第46話目次第48話
クリスマスイブ
公二と光が退院した。

その帰り、匠達が街に誘った。
当然恵も一緒だ。
でも公二と光は松葉杖なので、ゆっくりとしか歩けない。
みんな公二達のペースに合わせている。

「わ〜い!わ〜い!」
「恵ったら、はしゃいじゃって!」
「まあ町中はしゃいでいる状態だからな」
「そうだね!」

二人の周りを走り回る恵を見て公二も光も嬉しくなってしまう。

「ところで匠、どこへ行くんだ?」
「おまえ今日は何の日か知ってるのか?」
「クリスマスイブですよ」
「日本人なら聖誕祭と言いなさいよ!」
「でもクリスマスって外国の行事だからクリスマスでいいんじゃないのか?」
「うっ……」
「下手な日本語訳はかえって中途半端だよ」
「ううっ……」
「まあまあ、そんなの別にいいじゃないか」
「そうそう……」

あまりにどうでもいい話に思わずなだめ役になってしまう二人だった。
そうしているうちに一行はショッピング街に入っていた。

「では、さっそく……」
「うん!あそこだね!」
「あそこって?」
「お二人さんはいいの!ただついてくれば……」
「はぁ……」

そういって連れてこられた先は……ファンシーショップだった

太陽の恵み、光の恵

第10部 入院編 その7

Written by B
いきなりお店にやってきたが、公二と光は意味がわかっていない。

「えっ、えっ、えっ?ここ?」
「そうだよ」
「ど、どうしてなんだ?」
「なんだよ、おまえ達肝心なことを忘れていたのか?」
「無理ないですよ、自分たちで精一杯でしたから」
「?」

どうやら本当にわかっていないらしい。

「だから、クリスマスプレゼントですよ」
「えっ?」

「この子のだよ!」
「えっ?」
「恵ちゃんへのプレゼントだよ」

「あっ!」
「忘れてた!」

匠が恵を指差してようやく気づいた二人。

「まったく……それでも親なの?」
「……」
「……」
「まあ、仕方ないですよ、ずっと入院してたんですから」
「そうなんだけどね」

「は〜あ、また失敗だ……」
「どうしてこうなんやろ……」
「?」

また失敗してしまってちょっと自信をなくしてしまった二人。

「だから、俺たちが恵ちゃんへのプレゼントを用意するってこと!」
「えっ?」
「昨日みんなで話し合ったの……二人への退院祝いにって」
「そうなんや……ありがとう……」
「本当にありがとう……」



ファンシーショップはクリスマスプレゼントを中心に商品が並んでいた。
確かに恵のプレゼント探しには最適かもしれない。

「だからここで恵ちゃんにぴったりなプレゼントを用意するの♪」
「じゃあさっそくみんなで探そうか」
「俺はさすがにこういう店はわからないけど探してみるか……」
「わ〜い、さがそ〜」
「どれがいいかな、ボク迷っちゃうな……」
「おまえ達はここで待ってな!いいのを探すから!」

そう言って匠達はプレゼントを選び始めた。

ところが……
10分後、店の中央で異様な光景が発生していた。

6人の女子高生がお互いの顔をにらみ合ったままなのだ。
それも個性的で大きなぬいぐるみを持って。



「やっぱりこのケロケロでべそちゃんですよ!」

「ちがうよ〜!やっぱりこのグレイちゃんがいいよ〜!」

「そうかな?ボク、この月の輪熊のぬいぐるみがかわいいと思うけどな」

「それならこのテラノサウルスが可愛いんだモン♪」

「やっぱりこの目が光る黒猫がいいと思うな……」

「違う!この新撰組のぬいぐるみがいいのよ!」



さすがの匠も何も手が出せない。
黙って見ているしかなかった。

「なあ、公二。あれなんとかしてくれないか?」
「何とかしてくれって……」
「俺たちじゃ無理だよ。ここは公二達がなんとか……」
「しょうがないわね……」



「なあ、あのな……」

光が仲裁に入ろうとする。
しかし光は琴子達に囲まれて説得されてしまう。



「光さん、可愛いのがいいですよね?」

「恵ちゃんがラッキーになれるのがいいと思うな〜」

「ぬいぐるみって強いほうが安心できると思うな、ボク」

「光ちゃん、やっぱりぬいぐるみは可愛いのが一番だよ♪」

「猫って可愛くて、いいと思うんだけど……」

「光、子供の頃から日本の心って大切だと思うわ」



確かにどの言葉も間違っていないのだが、選んでいるものが極端すぎる。

「ううっ……」

さすがの光も困ってしまった。



今度は公二が仲裁に乗り出す。

「なあ……恵に選んでもらったら?」
「えっ?」
「恵へのプレゼントだろ?だったら恵がいいのをもらうよ」
「うん、それなら、どれを選んでも恨みっこなし。ええやろ?」

