第59話目次第61話
朝。

部屋の中にも光が差し込んでくる。

部屋の中心には、部屋の主の愛の結晶がすやすやと眠っている。

そして部屋の端にあるダブルベッドには男と女が抱き合って眠っていた。
何も身につけず、生まれたままの姿で。

二人を包んでいるのは白いシーツ一枚だけ。


二人は幼馴染みであり、高校生でもあり、夫婦であり、父と母である。
しかし昨日の夜はただ「男と女」として愛し合った。

好きだ。愛してる。

この言葉だけしか頭になかった。その言葉と本能だけで愛し合っていた。


そして、今ベットで眠っている二人は、とても幸せそうな顔をしている。


しばらくして二人が目を覚ます。

「……ふぁ〜あ……」
「……ふぁ〜あ……」

お互いに起きたことを確認すると二人はじっと見つめ合う。

「……おはよう、光」
「……おはよう、あなた」



チュッ!



二人の一日はいつもモーニングキッスで始まる。

太陽の恵み、光の恵

第12部 平穏編 その3

Written by B
朝、まだ7時半。
二人の朝は早い。

ただし、起きるのが早いだけである。
実際は、このままベットで語りあっている。
昨晩、愛しあっていようとなかろうと。

「ねぇ、あなた」
「なんだい光?」
「うち、枕が変わると眠れなくなりそう……」
「枕って、俺の左腕がか?」
「うん、これがうちにとって最高の枕なんだ……」

そういって光は公二の左腕に頬ずりをする。



「俺は枕が変わっても眠れるほうだなぁ……」
「そうなんだ……」
「でもな」
「でも?」



「俺には最高の抱き枕がここにあるからな」



ぎゅっ!



公二は光を強く抱きしめる。



「うふふ、私も最高の抱き枕がここにあるんだ」



ぎゅっ!



光も公二を抱き返す。
そして二人は強く抱きしめあう。

「光……」
「あなた……」

二人の視線が重なる。
こうなると自然に顔が近づく二人。

「んっ……」
「んっ……」

そして再び二人は甘い甘い口づけを交わす。

しばらくして二人は再び見つめ合う。

「光……」
「……」

「シャワー、浴びようか?」
「うん」

そう言うと二人は恵に気が付かれないように部屋を出る。



毎日二人は眠気覚ましに朝シャワーを浴びる。
しかし、眠気覚ましだけではない。
昨日燃え上がらせた愛の炎をシャワーの水で鎮火させる意味もあるのだが……

二人一緒に浴びていては水ではなくガソリンを注いでいるような気がする。

「あさのシャワーって本当に気持ちええなぁ!」
「ほんとうだ!気分がすっきりするよ」

しかし余計な心配は無用のようだ。
さっきの甘い雰囲気は無くなっていた。
すでに普段の公二と光に戻っている。

「でもシャワーをするのにはちょっと狭いかな」
「そりゃそうだろ。二人で一緒にシャワーを浴びてるんだから」
「でも一緒に浴びると、ちょっと幸せになれるんだよ」
「まあな、ちょっとした幸せってやつだよな」

体を軽く洗い、シャンプーで頭を洗う。
狭い場所だが二人で協力して体を綺麗にする。

「しかし、毎晩あんなことやって、恵は寝られたのかな?」
「大丈夫よ、恵はぐっすり眠ってるみたいだったよ」

「でも将来、恵が寝ている側で俺たちが愛し合っていたなんて知ったら……」
「グレちゃうね、きっと♪」

「あははは!」
「あははは!」

いやはや、のんきな夫婦である。



シャワーを浴びた二人は、制服に着替える。

「あなた、着替えるからあっち向いて着替えて」
「ああ、わかった」

同じ部屋で着替えるのだが、着替えている姿は見ない約束だ。
これは一緒に暮らしてからそうしていることだ。

背中越しに公二が訪ねる。

「なあ、光」
「何?」
「なんで着替えているところは見ちゃいけないんだ?」
「だって……恥ずかしいから……」
「えっ?」

背中越しに光が恥ずかしそうに答える。

「あなたの前ではもっと恥ずかしい格好をしているし、他人には言えないこともやってるよ、でも……」
「いいよ、女性はいつまでも恥じらいがあった方がいいって聞くからな」
「そうそう、うちもいつまでも女でいたいから……」

