第68話目次第70話
「え〜っ!そんなこと言ったんですか?」

男子グループが男同士の話をしているのと同様に女子グループも女同士の話をしていた。

「ま、まあね……」
「かっこいいじゃない!そうだよね、姉さん」
「そうですね、羨ましいです」

女は一般的には男よりも話し好きである。

「さすがね、決めるところはちゃんと決めるじゃない」
「………」

一旦話始めれば止まらないことだってよくある。

「ああ、主人さんみたいな、かっこいいプロポーズ受けてみたいなぁ……」
「私もです……」
「あんな綺麗な景色を背景にプロポーズなんて素敵だと思うわ」

どうやら今は3人にせがまれて光がプロポーズの状況を話してしまったらしい。

(え〜ん、恥ずかしいよ〜)

結果、3人に冷やかされて光の顔が真っ赤になる結果となった。

太陽の恵み、光の恵

第14部 春休み温泉編 その5

Written by B
女子グループが回る温泉は大抵きまっている。
効能が美肌とか美白とか女の子が気になる部分がメインとなる。

今は美肌効果が高いという屋内の温泉に入浴中。
屋内だが、一面の壁がガラス張りで向こうには山の大自然を眺めることができる。


しかし、光と美帆はそれを見ずに別のところを見ていた。

「何度見ても、羨ましいです……」
「ほんとだね〜」

「………」

どうやら二人の視線は同じところにあるようだ。

「双子なのにどうしてこんなに違うのでしょう……」
「あ〜あ、あれだけあれば公二も喜んでくれるだろうになぁ……」

二人の視線は真帆の胸にあった。



「ちょっと!人の胸をジロジロ見ないでよ!」



真帆は光と美帆の視線を遮るように自分の胸を手で隠す。

「すごい……手で隠れない……」
「いいなぁ……」

とは言っても88cmの胸が手で隠れるわけがなく、それがさらに二人を羨ましがらせた。



「光さんも姉さんもいい加減にしてよ!恥ずかしいじゃない」
「そんなこと言われても……」
「どうしても目がいっちゃう……」

やっぱり女の子も体の事は気になるのか。

「あのねぇ……胸が大きいって肩がこって疲れるのよ」
「私も胸で肩がこってみたい……」
「だぁぁ……私はああいうスタイルが理想なんだけどな……」

そういって真帆が指差した先にはのんびりとお湯に浸かっている女性が。



「あら?私になにか?」



長い髪の毛を頭で束ね、頭に手ぬぐいを置き、思いっきりリラックスしている琴子である。
3人はじりじりと琴子のほうに動いていく。

「なるほどね……手足がすらっとしていて」
「出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでて」
「それぞれのバランスがいい……」

琴子を囲んだ3人は、琴子の体を上から下までじっくりと眺めていた。

「琴子って、大人の色気があるんだよね……」
「そうですね、ほのかに流れる色気という感じですよね……」
「和の色気ってものだよね……」

「ち、ちょっと……みんなでジロジロ人の体を見ないでよ!」

さすがの琴子も恥ずかしくてしょうがなかった。



このまま見られてはかなわないと思ったのか琴子が話題を変える。

「そ、そういう美帆さんの肌って綺麗だと思うわ」
「えっ?私の?」
「そうなんだよね、姉さんの肌って白くて綺麗なんだよね……」

確かに美帆の肌は他の3人に比べて白い。
今度は琴子、光、真帆の視線が美帆に一斉に注がれる。

「そ、そんなに見つめないで下さい……」

「確かに白くて触り具合がいいんだよね……」
「ほんと、名前の通り雪のような白さだね……」
「この肌の綺麗さは、私にはとてもかなわないわ……」

「み、みんなで触らないで下さい……恥ずかしいです……」

琴子、光、真帆の3人で美帆の腕や肩をぺたぺた触りまくっている。
触られた美帆は顔が真っ赤だ。



そんななか光がぽつりとつぶやいた。

「でも、みんないいなぁ、自慢できる体で……」
「えっ……」

「私なんて、真帆さんみたいに胸はないし、美帆さんみたいに肌は綺麗じゃないし、琴子みたいに手足は長くない」
「………」

「おまけに子供産んでるから、スタイルも崩れちゃってるしね……」
「………」

「わかってはいるけど、自信なくしちゃうな……」

光のテンションはみるみるうちに下がっていく。
美帆も真帆も表情が暗くなる。



そんななか、琴子が呆れたような表情をしていた。

「光、なに言ってるのよ。光が言うほどひどくはないと思うわよ」
「そうかな……」

「むしろいい方よ、それに光の場合はこれがあるでしょ?」
「あっ……」



ざばっ!



