第57話目次第59話
期末試験の結果が発表された日の放課後。
全員上機嫌。
とにかく嬉しくてじっとしていられないといった感じだ。

そこで匠がみんなを誘う。

「さてと、今日は公二達のお祝いでもするか!」
「いや、ちょっと今日は……」

「あら?なにか用事でもあるの?」
「まあ、そんなところ……」

「お礼は週末にでもしてくれないか……」
「じゃあ、そうするか」

ところが一番上機嫌のはずの公二と光はどうもつれない。
今日はよほど都合が悪いようだ。

「じゃあ俺たちはこの辺で……」
「えっ?もう帰るの?」
「う、うん……それじゃあ……」

そういって、公二と光は恵を連れてさっさと帰ってしまった。
そのつれなさぶりにみんな不思議がった。

「変だね、なんかそわそわしてるね」
「用事ってなんだろう?」
「まあ明日聞けばいいことではないですか?」

その時は用事の内容についてだれも気にしていなかった。

そして次の日、公二と光は3時限目に登校するという大遅刻をすることになる。

太陽の恵み、光の恵

第12部 平穏編 その1

Written by B
「ふぁ〜あ……」
「ふぁ〜あ……」

登校してからも公二と光はとても眠そうな顔をしていた。

「おい公二。いったいどうしたんだ?」
「ん……なんだ?」
「いや……なんでもないよ」
「そんなことないだろ。遅刻なんて初めてじゃないのか?」
「まあ、そうだけど……」

公二も光も遅刻は今日が初めてだったのだ。
しかも大遅刻。どう考えても普通じゃない。

「とにかく寝坊なんだ……納得してくれよ」
「わかったよ……」

先生には寝坊と言っていたのだが、どうも匠は納得できない。
しかし公二達がそう言い張るので、渋々納得することにした。



(言えるわけないだろ……匠にでもな)
(うん……恥ずかしくて言えないわよ)

(ラブホテルでぐっすり寝てましたなんて……)
(死んでも言えないわよ……)

なんとこの夫婦、家に帰ってからすぐにラブホテルへ一直線だったのだ。

しかし、これにもちゃんとした理由がある。

誘拐事件で入院してから約3ヶ月半
公二と光は、一回も肌を重ねていない。
それどころかキスすらしていなかったのだ。

最初の1ヶ月半は入院していたので、これは仕方がない。
それから2ヶ月は、自ら封印したのだ。

それも昨日までの賭のためだった。
賭に勝つために「夫婦断ち」をして願掛けをしたのだ。

まあ、試験勉強を必死にしなくてはいけないのにそんなことをする暇はないのだが、
それでもキスも封印したのは、この二人にとってはさすがに辛かったらしい。

そして昨日試験が終わって、封印も解くことになった。
賭に勝った喜びもあって、いても立ってもいられずに……とまあ、あとは推して知るべし。



このことは誰にも秘密にするはずだったのだが……



「あんたたち、ばっかじゃないの!」



放課後、茶道部室

琴子に呼ばれた公二と光は、今日の遅刻の理由を聞かれた。

二人は寝坊と答えた。
しかし、匠には通用しても琴子には通用しなかった。

琴子が核心をズバズバと突いていったために、観念して正直に話してしまった。
さらに琴子の誘導尋問にことごとく引っ掛かり、ここでは書けないほど詳細に話してしまったのだ。

聞く方も聞く方だが、正直に答える方も答える方である。

「昨日あんなことがあって、夜いきなり?」
「……」
「娘放っておいて何やってるの?」
「……」

琴子は呆れた表情を見せている。
その琴子の前で体を小さくしてしまっている公二と光。

「夫婦なのはわかってるけど、物には限度があるのよ!」
「……」
「そういうことは土日にしなさい!」
「……」

はっきり言って公二と光に反論の余地はない。
やってた事が事だけに何も言えない。

「それに朝目が覚めてから2時間ベットの中って、あなた達学生でしょ!」
「でも……そのままでいたかったんだもん……」
「えっ?」
「とっても幸せだったから……どっぷり浸っていたかったもん……」
「俺も……光と一緒に幸せに浸っていたかったから……」
「この馬鹿夫婦……」

それでも相変わらずの二人。
あまりのラブラブ話に怒り半分呆れ半分の琴子だった。



「まあ、明日からはそんなことはないでしょ?」
「大丈夫だよ……俺たちもそんなに馬鹿じゃない」
「うん……」

「じゃあ、バイトがあるので帰るね」
「それじゃあ」

公二達は不意に茶道部室の扉を開けた。



がらがらっ!



