第45話目次第47話
入院してはや、1ヶ月半。
来週には退院という状態にまで回復した。

松葉杖での歩行も上達し、上半身の筋肉もだいぶ取り戻してきた。
そんな中、二人に久しぶりのあの子が現れた。



こんこん!



「はい、どうぞ」



がちゃ!



「……お久しぶりなのだ……」
「メイさん……」

扉の前にはメイが立っていた。

太陽の恵み、光の恵

第10部 入院編 その6

Written by B
「手紙に書いておいたのだ……また来るって……」
「メイさん……」

「もうすぐ退院、おめでとうなのだ……」
「ありがとう……」

「リハビリ……頑張っていたのだ……」
「見てたの?」

「2,3回こっそり見ていたのだ……」
「そうだったの……」



「色々迷惑かけて……すまなかったのだ……」
「そんなことないよ」
「えっ?」

「入院したおかげで、いろいろな物が見えた。いろいろな事を考えた……」
「辛くて大変やったけど……いい経験やったわ……」
「そうか……」

「それに……友達に仲間……すばらしいを見つけた」
「うちも……大切な物……取り戻した」
「……」

二人の素直な言葉にメイは何も言えなかった。

「メイさん。俺たちが子持ちであることを隠していたのは知ってるよね?」
「ああ、前に少し聞いたのだ」
「実はあのとき、そのことで悩んでいたんだ」
「えっ?」

「いつ友達に打ち明けようか……でも打ち明ける勇気がなかった」
「俺たち臆病だから……ああいう形でしか告白できなかったんだよ」

「そう、私たちの背中を押してくれたのは、メイさん……あなたのおかげ」
「メイのおかげなのか?」

「そう、そういう意味ではお礼を言わないとな……ありがとう、メイさん」
「そ、それは嬉しいのだ……」



「ところで、入院費のことなのだが……」
「ああ、親から聞いたよ、全額出してくれるんだって?」
「そうなのだ。でも、その両親はそれ以上は受け取ってくれないのだ」
「えっ?」
「伊集院家では二人に賠償金を出したいのだが……」

「いくらなの?」
「ひとり1億円で、ふたりで2億円なのだ」
「!!!」

ものすごい額に二人は驚いて声も出ない。

「両親は『そんな大金を勝手に受け取れない、二人に聞いてくれ』っていうのだ」
「……」
「だから二人に直接お願いに来たのだ」



公二と光の視線を合わして、顔をちょっと動かして合図をする。
しばらくしてから、公二が語りかける。

「メイさん……やっぱり受け取れないよ」
「どうしてなのだ?」

「今回の事件、悪いのはメイさんだけじゃない」
「そうや、恵を迷子にさせた、うちらの責任があるんや」
「それに、犯人の懐に飛び込んだのはメイさんとは関係ない」
「だからこんな目にあったのは……半分以上は自分たちの責任なんや」
「……」

「ごめんな……そんな俺たちが受け取るわけにはいかないんだ」
「メイさん達の気持ちはわかる……でも、これだけは無理なんや……」
「わかったのだ……」

二人の返事にようやくメイも諦めた様子だ。



がちゃ!
ばたん!



「あっ、メイおねぇちゃん!」



そんなとき、恵がトイレから帰ってきた。(今日は光の母が付き添っている)

「恵ちゃん……」
「わ〜い、メイおねぇちゃんだ〜!」
「覚えててくれたのか……」
「わ〜い!」
「嬉しい……メイは嬉しいのだ……」

寂しかったメイの表情がいっぺんに明るくなった。
そして、メイは恵のところに駆け出し、抱きかかえた。

「恵ちゃんは元気だったのか?」
「うん!元気!メイおねぇちゃんは?」
「メイはとても元気なのだ!」
「おねぇちゃんは元気!めぐみも元気!」

「一緒に遊ぶのか?」
「うん!あそぼ〜!」
「わかったのだ、一緒に遊ぶのだ」
「わ〜い!」

しばらくの間、メイは恵と一緒に遊んでいた。
結局、恵が家に帰るまで一緒にいた。



そして、恵が家に帰ったあと。
再びメイは寂しい表情に戻った。

「メイはこれでお別れなのだ……」
「えっ?」
「メイは当分二人には逢えないのだ……」
「いつまで?」
「わからないのだ……」
「……」

寂しそうなメイの表情。
どうやら本当にわからないらしい。

「もし逢えることがあったら……恵ちゃんと遊びたいのだが……いいのか」
「ああ……大歓迎だよ!」
「伊集院家と違って、家は狭いけど……みんなで歓迎するやさかいに」
「そうか……ありがとう」



メイはベッドに歩き出し、まず光のベッドに向かった。

「光殿……恵ちゃんにあえて、メイはとても幸せだったのだ」
「メイさん……うちもメイさんにあえてよかった……」
「また逢いたいのだ」
「なんなら、うちと公二と恵の3人で遊びにいこか?」
「それは嬉しいのだ……」


「メイさんはもうすぐ高校受験か……でもメイさんには関係ないかな?」
「……」
「あ、まずいこと聞いたかな?」
「い、いや、そんなことはないのだ」
「勉強頑張ってね!」
「うん、頑張るのだ!」