女子達は納得するしかなかった。



「なっ、恵。どのぬいぐるみがいいの?」
「う〜ん、う〜ん」

琴子達はは個性的で大きなぬいぐるみを持って恵の前に立っていた。

恵はそれを全部見て考えていた。
そして……

「あれ!」

「えっ?」
「あれって?」
「うそ!」

恵が指さしたのは、個性的なぬいぐるみではなく、
店の中央にあった、超特大な犬のぬいぐるみだった。

「ちょっと!どういうこと?」
「しょうがないやろ?恵があれ選んだんだから」
「まあ、どれか選んで怨まれるよりはましだろ?」

気落ちする琴子達に対して匠と純一郎はいたって冷静だ。

「喧嘩両成敗ってやつか?」
「まあ、そうなるんだろうな……」



公二はぬいぐるみの値札をみる。
やっぱり大きさだけ合ってそれ相当の額だ。

「それにしても、大きいぞ……匠、お金大丈夫か?」
「厳しい……」
「俺たちも出すよ、そもそも俺が出すところだからな」
「すまないな、俺たちからのプレゼントなのに……」
「まあいいって、みんなから恵へのプレゼントということでええやろ」

結局、超特大の犬のぬいぐるみは公二と光も含めて10人で買うことになった。
さらにいうと全体の3割が公二の支出、あとは9人で割り勘での支払いだった。
松葉杖の二人では持ち運ぶことは無理なので、後日配送してもらうことにした。



ファンシーショップを出たあとも、争いの主はいまだショックを隠しきれなかった。

「しかし、私たちの努力って……」
「なんだったの……」
「は〜あ……」
「犬嫌い、犬嫌い、犬嫌い……」
「花桜梨さん、そこまでいじけなくても……」

しかし一人だけ納得の表情の人がいた。
琴子である。

「まあ、恵ちゃんは親に似たってところかしら?」
「えっ?」
「俺たちに?」
「正確に言うと、光に似たのよ」
「どういうこと?」

誰も琴子の言っている意味がわかってないようだ。
それを知ってか琴子は光にひとつ尋ねる。

「光、学校であなたの性格どう表現されているか知ってる?」
「えっ?知らない」


「あなた……『犬娘』って呼ばれてるのよ」


「い、犬娘?」
「犬嫌い、犬嫌い、犬嫌い……」
「だから、花桜梨さん……」

「犬娘」といか言う聞き慣れない言葉に周りがまたしても不思議がる。
琴子の説明は続く。

「ど、どうして?」
「それはね、光がいつも主人君に、ベタベタベタベタベタベタベタベタ、つきまとっているからよ」
「確かにいつも公二さんにくっついていましたね」
「確かに……」

「光のそれが、子犬がご主人にじゃれているのに似てるのよ……それは私は否定しないわ」
「……」

「確かに光は、昔から子犬っぽいイメージがあるのよ」
「そ、そうなのか?」
「う〜ん、そういえばそうかもね〜」
「……」

本当に納得できるのかよくわからないが、とりあえずうなずく公二達。
「確かに思い起こせば……」という感じで納得しているようだ。

「たしかに光は甘えん坊だからな……」
「あなたまで……」
「光の風貌からしてぴったりだと思うわ、私はいいあだ名だと思うわ」
「別に悪口じゃないみたいだから、気にするな」
「もうちょっといい名前が欲しいな……」
「そんな甘えん坊じゃ無理だな……」
「あうっ……」


「じゃあ、ひかりんが『犬娘』なら、めぐみんは『犬孫娘』なのかな〜」
「もしかして、恵ちゃんも甘えん坊なの?」
「そんな気配は感じてる……」
「やっぱり陽ノ下家は犬の系統なのよ……だから犬のぬいぐるみに目がいくのよ」
「納得……」
「……」