「えっ!」「えっ!」
「花桜梨さん?」
「こ、こんにちは……」

扉には聞き耳を立てていた花桜梨がいた。
花桜梨は硬い笑顔を二人に見せていた。
こういうのを苦笑という。

「まさか……」
「あははは……」

「うちの夫婦生活を全部……」
「いや、遅刻の理由に興味があったから……」

二人は顔を真っ赤にさせていた。
さすがに人に知られると滅茶苦茶に恥ずかしい。

「なんでここに?」
「琴子さんなら、全部白状させてくれそうだったから……」

「まさか、琴子……」
「やっと気が付いたの?」
「……」

琴子は最初からみんなに理由を聞かせようとしたのだ。
二人は完全に罠にはまっていたことになる。



「ところで花桜梨さんだけ?」
「違うわ……」

「じゃあ、どこに?」
「あそこ……」

「えっ?」
「あっ……」

花桜梨の後ろに鼻血を垂れ流して倒れている人影がたくさん。
そう、匠、純一郎、美帆、美幸、楓子、茜、ほむらの7人である。

遅刻の真の理由を聞こうと茶道部室に来たのまではいいのだが、
あまりに過激な話に鼻血を出して失神してしまったのだ。
最後まで耐えられたのは花桜梨だけということらしい。

「あなたたち、過激すぎ……」
「……」

「普通じゃないわ……」
「……」

「楓子ちゃんも失神したのよ……どれだけ過激かわかるでしょ?」
「……」

この事件があったため、公二達の周辺ではこの日の遅刻の話題は当分タブーとなってしまった。



公二と光、自分たちの立場をよくわきまえている。
確かに夫婦なのだが、学校では学生であることを自覚してそんなにぶっ飛んだことはしてない。

しかし、この夫婦は一度愛の炎が燃え出すと誰にも手を付けられない。
しかも燃え出すのが頻繁でないだけに、燃え出すとその炎は異常に大きい。

昨日の愛の炎は格段の大きさだった。
あまりに大きすぎたために、その余韻が遂に学校にまでに広がってしまう。



さらに次の日の朝。

「あっ、光、おはよ……」
「公二、おは……」

公二と光をみた匠と琴子は絶句した。

そりゃ、絶句するはずだ。
公二の右腕を両手でがっちりと抱きしめ、体を公二に預けながら歩いている光の姿を見れば。

昨日までは手もつながずに並んで登校していたのだ。
それが今日はこの有様。

光はウットリと幸せな表情を浮かべている。
公二はその表情を見つめて幸せな表情を浮かべる。
完璧に二人だけの世界である。

夫婦なのである程度は許されるのだがあまりにやりすぎである。

「……なんなのあれ……」
「……おいおい、あれで教室まで行くのかよ……」

匠と琴子は今後の成り行きに不安を感じていた。



その予感は見事に的中する。

「………」
「………」

1年A組の教室。
匠をはじめとするクラスメイトは絶句していた。

公二と光の席は隣である。
今まで恵の事があったので、これは仕方がない。

問題は二人の机がぴったりとくっついていることである。
さらに授業中は二人で一つの教科書を見ている。
もちろん体を寄せ合って。

誰が見てもいちゃいちゃしているということがよくわかる。

授業中、先生もあまりのいちゃいちゃぶりに文句を言いたかったのだが、
クラスメイトの顔に「そっとしておいてやってくれ」と書いてあったので無視していた。



そしてお昼休み。
クラスメイトが予想していたとおりの事態が発生した。

「ねぇ〜、あ・な・た♪」
「なんだ、光?」
「おべんとうにしよ♪」
「そうだね」

この瞬間クラスメイト全員が凍り付いた。

当然だ。
猫なで声で「あ・な・た」なんて声を聞いたら普通凍り付く。



