第66話目次第68話
新婚旅行2日目

甘い初夜を過ごした二人は、その雰囲気に浸る暇もなく朝から温泉巡りを始めていた。

そんな町中で一件のお店を見つけた。

「ねぇ、あの店って?」
「ああ、『温泉饅頭』って書いてあるな」

温泉といえば温泉饅頭である。
しかも店頭で暖かい湯気を上げながら、町の人にできたてを売っていた。
湯気もまた美味しそうに見える。



「いらっしゃ〜い!できたての温泉まんじゅうがあるよ〜!」



そのお店の店頭では一人の女の子ができたてを売っていた。
背は光よりも少し低い。
長い髪の毛はツインテールにしている。
ルックスは子供っぽいが雰囲気からして高校生なのかもしれない。

「ねえねえ、2個ちょうだい!」
「はい、まいどあり〜!」

さっそくできたての温泉饅頭を2個買ってみる。

「おいしい〜!」
「あんこもたっぷりだし、これはいい!」

できたてというのは何だって美味しいのだが、ここの饅頭はアンコがまたちょうどいい甘さだった。


「おみやげの饅頭はここでいいね」
「店の奥で配送もやってるよ〜」

光の言葉にさっそくお店の宣伝をする女の子。
それを聞いた公二が光に提案してみる。

「持って帰るのも大変そうだから頼むか?」
「そうだね」
「は〜い、まいどあり〜」

女の子はそれを聞いてさっそく配送のための用紙を用意し始める。
その間に二人は買う量を相談する。

「ところで、幾ついるんだ?」
「え〜と、私のところとあなたの家と……」
「そういえば、ほむらが温泉饅頭をリクエストしてたな」
「ほむらだったら、二箱ぐらいは必要かな?」
「そうだな」

結局、温泉饅頭を5箱注文した二人だった。

太陽の恵み、光の恵

第14部 春休み温泉編 その3

Written by B
「ここの温泉もいいねぇ〜」
「ああ、体がすっきりする……」

二人はいま2件目のお風呂に入っている。
屋内の風呂で大きめの普通のお風呂である。
混浴なのだが、ちと様子が違う。
親子連れが他の温泉よりも多かったのだ。

「なんかここ、親子づれが多いね……」
「確かに、そんな気がする……」

「あれ?ここの効能ってなんだっけ?」
「え〜と、あっそうだ、アトピーにも効果があるって書いてあった」
「なるほどな……それでか……」

よく見ると、小さな子供をつれた親子が多い。

もちろん、公二と光みたいな高校生などいない。
若くても20代前半。
中には公二と光の両親よりも年齢が上の夫婦もいるみたいだ。

「みんな、優しい目で子供をみてるね……」
「俺たちもそうなのかな……」
「そう見えたかもしれないね……」



幸せそうな親子連れをじっとみつめていた。

「なあ、光」
「なに?」


「俺たち……これからどうしようか?」

「えっ……」


「さっきの両親、俺たちの親よりも年上だろ?」
「たしかにそうだね。でも子供は恵と同じぐらいだった」
「親よりも年上の二人が手にした幸せを、今16で手にしているんだぞ、俺たち」
「そうだね、婚約してもう子供もいるんだからね。私たち」

「もしかしたら、俺達人生で一番かなえたかった夢をこの年で叶えちゃったのかなぁ……」
「うん、私の一番の夢はあなたのお嫁さんだったから……」

一番好きな人と結婚して子供を作る。
簡単なようで難しい夢。
でも、ずっと側に親しい異性がいる子供ならそれが一番の夢だったりすることもある。

そんな夢が実際に叶う人はそういるわけがない。
しかしそれを15の時にかなえてしまった、公二と光。

「俺たち本当にこれからどうしよう……」
「どうしよう……」

二人にはこれから見つめる夢を持っていなかった。



「これからは恵を育てなきゃいけないけど。それだけではダメなんだよな……」
「うん、私たちも新しい夢を追わないと……」
「でもな……」
「夢ってどこにあるんだろう……」

この1年間は叶った夢を壊さないために必死だった。
そして今その夢は誰にも壊されない頑丈なものになった。
しかし新しい夢はそこにはなかった。

「なあ、もしかしたら高校に進学して正解だったかもしれないな……」
「えっ……」
「もし中学卒業して働き始めたら、夢を持たずに何十年生きてたかもしれないな……」
「そうかもしれないね、労働と育児に夢中になってたかもしれないね……」