その言葉に公二はわかったようで、また自分の着替えに戻る。
しかししばらくしてあることに気が付いた。

「おい光、おまえ幾つなんだよ?」
「ピッチピチの16歳だよ♪」

「今の台詞、16歳の乙女がいう台詞じゃないよな」

「そうかな?」
「そうだよ」

「……」
「……」

なぜかはわからないがお互いに黙ってしまう。

「あなた」
「なんだ?」


「こんな私でも乙女って言ってくれて……ありがと」


「光……」

光の言葉はとても重かった。
その重さは公二はよくわかっている。
だからこれ以上は何も言わなかった。



二人が制服に着替え終わった頃、恵が目を覚ます。

「う〜ん……」
「あっ、恵が目を覚ましたな」
「そうだね、起こさないといけないね」

この瞬間、「男と女」であった二人は「父と母」へと変わる。
寝ぼけ眼の恵を暖かい笑顔で起こす。

「ふぁ〜あ……」
「恵、おはよう」
「恵、朝だよ、起きないと」
「うん、パパ、ママ、おはよう……」

恵は目をこすりながら起きあがる。

「おはよう」
「今日も頑張ろうね」
「うん、がんばろ……」

二人は恵を着替えさせると、一緒に朝食ととるべく下に降りていく。



そして朝食を取り終わると登校となる。
恵が玄関まで見送りにきてくれた。

「じゃあ、いってくるからね」
「うん」
「家でおとなしくしているのよ」
「は〜い!」

恵の笑顔はとっても明るい。
恵の笑顔を見るだけで元気が沸いてきそうだ。

「よ〜し、いい子だ。ご褒美に今日は帰りに絵本でも買ってくるよ」
「わ〜い、わ〜い!」
「ねぇ、あなた、恵を甘やかせすぎじゃあ……でも、まあいいか」

公二の言葉に光は怒り口調だが本心はまったくそう思っていないらしい。

「じゃあいってきます!」
「いってきま〜す!」
「パパ、ママ、いってらっしゃ〜い!」

そして二人は家をでて学校へと向かう。
学校へ向かうと「父と母」だった二人は「恋人同士」へとまた変わる。



昨日と同様に公二の右腕をがっちりと抱く光。
それをまったく嫌がらない公二。

そのままの状態でゆっくりと歩き出す。

「光、本当に大胆だな……」
「うん、自分でもそう思う……」
「それだったら……」
「でもね、最近やっとこういう事が堂々と外でできる関係になったから……」
「確かにな……」

光の腕に力が入る。
光が思いっきり腕を抱いているので、公二の腕には柔らかい光の胸を感じる。
最近は毎晩掌で光の胸を感じているけど、やっぱりドキドキしてしまう公二だった。

「馬鹿夫婦って呼ばれてもいい。犬娘って呼ばれてもいい。今はただ甘えていたいの……」
「わかったよ、馬鹿夫婦の片割れとして好きなだけ甘えていいからな」
「ありがとう……」

「光は本当に犬のように甘えたがりだな」
「そうかな……」
「俺は大好きだけどな」



するといきなり光が公二の腕を放す。

「あなた」
「なんだ?」

光はいきなり道路にしゃがみ込む。
そして公二を見上げる。
そして光が一言。



「わん!」


「はぁ?」


「わんわん!」



光が可愛らしく犬の鳴き真似をした。
突然の行動に驚く公二。

「どうしたんだ光?」
「えへへ……犬っぽかった?」
「……ああ、犬っぽくて可愛かったよ」

公二は本当に光の犬の鳴き真似は可愛くてしょうがなかった。
本当にこんな可愛い犬がいたら。
そんなことまで思ってしまっていた。

「ありがと、じゃあ、今日はもっと甘えていいかな……」
「いいよ」
「やった〜!」

公二は立ち上がった光の頭を優しくなでる。

「まったく、俺の子犬ちゃんは本当に甘えんぼだな」
「わん!」

再び公二の腕を抱き、犬鳴きをする光。

端から見ていれば馬鹿な会話だが、二人にとってはこれで十分幸せである。

そして二人は校門にたどり着く。
この時点で二人は「恋人同士」から「高校生」に変わっていなければならないのだが、
最近の二人はまだ「恋人同士」が抜け切れていないのだ。