琴子はお湯の中に沈んでいた光の左手をつかんで、自分の目の前に持ってきた。

「それは……」
「婚約指輪……」

光の左手の薬指には綺麗に輝く指輪があった。



「この指輪一つに比べたら、私たちのナイスバディなんか目じゃないわよ」
「自分でナイスバディっていうのね……」
「うふふ……冗談よ、冗談」

琴子の言葉に呆れる光。
しかし、光のその表情は琴子の言葉を真正直に受け止めていない表情だった。
それは長年の経験から冗談であることがわかっているからだ。

「あははは!」
「うふふふ!」

琴子の冗談で再び雰囲気が元に戻る。
光はすっかり元気になったようだ。



「それに、素敵な旦那様が光の体を褒めてくれるんでしょ?」

それを見て安心した真帆が光に尋ねてみる。
光はそれに対して照れながらも答える。


「うん!おとといの夜も、こんな体を『綺麗だよ』『素敵だよ』って褒めてくれたの……」


光の失言だった。

「何ですって……」

しかし光は気づいていない。

「公二は私の傷の部分なんか特に愛してくれ……ごぼごぼごぼ……」

光の顔は半分お湯の中。
光の頭は3人の手によって押さえつけられている。


「なによ、なんだかんだいって、最後は結局おのろけ話じゃないの!」
「ごぶばごぼばびぼ(そんなことないよ)……」

「自信がないような顔して。旦那様に愛してくれれば十分じゃないですか!」
「ばぶべ(だってぇ)……」

「それにおとといの夜ですって!結局やってるじゃないの!」
「びばぶば(しまった!)……」

「羨ましいったらありゃしないわよ!」
「ぶぶびい(くるしい)……」


しばらくの間は光は3人にお湯の中に押さえつけられて苦しい状況になってしまった。
まあ自分の失言が原因なのだからある意味仕方ないのかもしれない。



3人の怒りも収まったところで、お風呂を替えることにする。

今度は露天風呂を選んだ。
温泉街の外れにあり、遠くには自然豊かな川が流れているのが見られる。
四方には雪がいくらか残った山々が拝める。
眺めは温泉街有数と言われている。