「光、これからの2年間で夢って見つかるかな?」
「大丈夫、たぶん見つかると思うよ」
「二人で追いかけられる夢。見つけような」
「うん……」

二人が決めたこと。
それは、これから二人で追いかける夢を高校生活の中で見つけること。

しかし、夢なんて探してもすぐに見つかるものではない。
ましてや高校生でこれから一生追いかける夢を見つけられる人は少ないかもしれない。

しかし探そうと思えばきっと夢はみつかるはず。
二人はそう思った。



公二と光は別の温泉に入っていた。

またもや屋内、今度は総檜作りの純和風のお風呂。
こんどの主な効能は疲労回復。

ゆっくりお湯につかったり、お湯から出て体を冷やして長い時間ゆっくり浸かっている。
二人はリラックスするかと思いきや、真剣に将来のことを語り合っていた。

「俺たちのこれからの人生の目標は決まった。さて恵はどうするか……」
「どう育てようか……」

これから当分二人の間で重要になること。
それは愛娘の育て方である。

「『どんな子に育てたいか?』って言われてもな……」
「私たちがまだ子供だからねぇ……」

普通、子供の育児方針は、自分たちのこれまでたどってきた人生を振り返ることで決まる。
しかし、公二と光はそれを振り返るほどの人生は歩んでない。
そもそも、自分たちがまだ育ち盛りでもある。

「まずは健康に育って欲しいな……」
「うん、それが一番だよね……」

「あと、これだけは考えてることがあるんだけど」
「あっ、私もあるんだ」

「光、もしかして同じ事考えてるのか?」
「もしかして……そうかもしれないね」



「じゃあ、同時に言ってみる?」
「そうだね、言ってみるか?」

二人は見つめ合い、呼吸を合わせる。
そして声を揃える。

「せ〜の」
「せ〜の」


「恵を大学に行かせること」
「恵を大学に行かせること」


二人はまったく同じ事を言った。

「あっ、やっぱり一緒だったね♪」
「そうだな、やっぱり俺たち夫婦だな」
「ほんと、そうだね」

自分たちは大学には行かない。いや行ける立場ではない。
そもそも中卒で働くつもりだったのだから。

自分たちが行けない分、恵には行って欲しい。
ある意味自然な気持ちかもしれない。
別に大学に行くこと自体がいい事なのかという問題はあるのだが、
大学の良さも悪さもわからない二人にとっては一種のあこがれに近い物かもしれないが。

「でも、大学に行けない年でこんなこと決めていいのかな?」
「いいんじゃないか?親の教育方針に年齢は関係ないよ」
「まっ、いいか」



「あと、大学に行って欲しい理由はもう一つあるんだ」
「えっ?」

「俺たちと違ってゆっくりと人生を歩いて欲しいからな……」
「………」

確かに自分たちは人生を全速力で走っていた。
下手すると他人の2倍の早さで人生を走っているのかもしれない。

「俺の人生は後悔してない。でも恵には同じ人生をたどって欲しくない」
「私も……恵にはもっと色々な可能性を持たせてあげたいね……」

自分たちは婚約したことでこれからの道にある程度の制限がある。
しかし、恵には広い可能性を見させてあげたい。

「まあ、恵に夢を持たせるには、俺たちが夢を持たないといけないな」
「そうだね、一応私たちが人生のお手本にならなきゃね」
「とにかく、あと2年。高校生活を充実させるってことにつきるんだよな」

「がんばろうね♪」
「ああ、がんばろうな♪」

これからの2年間が自分たちそれと恵にとっても大切な2年間になる。
そのことを胸に刻みつける公二と光だった。



あらかたほとんどの混浴風呂を回り終えた公二と光。
とりあえず、宿屋に戻ることにする。

「おかえりなさいませ〜!」

宿屋に戻ると和服の従業員が玄関で並んで待っている。
本当はこれからチェックインする人を歓迎するためなのだが、
宿に戻ってきた人にも挨拶をする。



仕事をしている従業員もロビーを通るときには挨拶をしている。

「あっ、おかえりなさいませ〜」

玄関から入った公二と光に歩きながらも挨拶をする従業員がいた。

(あれ?)
(どこかで見たような……)

そこで感じた違和感。それはすぐに原因が判明した。

「ああっ!」
「今朝の温泉饅頭の売り子!」

そう、今朝二人に饅頭を勧めた小さな女の子だった。

「あっ、饅頭屋で逢ったね〜」
「君って饅頭屋の人じゃあ……」
「あそこは夕方までのバイトで、今日の夕方からはここでバイトするんだ〜」
「すごいねぇ……」
「うん、温泉街っていろいろなバイトがあって楽しいね〜」



