第56話目次第58話
校長室

「ふむ……」
「……」
「……」

校長は二人の退学届けをようやく読み終えた。

「なるほどね、内容はよくわかった……が」

そう言うと、2つの退学届をつかみ……

「これは受けとれんな」



ビリビリッ!



思いっきり破り捨てた。

「えっ!」
「校長!」

「どうしてですか!これは約束ですよ!」
「そうや!うちらの決意はわかってくれたはずやろ!」

校長の行動に怒り出す二人。
しかし校長は平然としている。

「そんなことはわかっとる……君たち」
「なんですか?」

「もう一度順位表を見直しなさい」
「えっ?」「えっ?」

太陽の恵み、光の恵

第11部 決戦編 その10

Written by B
学校の屋上。

「どうして……どうしてなの……」

花桜梨はフェンスに伏せて泣いていた。

「どうしてこんなひどい仕打ちをするの……」
「公二さんも光さんも私以上に頑張ったのよ……それなのに……」
「どうして……どうして私が光さんより上なのよ!」
「光さんは私を信じてくれた……だから私は真剣勝負を受けた……」
「私も光さんを信じてた……だから大丈夫だと思ってた……」
「でも……なんで……なんで……なんで……」

花桜梨の顔は涙でグシャグシャになっていた。

「主人さんと光さんは、私を救ってくれた……まだそのお礼を返してない……」
「だから……今度は私の番だと思ってたのに……」

「私が……私が二人を地獄に落としてしまった!」
「また……また友達を裏切ってしまった!」



「もうだめ……」

花桜梨はおもむろにフェンスをつかむ。

「私は友達を2度も傷つけた……」

そしてフェンスをよじ登り始める。

「もう生きている資格なんてない……」

フェンスをどんどんよじ登る。

そして頂点までたどり着く。
花桜梨はフェンスの上に立ち上がった。

「公二さん、光さん、ごめんなさい……」
「もう私にはこうするしかないの……」
「私はこうするしか罪は償えないの……」



花桜梨はフェンスからグラウンドを見つめる。

「みんな、ごめんね……さようなら……」

そして花桜梨がフェンスから飛び出し宙を舞った瞬間。

「花桜梨さん!」

突然花桜梨は後ろに体を引っ張られるのを感じた。



どすっ!



そしてそのまま床に叩き着けられる。
なぜか痛みはない。

「どうして……!!!……琴子さん!」
「ま、間に合った……」

琴子が花桜梨の下敷きになっていた。
そう、琴子が花桜梨に飛びつき後ろに引っ張ったのだ。



花桜梨は琴子の胸ぐらを掴み思いっきり降り始めた。

「どうして……どうして死なせてくれなかったの!」
「花桜梨さん……」
「私は……生きていく資格なんてないのよ!」
「そんなこと……」
「友達を2度裏切って……どういう面して生きていけばいいのよ!」

花桜梨は掴んでいた手を離すと再び泣き始めた。

「花桜梨さん、大丈夫だよ」
「えっ……楓子ちゃん……それにみんな……」

花桜梨が見上げると友達が勢揃いしていた。

「楓子ちゃんが『花桜梨さんはよく屋上にいた』って言わなかったら、どうなってたか……」
「妖精さんの力を使って、水無月さんをフェンス頂上まで高くジャンプさせたんですよ」
「どうして……」