授業が始まった。
クラスメイトは硬直していた。教師もまた硬直していた。
その硬直具合は昨日まで以上だった。

別に机をくっつけているわけでない。
横でいちゃいちゃしているわけでもない。
普通に授業を受けている。

ただ……

椅子に座っている公二の膝の上に光が座っているだけである。

後ろの公二は光のお腹の前に手を組んで抱きしめている形になっている。
ノートは光がとっている。
そして公二は光の肩越しから前を見ている格好になっている。

どう考えても普通の格好ではない。
そんな格好は教室でなくてもしない。

硬直するのは当然である。

「ねぇ、あなた。なんか今日の授業の進み具合が遅くない?」
「たしかに、そんな気がする」
「どうしてだろうね?」
「どうしてだろうね?」

原因は自分たちであることに薄々気が付いているのだがあえて口にしない二人だった。



そしてお昼休み。

二人は屋上で校庭をながめながらお弁当を食べていた。
教室で食べようかと思ったが、クラスメイトの硬直ぶりにさすがに気が引けたのだ。

屋上には偶然かはわからないが二人っきりだった。

そして二人は一つのお弁当箱をつついて食べる。
光は公二の膝の上に座ってる

「ねぇ〜、あなた。おねが〜い♪」
「まったくしょうがないな。はい、あ〜ん!」
「あ〜ん……もぐもぐもぐ……美味しい!」
「そりゃ、光のお弁当だからな」

いつものように二人で食べさせっこをしていた。

「ありがと!じゃあ、あなたも♪」
「はいはい……お願いするね」
「うん、はい、あ〜ん!」
「あ〜ん……もぐもぐもぐ……うん、やっぱり美味しいな」

公二と光は二人だけの強烈な世界を作ってしまっている。
見える人には二人の周りにはピンク色のオーラが湧きあがっているのが見えるかもしれない。



しかし今日は光の様子がちょっと変だ。
なにやら考え事をしているらしく、すこし頬が赤い。

光は考えていたことを公二に告げる。

「あなた……」
「どうした?そんな赤い顔をして?」
「お願いがあるんだけど……」

そう言うと光は鞄からごそごそと何かを取り出そうとしている。

「なんだ?」
「これ……」

光が公二に見せたのは一本の缶コーヒー

「あのぅ……そのぅ……口で……私に……」

顔をもっと真っ赤にさせながらもじもじとしながら話す光。
公二には光の言いたいことがわかった。
公二も顔を真っ赤にする。

「いいのか?ここは学校だぞ?」
「うん、でも……やってみたかったから……」
「そうはいってもな……」
「誰もいないし……おねがぁい……」

甘え声でおねだりをする光。
公二は光の甘え声にはかなり弱い。

「わかった……」
「ありがと……」



「じゃあいくよ……」

公二は真剣な表情をつくる。
そして缶コーヒーを一口口に含む。
そしてそのまま光に顔を向ける。

光が目を閉じる。
公二が顔を近づける。
唇と唇が重なる。
そして公二の口の中のコーヒーが光の口の中に流れる。

そう、光は口移しをしたかったのだ。

唇が離れる。
光も公二も顔は真っ赤だ。

「じゃあ今度は私……」

そういって、光が缶コーヒーを一口飲む。

再び唇が重なる。
光の口の中のコーヒーが公二の口の中に流れる。

缶の中身はブラックコーヒーだった。
しかし口の中のコーヒーはなぜかほんのり甘かった。



屋上で二人っきり。
学校でする初めてのキス。
それも口移しという少しエロチシズムも混ざった行為。

公二も光も完全に普通の思考状態ではなくなっていた。
そう、自分たちでストッパーを外してしまったのだ。

「光……」
「あなた……」

再び唇を重ね合わせる。
もう何も見えない。何も聞こえない。
目の前の愛しい人の姿しか見えない。愛しい人の声しか聞こえなかった。



午後最初の授業。
教科担任が出席を取る。
すると公二と光がいない。

先生は前の席にいる匠に聞いてみる。

「おい、坂城。主人と陽ノ下はどうした?」
「さあ?どこかに行ったんじゃないですか?」

どうやら誰も場所を知らないらしい。

「誰か探しに行かないのか?」
「いやですよ」

匠ははっきりと拒否した。
まわりのクラスメイトも首を縦に振り、匠の意見に同調する。

「どうして?」
「だって公二と光ちゃんですよ。もし探しにいってとんでもない状況を見ちゃったらどうしてくれるんですか?」
「それは……」

「誰だってトラウマになるのは嫌ですよ、先生もそうでしょ?」
「ああ……」

再びまわりのクラスメイトは首を縦に振る。
匠の意見に同調しているようだ。

「それにあいつらは勉強できますよ。授業の1時間ぐらいたいしたことはないですよ」
「そうか……じゃあ授業を始めるか……」

結局授業は公二と光の存在は無視されたまま始まった。



その二人は屋上にまだいた。

(光……止まらない……)
(ダメ……止められない……)