1年B組の教室

純一郎のところに匠がやってきた。
匠の表情は暗い。

「純。今日から当分ここで弁当を食わせろ」
「なんだよいきなり。匠の教室じゃダメなのか?」

「ダメだよ」
「どうして?」

「公二と光ちゃんががいるんだぞ?」
「あの二人がどうしたんだ?」

「……察しろよ……」
「……な、何となくわかったような気がする……」

「鼻血を出したくなければ、おとなしくここで食わせろ」
「わ、わかった……」

さすがの純一郎もわかったようだ。
おとなしく自分の机で食べることにする。

がらがらっ

扉から琴子が入ってきた。
手を目の付近に当てて「頭痛くなる……」と言いたそうな雰囲気だった。

「どうしたの水無月さん」
「頭痛くなりそうだわ……」
「もしかして……」
「ええ、そうよ。光の様子を見に行ったのよ」
「どうだった?」
「あの馬鹿夫婦……」

あの琴子ですら何も言えなかったらしい。
そこまでの状況とは?
誰だって気になるのは当然かもしれない。

「水無月さん。どういう状況だったの?」
「おい、純!」

匠はビックリしていた、「おまえそんなに鼻血が出したいのか?」と言わんばかりだ。

「俺だって興味があるよ。それも水無月さんが呆れるほどの事情なんて」
「あのね……」



その琴子曰く「馬鹿夫婦」のお昼とは……

「どうかな?私の初めてのお弁当?」
「おいしいよ。最初に比べてだいぶ上手になったと思うよ」
「嬉しいな♪」
「光も食べろよ。冷めちゃうぞ」
「うん!そうするね」

公二と光は光のお手製のお弁当を食べていた。

それも一個のお弁当を二人で。

そう、光は二人分が入る大きなお弁当箱にお弁当を作ってきたのだ。
もちろん、二人で仲良く突っついて食べるためである。

光が弁当箱から唐揚げを取り出す。

「はい、あなた、あ〜ん!」

クラスメイトが凍り付く。
しかし公二はそんなことにはお構いなしに光の箸の唐揚げに食いつく。

「あ〜ん……もぐもぐもぐ……うん、おいしい!」
「嬉しいな……ねえ、あなた……私も……」

今度は公二が弁当箱から唐揚げを取り出す。
躊躇無く光は公二の箸の唐揚げに食いつく。

「はい、光、あ〜ん!」
「あ〜ん……もぐもぐもぐ……普通に食べてるよりも美味しい気がする!」

再度クラスメイトは凍り付く。
それからはずっと食べさせっこが続くことになる。



「……とまあ……呆れて何も言えないわよ」
「………」

確かにみんな呆れて何も言えない。

「純、大丈夫か?」
「なんとか……まあ、あいつらのおかげでラブラブなのもだいぶ慣れたよ……」
「成長したのね……」

「嬉しくない褒め言葉だけど……」
「成長したなら見に行くか?」
「そ、それはやめとく……そこまでは……」
「賢い選択だな……」



がらがらっ



すると扉から美帆が教室に入ってきた。
それも鼻をつまんでいる変な格好で。

「美帆ちゃん、どうしたの?」
「あの……匠さん……」
「なに?」

「ティッシュ……ありますか……」
「あるけど……まさか、美帆ちゃん……」
「ええ、直視してしまいました……」

「美帆さんも弱いのね……あれで鼻血をだすなんて」
「あれは特別です……」

その日の午後の授業では鼻にティッシュを詰めた1年生が大量発生したのはいうまでもない。
しかもその日の購買部のティッシュの売り上げが5倍になったということらしい。



午後の授業も公二と光の暴走?は止まらない。
授業中も休み時間もいちゃいちゃべたべた、もう誰も関わろうとしない。
注意したいのはやまやまだが、先週まで苦難の日々だったことを考えると躊躇してしまう。