花桜梨の前には公二と光以外のいつもの仲間が勢揃いしていた。



「花桜梨さん、これを見てくれ」

純一郎が一枚の紙を花桜梨に差し出す。

「これは?」
「1年の順位表の縮小コピーだ」
「!!!」

花桜梨の表情が一瞬固まる。

「花桜梨さん、見ていただけませんか?」
「でも……」
「大丈夫だから〜、見てみてよ〜」
「……」

そういって、もう一度忌まわしい自分の順位を見てみる。

「!!!」

そこにあったのは……

20
八重 花桜梨
1E
67.842
20
陽ノ下 光
1A
67.842

なんと花桜梨の下に光の名前があったのだ。

「……20位以内じゃ無ければ21位も最下位も同じよ……」
「だから光さんのところをよく見て!」
「そんな……何度見たって……!!!……うそっ!……」

よく見ると……





















20
八重 花桜梨
1E
67.842
20
陽ノ下 光
1A
67.842

光の名前の左には「20」の文字があった。



花桜梨は何度も何度も同じ場所を見つめる。
目をこすり、瞬きを何度もして見ていた。

「20……20……20……」
「光も20位だったのよ!」
「そうだよ!あいつら賭に勝ったんだよ!」
「嘘じゃ……ないよね……」
「嘘じゃない!ちゃんと玄関前の順位表にもちゃんと書いてあるの!」

花桜梨の順位表を持つ手が震えていた。

「コンピュータも罪作りなことをするぜ、順位の並べ替えでこんないたずらするなんて」
「そうよ、同じ順位だったら一枚の紙に印刷すればいいのに、機械も融通が利かないのね」
「……」

花桜梨の涙は止まらない。
今の涙は悲しい涙ではない、うれし涙だった。

「さっ、玄関に戻ろう。公二達もあそこにいるはずだよ」
「うん……行く……みんな、ごめんね……」
「いいのよ、花桜梨さんが生きていれば……」
「ごめんなさい……」

花桜梨は立ち上がる。
そしてゆっくりと歩き始める。

「花桜梨さん」
「えっ?」
「よかったね♪」
「ありがとう……」



玄関前廊下

戻ってきた花桜梨の前には呆然と順位表を見つめる親友二人がいた。

「嘘じゃ……ないよね……」
「俺たち……勝ったんだよな……」
「信じられへん……」
「奇跡なのか……」

「光さん!」
「花桜梨さん!」

花桜梨の声に光が気づく。
二人は相手へ向かって走り出す。
そして二人は強く抱きしめ合う。



「おめでとう、光さん……」
「ありがとう……ごめんね」
「えっ?」
「ごめんね……花桜梨さんをこんなに辛い目にあわせて……」
「そんなことない……辛いのは光さんのほうよ……」


「うち、本当に終わったと思った……」
「私も……もう死んでお詫びするしかないと思ってた……」
「えっ……」
「みんなが探しに来てくれなければ……」
「まさか……」
「私、馬鹿だよね。勝手にで早合点して、勝手に死のうなんて思って……」


「ごめんね……そこまで追い込んじゃったんだよね……」
「そんなことない……私が弱かっただけ……でも大丈夫」
「えっ?」
「私には信じられる人がいる、それに賭には勝ったから……もう大丈夫」
「ごめんね……ごめんね……」
「光さん、あなたは勝ったのよ、もっと堂々としなくっちゃ!」
「うん、ごめんね……」

花桜梨と光はそのまま抱きしめ合っていた。



抱き合う二人の横では公二が匠に尋ねていた。

「匠、赤井さんは?」
「ああ、校長室に怒鳴りにいったよ」
「へ?」
「『同点ってどういうことなんだ!』って、直前まで泣いてたのにさぁ」
「なるほどな、きっと人前で泣いて恥ずかしかったんじゃないのか」
「そうかもしれないな」

