらがロビーにやってきた。

「あれ?あれが赤井さんかしら?」
「えっ……あっ、ほむらだ!」
「本当だ、みんな急ごう!」



廊下から歩いてくる、ほむらはなにか複雑な表情だった。
そのほむらを茜達が取り囲む。

「ほむら!」
「………」
「ほむらったら!」
「……あっ、茜か……」

ほむらは近くにきてようやく茜の存在に気づいた様子だ。

「ねぇ、こうくんになんていったの?処分はなんだったの?」
「おまえ達には、どうでもいい事じゃねぇか……」
「よくないよ、だって俺たちの友達だから」
「そう、私たちは二人が心配なんです」
「だからほむら、お願いだから教えて!」

茜を中心にほむらを説得する。
その説得にほむらは黙るのを諦めた。

「わかったよ……ただし、この事は誰にも言うなよ」
「わかった、約束する」


「二人の処分は……『無期限停学』だ」
「!!!」


ほむらの一言に全員が一斉に固まる。
「無期限停学」
あまりに重すぎる処分だった。
分かり切ってはいたもののショックは大きい。

「退学は犯罪を犯した奴にしか適用できないらしい……よって事実上の最高刑だ」
「死刑に対する終身刑のようなものね……」
「いい表現だな……」
「つまり、二人はもう自主退学しか道がないってことね……」
「そうだな……」
「………」



絶望的な処分に、茫然自失となる茜たち。
しかし、つぎのほむらの言葉でそれが一変する。

「でもな……あいつらには何も言ってないんだよ」
「えっ?」
「それって、どういうこと?」


「言えるわけないだろ……あんな子を前にして……」

ほむらは辛そうに頭を振る仕草をみせる。
それは「とてもじゃないけど言えなかった」と言いたげだった。

「えっ?」
「まさか……恵ちゃん?」
「ああ、そうだ……あの子はいい子だ……」
「………」
「それにな……目が純粋で綺麗だった……」
「ほむら……」



ほむらは優しい表情を茜に見せていた。

「あたし……あいつらを偏見でみていたかもな」
「えっ?」

「最初は、学校をごまかして、実は子供を作っていた、ひでぇ奴だと思ってた」
「………」

「でもな……あの子を見て、それが間違ってたのがわかった」
「………」

「恵って子は、しっかりしてる、それに両親に愛されてる……そんな子だな」
「………」

「あれは親がいいから子供がいいんだ……あたしが言うから間違いない……」
「ほむら……」



「でも……処分は決まったんでしょ?いまさら……」
「それが、そうでもないんだな」
「えっ?」

「処分は相手に直接伝えた時点で有効だって学校の決まりらしい」
「それじゃあ……」
「まだ、望みはあるのか?」
「ああ……処分を聞いたという承諾印はもらってない……だからまだ終わってない」
「本当か?本当なのか?」


「そうだ……これから学校に戻って教師達を説得してみるよ」
「ほむら、お願い!二人を助けて!」
「いくらあたしでも限度があるぞ、それでもできるだけやってみるな」
「うん……ボク達、もうほむらだけが頼りだから!」

「ああ……恵ちゃんのために頑張るさ……あたしは正義の味方だからな……」

そう言って、ほむらは病院から出て行った。



ほむらの背中を見送った後、全員にどっと疲れが襲ってきた。
思わず床に座り込んでしまっていた。

「ぎりぎりセーフ……なのかなぁ〜?」
「99.999%アウトだった……ってところだな……」
「恵ちゃんのおかげね……」
「そうだな……恵ちゃんがいなければ、間違いなく終わってた……」
「恵ちゃんはいい子か……公二君と光さんの努力の賜物ね」
「うん、公ちゃんと光ちゃんの子供だもん……絶対にいい子だよ」

まだ終わっていない。
しかし、それは終わっていないというだけだった。

「でもまだ、望みは0.001%……」
「いくらほむらでも……無理かなぁ……」
「でも、もう彼女しか希望は残ってないからな……」
「でも、信じるしかないんだよね……」
「そう、今はただ待つだけ……」
「つらいですね……」
「つらいな……」



そして、公二と光にとって一番辛い時期がやってくる。
ついにギプスをはずしたのだ。
はずしたといっても、体全体を固定していたのから、患部だけを固定したものに変えたのだが、
それでも、今まで、まったく動けなかったのに対して、ある程度自由になる。

