第51話目次第53話
「どうしてなんだろうなぁ……」

1月から2月にカレンダーが変わろうかとしているころ。

ほむらは最近疑問に思っていることがある。

毎日1回。恵を教室から連れ出して遊んでいる。
でもそれ以外は公二と光のどちらかが恵を連れて教室を出ている。

誰にも頼まず、二人だけで解決しようとしていた。


クラスメイトは何もしない。
協力したくても公二達が拒否をするのだ。

匠も何度も説得した。でも断ったそうだ。

「なんであの二人はあそこまで意地を張るのかなぁ?」

ほむらにはどうしても納得がいかなかった。

太陽の恵み、光の恵

第11部 決戦編 その5

Written by B
「最近、先生達も変わってきたのになぁ……」

校長の話だと、あれだけ公二と光に意地悪をしてきた教師達に変化が出てきたそうだ。

どんなにひどい台詞を吐いて二人を追い出そうとしても、
泣くこともなく、弱音を吐くこともなく、困るようなこともなく、
憎むこともなく、悲しむこともなく、辛い表情をみせることもない。

ただ、素直に笑って教室を出て行く。



そんな二人の態度に惹かれる先生が表れだしたのだ。

「あの二人はなんであんなに清々しい表情ができるんだ……」
「なんであの二人はめげないんだ……」
「これが親子の力なのか……」
「本当に真剣なのかも……」

二人の真剣な想いが伝わり始めたのだ。

確かに授業での態度にも変化が現れた。

最初は授業開始時に怒鳴って追い出した。
しばらくして、授業が始まって恵が騒ぎ出したら怒鳴って追い出した。
最近では恵が机を飛び出して動き始めたらやっと追い出すようになった。



しかし公二達は違った。

最初は恵が騒いで怒られてから出て行ったのだが、
最近になって、授業開始からしばらくして、先生になにか言われる前に出て行ってしまうのだ。

「どうして?」と匠達が聞いたことがある。
すると公二達の答えは、

「どうせ追い出されるんだ。先生達も最初から追い出すつもりだし。だったら最初から追い出された方がみんなに迷惑がかからない」

ということだった。



「別に言われなければ、いればいいのに……」
「なんで自分から辛い方に進むんだろ……」

最近のほむらは生徒会の仕事そっちのけで考えていた。

「考えてないで仕事して!」

という声には、

「あたしは仕事以上に重大な疑問で悩んでる!」

と答えている。

まあ、なにもなくても、ほむらは仕事をする気はないのだが。



そしてある日の放課後。

ほむらは公二と光を呼び出した。

机を挟んでほむらと公二、光が対峙する。

「ほむらおねぇちゃん、あそぼ〜」
「恵ちゃん、おねぇちゃんはパパとママと話があるから静かにして」
「は〜い!」

ほむらの珍しく真剣な表情に公二と光も自然と真剣になる。

「なあ、おまえらに話があるんだ」
「なんだい、赤井さん」

「なあ……なんで自分から辛い目にあっているんだ」
「………」

「話を聞いたら、お前達友達の好意を全部断ってるそうじゃねぇか」
「………」

「先生達だってすぐに追い出すような事はしなくなった事は気づいているだろ?」
「ああ……」

「恵ちゃんが下手に動かなければ別に出なくてもよくなった事はわかるだろ?」
「うん……」

「だったら、なんで追い出す?お前達は賭があるだろ?なんで自分たちを苦しめる?」



ほむらの質問に公二達は今までどおりの言葉を返す。

「前にも言ったんだけど、これは俺たちだけでやらなければいけないんだ」
「ふ〜ん……」
「恵はあたし達だけで面倒みなくてもいけないんや」
「ほ〜……」
「俺たち二人だけの問題なのに、助けを求めるなんて……」