「しかし、なんで八重さんと光ちゃんは同順位なんだ?」
「そういえば……」
「普通、偏差値とって平均した場合、同順位なんてありえないぞ」
「確かに……」

確かにそうである。
どうして同順位か、さっぱり理由が思いつかないでいた。

「それだったら、理由はあるぜ」
「赤井さん」

ほむらがはぁはぁ言いながら戻ってきていた。
目が真っ赤な事から、さっきどれだけ泣いていたかがわかってしまう。

「陽ノ下と八重の答案の点数を比べてみなよ」
「わかった……光、八重さんと答案を比べてみてよ」
「でも答案は教室だから戻らないと」



1年A組の教室

「うそっ……」
「こんなことって……」

光と花桜梨は自分の答案用紙を比較していた。
そして驚いていた。
周りも異常な光景に驚いていた。

「おいおい、冗談だろ?」
「冗談ではないみたいです……」
「びっくりだよ〜」
「ホント、ボクも驚いた……」
「これだったら同じ順位になるわけだね……」

まさに奇跡だった。

「あたしも和美ちゃんから聞いて驚いたけどな……」
「まさか、全教科同じ点数だとはな……」

問題ごとで違いはあるものの、合計ではまったく同点だったのだ。
これなら偏差値も同じなので順位も同じになるわけである。



「とにかく、賭は主人と陽ノ下の勝ちだ」

「光……」
「あなた……」

公二と光は初めて喜びを爆発させた。

「やった〜!」
「やった〜!」

もはや誰もこの結果を否定することができない今、全てが終わったのだ。

二人は勝ったのだ。
周りの視線に、退学させようとした先生達に、そして自分自身に。



「公二やったな!」
「よくやったよ」
「よかったね、公ちゃん」
「頑張ったね、こうくん」
「匠、純、楓子ちゃんに、茜ちゃん……みんな、ありがとうな」

「おめでとうございます!」
「美幸もとっても、うれしいよ〜!」
「おめでとう……」
「光、よかったわね……」
「美帆ちゃん、美幸ちゃん、花桜梨さんに琴子……みんな、ありがとう!」

そして最後にほむらの威勢の良い声が教室に響き渡る。

「よし!これから二人を胴上げだ!」

ほむらの一声で琴子達やクラスメイトが集まった。

「おいおい、待ってくれよ!」
「そんなこと、ちょっと!」

そして二人を思いっきり胴上げした。

「「わ〜しょい!わ〜しょい!」」

何度も何度も胴上げされて、二人は夢心地だった。



胴上げも終わり、騒ぎも落ち着いた頃。

「ふうっ〜疲れたよ」
「ほんま、大変やった」

「ねぇ、ママ〜、だっこ〜」
「あっ、恵!」

さっきから親の訳のわからない騒ぎにつきあわされて疲れ切っていた恵だった。

「あっちこっちに連れてかれて恵も疲れたやろな」
「きっとそうだよ、光、だっこしてやれよ」
「うんそうだね」

光は恵を持ち上げてだっこした。

「恵、これでいいかな〜?」
「わ〜い、だっこだっこ〜」
「よかったね〜♪」

恵を抱える光、それを見つめる公二。
人の顔は久しぶりに見せた親としての顔だった。



幸せそうな3人の様子を琴子、匠はじっと眺めていた。

「それにしてもよかったわね」
「そうだな」
「……」

そんななか、美帆はなぜか思案にふけっていた。

「どうしたの?美帆ちゃん」
「私……なんなこんな光景どっかで見たような気がするんですが……」
「そういえば、俺もそんな気がしてたんだ……」
「実は私もなのよ、でもどうしてかしら?」

3人とも今の公二達の姿を見たような気がしていた。
どこで見たのか?どうしていたのか?それは思い出せないでいた。

「恵ちゃんは毎日連れてきましたよね?」
「ああ、でも公二達があんないい顔をしたのは今日が初めてだぞ?」
「そうなのよ……こういうのなんて言うのかしら?」

考えている3人の背後に美幸が助け船を出した。

「美帆ぴょん!あのね〜、そういうのをデシャンって言うんだよ〜」
「美幸ちゃん、それ違うような……」
「あれ?デサイーだっけ?……う〜ん、違うな〜」
「あの〜、それってデジャビュじゃないのか?」
「あっ、そうそう、それ〜!」

助け船が効果があったのかわからないが名前はわかったらしい。


「そんなことはどうでもいいのよ!この光景をいつみたかって……」

「ああっ!」
「ああっ!」
「ああっ!」

3人の頭の中には去年の春の茶道部室が甦ってきた。



『机があって、椅子があって、黒板もありますね……』
『なんかを見て微笑んでますね……とても幸せそうですね……』
『子供です!赤ちゃんなのでしょうか?』
『う〜ん、1才から2才ぐらいなのでしょうか?よくわかりません……』
『あれ?子供を抱きかかえましたよ!』
『いいえ。女性みたいです。でもここの制服を着ていますね』
『赤毛のショートカットなのはわかるのですが……どこかで見たことがあるような……』