それからは街をぶらぶらと話をしながら歩いていた。
そして夕方の6時。
空も暗くなり、クリスマスツリーにまばゆい光が照らし出された頃。

「さてと……私たちはここらでお開きにしますか」
「そうだな」
「俺たちも帰ろうか?」
「うん、そうだね」

光は恵に言って一緒に帰ろうとしたのだが、その前に楓子が先に言ってしまう。

「じゃあ、恵ちゃん、お姉ちゃんと一緒に行こう?」
「わ〜い!」

お開きなのに恵を連れて行こうとする楓子たち。
公二達が不思議がるのは無理もない。

「えっ?」
「俺たちは?」

「おまえ達はここらで遊んでろ」

「はぁ?」
「恵は?」

匠の言葉に意味がわからず短い返事しか返せない二人。

「恵ちゃんは私たちが先に家に送るから……二人でゆっくりして」
「恵ぐらい俺たちだけで大丈夫だよ」
「まあまあ、いいじゃないですか」
「どうせ両手が使えないんだし、ボク達に任せておいて」
「そうそう」

「でも……」
「う〜ん……」



いまだに納得できない二人に琴子が説明する。

「光、主人君」

「なんや琴子?」
「実はね、私たちからのもう一つの退院祝いなの」
「えっ?」
「何が?」


「あなた達……二人っきりでクリスマスイブを過ごしたことないでしょ?」


「あっ……」
「そうや……」

確かに子供の頃は一緒にクリスマスパーティーをしていた。

でも中3の時は、神戸にあった光の家で生まれてちょうど半年の恵と静かに過ごしていた。
恵の面倒をみながら、受験勉強に励んでいたクリスマスだった。

中2の時は、やはり神戸の光の家でクリスマスを過ごしていた。
婚約してまだ1ヶ月。その幸せに浸りながら静かに過ごしていた。
公二と光、それに光のお腹の中にいた名もない頃の恵と「3人」で。

再会後、本当の意味で「二人だけ」でクリスマスを過ごした事はないのだ。


「だから、恵ちゃんの面倒はみるから、二人で楽しい夜をすごしなさい」
「でも……」

「大丈夫、両親には私たちから事前にいってあるの。だから安心しなさい」
「そんな、いろいろと迷惑かけて……」

「恵ちゃんが大きくなったら、二人きりなんて無理だと思うの、だから私が考えたの」
「そうなのか……」

「クリスマスイブの時間をプレゼントなんて……私らしくないけど」
「ううん、そんなことない!」

「最初で最後のふたりっきりのクリスマスイブ……楽しく過ごすのよ、光」
「琴子……ありがと」

琴子の細かい気遣いに二人は本当に嬉しくなってしまう。



「じゃあ、俺たちはこれで……」
「今度会うときは新学期になるんですね」
「冬休みは無理するなよ、まだ治ってないからな」
「退院したばかりだし、ゆっくりしたほうがいいと思う……」
「じゃあ、また来年だね」
「来年早々大変だけど頑張ってね」
「じゃあ、よいお年を〜!」

「うん、じゃあ良いお年を」
「来年もよろしくね〜」

こうして公二達は匠達と別れた、


……いや、琴子はまだ言うことがあった。

「光、主人くん、ご両親からの伝言があったわよ」
「えっ?」

「今日は家に帰ってくるなって!明日の朝帰って来なさいって!」
「はぁ?」

「どっかのホテルでラブラブに過ごしなさいって!」

「……それでも親か……」
「……おかんのアホ……」

顔真っ赤の公二と光を残して琴子達は去っていった。



公二達を置いていった琴子達一行はにぎわう町中をぶらぶらと歩いていた。

「はぁ〜、いいなぁ、ふたりっきりのクリスマスイブか〜」
「うらましいなぁ〜」
「そうですね……」

「俺も来年は公二達みたいになりたいなぁ」
「まあ、何人もつきあっているようじゃ駄目ね、一人に絞らないと」
「……」
「……来年も無理そうね……」

とりあえず、恵を家に送らなければいけない。
一行は公二の家に向かう。

「ところで恵ちゃんを家に送ったらどうする?」
「独り身8人でどこかでパァ〜とするか!」
「それがいい〜!」
「楽しくやりましょうね」

結局みんなでパァ〜っとやることになったのだが、問題なのはパァ〜っとやる場所である。

「じゃあ、そういうときはお酒かしら?」
「ボクはイヤだよ、『響野食堂』で宴会なんて」
「あらよくわかったわね」
「ボク、バイト休んで来たんだよ。それなのにそこに行くなんて……」
「まあ、いいじゃない……」
「もしどうしてもというなら……ボク、おもいっきり飲むよ……」
「……やっぱりやめましょう……」

