第53話目次第55話
試験本番二日前。

「あなた、この文章の意味は?」
「え〜と、これは……ということだけど」
「なるほど、わかった!」

「なあ、光。この問題どう解くんだっけ?」
「これは……ってやるんや」
「あっ、そうだった!ありがとう」

ここは生徒会室。
時間は夜の12時。

「お〜い、恵ちゃんも寝たぞ。お前らも寝たらどうだ」
「あっ、そうやね」
「明日もあるし寝るか」

「すまないな、寝るところがこたつしかなくて」
「いいんだよ、気を遣わなくても」
「うちらのわがままなんやから」

実は公二と光は一週間前から生徒会室に寝泊まりしていたのだ。
もちろん試験のためのいわば合宿である。

太陽の恵み、光の恵

第11部 決戦編 その7

Written by B
時はその前の週の土曜日に戻る。

試験も目前の公二と光は勉強に集中できる環境が欲しかった。
なるべく無駄な時間は使いたいたくない。

勝負のこともある。悔いのないように勉強をしたかったのである。

「……ということなんだけど、なにかいい案あるかなぁ?」
「なるほどな……でも、そんないい環境がどこにあるんだろう?」
「うちらもそれで弱っとるんよ」
「そうね……」

公二と光は教室で匠と琴子に相談しているときだった。

「あれ?勉強できるところか?それだったらいい場所があるぞ」
「あ、赤井さん」

ふと気が付くと匠達の後ろからほむらが立っていた。

「赤井さん。その勉強ができる環境ってどこなの」

「えっ?もちろん生徒会室だよ」

「はぁ?」

「おまえら一度来ただろ?机があってテレビや冷蔵庫やストーブもあるぞ?寝泊まりぐらいはできるぞ」

もちろんという言葉では想像がつかない場所に公二は素っ頓狂な声を出してしまう。

「でも生徒会室に布団はあるのか?」
「あっちゃ〜……毛布しかないや……」
「うちらはそれでもいいけど、恵はそれじゃあ無理や……」
「そうか、駄目か……」

名案だと思われたが、根本的な理由で駄目になってしまった。
またもや思案にふけってしまった。



そんななか、琴子だけは呆れていた。

「ふうっ……しょうがないわね………」
「えっ?琴子?」
「みんな、ちょっと部室まで来てくれない?」
「なんでだ……まあいいや、行くよ……」

こうして琴子の案内で公二達は茶道部にやってきた。
そこには……

「おおっ、こたつじゃねぇか!」
「な、なんでこたつがここに……」

茶道部室には大きなこたつがドカンと置かれていた。



高校の部室にしてはあまりに豪華なこたつにほむらも含めて驚いていた。

「しかし、どうしたんだよ、そのこたつ。先生に見つかったらやばいんじゃ?」
「いいのよ、昨日も校長が来て、お茶飲んでいったもの」
「えっ、和美ちゃんが!知らなかった……和美ちゃん隠してたな……」

どうやら校長は自分だけ快適な環境を満喫していたようだ。

「それに寒いところで無理は体に毒なのよ」
「それって琴子だけじゃあ……」
「そんなことはないわ!寒さは人類の敵なのよ……」

「そのどてらを着て言ってもなんか説得力が……いてっ!」
「何か言った?」
「いや何でもありません……」

確かに説得力には疑問がある。
しかし、耳をつねられている匠は反論できなくなっていた。

「しかし、これでも部活してることになるのか?」
「さあね。でもまあいんじゃないの。校長公認だし」
「はあ……」



「そころで水無月。このこたつがなんなんだ?」
「公二達に貸してあげるのよ」
「ええっ!」
「どうせ試験一週間前は部活は休みだからいいのよ。これだけいい布団なら恵ちゃんも大丈夫でしょ?」
「うん、これなら大丈夫だと思う……」

確かに自分の家の恵の布団ぐらいの厚さはある。
しかもいい布団なので恵が寝ても問題はなさそうだ。

「無理をして風邪を引いたら元も子もないわ。これで寒さ対策も万全だから大丈夫よ」
「公二、折角だから使いなよ。これがあれば生徒会室でも大丈夫だろ?」
「ああ、そうだな。水無月さん、貸してもらうよ」
「どうぞどうぞ」
「琴子、ありがとな……」
「いいのよ、私もこれぐらいしか協力できないから」



