第54話目次第56話
遂に試験の日がやってきた。

公二と光は1Aの教室で最後の確認で余念がない。

二人のあまりの熱の入れように誰も声を掛けられない。

クラスメイトはこの試験が二人にとってどれだけ重大かはよくわかってる。
それだけに余計に声を掛けられない。


もう一カ所、誰も声を掛けられない状況が起こっている場所があった。

花桜梨と楓子のいる1Eの教室である。

太陽の恵み、光の恵

第11部 決戦編 その8

Written by B
花桜梨もまた直前の確認に集中していた。
あまりの集中ぶりにだれも声を掛けられない。

なぜそんなに集中するのか、楓子ですら知らない。

そんな教室になぜか匠が来ていた。
匠を見つけた楓子が話しかけた。

「あっ、坂城くん」
「あっ、楓子ちゃん。八重さんは?」
「見てよ。あの状況で誰も声を掛けられないの」
「そうか、やっぱりな……」

匠は花桜梨の事がちょっと心配になったのだ。
そんな匠の事を知ってか知らないのか、楓子は匠の様子がおかしいのに気が付いた。
そしてそれが花桜梨と関係があることにも。

「ねぇ?なにか知ってるの?」
「……」

「あの花桜梨さんは普通じゃない!」
「……」

「お願い!教えて!」
「……余計なことにならないように、黙ってたけど、実は……」

匠は観念したのか、花桜梨の事情を楓子に話した。



「ええっ!花桜梨さんと光さんが……」
「そういうことだ、公二達は八重さんに真剣勝負を頼んで、八重さんはそれに応えてる。そういうわけだ」
「そんな……」

事情を知った楓子はかなり驚いた。
まさか花桜梨が友達である公二達と争う決意をしていたとは想像すらしていなかったからだ。

楓子は思わず花桜梨の方を向く。
それを見た匠がすぐに楓子に口止めをする。

「楓子ちゃん。八重さんに何も言うなよ」
「えっ!」
「一番辛いのは八重さんなんだよ。それに八重さんを救えるのはもう光ちゃんだけしかいないんだ」
「うん、わかった……」

「ごめんな、試験直前にこんな事教えてしまって」
「いいの、最近花桜梨さん辛そうだったから心配してたの、理由がわかっただけでもよかったから」



そして試験が始まった。
試験は3日間。
科目は英語R、英語G、現代文、古典、数学1、生物、地学、地理、倫理・政経の9科目
総合順位は各科目の偏差値の平均によってつけられる。

上位をとるにはどの科目も落とせない。
大きなミスをすると挽回するのは至難の業となる。

緊張感の連続の3日間となる。



(負けない……絶対に負けない!)

(恵のためにも、花桜梨さんのためにも、負けるわけにはいかんのや!)

公二と光は問題に集中している。
合宿の成果か、入院中の遅れはもはや関係なくなっている。
順調にペンが走る。



公二の友達も問題に取り組む。
しかし、公二達の事が頭から離れない。

教室が違うので余計に心配になる。

(光……頑張って……)

(公二は大丈夫だ、問題は陽ノ下さんだよな……)

(妖精さん……今回は公二さんと光さんに力を……)

(美幸、しんぱいだなぁ〜……)

(大丈夫だよ、あれだけ頑張ったんだから……)

(大丈夫だ、うん、絶対に大丈夫だ……)



より複雑な事情を知っている二人はさらに心配になる。

(3人が気になって試験に集中できん……)

匠は、公二と光の席をちらちらと見る。
順調に問題が解けているか、それだけが気がかりだった。

(でも俺が何かできるわけじゃない……俺は俺だけに集中しよう)


楓子もまた同様だった。

(花桜梨さん……頑張って欲しい、でも頑張って欲しくない……)

楓子も花桜梨の様子が気になってしょうがない。
花桜梨はものすごい集中力で問題用紙をみているようだ。

(とにかく花桜梨さんにとって最悪の展開だけは避けて欲しい……)



そして、一番複雑な立場の花桜梨は懸命に問題に取り組んでいた。

(自分は自分のベストを尽くす!それが二人との約束……)
(自分がベストを尽くせば、きっと光さんもそれ以上に……)
(お願いだから、私に勝って!それが私の願い……)

