第47話目次第49話
お正月。

松葉杖のままなので恵は両親と一緒に先に初詣に行った。
二人はゆっくりと歩いて初詣に出かけた。

二人の願いはただ一つ。

「平凡でいい。3人で静かで平和な生活ができますように」

それは今までの3年間、普通の中高生に比べれば、
遙かに波瀾万丈な人生を送っている二人の心からの願いだった。

「でもな〜」
「ああ願ってはみたものの」
「新学期早々慌ただしい生活になるんだけどね」

「でも4月からは平和な生活がしたいな」
「そうやね」
「頑張ろうな」
「うん、頑張ろうね」

太陽の恵み、光の恵

第11部 決戦編 その1

Written by B
そして新学期初日。
この日はいろいろな意味で大切な日でもある。

公二と光が初めて夫婦として学校に行く日。
そして、恵を自分たちの子供として世間にお披露目する日。
そして3人で学校へ行く初めての日。
それは3ヶ月間に渡る長い戦いの幕開けの日でもある。



ぴんぽーん!



「は〜い……しかし、こんな早朝に誰だ……」

早朝、玄関のチャイムがなる。
パジャマ姿の公二が玄関にやってくる。



がちゃ!



「公ちゃん!おはよう!」
「おはよう公二君」
「おはようございます」
「おはよう!」
「あっ、みんな……」

楓子、花桜梨、美帆、茜が揃って公二の家にやってきたのだ。

「どうしてここに?」
「公二さんを迎えに来たのですよ」
「恵ちゃんと一緒だから登校が大変だと思うんだ」
「恵ちゃんも不安だと思うから、私たちが一緒の方がいいと思って」
「いろいろと世話掛けちゃって、ごめんな……」
「いいっていいって」



「ところで、光さんは?」
「えっ?光は……」

ちょうどそのとき廊下の奥から誰かがやってきた。

「ふぁ〜あ、なんやこんな朝から……あっ!」

光だった。
しかも公二とおそろいのパジャマ姿で、

「ど、どうしたの?あ、お迎え?ちょ、ちょっと準備するから!」



どたどたどたどた……



光は顔を真っ赤にして部屋の奥に消えていった。

「お、俺も準備があるから、待ってて!」

その様子を見た公二も一緒に部屋の奥に入っていった。



公二と光がいなくなった玄関で4人は顔を見合わせた。

「そういえば……」
「確かにペアのパジャマだった……」
「こうくんとおそろい……」
「夫婦だとはわかってはいるけど……」
「「「「いいなぁ……」」」」

思わずため息をついてしまう4人だった。

「ねっ、ちょっと二人の部屋をこっそり見てみない?」
「えっ、それはまずいんじゃ……」
「私も見てみたいな……」
「花桜梨さんまで……」

楓子の提案に美帆と茜は少し戸惑っている。

「でもみんな興味があるでしょ?夫婦の寝室って」
「そ、それは……」
「どうなんですか?」
「とても見てみたいです……」
「実は私も……」
「じゃあ決まりですね」



そして二人の寝室では。

「恥ずかしいよ〜、おそろいのパジャマ姿見られちゃったよ〜!」
「そんなに恥ずかしがらなくても……」
「でもなんか、夜の生活を見られたような気がして……」
「……やめろ、俺まで恥ずかしくなってきた……」

そんな事を言っている訳にもいかず、制服に着替える事にした。

そしてその部屋の扉の向こうでは楓子達がこっそりと覗いていた。

(きゃっ!一緒に着替えるの!)
(な、なんて大胆な……)
(なんか見ている方が恥ずかしい……)
(公ちゃんって結構たくましいんだ……)
(楓子ちゃん、何見てるの……)



影でキャーキャー言っている人に気がつかない二人は、そのまま制服を着替え終わった。

「さて、朝食でも食べるか」
「あなた!」

(キャー!あなただって!)
(うらやましいな……)

光が公二を呼び止めた。
光は満面の笑顔を見せている。

「どうした、光?」
「あなた、忘れ物があるでしょ」
「えっ?」
「これ!」

光が手にしているのは二つの小さな箱。
そう、婚約指輪である。

(見て見て!指輪よ!)
(こうくん、あれのためにバイトしてたんだ……)



「なぁ、うちらもう隠すことないんや……だから」
「そうだな、もう堂々と夫婦だって言えるんだよな」
「だからね……お願い、あなたから……」
「ああ、わかった……」

公二は光から小箱を受け取る。
一つの箱から小さな指輪を取り出す。

(ねぇねぇ、もしかして……)
(ここで見られるなんて……)

公二と光が向かい合う。
そしてじっと見つめ合う。

光が左手を差し出す。
公二がその手をつかむ。
そして光の左手の薬指に指輪をはめる。

今度は光が公二の左手をつかむ。
公二の左手の薬指にすこし大きい指輪をはめる。

窓からの朝日が二人を照らし出す。

(綺麗……)
(二人が輝いている……)
(本当の結婚式みたい……)
(素敵……)