ということで、茶道部室からこたつを借りた公二達は次の日から生徒会室に試験合宿を始めたのだ。

とはいっても二人だけだと恵の世話がある。
そこでほむらが恵の世話をすると言い出した。

「あたしは頭悪いからこれくらいしかできないけど、協力するぜ」
「そんな、俺たちにつきあってくれるなんて……」

「遠慮するなよ、前にもいったろ?あたし達も後悔したくないんだよ」
「ありがとう……本当にありがとう……」

「おいおい、それは賭に勝ってからいう台詞だぜ」
「そうやね……お礼は勝ってからにとっておくね」

「そうそう」

結局ほむらも公二達と一緒に寝泊まりすることになる。



匠達も当然協力を惜しまない。
合宿初日の日曜日の早朝。
生徒会室に純一郎と花桜梨がやってきた。

「なんだ?純と花桜梨さんなんて珍しい組み合わせだな」
「そ、そんなこというな、ぐ、偶然一緒になっただけだ……」
「へぇ〜、そうなんや……」
「そ、そうなんだ……」

あれこれ深読みする二人。
しかし、今の二人には長いことそんな事をする暇がない。

「そんな事はどうでもいい、なんで来たんだ」
「実はね、二人に渡したいものがあって……」
「なんや……」
「これだよ」

純一郎と花桜梨が二人に渡したのは2つのカギ

「なんだこれ?」
「運動部共通のバスルームのカギだ」
「えっ、バスルーム?」
「ええ、シャワールームもたくさんあるけど、夜でも入れる大浴場もあるの」
「各部活でバスルームのカギを予備用と併せて2つ持ってるんだ」
「じゃあ、これは……」
「私のはバレー部の予備の女子用のカギ、穂刈君のは剣道部の予備の男子用のカギなの」

確かにありがたいが、こういう鍵は普通外には持ち出さないものである。
公二達もしょっと不安になってしまう。

「いいのか?」
「ああ、俺たちも部活が休みなんだ、それに予備用なんてめったに使わないし」
「夜9時までならお風呂も入れるから、恵ちゃんも綺麗に出来ると思う」
「これはありがたい!ありがたく使わせてもらうよ」
「そう言ってくれると俺たちも嬉しいな」



ここで公二は根本的な疑問が湧きあがる。

「ところでなんで生徒会はもってないんだ?」
「いやあ、あたしが持ってもなくしちゃうから最初から持たないようにした」
「はぁ……」

実際は他の生徒会委員が厳重に管理していたのだが、ほむらはそれを知らないでいた。



そして夕方には匠、美幸、楓子がやってきた。

「お〜い、頑張ってるか?」
「みんなげんき〜?」
「ああ、頑張ってやってるよ」
「そう、よかった」

よく見ると匠と美幸が大きな紙袋を持っていた。
公二はその紙袋がどうも気になった。
しかしそれよりも用事を聞くことが先立った。

「匠達の用は何だ?」
「公二、これを忘れてないか?着替えだよ」
「えっ!」
「俺が持ってる袋は公二の、美幸ちゃんが持ってるのは光ちゃんと恵ちゃんのが入ってる」

匠は紙袋を公二に渡す。
中身を見ると確かに着替えが入っていた。

「なんで別々なんだ?」
「馬鹿か!お、俺が、ひ、光ちゃんの、し、し、下着が入った袋なんて持てるか!」
「そ、そうだな……」
「言わせるじゃないよ……」

匠は顔を真っ赤っかにしていた。
よほど恥ずかしかったらしい。

「私は公ちゃんのなら大歓迎だけど……」
「なんやて!」
「じょ、冗談だよ……あははは……」

どうも楓子の発言は冗談か本気かわからない。
だから光はついつい口調が強くなってしまう。

そんな二人を匠がなだめていた。

「まあまあ二人とも。じゃあ、俺たちは洗濯物と着替えを毎日公二の実家に届けるから」
「なんか変や役目を頼んじゃってすまないな」
「いいよ〜、美幸は少しでも役に立ちたいから〜」
「私もそう。だから気にしないで」
「お前達が勉強に集中できればそれでいいから」
「ありがとう……」



そして夜。

「こんにちわ〜!『響野食堂』で〜す!」
「あっ、茜ちゃんに……美帆ちゃんに真帆ちゃん!」
「こんばんは」
「やっほ〜、久しぶり〜!」

茜と美帆と真帆が『響野食堂』の制服を着てやってきた。

「今日からボクが作った夕ご飯を毎日持ってくるからね」
「茜ちゃんの御飯とはうれしいわぁ〜」
「ボクが勉強に集中できるようなメニューを考えたから楽しみにしててね」
「うわぁ〜、それはありがてぇ〜」
「ほむらはついでだからね!忘れちゃダメだよ」
「へ〜い」