そして、メイは公二のベッドに歩き出す。

「公二殿……」
「メイさん……」
「……」

気まずい雰囲気が二人を包む。
しばらくしてから公二がようやく頭を下げる。

「この前は嘘ついてごめん……」
「……」

「昔、メイさんと遊んでいた男の子……間違いなく俺だよ……」
「そうか……」
「……」

「正直に言ってくれて……嬉しいのだ……」
「……」



「お兄ちゃん……メイはお兄ちゃんにまた逢えて、本当に幸せなのだ……」
「俺も幸せだよ、メイさん……」
「お兄ちゃん……」

突然、メイが体を公二に投げ出す。



「メ、メイさん!……いったい……んっ……」
「………」



メイの腕は公二の首にからみつかせる。
そして、メイの唇を公二の唇に重ね合わせる。

公二はなにも抵抗できなかった。



30秒ぐらいしただろうか。
メイの唇がゆっくりと公二から離れる。
メイのほのかに紅くなった顔が公二の顔に向かいあう。



「さようなら……お兄ちゃん……」



ばたん!



「メイさん!」



どたどたどた……



メイは勢いよく病室から飛び出して行った。

「これで……良かったのだろうか……」
「これで……いいんだろうね……」



三原咲之進は病室から少し離れた廊下でメイを待っていた。

「メイ様……」
「ただいま戻ってきたのだ……」
「もう、いいのですか?」
「これ以上いると、辛いのだ……だからもういいのだ」

メイはとても辛く寂しそうな表情をしていた。

「メイ様……話はご主人様よりお伺いしました」
「何をだ?」
「あの事件での責任……全部メイ様が被ったそうですね」
「ああ、咲之進はやるべき事はやったのだ……何も悪くないのだ」
「だからって……」
「いいのだ……これはメイのけじめなのだ……」

誘拐事件の直後、咲之進は責任をとって辞めるつもりだった。
伊集院家でも、メイの管理不行届き、一般人を怪我させたことなどから解雇するつもりだった。

しかし、メイはそれに猛反対した。
それは、本当の責任は自分だという強い思いからだった。
その結果、咲之進の解雇を撤回するかわりに、咲之進の責任まで全部メイ一人で被ることとなった。

それにより、メイが受けた処罰は大きかった。

メイ名義の資産の2割を没収。
1年間、月の小遣いが80%カット。
2ヶ月間は個人持ちの電話・インターネット等外部への通信手段の使用禁止
学校行事以外での外出を当分の間禁止。
伊集院家が持つ高校への試験免除の特権の没収。
高校は一般試験での受験を義務づけ。

これだけの処罰に1歳年上の長男レイや、一部の執事も反対したが、
メイはこう言って全ての条件を呑んだ。

「あの二人は死ぬ直前までいって、病院でも辛い思いをしているのだ、それに比べれはなんてことはないのだ」



ただ、お見舞いだけは特例として外出が認められていた。
しかし、公二と光が退院したらもう外出もできない。
メイにとっては本当にお別れになるかもしれなかった。

「これで……いいのですか?」
「いいのだ……恵ちゃんに逢えたし……悔いはないのだ……」
「では行きましょうか……」
「そうするのだ……」

メイは伊集院家の車に乗り、病院を後にした。



そして、時は流れて12月24日。
入院から約6週間がたっていた。
公二と光の退院の日がやってきた。


松葉杖で二人が病院を出てきたところを匠達が待っていた。

「公ちゃん、光ちゃん、退院おめでとう!」
「退院おめでとう!」
「おめでと〜!」
「みんなありがとう!」
「おかげでやっと退院できました!」

「それにしても大変でしたね」
「退院までに6週間もかかったのか」
「6週間か……長かったな……」
「本当に長かったね……」

「でもクリスマスに退院ってなんかいいのね」
「ちょっとしたクリスマスプレゼントかしら」
「そうだね……」



「みんなにこれだけ世話になったから、何かお礼でもしないとな……」
「そうだね、快気祝いってやつだね」
「そんないいよ、別に」
「うん、困ったときに助け合うのは当たり前だから……」
「そうそう」

「それにまだ完全に治ったわけじゃないからな……まだいいよ」
「あら?まだって、匠さんはお礼をもらう気ですか?」
「いや……治ったらなにか盛大にお祝いをしようかなと……ははは」
「……欲張り……」
「ううっ……」
「ははは!まあ、治ったらなにかみんなでやろうか?」
「うん!そうしようね!」



「ようっ!退院できてよかったな!」
「ほむら!」
「赤井さん……」

突然、ほむらが公二達の目の前にやってきた。
ほむらがやってきたということは、何か学校側で何かがあったはず。
周りに緊張が走る。

「主人、この前はなにも用件を言わなくてすまなかったな」
「ああ……」
「あれから、ちょっと先生達がもめたんだが……」
「……」



「喜べ、3学期は学校にいられるぞ」



「えっ、本当!」
「本当なのか!」
「よかった……」

停学処分から免れたことに一同喜びの声を上げる。



しかし、当の二人は冷静に対処する。

「赤井さん……3学期はいられるって……どういうこと?」
「えっ?」
「いられるって……他に何かあるんじゃないんか?」
「あっ……」

公二の冷静は一言に匠達がようやく話がこれだけではないことに気づく。

「えへへ、察しがいいな……この話は続きがある」
「えっ……」
「あの時、覚悟していたみたいだから、言っておくよ……最初は無期限停学だったんだ」
「……やっぱりな……」
「……そうだろうね……」