扉の向こうの4人は感動していた。
二人の制服がタキシードとウェディングドレスに見えたのだろう。



それは当の二人も同じだった。
光は泣いていた。

「嬉しいよ……婚約指輪だけど、本当に嬉しいよ……」
「俺もだよ……」
「いいんだよね、『公二の妻です』って名乗っていいんだよね……」
「ああ、俺だって『光は俺の妻だ』って言えるんだよ……」
「嬉しい……」

(ずっとこっそり夫婦やってたんですね……)
(辛かったんだね……)



「あれ?おねぇちゃんどうしたの?」

(しまった!)
(め、め、め、恵ちゃん!)
(な、な、なんでここに?)
(どうして……)

すでに起きていた恵が朝食を先に食べていた、
恵はまだこない両親の様子を見に来ただけなのだ。

恵の声に気がついた光が扉を思いっきり開ける。

「うわぁ!」
「いててて……」
「あ、こんにちは……」
「あはははは……」

4人が重なるように倒れる。
見上げると光が仁王立ちしてにらみつけている。

「ねぇ、まさか……覗いてたんか?」
「いや、あの、その、興味があって……」
「いつからや?」
「その……二人が着替えているところから……」
「全部やんか!」

覗いていたのがバレて状況的に不利だったが……

「光ちゃん、しっかりと見たよ、指輪をはめてもらうところ」
「あっ……」

楓子の言葉に顔を真っ赤にする光。
これ幸いとみんなでからかいだす。

「指輪見せて欲しいな……」
「うん、いいよ……」

光は左手を前にかざして指輪を見せる。

「素敵な指輪ですね……」
「うん……」

「こうくんが買ってくれたんでしょ?」
「そ、そうなんや……」

「光さん、今幸せですか?」
「うん、最高に幸せ……」



「ねぇ、ママ、ごはんは?」
「あっ、そうや!ごはん食べないと!」
「そうだ、みんな、玄関で待ってて!」

「ここじゃ駄目?」
「駄目、絶対に駄目や!」
「夫婦の部屋に勝手に入るもんじゃないの!」

そういうことで4人は玄関で公二達3人が来るのを待つことにした。



そして、いよいよ登校。
公二と光は松葉杖で歩いている。
恵は花桜梨や楓子達が交代で世話をしている。

そして、高校前の坂道までやってきた。
そこには匠、純一郎、琴子、美幸が待っていた。

「よう、待ってたぞ」
「ああ、これから迷惑掛けっぱなしになると思うけど」
「なあに気にするな。俺たち全員でサポートしてやるぞ」
「光、困ったことがあったら、遠慮無く私にいうのよ」
「美幸も世話するから〜、いろいろ言って〜」
「みんな、おおきに」



「それではいよいよ学校に出陣といきますか」

「待って……みんなは先に行ってて」

「えっ?」
「どうして?」
「校門まですぐだよ、何をいまさら……」

「みんなの気持ちはわかるよ……俺たちをあの視線から守るためだろ?」
「あっ……」
「やっぱりわかってるか……」

確かに、学校に向かう生徒が一人残らず公二と光と恵に視線を向けていた。
良い視線、悪い視線。色々な視線が3人に注がれていた。

「ああ……でも、この視線をこれから毎日浴びるんだ……」
「うちらはそれに耐えなければいけないんや……」
「それだったら、その視線を全部受け止める……」
「大丈夫や、うちらはそれに耐えてみせる」

二人の真剣な表情をみた匠は安心した表情をみせる。

「そうか……じゃあ、みんな先にいくか……」
「匠、いいのか?」
「確かに公二の言うとおりだ、どうせ学校でも注目されるだろう」
「確かにそうかもしれないわね」
「ここは二人の意志を尊重しようよ」
「そうね、そうしますか」
「せっかくの気遣い、悪かったな……」
「いいって、いいって」

「じゃあ、俺たちは教室で待ってるから」
「頑張ってね〜」

そして匠達は先に坂を上っていった。



匠達が校門に入るのを見届けた公二達はゆっくりと視線をあげ、遠くにある校舎を見つめている。

「いよいよだな……」
「うん……」
「俺たちの生き方が間違ってないこと……見せような」
「そうや……恵は世間に堂々と自慢できる愛の結晶なんや」

「じゃあ、行こうか」
「はい……恵、行くよ!」
「うん!」

そして公二と光は恵を連れて一歩一歩歩き出す。
3人に周りからの視線が容赦なく降り注がれる。
しかし公二達はそれを真正面から受け止めた。
おびえることなく、堂々と松葉杖を進めた。



そして校門にたどり着いたそのとき

「待てぇ〜い!」
「???」

どこからか声が聞こえてきた。
公二と光は辺りを見回すが誰もいない。

「この世に悪がはびこる時、正義もまた現れる」
「な、なんだ……?」

「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!悪を倒せと俺を呼ぶ!トゥー!」
「な、なんや……?」