とか言いながらほむらはさっそく晩御飯を準備し始めていた。

準備するほむらを横目に公二は事情を聞いてみる。

「ところで一週間で4人分の材料費はどうすればいいの?」
「だから私たちがいるんですよ?」
「えっ?」
「みんなの食事代は私と姉さんのバイト料で払うから」
「ええっ!」
「一週間、夜のかき入れ時に2時間働いて、そこから食事代を払うから」
「そんなことしなくていいのに……」

さすがの二人も美帆と真帆の申し出には驚き、申し訳なく思ってしまう。
しかし、美帆と真帆はそんなことはまったく感じていないように答える。

「いいんですよ、私も一回アルバイトをやってみたかったですから」
「私も姉さんと一緒に出来るなんて夢のような気分なんだ」
「アルバイトって、お金だけじゃなくて経験も十分財産だと思うんです」
「主人さん達に協力できて、経験が積めて、姉さんと一緒、一石三鳥で嬉しいぐらいだよ」
「そうか……本当にありがとう」
「ありがとう……」

こうして友達の全面的な協力を得て合宿が出来たのだ。



時は戻って試験前日の日曜日。

公二と光は朝から試験勉強に取りかかっていた。

恵は一日中ほむらが面倒みていた。
恵もほむらによくなついている。
公二達も最初、ほむらになついているのに驚いたが今はすっかり慣れた。

ほむらは遊び好きで乱暴者のイメージがあったのだが、
こういう子供に優しい一面もあることを知った。
それを知ってからは公二達のほむらに対する態度も変わった。
少し他人行儀な接し方から友達として接するようになった。

「ほむら、そろそろお昼が来るから準備しようよ」
「そうだな、食事用の机を用意するか」
「じゃあ汚さないように少し片づけよう」
「ああ、たのむぜ」

一週間一緒に暮らしていると、それなりに相手の事もわかる。
今まで知らなかったことも見えてくる。
親近感も湧いてくる。
この一週間で公二と光はほむらと本当に親しくなれたと思ってる。
それだけでも生徒会室で合宿してよかったと思っている。



そして夜。
公二達は夕食も食べ終わり、これから寝ようとする時間だった。

「あれ?恵は?」
「もう寝ちゃったよ。ほむらも横で一緒に寝てる」
「そうか……」

恵はほむらの横ですやすやと寝ている。
ほむらもすやすやと眠っている。

「明日はとうとう試験か」
「ああ、そうだな」
「一週間頑張ったね……」
「俺もそう思う……」


「明日からの試験……絶対負けられない」
「そうだな、みんなのためにもな」
「うん、恵のため、それに花桜梨さんのためにも……」
「俺も頑張ったけど、今回は光、お前にかかってるからな」
「うん、わかってる、あなたはいつも10番台だから、うちがなんとかしないと……」
「でもこれだけ頑張ったんだ、絶対に大丈夫だ」
「そうだね、入院した時間の遅れも取り返したし、今回一番自信があるんよ」
「なら大丈夫だな」

二人は本格的に眠るべく、こたつの中に深く潜り込む。

「しかし、ほむらには感謝しないとな」
「そうやね、ずっと面倒みてくれたからね」
「俺、最初はほむらはただ遊ぶだけの乱暴者だと思ってたけど……違うんだよな」
「うん、あんなに子供の扱いが上手だなんて……うちよりうまいんだもん」
「見直しちゃったな」
「見かけだけで判断しちゃいけないんやね」


「それじゃあ寝ますか」
「おやすみ、あなた」
「おやすみ、光」

そして遂に試験の日がやってくる。
To be continued
後書き 兼 言い訳
試験前日の話です。
正確に言うと、試験直前の1週間の話です。

二人にとって、重要な一週間。
友達ができるだけの手助けをする。
匠や琴子達は自分たちができることを精一杯やっている。
そんなところを書いてみたかったのです。

彼らはただ見守っていることはできません。
そういう人たちだと思ってます。

あとはほむらをもっと活躍させたかったということもありますけど(汗

次回は試験当日。
なぜか酔いどれも入っていたりして。
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