お湯の周りには高い竹の策が張り巡らされており、覗かれる心配はない。
女子グループの温泉巡りのメインと言える場所である。

「ここの眺めは素敵ねぇ」
「ほんと、お湯も気持ちいいし景色は最高だし、言うことないね!」
「なんだか心が洗われるようです」
「心まで温かくなりそうだね」

運がいいのか、お湯にいるのは4人だけ。
だから余計にのんびりできる。



「ところで真帆さん」
「なに?」
「真帆さんはなんできらめき高校に入ったの?」

「えっ?」
「えっ?」

一瞬驚きの声を上げたのは真帆だけではなかった。
美帆も声を上げていた。

「いや、美帆さんと真帆さんって仲がいいけど、なんでかな?って思って」
「………」

「私も前々から思ってたわ」
「………」

「たぶん、双子だから色々あったからこうなったんだとは思うけど」
「………」

「あれ、真帆さん?どうしたの?美帆さんも?」

真帆が黙ってしまって何も言わない。
美帆も黙って何も言わない。
二人とも表情が暗い。



「ごめんなさい。これだけは言えないんです、私たち二人のことですから」
「そうなんだ……」
「だから……」

美帆がそう言ってこの話題を終わらせようとしていたが、

「待って」
「真帆……」

真帆が重い口を開いた。


「姉さん……私は言うよ……」

「真帆!無理に言わなくてもいいんです!」


美帆は驚いた表情で真帆を説得していた。
しかし真帆はそれに耳を傾けようとはしない。

「あのね……全部私が悪いの……私が姉さんを……」
「そんなことない……私だって……」
「姉さんは言わないで!……私が話すから……」

真帆がぽつりぽつりと真実を話し始めた。
もう美帆でさえも止められない。
ただじっと聞いているしかなくなった。



真帆の告白は意外な言葉から始まった。


「私ね……子供の頃……姉さんが大嫌いだった……」


「えっ!」
「うそっ!」

光と琴子は驚いた。
まさかそんな風とは思えないほど、真帆は美帆に親しくしていたからだ。

「私たち双子だけど、性格が正反対……それが嫌だったの……」
「変な双子ですよね……」

「同じ顔で、性格が全然ちがう……生理的に嫌だったのかもしれない……」
「………」

「姉さんは、遊びに誘ってくれたりしたけど、まったく聞かずに他の友達と遊びに出かけたりした……」
「私はあまり友達がいなかったから、よく一人で遊んでました……」

「あのときの姉さんの表情、寂しそうだった……でも嫌いだったから気にしてなかったけど」

真帆の告白に美帆が補足していく。

光と琴子の周りには双子がいなかった。
美帆と真帆が初めて遭遇する双子だった。
だから双子特有の環境はまったくわかっていなかった。
だから、二人の言うことを黙って聞いていた。



「小学校中学年になったら姉さんに妖精さんが見えるようになったんだよね……」
「そう、小4の頃に朝、目が覚めたら妖精さんが見えたんです……」

「姉さんが妖精さんと話し始めるようになってから、姉さんの表情が明るくなったの」
「妖精さんとお話しして、いつも妖精さんと一緒にいて、救われるようでした……」

美帆が妖精さんと出会ったのは真帆と仲が悪かった時のようだ。
美帆と妖精さんの出会いは光も琴子も興味がある。
しかし、今興味があるのはそれに対する真帆の反応だった。

「でも、そのとき真帆さんはどうだったの?」
「もしかして……」

「そう、思ってるとおり……姉さんの頭がおかしくなったかと思った」
「………」

わかるような気がする。
しかし、真帆が言うとやはり衝撃を感じてしまう光。

「妖精さんなんて信じてなかったからね……だから余計に嫌いになった……」
「朝起きても、学校でも、夕食でも、直接話をすることはほとんどありませんでした……」

美帆が妖精さんと出会っても事態は良くなるばかりか、むしろ悪くなってしまったようだ。

「喧嘩とかはしたの?」
「喧嘩はしなかった……そもそも口さえ聞かなくなってたから……」
「………」

光と琴子は思った。
喧嘩はしてないけど、二人の仲は最悪の状態だったのでは?
それと同時に、こんな話をさせてしまったことを後悔し始めていた。

「あの、嫌なら話さなくてもいいのよ。無理に聞くつもりはないから」
「そうそう。だからもう話さなくても……」

「いいの、お願いだから話させて……」
「真帆……」

こう真帆に言われては、今度は無理に止めさせられない。



「でも中学になってからかなぁ……急に姉さんが好きになったんだ……」
「えっ?どうして?」
「なにか二人に何かあったの?」

「ううん、何にもない。私が勝手に好きになっただけだから……」
「?」

真帆の心変わり。
それは突然だったようだ。

「ずっと離れていて、やっと冷静に姉さんを見られるようになったからだと思う……」
「………」

「姉さんって私と違って、いろいろいい物を持っているんだなって……」
「………」

「姉さんって、優しいし、頭もいいし、占いができるし、花が好きで、話を作るのがうまくて……」
「そんなことないですよ……」

「今まで何で避けていたんだろうって思うぐらいに……」

中学だと思春期に突入する頃。
考え方も子供から大人へと変わっていく。
人の見方もだんだんと変わっていく。
たぶんその中で真帆の考えも変わってきたのだろう。



「中学に入ってからはずっと姉さんと一緒、勉強も遊びもずっと一緒だった……」
「真帆に遊びに誘われたとき、泣きたくなるほど嬉しかったです……」
「ずっと離れていた分を取り戻すぐらいに一緒にいたような気がする……」