偶然の再会に会話も弾んでいたのだが、女の子の背後からこれまた従業員らしき女性から声がかかった。

「こらっ!かずみちゃん、仕事でしょ!お客さんと話さずに……ああっ!」
「ま、舞佳さん!」
「ど、どうして……」

女の子の後ろにいた女性は舞佳だった。

「そうそう、かずみちゃん。急いで宴会場の準備の手伝いに行って!」
「は〜い!」

かずみと呼ばれた女の子は、この場から立ち去った。



「いやあ、今日からまたここでバイトすることになってねぇ〜」
「はあ、そうだったんですか……」

ここで舞佳は恵の姿がないことに気が付いた。

「あれ?ところで主人君達は?娘ほっといてどうしたの?」
「い、いや、舞佳さんの抽選券で旅行券が当たって……」
「両親に夫婦水入らずで旅行行けって言われて……」

二人の説明にニヤリとする舞佳。

「はは〜ん、新婚旅行ってやつねぇ〜。くぅ〜!羨ましいねぇ〜」

舞佳は相変わらずアツアツの二人をからかう。
またもや一人で盛り上がる舞佳。

「………」
「………」

呆れながらも顔を真っ赤にしてしまう二人だった。



「ところで、かずみちゃんとは知り合い?」
「いや、今朝饅頭屋で売り子やってたんですよ」
「で、さっき会ってビックリしちゃって……」

「へぇ〜、そうなんだ。あの子、私の二番弟子なの」

弟子という予想外の言葉に思わず反応してしまう二人。

「二番弟子?」
「一番弟子は?」

「決まってるじゃない。主人君、あなたが一番弟子よん♪」
「えっ、そうだったの?そんなこと聞いたことなかったけど」
「まあね、あとで弟子って勝手に決めただけだから」

しかし、いくら舞佳がバイトの達人とはいえ、弟子なんて聞いたことがない。
勝手に一番弟子にされた公二は何が何だがわからない。

「弟子って、何を学びました?」
「あら、憶えてないの?結構教えてたわよ?」
「えっ?えっ?えっ?なんですか?」

「『バイトの楽しさ』よん♪」

「えっ……」

公二の言葉が止まった。
思い当たる節があるようだ。



「私はね、ただ働くだけじゃなくて、楽しく働くことをモットーにしてるの」
「はぁ、そんな気がします……」

バイトを始めたばかりの頃。
「光とお腹の子供のために」という意識が強すぎて、やることが空回りしていた時期があった。


「どんな目的であっても、楽しく仕事をしないとね」
「確かに……」

そんなときに、公二の空回りを止めてくれたのが舞佳だった。


「仕事が楽しいと、やる気もでる、仕事の能率もアップ、ノープロブレムでしょ?」
「なるほどね……」

舞佳とバイトをしていると本当に楽しかった。
しばらくするとバイト自体が楽しくなり、いつしか意識が空回りすることもなくなった。


「私は主人君に楽しくバイトをしてもらうように色々やったつもりよ」
「そういえば……」

舞佳は特に何を言うわけではない。ただ一緒にバイトしているだけ。
でも確かにバイトの楽しさを教えてくれたのは舞佳だった。



何も言わなかったが舞佳が公二に教えてくれたもの。
それはとても大きかった。

「舞佳さん……やっぱり、俺、舞佳さんの弟子で感謝してます……」
「主人君……」

それに気づいた公二は感謝の気持ちを込めて舞佳に深々と頭をさげる。

「舞佳さんが教えてくれたおかげで、バイトに張り合いがあるような気がします」
「そうか、そうか。いやあこんな弟子をもてて師匠は嬉しいねぇ!」
「はぁ……」

しかし、真面目な事を言っている割にはいつも通りの明るい舞佳に公二は少し戸惑う。



「実はね、あの子も大変なのよ……」

明るい表情の舞佳が急に真剣な表情になる。
それにつられて公二と光も真剣になる。

「かずみちゃん。1年前に別のバイトで知り合ったんだけど、そのときは暗くてねぇ……」
「へぇ、信じられないなぁ……」

「なんでも、父の入院費用と生活費を稼ぐためにバイトしてるんだとか……」
「そうだったんですか……」

「あまりに悲壮感が漂って暗かったから、私がなんとかしたいと思ったのがそもそもの始まりかな」
「………」

舞佳の表情はとても凛々しかった。
舞佳の話をじっくりと聞きながらも、その凛々しい表情を公二と光は見ていた。

「あの子と一緒に色々なバイトをやって、楽しくバイトをすることを教えて……」
「………」
「明るくバイトしているあの子をみてると、私の考えが間違ってなかったなって感じることがあるのよ……」