結局この暴走ぶりは、放課後二人がバイトのために一緒に帰るまで続くことになる。



そして、このやりきれない想いの反動が部活動に跳ね返る。
野球部のグラウンド。
楓子が異様に張り切っている。
もちろん右手にバット、左にて硬式ボールを持って。

「みんな〜!今日のノックはいつもより倍なんだモン♪」
「な、なんでですか、マネージャー?」
「『長谷川、マリナーズ移籍記念ノック』ですか?それとも『千代大海応援ノック』ですか?」

「今日はね……恥ずかしくて言えないモン♪」
「そんな〜……」

「とにかくいくよ〜!」



カキーン!カキーン!カキーン!カキーン!カキーン!カキーン!



「うわぁぁぁっぁ!」

その日の野球部はいつもより余計に厳しかった。



茶道部の茶室。
こちらでは琴子が荒れていた。

「こらっ!そこ!手の使い方が間違ってるわよ!」
「そ、そんなことはないような」

「違う!手が微妙に傾いてる!」
「えっ、いままでと変わりませんけど……」

「違うっていったら違うの!とにかく直しなさい!」
「は〜い……」

いつもはこんなに厳しくない。
どうかんがえてもおかしいとしか思えない。

「ねぇ、今日の水無月さん、気合いが入ってない?」
「あんな水無月さん珍しいね」
「何かあったのかしら?」
「たぶん……」



剣道部練習場
こちらも練習が激しくなっている。
とくに1年生の叫び声が大きい。

「おい、穂刈」
「なんですか先輩?」

「なんか1年生が異常にハイテンションなんだが……」
「そういえばそうですね……」

「なんかあったのか?」
「さあ?」
(言えるか……あんなこと……)

純一郎は理由はよ〜くわかっているがあえて言わなかった。

「そうか、柔道部も空手部も1年生が荒れてるみたいなんだ」
「でも、試合には平常心が大切ですから」
「さすがだな、穂刈の言うとおりだ」
(俺は見慣れているが、他の人には過激だったからな……)



バレー部が練習している体育館。
花桜梨は黙々と自主練習をしていた。
それも異様に撃ち込んでいる。

「八重さん、スパイクの練習もうやめたら?」
「先輩……すいません、もう少し……」

「もう100本は打ってるわよ?」
「今日は打ちたい気分なんです……」

「あなたセッターでしょ?そこまでする必要は……」
「一応全部出来る方が……」
「まあ、そこまでいうなら仕方ないけど……」

さすがの上級生も花桜梨を止められなかった。
無理もないと言ったところかもしれない。



生徒会室も例外ではない。
荒れていたのは生徒会長のほむらではない。
風紀委員長の橘 吹雪が荒れていた。

「会長!今日はこの書類を処分してくださいよ!」
「ちょ、ちょっと待てよ!昨日の3倍はあるぞ!」

「昨日は昨日、今日は今日!さっさとやってください!」
「おい、今日はなんか変だぞ?」
「そうっす!なんかおかしいっす!」

「そ、そんな……関係ないわよ!とにかく仕事して下さい!」
「へ〜い……」

どの部活も荒れていたそうだ。
その原因は一日中いちゃいちゃ見せつけていたあの二人であることは明白だった。

しかし当の二人はそんなことになっているとは全く考えておらずバイトに励んでいるのであった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
第12部は平穏編。
その名の通り、平穏な生活を手に入れた二人を中心にしたお話です。
1話1話に関連性があまりありません。

前回の後書きで「らぶらぶほのぼの路線」と書いたのですが……
どうでしょうか?ツッコミにくい話でしょ?(こら
私だって解説しにくいですから(こらこら

この話、訴える物はなにもありません。
ただ二人の暴走?の様子を書いただけですから(汗

ちなみに言っておきますが、公二と光をただ暴走させたわけではありませんから。
根拠があってこの二人は暴走してますから。

しかし、こういう話って意外と書きにくいことがわかりました。

次回は二人のバイトのお話です。
やっぱり内容は無いので期待しないでね(こら
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