公二と光の熱いキスはまだ続いていた。

(無性に光とキスがしたくてどうしようもないんだ……)
(体中がキスを求めているみたい……)

缶コーヒーの中身はもうなくなっていた。

(なにか光の唇に吸い寄せられているみたいだ……)
(体が公二に引き寄せられてる……)

しかし、キスは終わらない。
いや終わらせられなくなっていた。

(やめたいんだけど……やめたくない……)
(やめたい……でももっとキスしたい……)

もう、体が頭から離れてしまっていた。ただ本能でキスし続けていた。
どんどんと湧きあがる愛情が二人を長時間へのキスへと導いていた。

(もうだめだ……抑えられない……)
(だめ……もうどうなってもいい……)

二人の思考はもはや限界だった。

二人の体がゆっくりと倒れていく。
二人はとうとう脳が本能に支配されようとしていた。



しかしそこまでだった。

キーン!コーン!カーン!コーン!

授業が終わる鐘が鳴る。
それで我に返ったのか、二人の体が離れる。

「はあ、はあ、はあ……」
「はあ、はあ、はあ……」

二人とも息が荒い。

「光、もうやめよう……」
「私もそう思ってた……」

「このままだと……俺、光を……」
「私だって……あなたを……」

「いや、教室だろうと人前だろうと本能で暴走してしまいそうだ……」
「私だって、教室でも人前だろうと本能の塊になってしまいそうなの……」

「これ以上キスすると、愛に狂ってしまいそうだ……」
「私も、愛の赴くままに行動してしまいそう……」

「教室に戻ろう……」
「うん……」

二人はふらふらと立ち上がり、教室に戻っていった。



次の授業。
クラスメイトも教師も驚いていた。
机はくっついてない。
光は公二の膝の上に座ってない。
別々の椅子に離れて授業を受けていたのだ。

要は普通の状態である。
クラスメイトも教師もそう思っていた。

しかし、実際は違っていた。
非常に危険な一触即発の状態だったのだ。
お互いに顔をあわせただけで、押し倒していまいそうな危険な状態。
そうなったら破滅である。
それを押さえるために必死で前を向き授業を受けていた。

午前の授業も授業にならなかった。
でも、この授業も二人の突然の変貌が気になってしまって授業にならなかった。



放課後。
公二と光は職員室にいた。
午後の最初の授業を無断欠席したことでこっぴどく怒られていたのだ。

その怒りようはひどかった。
半分ストレス発散のようなものだった。
しかしそのストレスの原因が怒られている二人であることからまあ仕方がない。

二人ともうつむいたまま、ただしかられていた。



そして、二人は揃って校門を出た。
この瞬間「高校生」と「恋人同士」の混じり合った状態から「夫と妻」へと関係が変わる。

「じゃあ、俺バイトに行くから……」
「うん、気を付けてね……」

お昼のあの出来事もあり、口数が少ない。

「今日は早めに帰ってくるから……」
「うん……」

「光、お昼のことはちょっと忘れよう……」
「そうだね……」

「なんか現実のようで現実でなかったな……」
「そう、夢のようで夢でなかったような……」

「少なくとも恵には見せられないな」
「ほんとうだね♪」

「あははは!」
「あははは!」

ようやく二人に笑顔が戻ってくる。

「じゃあ、行ってくるよ!」
「頑張ってね!」

公二は道路工事のアルバイトへ。
光は家へ帰っていった。



家に帰ってきた光に恵が出迎えてくれた。
公二に母に抱かれた恵がはとても嬉しそうだ。

「ただいま〜!」
「ママ〜、おかえり〜!」

「恵、よい子にしてたかな?」
「うん!」

「そうなんだ。じゃあ一緒にお買い物にいこうか?」
「わ〜い!」

一旦早く「母親」に戻った光は恵と一緒に買い物に出かけた。



ひびきののスーパー
光は恵を連れて今日の夕食の買い出しに出かけた。
別に自分が作るわけでもないのだが、
買い物慣れしたいという光の考えから積極的に買い出しに出かけることにした。

