第61話目次第63話
ひびきの高校は春休み

若い少年少女にとって様々な経験をした1年も終わろうとしている。

いや、まだ終わってない。

春休み、季節の変わり目。
様々な出会い、別れ、出来事がこの時期にも起こる。

そして、そんな出会いをする少女がひびきのにも……

太陽の恵み、光の恵

第13部 サーカス少女編 その1

Written by B
ある太陽の輝く日の午後。

「あ〜あ、今日も天気がいいなぁ〜」

美幸が部活からの帰りの途中だった。

キャラクターグッズが大好きな美幸のバッグには様々なキーホルダーが付いてある。
美幸のお気に入りのキャラは可愛い?宇宙人のグレイちゃん人形だ。
このキーホルダーに関しては幾つもバッグについている。


そんな美幸が空き地の前を通り過ぎようとしたとき。



「キキーッ」



突然美幸の耳に、小動物の鳴き声が聞こえてきた。

「あれ?なんだろ〜、空耳かなぁ〜?」

そう思って、ふとバッグをみると……

「あれ?……あっ、ない!グレイちゃんのキーホルダー!」

バッグに付いていたお気に入りのグレイちゃんのキーホルダーが一つなくなっていた。



「ウッキッキー!」
「また、へんな声だ〜、どこに……あっ!」

美幸が足下をみると、小猿のような小さい動物にグレイちゃんのキーホルダーが引っかけていた。
どうやらこの猿に取られたらしい。

「あっ、美幸のキーホルダー!でも、何でサルが?逃げたペットなのかなぁ?」
「キャッキャキャー」
「あっ、そんなことより取り返さなくっちゃ……ねぇ、良い子だから、それ返して〜」

美幸が腰を屈めて、小猿を見つめて頼み込む。

「キャキャー?」

しかし、小猿には反応がまったくない。
というかよくわかっていないみたいだ。



「……あっ、聞いてないみたい。あなどれない猿だなぁ……こうなったら力づくで……」

美幸は小猿を捕まえようとするが小猿は逃げてしまう。
美幸は必死に追いかける。

「キャッキャキャキャー!」
「あっ、動かないで〜!」

「キャッキャキャキャー!」
「うぅ〜、美幸を馬鹿にしたなぁ!そこで、おとなしく……あっ!」

しかし、この追いかけっこは長くは続かなかった。



キキキッー!



ドンッ!



「はにゃぁぁぁぁ!」

小猿を追いかけるのに気を取られて、いつものように車にはねられてしまった。

「はにゃ〜……」
「キャッキャッキャー!」
「あ〜あ、猿にまで笑われてる……美幸は今日も不幸なんだぁ〜」

小猿は倒れた自分のお腹の上にいる。
美幸は目を回しながら自分の不幸を嘆いていた。



美幸が小猿と追いかけっこしている同じ時間。

「ああ、今日もいい天気ですね……」

一人の少女が散歩をしていた。

「しかし、デイジーはどこに……あ、ああ!」

少女は何かを探しているようだ。
そんなとき、その少女は一人の女の子が車にはねられたのを目撃した。

「お、女の人が跳ねられてる!きゅ、救急車を呼ばないと!」

急いでその少女に近寄るもう一人の少女。
するとその少女はいきなり起きあがった。

「あの〜」
「うわああ〜!あ、あの、い、今さっき!」

思わず驚いて一歩後に後ずさってしまう少女。

「美幸、大丈夫なんで〜、救急車はいいですよ〜」
「大丈夫と言われても、なんかすごい車にはねられ……」
「ああ、あれ?スカイラインGTRって言ってね〜、前にも跳ねられたことがあるからだいじょうぶ〜」

倒れた少女、美幸はとんでもないことを口走る。

「ま、前にもって……と、とにかく、わ、私の家に行きましょう!」
「はぁ〜?」

「今ならまだ何とかなるかもしれません!さっ、わたしがおぶりますから!」
「えっ……いや、その……まっ、いっか〜、じゃあお言葉に甘えて〜」

「じゃあ、しっかりつかんでくださいね」
「え、ええっ!」

少女は美幸を担ぎ上げて背負ってしまう。
いきなりの行動に美幸も驚く。

(す、すごい……美幸よりも小さいのに軽々と担いでる……)

結局、美幸はその少女に背負われて、どこかに連れて行かれてしまう。



少女は自分の家に美幸を連れてきた。
しかし連れてきたのはいいものの、美幸は全く無傷だったので少女は驚いた。

「だ、大丈夫なんですか……」
「ええ、全然平気で〜す、美幸、こういうの慣れてるから〜」

少女は信じられないと言った様子だ。

「で、でも……とにかく大事にならなかったからいいけど……」
「えへへ、心配してくれたんだ、ありがと〜……って、ああっ、さっきの猿!」
「キキッー!」

美幸は少女の肩に乗っている小猿を見つけた。

「えっ!どうかしたんですか?」
「あのねぇ、この猿が美幸のグレイちゃんを盗んだの〜!」

少女が子猿をみると、子猿のしっぽに変な宇宙人のキーホルダーがかかっていた。



事情を知った少女は小猿を叱りだした。

「こら、デイジー!またいたずらしてるのね!」
(デ、デイジー?えっ、この子のペットだったの?)