「ひびきの高校生徒会長、赤井ほむら只今参上!!!」

どこからか、いつのまにか、ほむらが校門の前に立っていた。

「あ、赤井さん……」
「と、いうことは……」




「遅刻だ〜!」
「ちが〜う!」




慌てて校舎に向かう3人をほむらが慌てて止める。

「遅刻は御法度だろ?」
「だ〜か〜ら〜、まだそんな時間じゃない!」
「えっ?」

よく見ると1時間目が始まるまだ20分も前である。

「なんだよ、それじゃああたしが毎日遅刻してるみたいじゃないか」
「そうじゃないの?」
「違うよ!……まったく今日は折角早く学校に来たのに」
「どうして?」
「決まってるだろ?恵ちゃんを迎えに来たんだよ」
「恵?」



「あっ、ほむらおねぇちゃん!」
「よしよし、元気にしてたか?」
「うん!」

ほむらは恵を抱きかかえる。

「あっ、そうだ、校長室に用があるんだ、おまえ達もあるだろ?一緒に行かねえか?」
「何かやったの?」
「ずっとここにいても暇だから遊びに行くだけだ」
「遊びって……校長室はそう言う場所じゃないような……」

「恵、おねえちゃんと一緒に行こうぜ」
「わ〜い!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「そんなに急がないでよ〜」

恵を抱いたまま、スタスタ歩いていくほむらを必死に追いかける公二と光。
その様子はほとんどの教室から丸見えだった。



校長室。
ほむら達が到着した。

「お〜い、和美ちゃん。遊びにきてやったぜ」
「お、おい、校長に向かって……」



がちゃ



奥の扉から校長が現れた。

「おお、ほむらではないか、何か用かの」
「用って程じゃね〜んだけどさあ。暇だったからな」

「うむ、生徒会長が暇なのは平和の証。善哉善哉」
「さすが和美ちゃん!良くわかってるぜ。やっぱそうだよな」

「がはははははは!」
「ニャハハハ」

(か、和美ちゃんって……)
(なんなんや、この二人……)

あまりに仲良しの校長とほむらに二人は呆れて何も言えない。



「おっ、今日はお客さまがいるんだ」
「誰じゃ?」
「この子だ。恵ちゃん、和美ちゃんに挨拶しな」

ほむらは恵を自分の前に立たせ挨拶させる。

「かずみちゃん、こんにちは!」
「おお、元気があってよろしい!名前は?」
「ひのもとめぐみです!」
「おお、元気があっていいのう」

恵を前にして校長はとても機嫌が良い。

「和美ちゃん、この子の両親も来てるぞ」
「おお……君たちがこの子の親か」
「はい、恵の父の1年A組の主人 公二です」
「同じく恵の母の1年A組の陽ノ下 光です」

「そして私が爆・裂・山じゃあぁぁぁぁ!」

公二と光の耳にキーンと響いた。
ちなみに、校長室は防音設備が完璧なので外には一切声が聞こえない。



「君たちが今日からこの子と毎日授業を受けるんだな」
「はい、よろしくお願いします」
「いろいろとご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」

公二と光は深々と頭を下げる。

「大変だと思うが、頑張るのじゃよ」
「はい、期末試験では絶対に夫婦そろって20番以内に入ります」
「私たちの真剣な気持ち、数字で表して見せます……」
「儂も応援しているぞ、困ったらいつでも相談に来なさい」
「はい、ありがとうございます!」

にこにこ顔の校長を見て二人も緊張が少しほぐれる。
励ましの言葉ももらい嬉しくなっている。

「そろそろ授業じゃ、教室にもどりなさい」
「はい!」「はい!」

公二と光は恵を連れて校長室を出た。



校長室に残った校長とほむらは真面目な顔になっていた。

「なかなか骨のある二人ではないか」
「ああ、そうでもなければ、あんないい子は育たないぜ」
「なんとかして勝負に勝たせたいものじゃ……」
「しかし、あたし達の力じゃどうしようもないぜ、あいつらだけで乗り越えないとな」
「そうじゃな……」



キーンコーンカーンコーン



「ほむらこそ授業はいいのか?」
「あっ、いけねぇ!急がないと!」



公二と光は教室の扉の前に来ていた。
二人の間には恵が立っていた。
二人はいつになく緊張している。

「いよいよだな」
「うん……」

「匠がクラスメイトに事情を説明しておくって言っていたけど……」
「私たちがちゃんと言わないとね」

「さて、夫婦として、親子としてのお披露目か」
「なんかどきどきするね」

「ああ、気合い入れて行くぞ」
「うん!」

そして公二が扉を開ける。

「おはよう!」
「おはよう!」

二人の表情はとても晴れやかだった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
いよいよ1年次最大の山場になると思います。第11部スタートです。

今回は、学校に行って教室に入る前までを書きました。
大事な日です。その朝はいろいろな事があるはずです。

もう夫婦であることを隠す必要の無くなった二人。
ある意味、気持ちが楽になったのかもしれません。
そんな様子を書いてみました。

次回はどうしようかな?まだ考えてないや(汗
これからじっくり考えます。
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