しかし買い物も結構難しい。
買い物上手になるにはまだまだだな、と思う光。

そこで恵がなにか見つけたらしい。

「あっ、おねぇちゃんだ!」
「えっ?」
「あそこ!」

恵が指差した先には花桜梨が買い物をしていた。

「花桜梨さん!」
「あっ、光さん!」

「花桜梨さんも買い物ですか?」
「うん、両親が忙しいから、私もいろいろ手伝わないとね……」
「へぇ、親孝行なんですね」
「光さんだって」

「私は、あの年で両親をおじいちゃんおばあちゃんにした親不孝ものですよ」
「うふふふ!」
「あははは!」

光の冗談に思わず花桜梨も笑ってしまう。



ふと光は下を向いたとき花桜梨の足に傷があるのに気が付いた。

「あれ?花桜梨さん、左足のその傷は?」
「えっ?あ、こ、これはバレーの練習で……」
「それにしては切り傷ですよ?結構大きいし」

確か花桜梨の傷は切り傷だった。
それを指摘された花桜梨はなぜか焦っている。

「だ、大丈夫……なんでもないから……」
「そんなことはないですよ。ちょっと待っててくださいね」

そういって、光はポケットから絆創膏を取り出すと花桜梨の足の傷に貼った。

「光さん、なんでそれを……」
「あっ、これね。恵がよく転んで怪我するからいつも持ってるようにしてるの」
「そうなんだ、光さん、ありがとう」
「どういたしまして」

花桜梨は絆創膏を貼られた足をまじまじと見てみる。

「光さん」
「花桜梨さん?」

「光さん……結構母親やってるじゃない」
「そ、そうかな……」

「もっと自信持ちなさいよ。十分立派なお母さんだと思うわ」
「は、恥ずかしいな……」

その日の買い物は花桜梨と一緒に楽しくすることができた。



そして夕方、約束どおり公二が早めに帰ってきた。

「ただいま〜!」
「おかえり〜!」
「おかえりなさ〜い!」

光は恵を連れて玄関で出迎えた。

「恵、元気にしていたか?」
「うん!」

公二は鞄から本の入った紙袋を恵に渡す。

「恵、約束どおり絵本を買ってきたぞ!」
「わ〜いわ〜い!」

恵は公二が買ってきた昔話の絵本に大喜びだった。

「じゃあ、あとで絵本を読んであげるね」
「わ〜い!」
「光、ごはんだろ?着替えてくるから先に行ってて」
「うん、わかった」

その日の夕食はは公二の両親に加え、光の両親も交えて7人で和気あいあいの晩御飯だった。



そして夜7時半
公二と光は恵と一緒にお風呂に入る。

公二のバイトが遅い場合は光は恵と入る。
光もバイトの日は親たちが恵を入れる。
しかし、一緒の時はなるべく3人一緒に入るようにしている。

「あなた、背中洗ってあげようか?」
「じゃあお願いするかな」
「恵、一緒にパパの背中を洗おうね♪」
「うん、きれいきれいにする〜!」

風呂から上がると光と恵は公二の背中に回る。
そして一緒に公二の背中を洗う。

「あなたってこうしてみると背中大きいね」
「パパのせなかおおきい!」
「あははは!そうかな?」
「そうだよ。こうして近くで見るとね」

そう言いながら光は恵と一緒に背中を丁寧に洗う。

「光、今度は俺が背中を洗ってあげるよ」
「ありがとう、お願いね」
「恵、今度はママの背中を洗うぞ」
「は〜い!」

公二と光は反対側を向く。
公二と恵が一緒に光の背中を洗う。
優しく丁寧に背中を洗っていく。



背中を洗いながら公二が話しかける。

「光、前から不思議だったんだけど……」
「どうしたの?」

「俺たち今裸だよな?」
「う、うん……そうだよ」

「俺たち何度もエッチしてるよな」
「うん……」

「でもお風呂では光に欲情しないんだよ……なんでだろ?」
「そういえば、私も……お風呂だとあなたと一緒でもエッチな気分にならない……」

確かに公二の疑問はもっともだろう。
最近はとくに欲情しっぱなしなだけに、お風呂場では普通でいるのが不思議になるのかもしれない。

「一回ぐらいそうなってもいいと思うけど、絶対にそんな気分にならないんだよな」
「確かにね……不思議だよね」
「なぜだろうな?」



「う〜ん……昔から一緒にお風呂に入っているせいかなぁ?」
「なるほどな……子供の頃は毎日一緒だったからな」
「それにお風呂に入ると、なんていうか……純粋な気持ちになれるんだよね……」