「あのときの水晶玉占い……」
「そうだ、美帆ちゃんの予言そのままだ……」
「まさか、大正解だなんて……」
「自分でもビックリです……」

「でも単純に正解だと言ってもさ……」
「それまでにいろいろありましたね……」
「いくら白雪さんでもここまでは予言できなかったでしょ?」
「はい……」

「しかし本当によかったな……」
「これで二人も落ち着けるでしょうね」
「よかった……」



抱きかかえられた恵が光に尋ねていた。

「ねぇ、ママ」
「何なの、恵?」
「ママってヘン。ないて、にこにこして、ヘン」
「えっ!」

恵の指摘は的確だった。

「あははは!今日は泣いたり笑ったりだったからな」
「そうやね、地獄と天国だったもんね、うふふふ!」

確かに地獄に突き落とされた二人。
それだけに今の天国は格別だった。

「光……いつか、今日のこと恵に話せるかな?」
「そうやね……ここに来て今日のこと、楽しく話せそうね」

「今日は俺たちが親として半人前になった日ってことかな?」
「そういう事やね、記念日やね」

まだ半人前。
しかし二人にとっては大切なことだった。
本当に今日はこれからも記憶に残る日になるだろう。

「恵が大きくなったら、今日の俺たちをどう思うだろうね?」
「あきれちゃうかもね♪」
「あははは!」
「あははは!」

こうしてあと2年の高校生活と親としての誇りを手に入れた公二と光。

初めてあってから十数年。引っ越しで別れてから8年。
婚約してから2年。恵が誕生して1年半、そして高校入学してから約1年。

高校生には辛すぎる様々な困難を乗り越えて手に入れた幸せは格別だろう。

これからしばらくは平凡な生活という、二人にとって安楽な生活が待っている。。
それは二人が自分の信念と愛を貫き通した事に対する、神様からの最高のご褒美かもしれない。
To be continued
後書き 兼 言い訳
めでたしめでたしという結末になりました。

で、逆転のトリックは、
「花桜梨と光が20位タイ」というものでした。
たぶん、みなさん正解でしょ?
この仕掛けはこの部を書き始めたときから考えてました。

負けて二人が退学→就職→友達が復学に懸命になる→復学が決定→二人はそれを拒む→友達の説得で復学
なんてルートも一瞬考えましたが先がなが〜くなりそうだったので一瞬で没になりました(爆


花桜梨さんが自殺未遂を起こしました。
いろいろ意見はあるとは思いますが、あえて入れてみました。
あれだけ辛い思いを受け入れてそれが報われなかった花桜梨さん。
たぶん花桜梨さんの精神状態はボロボロになると思ったからです。

花桜梨さんは一度バレー部の事件でボロボロになってます。
1度目はなんとかなります、比較する物がないのですから。
2度目はそのひどさが身にしみてわかっているだけに余計にショックは大きいのだと思います。
それだけ花桜梨さんは繊細な女性だとおもったからです。

しかし、自殺寸前の花桜梨さんを妖精さんの力を使って止めるなんてこといいのか?(まあいいや


とにかく、公二と光はやっとささやかな幸福をつかむことができたようです。
話の最後に書きましたが、この二人の物語は当分波乱がない予定です。
これだけ苦労したんですから、幸せな時間を与えてもいいかなと。

1年次編は残り3部です。これはもう確定です。
12部は公二と光のらぶらぶな学校生活でも書こうかなと思ってます。
13部からは春休み、まだ1回も登場してないあの娘が遂に登場します。
14部は1年次最終部です。これは内容は秘密です。

当分シリアスはなしで、らぶらぶほのぼの路線になるはずです。
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