周りの雑音を遮断してただひたすらに問題に取り組む花桜梨だった。



それぞれがそれぞれの想いが絡み合った期末テストは3日間無事に終了した。
採点は時間がかかるので最終的な結果は次の週の月曜日に判明する。


そして公二と光は1週間ぶりに我が家へと帰ることになる。

生徒会室の片づけを終え、その帰り道。

「光、茜ちゃんのところに寄っていかないか?」
「えっ、『響野食堂』?」
「そうだよ、来週から白雪さん達に替わって俺たちがバイトをする約束だろ?」
「そうやったね」

テストの結果がどうであれ、来週から公二と光は『響野食堂』でアルバイトをすることになっている。

入院してアルバイトを全部辞めてしまった公二に茜が配慮してくれたのだ。
最初は新学期からという事だったが、賭の事があってここまでのばしてもらった経緯もある。
立場上は白雪姉妹の後釜ということになっているが最初に決まっていたのは公二達のほうだ。

「光は一回も行ったことないだろ?」
「あっ、そういえば……」
「これからお世話になるんだ、挨拶ぐらいしとかないとな」
「そうだね、じゃあ行こうか?」



そして響野食堂

がらがらっ!

「こんばんわ……あれ?」
「な、なんやあれ?」
「………」

二人の視線の先にはひとつのテーブル。
テーブルの上には何本ものビール。
そこに座っている二人の少女。
服装は響野食堂の制服。

そう、美帆と真帆である。
二人は明るく笑ってる。
顔もほのかに赤い。

「やっぱりお酒ってサイコーでしょ?」
「そうですね〜、とても楽しいですよ」
「でしょ?なんか心がウキウキして、超ハッピーになれるんだよね〜」
「私もその言葉がわかるような気がします」
「もっともっと、飲まないとやだ〜」
「そうですね、もっと飲みましょう」

髪の毛は衛生上二人とも後ろに束ねている。
端から見ていてどっちがどっちだかわからない。



とりあえず、美帆に話しかけようとする。

「あの〜、美帆さん?」

「あの〜、私は真帆と申しますが……」

「へっ?」

「ちょっと〜、美帆はワタシ〜、間違えるなんて、もうサイテー!」

普段とあまりに違いすぎる二人の酔いっぷりに公二も光も声がでない。

「………」
「………」

「……頭痛い……」
「……うちも混乱してる……」

公二と光は頭をかかえるしかなかった。
特に光は初めて見る友達の痴態に半分ショックを隠しきれない様子だ。



頭を抱えているうちに茜がやってきた。

「あっ、こうくんに光さん!」
「茜ちゃん!」
「あ、あれって……」

茜は二人の疑問に気まずそうな顔で答える。

「うん、知らない間に美帆さんが日本酒を持ち出して、真帆さんに無理矢理飲ませたんだ」
「………」
「そうしたら真帆さんが『ビールも飲みたいですね〜』て言って、ビールを持ち出すし」
「………」
「まあ、店長は『最終日だから、好きなだけ食べて飲んでいいよ』って言ったけど……」
「………」

二人の様子に身の危険を感じた二人は店長に挨拶をすませた後、さっさと家に帰ってしまった。



そんな二人をまったく無視して双子の姉妹の宴会は続く。

「ところで御姉様、期末試験はどうでしたか」
「もうバッチリOKって感じ〜」
「御姉様はいいです。主人さん達はどうでした?」
「妖精さんがいるから、大丈夫に決まってるじゃな〜い」
「そうなんですか、それなら安心ですね」
「今日は、前祝いよ〜、だからじゃんじゃん飲むわよ!」
「では、おつきあいさせて頂きます」

結局、美帆と真帆は次の日二日酔いになったのは言うまでもない。



職員室では深夜まで採点が続いた。
特に今回は二人の生徒の進退に関わってくるため、
採点には慎重に慎重を重ねて行われた。

そして、翌週の月曜日。
全ての判決が下されようとしている……
To be continued
後書き 兼 言い訳
前半シリアス、後半酔いどれというこれも滅茶苦茶な展開ですな。

試験当日。それぞれの想いを書いてみました。
それぞれの立場で、想いが違う。でも願いはただ一つ。
そんな感じでしょうか?

テストの科目ですが、自分の高校での科目です。
他の学校や今の状況は知りません。

そして後半は無理矢理な酔いどれ。
今回は真帆が酔っぱらいました。

美帆と真帆の酔いどれは「酔うと口調が美帆と真帆が逆になる」という無茶な設定。
自分でもどっちの台詞か一瞬混乱してしまいました(汗

次回はとうとう結果発表ですが……
そこは読んでのお楽しみに。
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