ところが……

「ち、力が入らない……」
「う、うごかない……」

「どうして、自分の体がうごかせないんだ……」
「あかん、思うように動けへん……」

2週間も体を固定してしまっているため、まず関節が動かない。
そして、筋肉も落ちてしまっている。
しかし、自分達の感覚は事件の前のままである。

頭の中の自分と実際の自分が一致しない。
これは、なによりも辛い。
感覚を現実に合わせるのが大変なのだ。

「花桜梨さんの言うとおりだ……地獄だ……」
「ほんまに地獄……でも負けない……」
「ああ、絶対に負けない……」
「一緒にがんばろうね……」
「ああ……」



最初の1週間は主に上半身の体力を取り戻す。
まず、松葉杖を持てる力をつけなければいけない。
でも、腕も骨折している。そう無理はできない。

「あっ、体が動くんだ〜!」
「美幸ちゃん。おかげでここまできたよ」
「そうなんだ〜、美幸嬉しいな〜……あっ、そうだ!今度はちゃんとお守り買ってきたよ〜」
「『交通安全』のお守り?」
「あっ!そんな〜、まただ〜!あ〜あ、美幸って不幸……」


「公二、今日はいい物をもってきたぞ」
「鉄アレイじゃないか」
「ああ、俺が筋トレで使っているのだ。当分貸しておくよ」
「そうか……この部屋でも筋トレできるな」
「でも無理するなよ……まだ骨は完全じゃないからな」
「ああ、わかってるよ……」


「今日は筋力がつくような料理を作ってきたよ!」
「茜ちゃん、ありがとう!」
「すごいな、目的にあった料理もうまいよ!」
「うちも見習わなければいけへんなぁ……」
「そんなことないよ……ボク照れちゃうよ……」



腕の筋肉がある程度ついた頃。
いよいよ松葉杖による、リハビリが始まる。
松葉杖は慣れるまでが難しい。
今までにない体のバランスの取り方が必要だからだ。

さすがに公二も光も苦労している。
匠達もリハビリ訓練室に同行して見守っていた。



ばたん!



「いたたた……」
「おっ、公二大丈夫か?」
「ああ、こんなの毎度毎度だ……」
「こんなに難しいとは思わなかった……」
「腕だけだからな、気をつけないと腕もまた怪我するよ」
「心配ありがとな……」



ばたん!



「いたたた……」
「光さん、大丈夫ですか?」
「なんのこれしき……こんなことでくじけたらあかん……」

「光さん、無理していませんか?」
「えっ?」
「光さん、焦っているような気がします……」
「俺もそう思う……じっくりやろうよ……」
「そうやな……」
「早く治したい気持ちはわかりますが……焦ってはよけい遅くなりますよ」
「そうやな……」

腕力が完全に戻らない状態での松葉杖での歩行は困難だったが、
徐々にコツがつかめるようになった。



そして、入院してから1ヶ月がたった。
暦は12月の中旬、冬まっただなかである。

公二と光はリハビリに懸命だった。
しかし、なかなか思うようには歩けなかった。

そして今日もリハビリに励んでいた。
そこに花桜梨がやってきた。

「こんにちは」
「花桜梨さん」

「リハビリはどう?」
「花桜梨さん、俺たちが甘かったよ……リハビリって地獄だよ……」
「体が自由になるって……恵まれていることだったんやね……」

「そうね……でも地獄から抜けられそうでしょ?」
「最近になって、やっとだな……」
「そう……」



「それでね、今日はもう一人いるの」
「えっ?」
「どこに?」
「あそこにいるわ」


「あそこ……あれは!」
「琴子……」

花桜梨の指す方向には、琴子がいた。



「光……」

琴子は今までずっと光の事を考えていた。
光にとって自分とはなんだろう?
そればかり考えていた。
でも何もわからない。

アルバムを見ても、昔の文集を読んでも、今の光の気持ちがわからない。
八方ふさがりの状態だった。

迷いに迷った末、もう一度花桜梨に相談した。
彼女はこう言った。

「友達の定義なんてない……それに相手がどう思っているかよりも、まず、自分がどう思うかじゃないの?」

自分にとって光とは?
今度はそれを考えるようになった。
すると徐々にそれが形になっていった。
そして先週、花桜梨から声を掛けられた。

「病院へ行ってみたら?」
「えっ?」

「光さん……リハビリに必死みたい……彼女の姿を見たら、琴子さん自身の気持ちがわかるかも」
「でも……」

「勇気だして……勇気をださないと、前には進めないのよ」
「わかった……病院へ行く、でも一つだけお願いがあるの」

「なに?」
「花桜梨さん……一緒にお願い、一人だと怖いの……」
「わかったわ……」

ついに琴子は光にあう決意をしたのだ。



そして今日。
遠くから見た光の姿に琴子は驚いた。
足にはまだギプス。腕もそんなに自由というわけではない。
それでも光は松葉杖で歩こうとしている。
顔などには、転んだ跡であろうか、擦り傷がいっぱいついている。

そんな懸命な光を見て、琴子はなにかを悟った。
もう声を上げずにはいられなかった。

「……光!」

琴子は光のところに走り出そうとした。
ところが……

「来ないで!」

「えっ?」
「光?」

光が琴子を止めた。



「光さん……どうして?」
「琴子、来ないで……」
「光、どうしてだ!」
「光さん、どういうこと?」


「琴子は来ないで……うちが琴子のところに行く……」


「光……」

光は松葉杖で琴子のところに向かう。
その距離20m。
しかし、それは光にとって遙かに長い道だった。



光は松葉杖でよろよろと歩きながら琴子に話しかける。

「琴子……来てくれたんやね……」
「ええ……遅くなってごめんね……」
「ううん、そんなことな……あっ!」

ばたん!