「別にいいじゃねぇか」
「えっ?」


公二達の言葉は想定済み。
ほむらは自分の思いを二人にぶつける。

「人間はだれだって一人じゃ生きられないんだ」
「そうだね」

「だからって二人だけでも三人だけでも無理じゃないのか」
「確かに……」

「何人も何人も、数え切れない人達が一人を育てているんじゃないのか」
「ああ……」

「助けられることは恥ずかしいことじゃないんだよ、よくあることなんだよ」
「………」



ほむらの語りは熱を帯びてくる。
とにかく二人に訴えかけていた。

「なあ、あたし達を使ってくれよ」
「えっ?」

「みんな、お前達を助けたいんだよ」
「………」

「助けるなんて言葉は違うな、お前達に協力したいんだよ」
「………」

「遠慮することないんだよ、恥ずかしいことじゃないんだよ」
「………」

ほむらからみた公二と光はまだ躊躇しているようだった。
二人を躊躇しているものとは?
ほむらは今までの二人の言葉からなんとなくわかっていた。

「なあ……もしかして、親としてのプライドか」
「………」

「だったら、そんなもん捨てちまえ」
「………」

「そもそも、そんなもんまだいらないだろ」
「………」

「大体、まだ親として半人前じゃないのか?」
「………」
「半人前でもいいじゃないか、みんなそれでもお前達許してくれるって」

「そういうわけにはいかないんだ」
「えっ?」



「確かにあたしらは親として半人前、ううん、半人前以下なんや」
「たしかにそんな俺たちをみんな暖かく見てくれている」
「うんうん」

「でもな、それでも許してくれない人が一人いるんだ」
「だれだ?」

「恵や」
「えっ?」

恵は光の腕の中で眠っている。
とても幸せそうに。

「確かに、大人からみれば半人前以下の親だよ」
「でもな、恵から見ればたった二人の親なんや」
「恵は半人前とか一人前とかわからない、ただ俺たちを一番頼れる存在だと思ってるはずだよ」
「だから、恵の前では一人前でなければあかんのや」
「恵に対しては、子供だとか高校生だとか半人前とか、そんな甘えは通用しないんだ」
「………」

二人の言葉にほむらは何も言えなくなっている。

「でも、俺たちは親として失敗ばかり……」
「悔しいけどな……」
「恵を泣かせ、悲しませ、寂しがらせ……」
「恵に対してひどいことばかりや……」


「そんなことないだろ、あの誘拐事件だって……」
「あれだって、最初はうちらが恵から目を離していたからなんや」
「途中はいろいろあるけど、最初と最後だけをみたら、たんなる自業自得だよ」
「………」
「恵を助けたのはいいけど、入院して親と離れ離れでずっと寂しかったはずだ」
「結局恵を泣かせたんや……」
「………」


「俺たちは恵に対してこれだけはやったと言えるようなことがないんだ」
「逆に恵に迷惑かけてばかり……」
「俺たち恵に頭があがらない……」
「うちら、親としてプライドも誇りも自信も持てなくなってたんや」
「………」


「俺たち、親として誇りを取り戻したいんだ」
「………」
「うちら、これだけはやったと言えるようなものが欲しいんや」
「恵のために二人の力だけでやったと、後で恵に誇れるものが欲しいんだ」
「みんなからみれば、ちっぽけな事かもしれへん。でもなそれでもうちらは欲しいんや」
「赤井さん、俺たちにも意地があるんだよ。恵の親として」
「………」

公二と光は恵の親としての強い思いをもっていた。
しかしその思いとは裏腹に今の自分たちのふがいなさを痛感していた。

ほむらはそこまで考えているとは思っていなかった。
だからこそ何も言えなくなっていた。



「でもお前達には賭が……」
「わかっとる、それはわかっとる」
「先生達のたくらみもわかってる、でもな、俺たちにはそんなこと関係なくなってるんだ」
「えっ?」

「先生がどうこうより、俺たちが親として試されてる……そんな気がするんだ」
「先生達との戦いやない。うちら自分自身との戦いなんや」
「………」


「俺たちだって、みんなの好意は嬉しいよ」
「うちらはみんなに支えられて幸せや」
「でもな、このままだとみんなに甘えてばっかりになる、だから今回だけは自分たちでやりたいんだ」
「ずっと考えに考えた結果や、頼む、わかってくれへんやろか?」