「でもな……恵ちゃんを見てたら……そんなことをさせる気にはなれなくてな……」
「もしかして、赤井さんが説得してくれたのか……」
「そう!……あたしは子供の味方だからな……」
「おおきに……」

ほむらの説得はものすごかった。
先生の一人一人に直接説得をしたのだ。
ほむらの今までにない真剣な態度に心を動かされた人がいないわけがない。

「なんとか処分は差し戻し、議論のやり直しにまではもってきたんだが……」
「その議論がどうしたの……」



「おまえ達の処分……真っ二つに別れているらしいんだ」
「二つって?」



「無期限停学と無罪放免……人数もほぼ同じ、いや一人ぐらい停学派が多いかな?」
「それでこの前は多数決で……」
「おまえ、頭いいな!そのとおりらしいぞ」
「そうだったのか……」



「で、議論をやり直しても、結論が出るわけがない……そこでだ」
「そこで?」
「おまえ達二人にちょっとした賭をしてもらうことで結論がついた……今日それを伝えに来た」
「賭って?」
「これから賭の内容を言う……よく聞けよ……」
「ああ……」

一気に緊張感が走る。
ほむらがゆっくりと賭の内容を告げる。



「賭の内容は……3学期の期末試験、二人揃って総合20番以内に入ることだ」



「20番以内……」
「かなり難しいよね……」



「さらに条件がある……3学期の試験日まで、娘を毎日学校に連れてくることだ」



「なにぃ!」
「恵ちゃんを!」
「毎日だって!」

まったく予想外のことにまわりが一気に騒ぎ出す。



「停学に決まっていたのを差し戻したから、あたしの力でもこれが限度だ……」
「……」
「……」

「この賭……受けるよな?」
「ああ、もちろんだ……受けてやるよ」
「文句はない……その賭受けたる……」

二人の表情は真剣だった。

「もし賭に勝てば、この話はなし、文句なく2年に進学できる。もし負けたら……」
「そのときは、処分される前に退学届を出してやるよ」
「公二!」
「そうやな、負けたとわかった時点ですぐにうちらは辞める」
「光!」

そして二人の決意は強かった。
退学の覚悟を決めていたのだから、これぐらいなんてことはないのだろうか。

「そうか、じゃあ、先生達に伝えてくるな」
「ああ……」

「がんばれよ……恵ちゃんのためにもな……」
「おおきに……」

用件を言い終わると、ほむらは病院を後にした。



残された人たちは、じっと動かない。

「そう簡単には終わらないよな……」
「そうやね……うちらの最大の試練かもね……」
「ああ……」

小さくなっていくほむらの背中をみつめる公二と光。
一方周りの人たちは戸惑いを隠しきれない。

「しかし……いくらなんでも……」
「総合20番以内……無理だよ……」
「ただでさえ、2学期後半の授業を休んでいるのに……」
「それに恵ちゃんを毎日連れてくるって……めちゃくちゃだよ」
「二人ともまだ松葉杖だろ……」
「学校にいるとき、恵ちゃんはどうするのよ……」
「ひどすぎるよ……」
「……」



「なあに、心配するな……絶対に勝ってやるよ」
「公ちゃん……」
「一度は死んだ身や、死にものぐるいでやってやる!」
「光……」

笑顔の二人。
不安に包まれていた周りはそうやく落ち着きを取り戻す。

「だから……協力たのむな」
「ああ、できる限りのことはやってやるよ!」
「二人だけで戦わないでください。私たちも一緒に戦いますから」
「ありがとう……みんな……」



「じゃあクリスマスだし、退院祝いも兼ねて町へ繰りだしますか?」
「いいね〜!いこ〜!」
「俺たちはどうする?」
「う〜ん、一緒に行きますか!」
「そうだな!」
「じゃあさっそく行くぞ!」

こうして公二達はクリスマスの町へと繰り出していった。
年が明けて3学期は試練の毎日だろう。
しかし、今日はそんなことは忘れておもいっきり騒ごう。
公二と光はそう思っていた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
今回は公二達とメイ様の再会で始まりました。

メイさんは今までの出来事全てに区切りをつけたかった。
そんな感じを書いてみました。
ここでメイさんとはしばしのお別れです。
要は1年次ではもう登場しません。
次の登場は……おわかりですね、これ以上は言いません。

そしてもう一つ、公二達の処分が決まった……わけではないですね。
二人に突きつけられたのは無茶苦茶な条件での賭。
学校と生徒で賭をするか?というのはつっこまないでください(汗
あくまでお話ですから。

次回は第10部最終話。街へ繰り出した公二達の話です。
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