「いててて……」
「光!」

バランスを崩して倒れる光。
光を起こそうと走り出そうとする琴子。
しかし光が琴子を止める。

「来ないで!」
「光……」
「うち一人の力で……琴子に逢いに行くんや……」



転んだ光は立ち上がって歩き出す。
その距離17m

「琴子……だましてごめんね……隠してごめんね」
「もういいのよ……もういい……」

「琴子はわかってくれると思ってた……でもそれはうちの身勝手やったんやね……」
「違う!それは私のわがまま……」

「琴子の気持ちを考えていれば……こんなことに……あっ!」

ばたん!

「光……がんばれ……」
「光さん……負けないで……」



再び光は立ち上がる。
その距離12m

「うちは琴子を傷つけてしまったんや……」
「私も光を傷つけた……」

「うちは琴子の気持ちを踏みにじった……うちは琴子の友達なんて資格なかったんや……」
「……」

「でも、琴子はこうして逢いに来てくれた……」
「そうよ……」

「傷つけたのに、琴子は勇気出して来てくれた……こんどはうちの番や……」
「光……」

「あっ!」



ばたん!



「いたたた……」


「光さん、頑張って……もう少しよ」



何度転ぼうとも、どこを痛めようと、光はすぐに立ち上がった。
その距離あと5m

「うちはとりもどすんや……」

あと4m

「あのとき、失った物……うちにとって大切な物を」

あと3m

「うちは悪い女や……持つ資格なんてあらへんのに……でもだめなんや!」

あと2m

「うちは……琴子との絆を失いたくない!」

「光!もう少しだ!」
「光さん、頑張って!」

あと1m

「大切な物が……目の前にあるんや……」

そして……

「琴子!」
「光!」

光は松葉杖を投げ出し、琴子に飛びついた。
琴子は光をしっかりと抱きしめる。



「琴子……逢いたかったよ……」
「光……ごめんね……ごめんね……」

琴子は光を強く抱きしめる。

「光……私やっと気がついたの」
「えっ?」

「私と光、これからどうなるかわからない。もしかしたら、疎遠になってしまうかもしれない」
「………」

「もしかしたら、友達なんて関係じゃなくなるかもしれない……」
「そんな……」

「でもね、そんな未来は考えたくない……今は光と一緒にいたいの!一緒に楽しく過ごしたいの!」
「うちもや……うちも琴子と学校にいたいんや……」

しばらく抱きしめあう。
お互いの存在を確認し合うかのように強く、強く。

「うち、琴子にひどい事してしもうた……ひどい女や……」
「そんなことないわ……」

「うちの事……許してくれるのか……」
「……私なんか、許すなんて立場じゃないわよ……」
「えっ?」

「私だって……光の気持ちを踏みにじった……絶交を言ったのは私」
「………」

「こんな私でも……もう一度、やりなおしてくれるの?」
「もちろんや、うちと琴子はずっと一緒や」

「ありがとう、光……」
「琴子……」

再び二人は抱きしめあう。
切れた鎖は再びつながれた。



公二と花桜梨は遠くから二人の様子をじっと見つめていた。

「頑張ったな、光……」
「光さん……すごい……」
「よかったな、光……」
「光さん……よかったわね……」

二人の目にもいつしか涙が流れていた。
それはずっと二人の事を見ていたからこそ流せる涙であろう。



失ったものを取り戻した光は、リハビリにも力が入るようになった。
公二もそんな光を見て、力がわいてきそうな気持ちになっていた。

一方、そのころ、ひびきの高校の職員室は夜遅くまで明かりがともるようになった。
再び、二人に対する議論が再開したのだろうか。

そうしているうちに、いよいよ退院の時期が近づいてくる。
To be continued
後書き 兼 言い訳
今回は二つに分かれてますね。

まず前半。
やっと、ほむらが登場しました!
これで、一回も出ていないのがすみれちゃんだけになりました。
しかし、状況が状況だけにおちゃらけ感がないほむらですな。
今部では顔見せ的な立場です。本格的に彼女が動くのは次部です。

しかし、とりあえず二人の首が繋がったようです。
直接伝えなければ有効じゃないのか?という突っ込みはしないでください。
フォローが苦しいので(こら


そして後半
琴子と光が仲直りしました。

たぶん、思ったよりもあっさりと仲直りしたかな?
でもここで長く時間を掛けたくなかったし、もう二人には長い時間が過ぎているし、
ここで仲直りさせました。

友情ってなんだろう?琴子と光の話を書いていてそれを感じました。
答えなんてないですけどね。でもいい勉強になりました。

次回、順調にいけば、第10部最後になる予定ですが………
まだ、ちょっとだけ考えています。
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