ペットだとは思ってはいたが、まさかこの少女のペットだとは思っていなかった。

「ごめんなさい、家のデイジーが酷いことをして。ほら、デイジー取ったものを返しなさい!」
「ウッキー……」

少女に怒られて小猿は寂しい鳴き声をあげる。

(あっ、あの猿寂しそう……かわいそうだなぁ……う〜ん……)

小猿の寂しい表情を見ていて、辛くなってしまった美幸。

「でも、ぼんやりしてた美幸も悪いんだよ、きっと。だから、それあげるよ〜」

優しい美幸は思わず言ってしまう。

「そ、そんな訳にはいきません!」
「平気だよ〜、本当に。たいしたもんじゃないからさぁ〜」

とんでもない。
美幸が取られたキーホルダーは数量限定の貴重品だったのだ。
普段こういうたぐいは諸処様々な理由で手に入らなかった美幸が奇跡的に手に入れた物だったのだ。

「本当にいいんですか?……ありがとうございます!ほら、デイジーもお礼を言って!」
「ウッキー!」
「お礼だなんて、本当に気にしなくていいよ〜」

(レアだったんだけどなぁ……でもあのお猿さんが喜んでくれるからいいんだ……)

顔で笑って心で泣いていた美幸だった。



美幸の好意に驚いたのは少女のほう。
喜び半分、驚き半分の表情をしている。

「いいえ、そういう訳には……あっ、そうだ!お礼にこれを差し上げます」

そう言って少女はポケットから1枚の紙切れを美幸に渡す。

「サーカスペア招待券?」
「はい、毎年2月の下旬頃から、ここでサーカスやるんです」
「へぇ〜!」

美幸は商店街にサーカスの告知のチラシが貼られていたのを思い出していた。
そしてふと周りを見渡すと、美幸はテントの下にいることに気が付いた。
たぶん、ここが少女の家になっているのだろう。

「是非お友達といらしてください」
「いらしてって……あなたも関係者なの?」

「ええ、パパが団長なんです。それに、私とデイジーも団員なんです」
「へぇー、すごいね〜」

「来ていただけますか?」
「うん、絶対行く!ありがと〜!」
「ありがとうございます!」



ひょんなことから、思わぬ物をもらった美幸。
美幸はこの少女の名前を知りたくなった。

「ええっと〜……折角だから、名前教えてくれるかな〜?」



「野咲、野咲すみれっていいます。自己紹介が遅れてごめんなさい。よろしくお願いします」

「うん、美幸は、じゃなくて私は寿 美幸。憶えててくれると嬉しいなぁ〜」



ようやくお互いに自己紹介をした。

「はい、憶えますね」
「絶対に応援しに行くよ〜!」
「はい!頑張ります」

「今日はホントに、ありがと〜。じゃあね〜」
「はい。さようなら」

美幸はすみれに手を振りながらテントを後にした。

(すみれちゃん……どう見ても年下だけど、美幸よりしっかりしてたな〜)
(寿 美幸さん……なんかすごい人ですね……)

二人のお互いの印象は強烈だったようだ。



その夜。
美幸は自分の部屋で昼間もらったサーカスのチケットを見つめていた。

「あ、そういえばペアチケットなんだよね〜。誰を誘って見に行こうかな……」

せっかくもらったペアチケット。
応援しに行く約束をしたからには絶対に行きたい。
そう思った美幸は友達の中から一緒に行ってくれそうな人を捜していた。
そして……

「そうだ!美帆ぴょんにしよう!美帆ぴょんならこういうの好きそうだしね〜」

さっそく美幸は美帆に電話をかける。


ピポパポペポピ……
トゥルルトゥルル……


「はい、白雪ですけど」
「あっ、美帆ぴょん?美幸だけど〜」

「あら、美幸ちゃん。どうしたんですか?」
「あのねぇ〜、来週の日曜日って空いてる〜?」
「ええ、大丈夫ですよ」

「あのさ〜、サーカスのペアチケットが手に入ったから一緒に行こうと思って〜」
「サーカスですか、いいですね。一緒に行きましょう」

「やった〜!じゃあ、朝10時に商店街で待ち合わせしようね〜」
「わかりました。楽しみにしてますね」



「あっ、そうそう。この間ね……」
「この間何があったんですか?」

用件もすんだので雑談でもしようとした美幸だったが……

「あのね……って、あっ、ミーちゃん!そんなところ乗らな……」


プツッ
ツー……ツー……ツー……


「切れちゃいました……でも、用件はわかりましたからOKですよね、妖精さん♪」



「あ〜あ、またやっちゃった〜……」

電話機のフックボタンの上に座り込んだ愛猫のミーちゃんを見つめながらため息をつく美幸。

「来週の日曜日、大丈夫なのかなぁ〜?」
「でも、サーカスかぁ、楽しみだなぁ〜」
「すみれちゃんだっけ……今度も逢えるかなぁ?」

期待半分不安半分で美幸はサーカスの開演日を待つことになる
To be continued
後書き 兼 言い訳
第13部、すみれちゃん登場のサーカス少女編です。

えっ?はぁ?今、なんて?なんですって?

あたしゃ恵とすみれを絡ませるなんぞ一言も言ってませんぞ(邪笑)

実は第13部は美幸とすみれのお話です。

前話のあとがきで書いた、本編とは決定的に違う点。
そう、主役である公二、光、恵とはまったく関係ない話なんです。

たぶん誰も予想してないと思います。(自信あり、っていうは普通考えない)

この展開は最初から考えてました。
理由は単純明快。
「すみれちゃんと主人公以外が絡んだ話って少ないなぁ」
せいぜい光がすみれちゃんと絡む程度だったと思います。

というわけで、美幸ちゃんの登場となります。
なぜ美幸か?それは今後のこともあるので絶対に言いません。
ただし根拠はあります。

しかし今回はほとんど本編どおりだったので楽だったぁ〜。

次回はもちろん美幸がサーカスに行く話です。
やっぱり、ほとんど本編に忠実だと思います(汗
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