結局、飲むという琴子の計画は茜の強硬な反対で廃案になった。
しかし、わざわざ飲まなくても大勢で楽しむ方法はいくらでもある。

「そういうときはカラオケよね♪」
「それが無難だな」
「じゃあ、おもいっきり歌ってストレス発散といきますか!」
「ではいこ〜!」



そういうわけで、恵を家に送り届けた後、
匠達はカラオケで長時間大騒ぎした、もちろん酒抜きで。

しかし、酒がなくても女子達の勢いはすごかった。

「こうなったら演歌を歌いまくるわよ!」
「演歌ならボクも負けないよ!」
「じゃあ美幸は新しい曲を歌うぞ〜!」
「わ、私だって新しい曲ぐらいわかりますよ!」
「……騒がしいこと……」
「花桜梨さん!いい加減にマイクを貸して!」
「私だって歌いたいのよ……」

思いっきり歌いまくっていたそうだ。
匠と純一郎は歌わずにそんな女の子達の姿を見ている。

「なあ、異常にテンション高くないか……」
「女性って恐ろしいな……」

クリスマスの雰囲気が女子をそうさせたのか、
それともあの夫婦を見ていて、ちいさな嫉妬心からストレスがたまっていたのか、
それは本人にしかわからない。



そして、残された二人はというと、

「ふたりっきりのクリスマスイブか……」
「ロマンチックな響きやね……」
「こんな時間を過ごせるなんて夢のようだな……」
「うん……」


「しかし松葉杖の二人だと」
「そんな雰囲気あらへんね」

二人はお互いの格好を見る。
松葉杖の姿ではロマンチックな雰囲気は出にくい。

「確かに来年はもうふたりっきりなんて無理だな……」
「恵も許してくれないやろね……」



町中をなんということもなくぶらぶらと歩く二人。
そこでいきなり公二が光を呼び止める。

「光」
「なに?」

「今日だけ恋人同士に戻ろうか?」
「えっ?」

「俺たち本当の意味での『恋人同士』って短かっただろ?」
「そうやね」

二人は空を見上げる。
空の向こうには二人の昔が移っているかのように懐かしそうに空を見つめている。

「お隣さんで離れ離れて」

「離れたあとに手紙を書いて」

「幼馴染みへ恋に落ち」

「片思いで再会し」

「そしてその日に両想い」

「そしてその晩ひとつになって」

「1ヶ月後には婚約者」

二人は再び見つめ合う。

「確かに短いね……恋人関係での接触なんて……あの夜だけ」
「だから、今晩だけ……あの夜に戻らないか……」
「……馬鹿……」
「ああ、クリスマスが俺を馬鹿にさせるんだよ……」
「もう……」

公二のくさい台詞に光は顔を赤くしてしまう。


「でもそのまえに……夕食にするか……」
「そうだね……」
「この格好だと動けないから……ファミレスしか駄目そうだな」
「どこでもいい……公二と一緒なら、どこにいても幸せ……」
「光だって……」
「ク、クリスマスが私を馬鹿にさせるのよ……」

光もくさい台詞をつぶやき、それに公二は顔を真っ赤にする。
お互いになんとなく照れてしまう。

もしかしたら今の二人はもう恋人気分になっているのかもしれない。


「それじゃあ……行こうか、光」
「うん、公二……」

こうして公二と光の二人っきりの甘い甘い夜をすごした。
しかし、松葉杖でギプスをはめた二人があんなことやこんなことができるわけもなく、
ただ添い寝をしただけだった。

しかしそれでも二人には十分に幸せだった。


そしてその甘さの余韻に浸りながら年を越すことになる二人。
年が明ければ二人の運命を掛けた長い長い戦いが始まろうとしている……
To be continued
後書き 兼 言い訳
やっと第10部が完結しました。
最後はちょっと甘めで締めました。

皆さんのリクエストで多かったクリスマスパーティーですが、
どう考えてもパーティーを入れるような展開にはできませんでした。
前話の展開ではどうもそんな雰囲気は無理がありそうだったので……
2年次では必ずやりますので、それでご勘弁をm(_ _)m

でもリクエストのなかにクリスマスプレゼントの話があったので前半はその話にしてみました。
恵ちゃんへのプレゼントになった、特大の犬のぬいぐるみ。
これについてはあまり突っ込まないでください。たぶん皆様の想像の通りになりますので(汗汗汗

まあ、後半は少し甘めにしてみましたが、どうも私は甘いのを書くが苦手みたいだ(汗

次回からいよいよ第11部
お察しの通り、1年次の最大の山場になります。
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