いつも明るく周りにも元気を与えている舞佳。
そんな舞佳が公二に初めて見せた真剣な表情。
その表情は自分たちとは明らかに違う大人の表情だった。



「まっ、楽しいことが一番だよね!」

しかし、突然舞佳はまた明るい調子に戻ってしまう。

「えっ?」
「さ〜てと、私も油売ってる暇がないからバイトに戻るね!」

「あ、あの〜……」
「じゃあねぇ〜」

舞佳は急に思い立ったかのように慌てて仕事に戻っていった。
またもや取り残された公二と光だった。

「あなた、舞佳さんは……」
「もしかしたら……照れてるのかも……」

「あまり人に見せたくない姿だったのかなぁ……」
「舞佳さんって、不思議な人だなぁ……」
「私もそう思う……」



そして、夕食。

「今日もおいしそう〜!」
「本当だ、おいしそうだね」

昨日と同様豪華な食事が並ぶ。

「やっぱりおいし〜!」
「昨日に続いてなんて俺たち贅沢だよな〜」
「本当だね♪」

やはり舌鼓を打つ二人。
料理が美味しいと会話が弾む。



話はなぜか舞佳の話になっていた。

「ところで舞佳さんって、今までどんなバイトをしていたの?」
「舞佳さん曰く『頭をフル回転させる仕事から、ナイスバディの体を使った仕事まで』って言ってた」

公二の答えに少し驚く光。
そして恐る恐る聞いてみる。

「……ねぇ、『体を使った仕事』って……もしかして……ふ、風俗?」
「いや、それはやってないみたい。『ナイスバディの中身はダーリンにしか見せないのよん♪』って言ってたし」
「そうなんだ……安心した……」

予想通りの返事にほっとする光。
そんな光に公二はほんのすこしだけ怒った口調で話を続ける。

「舞佳さんはそんな人じゃないよ。お金も大切だけど、仕事のやりがいや内容を重視する人だからね」
「そうだよね……ごめん……」

光は舞佳を少し偏見で見ていたことに恥じていて、ばつの悪そうな表情をしていた。



それを見ていた公二はそっち方面の話を始める。

「でも、レースクイーンのバイトを一度やったことがあるって言ってたけどな」
「ええっ!……かなり人気出そうだけど……」
「急に頼まれたらしいけどかなりの評判で、バイト料上げるから次も来てくれって言われたみたい」

光だってそういう話には興味がある。
興味津々で話を聞いている。

「で、舞佳さんはどうしたの?」
「『その日は道路工事のバイトが入ってるから』て言って断ったらしいよ」

普通の人ではまずできない舞佳の行動に驚く光。
一方、公二はそんな舞佳の行動に慣れているので表情は変わらない。

「す、すごいね……」
「舞佳さんは仕事のつながりや義理を本当に大切にしてるんだ、俺も本当勉強になったよ」

舞佳の仕事に対する姿勢は公二にはとても参考になっていた。

「ところで舞佳さんってどうしてバイトしているの?」
「舞佳さん曰く『お金を貯めて世界が見たい』って言ってるけど」

「いいなぁ、そんな夢が持てて……」
「なぁに、俺たちも負けないぐらいの夢をこれから探せばいんだよ」
「そうだね」



その舞佳はというと、今は公二達の部屋にいた。部屋に布団を敷くためである。
舞佳の隣にはかずみがいた。

「舞佳さ〜ん、何腕組みしてるんですか?」
「う〜ん、一枚にすべきか、二枚にすべきか……」
「?」

かずみはなんで舞佳が悩んでいるのかまったくわかっていない様子だ。

「かずみちゃん。昨晩のこの部屋の様子について何か聞いてない?」
「え〜と『布団を一枚だけにしたら、なにか夜すごかったらしい』っていってたけど」

何も知らないかずみは馬鹿正直に舞佳に伝える。
どうやらかずみはこの言葉について本当にわかっていないらしい。

そんなかずみの返事を聞いた舞佳は考えが決まったようだ。

「……決めた!」
「?」

「かずみちゃん。ちょっと手伝って!」
「?」

舞佳の考えがまったくわからないかずみはただ舞佳の指示に従うだけだった。



しばらくして、公二と光が部屋にもどってきた。

「あれ?」
「あっ……」

二人は驚いていた。
昨日は布団は一枚だけだったが、今度は二枚ぴったり並べて敷いてある。

「どうしてなんだろう?」
「なんでだろう?……あれ?枕元に何かある……」

光が枕元にあった紙切れを見つけた。

「え〜と、なになに……」
「………」
「………」

その紙切れに書いてあったこととは、



「お若い二人は毎日同じ布団でラブラブに寝てると思うけど、
 たまには別々の布団で寝るのもいいわよん♪
                美人のお姉さんより愛を込めて」