「買い物とか映画とか、美術館とか植物園だとか、お互いに好きな場所にたくさん遊びに行きましたね」
「そうそう、私の好きなところ、姉さんの好きなところ、両方行ったね……」

「学校でも一緒にいましたね……」
「だって、私の自慢の姉さんだもん。ずっと側にいたかったから……」

二人の表情はすこし明るくなった。
二人で中学時代の思い出を語り合っていた。

(中学の頃は仲がよかったんだね……)
(でも、変ねぇ、それだけ仲がいいのに、何で別々の高校に?)

光と琴子はその様子をじっと見ていたのだが、何か違和感を感じていた。

(もしかして、まだ話に先があるの?)
(そうみたいね……)

このままでは終わっていないはずだと感じたのだ。



「でもね……」
「………」

確かに、その通りだった。
二人の表情がみるみるうちに暗くなったからだ。

「でもね……姉さんが……姉さんが……」

真帆の声が詰まってしまう。

「………」
「………」

そして、二人に沈黙が走る。



それを破ったのは真帆ではなく美帆だった。

「真帆、ここからは私が言います……」
「姉さん!」
「ここからは私の話です……私に話させて下さい……」

真帆の表情から血の気がなくなり、美帆の表情が引き締まっていった。
そんな表情の変化に驚きながらも光と琴子は黙って聞くことにした。


「私は……中学3年の頃から……真帆が嫌いになりました……」


「!!!」
「!!!」
「………」

美帆は人の好き嫌いをはっきり言う人ではない。そもそも、人の好き嫌いがないほうだ。
その美帆がはっきりと「嫌い」と言った。それも双子の妹に対して。
光と琴子にとっては衝撃だった。



光と琴子の驚きの表情が戻らないまま、美帆の告白が始まった。

「確かに真帆と一緒にいたときはとても楽しかった……」

「子供の頃全然わからなかった真帆のことをよく知ることができました……」

「真帆は明るくて、活発で、話も上手で、おしゃれで、友達も多くて……」

「真帆は……私にない素敵な物をたくさん持ってました……」

確かに真帆の事を褒めている。しかしその表情は言葉とは裏腹に暗い。
真帆はうつむいたまま黙っている。

「真帆と一緒にいると、真帆のいいところを常に感じてたんです……」

「それと比べて自分はというと……そう思うとだんだんと自信がなくなって……」

「中3の頃には自信を完全になくしてしまったのです……」

「はっきり言って、私にない物を持っていた真帆が恨めしかった……」

「いつの間にか、真帆が嫌いになってました……」

美帆と真帆の悲劇。
それは顔が同じ双子の相手に対して、それぞれがコンプレックスを抱いてしまっていた事だったのだ。
そのコンプレックスが真帆を美帆から遠ざけ、美帆は自信をなくし真帆を嫌いになってしまったのだと。

光と琴子はここまで聞いて、やっと美帆と真帆の間に起こったことの真相がわかった。



「私ったら姉さんがそんな風に思っているとは知らずに3年になってもずっと側にいたの……」
「真帆さん……」

「そうしたら夏頃に姉さんから言われたの『もう近づかないで欲しい』って……」
「………」

久しぶりに口を開いた真帆はうつむいたまま、しかし今にも泣きそうな表情だった。

「私はこれ以上真帆を嫌いになりたくなかった。だから、真帆に言ったんです『自信がなくなるから』って……」
「私ショックだった……その日の夜はずっと泣いてた……」

いつの間にか真帆の頬には流れる物が光っていた。。

「私が姉さんを避けていたから、今度は姉さんに避けられてしまった……」

「もう姉さんとは永遠に一緒になれない……そう思ってた……」

今でも思い出したくない辛い出来事。
それは真帆の泣き顔をみれば痛いほどよくわかる。

「私も言いたくはなかったんです……でも言わなければ自分が潰れてしまうから……」
「確かに姉さんの成績は3年の頃から急降下してた……本当は姉さんのほうができたんだけど」
「もう、なにもかも自信をなくしてました……」