確かに小さい頃はよく一緒にお風呂に入っていた。
思春期は遙か先の時なので、別に恥ずかしいと言うことは全くなかった。

「裸のつきあいってやつか?」
「そんな感じ、でもちょっとちがうかな?」
「そうだな、俺たちの場合は子供に還るっていう感じだよな」
「そうだね、一緒にお風呂に入っていたあのころの気持ちだよね」

もし二人が思春期近くまで一緒にいて、恥ずかしくて一緒にお風呂に入ることがなくなれば違ったかもしれないが、
この二人はそうなるまえに引っ越してしまったことで、一緒に入ることの恥ずかしさがないのかもしれない。
それが欲情しないことに大きく影響しているのだろう。

「こういう時間って大切だよな」
「うん、大切だよね」

もちろん夫婦だからこそ逆にそういう気分にならないということには気が付いていなかったが。



「じゃあ、さっそく流すからな……」

公二はそう言うとたらいでお風呂のお湯をすくうと……

ざっぱ〜ん!

光の頭からお湯をおもいっきり掛けた。

「きゃっ!」
「あははは!」
「ママ、びちょびちょ〜!」

頭からずぶ濡れになってしまった光。
髪の毛が頭にピッタリとくっついて変な髪型になっている。

「やったな〜」

光も負けずにシャワーを公二に向ける

シュワ〜ッ!

「うわぁ!」
「あははは!」

公二はシャワーを向けられて嫌がっている。

「パパもびちょびちょ〜!」
「ちくしょう〜!」

しばらく二人は子供のように恵とはしゃいでいた。
お風呂の時間は、二人が純粋に「幼馴染み」に戻れる貴重な時間であった。



夜8時ごろ。

「人魚姫はおぼれた王子様を助けました……」
「うんうん……」

公二はテレビを見ていた。
その隣で光は恵に買ったばかりの絵本を読ませていた。

その様子は「父と母と娘」の団らんだった。



しかし……

「うわ〜ん!」

突然恵が泣き出してしまった。

「どうしたんだ、恵」
「うわ〜ん!かわいそう〜!」
「かわいそうって?」

そんな公二に光が怒った。

「あなたのせいよ!」
「えっ、俺?」
「そうだよ!こんな絵本を買ってくるから」

そういって光が公二に見せた絵本のタイトルは「人魚姫」。
おとぎ話では珍しい悲しい話である。



「これを読んだら恵が泣いちゃったんだよ!」

「恵ってこれを読んで泣くほど泣き虫だったのか?」
「そんなことないよ。私だって昔この話を読んで泣いたんだからって……あっ!」

光はなにか気づいたようだ。
公二が平然としている理由もわかったようだ。

「……」
「まさか……」

「……わかった?」
「ひど〜い!」

どうやら公二は小さい頃光が同じ話を聞いて泣き出したことを憶えていたらしい。



ニコニコ顔の公二。
一方光は顔をふくらまして怒っている。

「恵って、やっぱり光に似て泣き虫なんだな」
「もう!わたしはもう泣き虫じゃないって言ってるでしょ!」
「嘘つき」
「うっ……そういって泣かせたのはあなたよ!」
「ごめんごめん」

光もどうやら本気で怒っているようではなかったらしい。
そんな光だが突然真剣な表情に変わった。

「……あなたがいるから泣けるんだよ」

「えっ?」

「あなたが側にいるから……安心して泣けるんだよ……」

光の言葉の本心は公二にはよくわかっていた。
光は我慢をしてしまう。
今までも泣くことを我慢してことがたくさんあった。
そんな光が素直な感情が出せる相手が公二だということ。