的確な指摘を受けて顔を真っ赤にする二人だった。



「確かに俺たち……子供の頃から……」
「一つの布団でしか寝てない……」

そう、公二と光はずっと同じ布団で寝ていたのだ。
実は子供の頃一緒にお泊まりをする時は一つの布団で寝ていた。

去年一緒に暮らし始めたときは別々に寝るスペースがなかったという事情はあるが、
やっぱり一つの布団だった。

「別々の布団で寝ていた時なんて……あっ……」
「あっ……」

唯一自分たちの意志で別々の布団で寝ていた時期。
それは、二人ともまだ思い出したくない時期。

「………」
「………」

約半年前、公二と光が倦怠期のときだ。



「あのときはごめんね……」
「俺も悪かった……」

お互いに信頼できなかった。
誤解が不信を生み、とうとう関係崩壊直前までいった。
倦怠期という時期と重なってしまったのが二人の悲劇を増幅させてしまった。

さすがにこれはまだ思い出に出来るような気分にはなれなかった。

「あのときね、一人で寝るのが寂しかったんだよ……」
「俺も……あんなに一人で寝るのが寂しいとは思わなかった……」

仲直りをしてからは、また一緒のベッドに寝るようになった。
一人で寝たのがあまりに寂しかったのか、以後別々に寝たことがない。

「しかし、あれだけ離れた距離で心が一緒だったのに、近くの距離で心が離れていたなんてな……」
「うん、今考えると信じられない……」



とにかく今日はどう寝るかを考えなければならない。

「しかし、舞佳さんが2枚敷いてくれたんだし別々に寝るか?」
「………」

「大丈夫だって、別々の布団でも心は側にいるから」
「そうだよね……」

「第一、別々に寝るぐらいでおかしくなる関係じゃないだろ?」
「そうだよね、たまにはいいよね……」

光は少し不満そうだったが、別々に寝ることにした。

「まあ、とにかく布団に入ってみるか?」
「そうだね……」



とりあえず別々の布団に潜る公二と光。
潜った後、お互いに隣の顔を見つめあう。

「そういえば、隣の布団で寝るなんて初めてだよな?」
「そうだね、病室は少しはなれていたからね」

布団一枚の距離。
遠いようで近い距離。
二人にとっては初めての距離だった。

「こうして寝てみると、なんか新鮮だな」
「私も。なんかやっぱり私たち夫婦なんだなって感じてる……」

「そうだな、恋人ではできない寝方だからな」
「そうそう、夫婦だからできる寝方なんだよね」

少し不満な光だったが、今の光の表情はまんざらでもない様子だ。

「これはこれで安心できる距離だな」
「うん、でもやっぱりあなたの腕枕が一番いいな♪」
「こら。たまには普通の枕で寝ないと、本当に寝られなくなるぞ」
「は〜い……」

どうやら、二人にとってまた新しい距離を見つけることができたようだ。



「ふぁ〜あ……布団に潜ってたらなんか眠くなっちゃった……」
「俺も……明日は早いし、寝るか?」
「そうだね……」

公二が布団から出て、明かりを消す。
部屋は暗くなっている。

「じゃあ、おやすみなさ〜い」
「おやすみ〜……」

しばらくして二人とも寝息を立てて眠ってしまった。
二人の寝顔は本当に幸せそうな寝顔だった。
きっと今日はいい夢をみることができるだろう。
To be continued
後書き 兼 言い訳
新婚旅行2日目です。
あいかわらずの温泉巡りで二人に語り合ってもらいました。

前回は過去のこと、今回は未来のことです。
今は二人は幸せです、しかし今後は?
このままの生活でもいいのですが、二人はまだ16歳。この状態でとどまるには若すぎます。

二人にはまだまだ可能性はあると思います。他の友達に比べては狭いかもしれませんけど。
今回はこれからの二人の高校生活の目標を与えてみました。
これはどう描いていくかはこれから考えます。

今回は予告なしのゲストキャラが登場。
買ってもいない、ときメモ3から渡井さんです。
いやあ、茜ちゃんを最初考えてたんですが、色々ありましてやめにしました。
彼女の設定とは結構違ってるかもしれませんが、ここはご了承下さい。

しかし、今回は舞佳さんが格好良く書けたかなぁ?そこが不安ですが。

次回は新婚旅行3日目。展開がまた変わってきます。
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