同じ高校では悲劇が繰り返される。
美帆は真帆を見てさらに自信をなくし、真帆は美帆に避けられるのを苦しむ。
本当はお互いに好き(もちろん姉妹として)であるからこそ余計に苦しい。

「結局あのときの姉さんが受験できる高校で一番レベルの高いところがひびきのだったの」
「真帆は私がひびきのを受けるのを知って、無理してきらめきを受験したんですよね」
「そう、私の実力では苦しかったけど……それしかなかったから……」

それなら別の高校に行った方がお互いのため。
言葉は交わしてなかったが、暗黙の了解があったのだろう。
たぶん真帆がひびきのを受けると言ったら、美帆は志望校を替えていただろう。

「………」
「………」

光と琴子は、二人の話にただ黙っているしかなかった。



4人は黙ってしまった。
4人の周りにはお湯の音と風の音しか聞こえない。
しばらくはこの状態が続いていたが、真帆が沈黙を破った。

「光さん、琴子さん、私があえて話したのには理由があるんです」
「えっ?」

「私……たぶん姉さんも……お礼が言いたいんです」
「えっ?」
「どうして?」

「姉さんの自信を取り戻してくれたのは……二人のおかげだから」
「???」
「???」

美帆が自信喪失も真帆との確執があったのも今日始めて知った。
そんな自分達が美帆に何をしたのか?
光と琴子は訳がわからなかった。



二人のなんともいえない表情から二人の疑問を読みとった美帆が訳を話す。

「琴子さん。前にお話ししましたよね。光さんをみて自信を取り戻せそうだって」
「そういえばそうだったわね……」

この話は琴子は直接聞いていたが、光にとっては初耳の話だ。

「えっ?私?」
「はい、どんなに辛くても、どんなに苦しくても自分の道を進んでいる光さんが羨ましかったんです……」
「………」
「光さんを見て、自分は自分の道を進めばいいって……そう思うようになったんです」

光は中2から中3の頃、楽しく、甘くも辛い時期だった。
妊娠、イジメ、出産、育児……激動の時をすごしていた。

「そう気づかせてくれたのは光さんと主人さんのおかげなんです……」
「そうだったの……」

同じ頃美帆と真帆との間で激動の時期を過ごしていたのかもしれない。
嫉妬、自信喪失、そして真帆に告げた本心とは違う絶縁宣言……美帆にとって辛い時期だったのだろう。

「それに琴子さんが占いを頼んでくれたおかげで光さんと知り合うことができたのですから……」
「そんな……おおげさな事は言わなくていいのよ」

そんな二人がこうして出会っているのもまた運命のいたずらなのかもしれない。



すっかり表情に硬さのなくなった真帆が話を続ける。

「実は、姉さんとまた話すきっかけが、あの誘拐事件だったの」
「ええっ!」

思わぬところから出てきた誘拐事件。
確かに自分たちにとって重大な出来事だったが、当事者でない真帆にとっても重大とは?

そんな光の疑問はすぐに美帆と真帆の話で解決される。

「実はあの事件の日の次の日の朝……姉さんがふらふらの状態で帰ってきたの」
「二人の真相と、事件の衝撃、そして自分の無力さ……ボロボロでした」

「あの時の姉さんはひどかった……なんとかしてあげたい……もう絶縁状態なんて関係なかった」
「私も絶縁状態なんて気にならなかった……とにかく泣きたい気分だった」



『………』
『姉さん?どうしたの?』


『……うわぁ〜〜〜ん!』


『姉さん!』
『占いでわかってたのに……どうして……どうして私は何もできなかったの!』

『………』
『妖精さんもいて……私ってこんなに無力だったの……』

『姉さんどうしたの?教えてよ!』
『真帆……』



「姉さんは事件の事を詳細に話してくれた……」
「とにかく話したい気分で一気に話していました……」

「それが……1年ぶりのまともな会話だったの……」
「ええっ!1年!」
「そんなに!」

いくら絶縁状態でも二人は双子の姉妹。
朝と夜はずっと一緒のはず。
そんな二人が1年間もまともに会話をしていない。
光と琴子にとっては想像を絶する長さだった。
それは二人の状況の深刻さを物語っているのだが。