「そうか……じゃあ、恵と一緒にいま泣くか?」
「ぶ〜!」

「あははは!」
「あははは!」

二人は思いっきり笑った。
これも恵と三人の楽しいひとときだ。



夜9時。

さすがに恵が眠くなってしまったので、ベッドで寝かしつけた。
そしてこの時から二人の関係は「夫と妻」へと変わっていく。

「ねぇ、今日の絵本はいくらだったの?」
「え〜と、2冊で1000円だな」
「そうすると、今の残高は……」

「今週は意外に使ってるな」
「ちょっと節約しないといけないね」

二人がやっているのは家計簿の整理。
公二と光が稼いだお金は自分たちで家計簿を付けることにした。

家計を任されているのは光。
二人の母親から「将来に備えてやっておきなさい」といわれたので自分が中心でやることにした。
公二も一緒にそれを見ることにしている。

こういうことで夫婦を実感できるというのは二人の考えだ。

家計を付けてまだ短いが、わかったことは多い。
色々と細かいことでお金を使っているのがよくわかる。



家計簿を見ながら公二は光に真面目な口調で話す。

「なぁ光。匠たちへのお礼をしなくちゃいけないな」
「そうだね、ずっとお世話になりっぱなしだからね」
「迷惑も心配も掛けたし、このままじゃいけないと思う」
「うん、今の私たちがいるのは琴子たちのおかげだもんね」
「でもどうお礼しようかな?パーティーでもするか?」
「う〜ん、それもいいけど……」

光の顔には不安を隠れていなかった。
公二にはその原因に思い当たることがありありだった。

「酒か?」
「そう、この前の美帆さん達みたいな……」
「そうだな、白雪さんだけならいいけどな……まあ大丈夫だろ、出さなきゃいいんだ」
「うん……そうだね」

よくよく考えれば簡単な事だ。
この問題はあっさりと解決した。

「う〜ん……そうだ、みんなで鍋物パーティーでもするか?」
「あっ!それいいねぇ!……で、予算はと……」

公二の提案にさっそく電卓をたたき出す光。

「あ〜あ、なんか所帯じみてるなぁ〜」
「だって夫婦だもん♪」
「そうだな、夫婦だもんな」
「うふふふ!」

結局その晩は謝恩パーティー?の予算の捻出で頭を悩ませる二人だった。



そして夜11時
公二も光も寝る時間だ。

「光、明日から学校でいちゃいちゃするのをやめような」
「これ以上やると私も抑えが効かなくなるからね」
「それにやりたいことは全部やっただろ?」
「うん、やりたいことはやったから満足だよ」

お揃いのパジャマに着替えた二人。
公二が部屋の明かりを消す。
そして二人はベッドに並んで座る。

「しかし、本当に今日のお昼は危なかった……」
「私も、あんな事初めてだった……」
「やっぱり我慢するのも大切だよな」
「そうだね、場所を考えないとね」

二人は向かい合う。
視線も重なる。

「いちゃいちゃするのは」

「ベッドの上だけで十分だよね♪」

「そういうこと♪」

「きゃっ♪」

二人はベッドの上に倒れる。
このあとは公二と光は「男と女」の時間を過ごすことになる。
これから先は誰も邪魔をしてはいけない。



「幼馴染み」「高校生」「恋人同士」「夫と妻」「父と母」
色々な関係をもつ二人。

しかし、これらに共通しているのは「公二と光」という関係。
たとえ、相手とどういう関係でも。想いはかわることはない。
それは様々な困難を乗り越えた二人が手に入れた強い強い絆だから。

主人 公二と陽ノ下 光。

いま、幸せの真っ直中。
To be continued
後書き 兼 言い訳
え〜と、タイトル通りの暴走ラブラブな一日をお届けしましたが……

ああっやってらんねぇ!

彼女もいない男が何を喜んでこんなの書いてるやら。
書いてる自分が情けなくなった事数度。

そのぐらいのラブラブものを書いてみました。
ラブラブものを書くはとてもパワーを使うことがよくわかりました。
しかしこれRじゃなくて大丈夫だよな?(汗

しかし、シリーズ最長の回になってしまいました(汗
長すぎて疲れたことと思われます(汗

次回で暴走ラブラブが終わります。
話の途中にあった謝恩パーティーも折り込んで。
酔いどれは……あの娘あたりをやってみようかな?まだやるかも決まってませんが。
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