ほむらが懸命に訴えているのと同じように公二と光も自分たちの思いを訴えていた。



ほむらはしばし考え込んだ。
そして二人に答える。

「わかったよ……あんたらの気持ちは」
「赤井さん」

ほむらは二人の思いを素直に受け取ることにした。

「でもな、これだけは言っておく」
「なんだい?」

「それでも友達の好意はありがたく受け取るべきだと思うぜ」
「えっ?」

「友達が優しいことだって、親として恵ちゃんに誇れることだと思う」
「………」

「恵のため、自分たちのためとはいうけど、友達に迷惑を掛けたらなんの得にもならないぜ」
「………」

「現にみんな心配してるぜ……それはお前達の本望ではないだろ?」
「……わかった、ありがたくうけとっておくよ」

「あたしらも必要以上のことはしない、でも最低限のことはやらせてもらうぜ」
「ありがとう……」

どうやら公二達もほむらの思いを受け取ってくれたようだ。



「赤井さん、ありがとう。なんか気持ちがすっきりしたような気がする」
「ほんま、ありがとう」
「いいっていいって」

公二と光は寝たままの恵を連れて教室から出ようとしていた。
そのときほむらが声を掛けた。

「おい、主人。陽ノ下」
「なんだい」

「がんばれよ……」

「ありがとう……」

お互いに微笑みあう。
そして 公二と光が恵を連れて教室から出て行った。



生徒会室にはほむらだけ。

……のはずなのだが。

「……おい、もういいぞ」


ごそごそごそごそ……


ほむらの一言で教室のあちらこちらから物音が聞こえてきた。


「ふぅ……つかれたわね」

教室の隅にあった横断幕の山のなかから琴子が現れた。



「まったく……でも、しかたないけどね」

生徒会の備品の入ったロッカーの中から匠が現れた。



「……しかしばれなくてよかったですね」

演説台の裏から美帆。



「ばれたら最悪だからな」

本棚の裏から純一郎



「でも、かくれんぼみたいでおもしろかったな、ボク」

なぜか生徒会室にある40インチ大型テレビの裏から茜。



「……ちょっとスリルがあってドキドキした……」

行事用の黒幕の山の中なら花桜梨。



「しかし、暑かったぁ」

そして、なぜか生徒会室にあるロボットヒーローアニメ「ゴットリラー」の着ぐるみの中から楓子。



「……すまないな、変なところしか隠れるところが無くて」
「いいよ、俺たちが頼んだ事だから」

そう、本音を言おうとしない公二と光の本音を聞き出すために、
匠達がほむらに本音を聞き出すようにたのんだのだ。

「なあ、なんであたしなんだ?」
「だって、ほむらなら二人も正直に話してくれるとおもったから」

「お前達じゃだめなのか?」
「俺たちだとあいつら、余計な心配をかけないようにするから言わないんだよ」

「じゃあ、あたしはなんなんだ?」
「ほむらは頼りがいのある人だと思ってるんじゃないかな、ボク」

「根拠は?」
「なんとなくね、二人の様子からみればそんな気がするから」

と答えた。これは全員が同じ考えだった。

そして、その本音を直接聞きたいがためにこんな隠れ方をしてしたのだ。



「あれ?なんか物足りないような」
「うん、そうだね」



ごんごん



「なにか忘れているような」
「気がする……」



ごんごんごん



「なんかいつもにくらべて静かね」
「確かに……」



ごんごんごんごん!



「あっ!そうだ!」
「ひとり忘れてた!」



「お〜い!だしてよ〜!でられなくなっちゃったよ〜!」



それは、掃除用ロッカーに入って出られなくなってしまった美幸だった。



「で、あいつらの本心はわかったか?」
「ああ、十分にわかった」
「あんな思いをしていたなんて……」
「ずいぶんと葛藤があったのですね……」
「……辛いんだね……」
「うん……」

ようやく二人の本音を知ることができほっとする。
しかしその辛い心境に自分たちも辛くなってしまう。

「で、これからどうするんだ?」
「公二がああ言ったことだし、最低限の協力はするよ」
「ボクもボクなりにできることをするよ」
「俺もできることがあればな……」

「しかし、最後は試験次第か……」
「これだけはどうしようもないな……」
「二人のレベルは私たち以上ですからね……」

待つことがないという雰囲気のなか花桜梨だけが変に暗かった。

「………」
「花桜梨さん、どうしたの?」
「……ううん、なんでもない……」
「?」



次の日の放課後。
ほむらは校長室にいた。

「和美ちゃん、話ってなんだ?」
「主人君と陽ノ下君の話だ」
「どういうことなんだ?」
「実は、二人の勝負……辞めようという話になってる」
「えっ!」

「どうやら二人の誠意が伝わったようじゃ、毎日頑張ったせいじゃろ」
「……」
「強行に退学をいう先生も少なくなって、それだったら勝負の必要もないってことになったのだが」
「……」
「どうしたのだ、ほむら?」

ほむらの様子がおかしいことに気づいた校長。
ほむらは下を向いたまま首を振った。

「遅すぎるよ……和美ちゃん、遅すぎるよ……」
「えっ?」
「今更賭をやめると言っても、あいつらは止めないよ」
「どういうことなんじゃ?」
「あいつらは、先生の事なんて気にしていないんだ」
「?」

校長はほむらの言っている意味があまりわかってないらしい。
ほむらは話を続ける。

「あいつらは今、いや最初からかな、退学派の先生と戦っていたんじゃないんだ」
「じゃあ……」
「あいつらは自分自身と戦ってる……親としての誇りを掛けてな」
「そうか……」

校長も意味がわかったようだ。
そのとたん表情が暗くなってしまう。

「だから、先生が賭を止めても、条件を満たさないとあいつらは退学届をもってここにやってくるはずだ」
「……」
「もう、この賭はだれにも止められなくなっちまったんだ」
「……」

公二と光の戦いは自分自身との戦いへと変わっていた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
すいません、酔いどれは入れられませんでした。
話の展開上次回に回されました。

今回は二人の本音です。
この勝負に二人は何を見ているのか?
何を思っているのか?
なぜ、あんなに自分たちだけでやろうとしているのか?
その疑問の答えです。

二人は親として未熟です。
でも二人には親としての自覚はあります。
それゆえに今までの自分たちがふがいなかったのかもしれません。

先生達、改心してしまいました。
第二、第三のいやがらせを出してもよかったのですが、
話は長くなりすぎるし、そこまで思いつかないし、やめてしましました。

でも賭は終わりません。いや終わらなくなってしまいました。
これからはそこに話の中心が動きます。

次回の冒頭は酔いどれです。
しかも初酔いどれのキャラがでます。さて誰でしょう?
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