「私たちもビックリするぐらい長かった。そしてビックリするぐらいあっさりと会話ができました」
「それからかな。光さんや恵ちゃんの話を姉さんがしてくれるようになったの」

「………」
「それからは……もうわかってるよね……」

不思議なものだ。
琴子はただ占いができると言うだけで、美帆を誘った。
光はただ美帆に追求されているだけだった。
それが結果的に美帆、それとそのときは存在すら知らなかった真帆を救うことになろうとは。



「琴子さん……私がこうして真帆と一緒にいられるのはあなたのおかげです……」
「光さん……私と姉さんをまた普通の双子に戻してくれたのはあなたのおかげです……」

「ありがとう……」
「ありがとう……」

「………」
「………」

美帆と真帆の表情は本当に感謝の気持ちがあふれていた。
そんな二人に光と琴子が優しく語りかける。

「美帆さん、真帆さん、私たちは何もしてないですよ」
「えっ……」

「そうね、最後は二人の力で元に戻ったのよ」
「………」

「まだまだ先は長いし、これからも楽しくいこうね!」
「そうですね♪」

「そうそう、仲良く楽しく温泉みたいにのんびりといきましょう」
「はい♪」

悩める姉妹からやっと元の普通の仲良し姉妹の表情に戻った。
そんな表情をみて光と琴子はほっと安心していた。

(しかし、本当によかったわね……)
(美帆さん達もいろいろあったんだね……)
(みんな色々あるのよ、ただそれが表に見えないだけ……)
(ふ〜ん、じゃあ琴子も色々あるんだ)
(そ、そういうことになるわね……)

こんな会話をこっそりとしていた二人だった。



少しくらい話も終わり、話題はまたかわっていく。

「あれ?今日は妖精さんと話してないみたいだけど、妖精さんは一緒じゃないの?」
「3月は妖精さんは春休みなんです」
「春休み?」
「春は妖精さんの季節ですから忙しいんです」

「何かするの?」
「花を咲かせたり、春の風を吹かせたりするんですよ」
「へぇ、素敵じゃない」
「妖精さんは本来そういう仕事ですから」



「光さん、恵ちゃんを産んだときってどういう感じだったんですか?」
「ほんと、大変だったよ……あれは例えようがないね……」
「そんなに大変なんだ……」

「うん、でもそれだけ恵に対して愛情が湧いてきてね……」
「そうでしょうね……」
「『お腹を痛めた子』って言うけど、本当にそういう表現が合う気がするな……」



「真帆さん、いつも放課後は何やってるの?」
「う〜ん、もっぱら遊んでるかな?」

「どんなところなの?」
「ゲーセンとか買い物とか、流行スポットとか、場所には困らないね」


「部活はやらないの?」
「う〜ん、ひとつのことを3年間もやるより、色々なことをやりたかったからね」

「じゃあ、アルバイトは?」
「来年になったらやろうかな?って考えてる。遊んでばかりでもしょうがないしね」



楽しい会話が続く。
みんな表情が明るい。特に美帆と真帆の表情は明るい。
自分の辛かった時期のことを話したことで気が楽になったのかもしれない。

お互いの事がよくわかってきた。
これからは今年以上に楽しい年になりそうだ。
気持ちが通じる友達ができた。
こんな素敵な友達をこれからは大切にしていきたい。

4人の女の子はそんな事を考えていた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
温泉での女同士の会話です。

今回のメインは「美帆と真帆はなぜ違う学校なのか?」の解答編という感じです。
はっきり言って、外伝で2〜3話ぐらい書けそうですが、それはちょっと避けたかったのでこんな感じになりました。

これで理由がわかっていただけたでしょうか?
双子特有の問題がここにはあったと、この話では考えています。
実はこういう事があったので、真帆は若干シスコン気味になっています。

次回は1年生編のラストです。もうひとつ出来事があって、それからほのぼのエンディングになればいいなぁ(汗
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